デュエルが終わり、ギガンティック・スプライトによって開けられた穴やリンクモンスターとしてフィールドにいたキスキルとリィラの姿が消える。
デコピンされたところを両手で押さえている女王はその場から動く気配がない。不安になった仁が駆け寄る。
「ね、だいじょ」
「我々が勝ったわけだが、デュエル前に交わした約束は忘れてはいないだろうな」
仁の言葉を遮るように、デュエルディスクから体を伸ばし女王を見下ろしてライトニングが喋りだした。
つい先ほどした約束――デュエルに勝ったら無罪放免、負けたら処刑。
女王はその手の中にギロチンの刃のみを召喚し、震える手で自らの首の高さまで持ち上げる。
「く、くびをきっておわびもうしあげあげ……」
「いらないから! そんなのはいいから!」
ライトニングを引っ掴んでデュエルディスクの中へ無理やり戻し、自決しようとした女王を引き留める。
「え、でも」
「物騒なのは消して、それとあの檻も消してくれるだけで大丈夫だよ」
「そんなことでいいんでしょうか……?」
仁からの願いを叶えるべく、女王はその手にあった凶器をなかったものに。さらに腕を振るえばキスキルを閉じ込めていた檻が消えた。
『イエーイ自由サイコー!』
『デュエル中に出てきてなかった?』
『そこはそこ、これはこれ』
Live☆Twin二人は騒がしくふよふよしながら仁の後ろで浮遊する。両手に花状態だ。
デュエルディスクに被せられた手を押しのけてライトニングが再び姿を見せる。
「何をする仁!」
『なんでそうされたかわかってない時点でダメダメなのでは』
『ダメパパ』
「貴様ら、私を馬鹿にしてタダで済むとでも……? 覚悟はしておけよ」
『へいへーい』
敬意はあるのだが、そうしなくてもいいと判断した瞬間におちょくってくる。根っからのサイバースではない悪魔に振り回されつつあるイグニスは二人を睨みつけた後、視線を女王に戻す。
「……デュエル途中から気になっていたが、お前は全力を出していないな?」
「な、そんな言いがかりで私をまた変にしようなんて、無駄ですからね!」
ぷいっ、と顔を背ける。
『嫌われちゃったねー』
『女心わからないダメパパ上様だから仕方ないねー』
「全力じゃない……? そうは思わなかったけどなぁ」
除外を上手く使うモンスターで纏まった、展開力も火力もあるデッキだった。デュエルの相手をしていた仁としてはライトニングのセリフに疑問が浮かぶ。
「ではなぜリンク1やリンク2を使わなかった? リンク3を出すために毎回モンスター3体を揃えている時点で展開の最適化ができていない」
「んなっ……なんですか人のデッキにずけずけと! エクストラデッキを見てもいないのに決めつけるのやめてもらえませんか!」
「使っているモンスターも傾向がやけに女々しい。リンク素材のためだけに使ったバックアップ・セクレタリーと同等に特殊召喚しやすく、他に優れた効果を持つモンスターはいる。……特殊召喚のためにフィールドや墓地のサイバースを除外できるサイバースもいたはずだが、それはどうした?」
「わ、私の国には野蛮な化け物なんていらないから入れてません!」
「そんなこだわりなぞ知らん。というかアリスの物語ならばジャバウォックの存在を無かったことにするな。まったく……勝ちたいのか趣味だけで終わらせたいのかどっちなんだ?」
ライトニングによって傷ついた心は完全に癒えてはいないようで、女王は半泣きでぷるっぷるしている。
「もう! ほんっとーにそこまでにしなよライトニング!」
「なぁ、ぐっ、やめろ!」
頭部からちょびっと出ている部分を摘んでビヨビヨ引っ張る。ゴムのように伸ばして、離す。ばっちん! と元に戻る時の衝撃で体幹がぶれているライトニングを無視して仁は泣き顔の女の子へ話しかけた。
「こんな終わり方、納得できないしさ……また、デュエルできたらしようよ」
手を差し伸べて、やさしく笑う。
「あ、もちろん、今度は人質とか処刑とかは無しでね?」
「…………」
彼の手を借りず、女王は一人で立ち上がる。
「私を誰だと思っているのですか! たった一度の負けで立ち直れなくなるとでも!?」
さっきまでの態度から正反対、デュエル開始前の調子に戻った。いや、そう見せかけているだけの空元気かもしれない。
だとしても、きっと大丈夫だ。仁はそう思えた。
「次デュエルする時は二度とそんな口を叩けないほどに強くなって、120%ぱわーでぎゃふんと言わせて――」
唐突に、ばきん、と空間が割れる音がした。
「え?」
ダイレクトアタックのために開いてしまった天井の穴はデュエルが終わって塞がっていった、はずだ。
その穴があった場所に体をねじ込み、広げて、覗き込む――何かが、いた。
『うええ!? ナニアレーッ!!』
「あれは……巨大な、機械?」
青と金の装甲。背中の巨大な砲塔。黄色く光る真空管を無数に取り付けた、無機質な四脚歩行兵器。
『――――――』
何かを喋った。こちらが理解できない言語なのか、それとも言葉のように聞こえただけなのか。……とりあえず友好的ではなさそうだ。
仁はキスキルに問いかける。
「精霊でいいんだよね?」
『だね。アレが中に人間のいるアバターですって言われたらちょっと怖い』
ライトニングはここへ二人を連れてきた元凶のリィラに聞く。
「にしても機械か。あの女が寄越したモンスターではなさそうだな。我々以外に助けを呼んだのか?」
『いやー、他の人呼んだりはしてないんですけども?』
「え、今上さ……えっと、ヴァンガードからじゃないの?」
「それはない。あの女なら電脳世界でのトラブルとなると絶対にクラッキング・ドラゴンを選ぶ」
彼女はまだカフェ・ナギでバイト中だ。連絡を受けたがどうしても離れられないので助けに精霊だけ……というのは可能性としてありそうだが、リィラの反応からしてそれは無い。
目を離すとやりたい放題する彼女だが、流石に誰も見たことがないモンスターを派遣はしない。万が一そうだとしても、助ける対象へと自己紹介はやらせるはず。
それに、彼女はリンクヴレインズ内の移動と攻撃どちらも可能な便利なモンスターとして、ハノイの騎士がサイバース狩りに使っていたクラッキング・ドラゴンを持っている。わざわざ違うモンスターを使う理由は薄い。
――ヴァンガードから、と考えるとおかしい点が複数あるのなら、このモンスターはヴァンガード由来ではない。
「じゃあ、何なのあれ……」
正体不明の兵器がここに現れた意味はすぐにわかった。
べきべきばきばきと裁判場を踏み潰すことによって。
「私の裁判場がぁー!! よくもきさまぁー!!」
『まてまてまてまてまてぇー!』
『どうみても負けイベ! ダメなやつー!』
女王が怒りに任せて特攻を仕掛け……ようとしたので首根っこ掴んで無理やり止める。
「逃げるぞ。あれの目的は恐らく我々の排除ではなく、この場所を破壊することだ」
「うぎー!!」
四脚で踏み荒らし、ビームで薙ぎ払い。丁寧に、かつ大胆に攻撃を開始している。
……が、そのどれもが彼らに直接向けられていない。
「あの見た目通りに機械族なら、
「ひぅ……わかり、ました」
「え、精霊って逃せるの!?」
「サイバースだから扱いは容易い。一時的にデュエルディスクへデータを移してログアウトする。成功した後にデータマテリアルでカードを実体化させればいい」
「な、なるほど」
「急ぐぞ。いくらこちらを直接攻撃していないからといって瓦礫に潰されてはかなわん」
女王の体が粒子になってライトニングの手のひらの上にまとまる。キスキルとリィラは慌ててカードの中へと戻り……そして、彼らの姿が消える。
兵器はライトニングの予想通り、逃げた者がいることなど気にせず破壊活動に勤しんでいた。
「――これでいなくなったか」
女王の裁判場が崩れ落ちるのを見下ろす二つの影。
赤い道化師と、白い神官。
「随分と乱雑な撤収ですね。いや、解体でしょうか?」
「誰がこのような事をしているのかはわからんが……すでに別の事件が起きているのならば、厄介な奴らの目を眩ませるのに利用できる」
この世界を利用しようと策を練って実行した
そのきっかけが特異な力を持つ決闘者を利用しようと巻き込んだからだ、とも。
なら、その決闘者とは関わらないようにひっそりと動けば問題ない。
道化師――アルベルは誰の手にも渡らず、かつ堂々と活動していた。
リンクヴレインズに無数に設置したホールでデスピアを配っているのは罠だ。
その真の狙いは、不特定多数の決闘者へアルベルの息のかかった精霊達を憑けることにある。
――【デスピア】に属する喜劇、悲劇のデスピアン達は教導国家ドラグマにいた民が烙印の力によって変貌したものだ。
故にその精霊は物語の主人公のような一体のみ
カードが決闘者に影響を与えることもある世界で、不用意に危険なカードを持ってしまったら――どうなるかなど、火に触れるよりも明らかだ。
ホールの中でカードが手に入る。そのイベントに乗り気でない決闘者なんてリンクヴレインズにいない。
結果、合図一つで操れる愚かな決闘者は既に用意できた。一人二人程度ではなく、無数に。
その時が来れば使い捨てる駒の準備は既にできた。
「ああ……それにしても! この世界では
白き竜に対抗するため、いっときの感情からうっかり亜竜を取り込んで自らの崇める神になろうとしてしまった狂信者は、腹立たしい過去よりも明るい未来に胸をときめかせる。
あの世界にてマクシムスが用意した絶望も悲劇も申し分なかった。
足りなかったのは
……他所から追加される戦力によって、最後の最後にどんでん返し。劇の筋書きにない後出しジャンケンなんて演出家は望まない。
「もう物語は終わった、舞台から逃れた、などと思い込んでいるのでしょうね。縋りつきたくなる成功体験が焼けついた心を、誰もが目を背けたくなるほどにぐちゃぐちゃに踏み躙る……! その時こそ、純粋なる絶望、真なる再演となるのです!」
「相変わらず趣味が悪い」
口では非難しているようだが、その顔は笑っている。男にとって、目的を同じとしない他者はどうなってもいいものだからだ。
「さあ――幕を上げよう」
アルベルはホールへと足を踏み入れた。
開いたのはホールであり魔性の腹の中。
時代に合わせてサプライズ!
それでは皆様喝采を!
これより始まるは唯一無二のアンコール。
その魂尽きるまでどうぞお楽しみください。
踏み入れた、はずなのだが。
「…………?」
「はて?」
二人が足を向けたのは間違いなく、デスピアやビーステッドがたむろするホールのはずだ。
ちょっと下がって外に戻って、入ってきたところを確認して、またホールに。
目を擦って、瞬き。疲労で変なものが見えたのかと眉間を押さえてまた目を開く。
……綺麗な二度見である。
「これはなんだ……幻覚を見せる花でも育てているのか?」
「まさか! この場所にそのようなものを置くはずがないでしょう!」
「じゃあ
「知りませんよ!?」
二人の目の前にはホールの荒廃した雰囲気とは真逆の光景が広がっていた。
具体的には、緑と水と光が溢れる桃源郷になっていた。
「ほら、お手入れって楽しいでしょう? 一緒にやりたくなりませんか?」
一番目立つ、大きな木の近く。そこではほんわりと光っている青年が小さな妖精と共に桜のような木を世話している。
木には現実ではあり得ない透明な丸い果実が実り、その中には都市が見える。
「しかし、その手では持てませんね……道具を加工するお時間をいただけますでしょうか」
青年が語りかけているのはこの地の先住民であった
亜竜は歯を剥き出しにして唸る。拘束具があれど、その力は無双のもの。天地を揺るがす恐怖の存在だ。
「ヴヴルルル……」
イラつく行為をさせようとしてくるガキを今すぐに焼き尽くしてやろうか。そう行動しようとした瞬間、
「ア゛?」
紫の全身鎧…… ヴィシャス=アストラウド。
強大な力を持つそれが、ジョウロとスコップを小脇に退けて、亜竜の肩を叩いた。
……えっ何? 誰?
あれを見ろ、と指を刺した先にはこんもりと土の小山ができていた。とげとげしいものが見えるがインテリアだろうか……?
いや、違う。その中に埋まっているのは――間違いなく
「ヴッ…………!?」
双頭は悲しい目で亜竜を見つめる。やめろその男に逆らうなお前も肥料になりたいのか――直接心へと訴えかけてくる切実な視線。
「……一緒にお世話しますよ、ね?」
青年の笑みに影が見えるような気がする。ヴィシャス=アストラウドが肩に手をかけたまま下へと力を込める。
……もし断ればここにお前を植える、そんな副音声が聞こえてくる。
「ハイ」
正体がホールに存在する傀儡であったとしても、今のドルイドヴルムはカードの精霊としての側面が強く出ている。
嫌なものは嫌だし、脅しにだって屈する。
……その様子をぽかんと口を開けて、天使族な二人は見ていた。
まごころ込めて仕込んだ烙印の破片から、
彼らの手駒がいる筈のホールが獲れたが、
それは伍世壊=カラリウムとなっていた。
シリアスを期待していた皆さんには申し訳ありませんが、真・次回予告の方が正しい次回予告となります。
油断したな!!!! バイトハノイとはこういう二次創作だ!!
そうだったのか!! くそォ…!!