アルベルたちはリンクヴレインズへ潜入していた。
まごころ込めて仕込んだ烙印の破片から、
彼らの手駒がいる筈のホールが獲れたが、
それは伍世壊=カラリウムとなっていた。
「誰の許可を得てこのようなことを!」
アルベルは怒りのまま、大地を踏み荒らすようにずかずかずんずん接近。マクシムスが慌てて後を追うが時間と共に二人の距離は開いていく。
青々とした草原の上に立つ男は、赤い道化師の姿を見ると同時に微笑みかける。
「ああどうも、お邪魔しています」
発光する美青年――リウムハートは突然の来客に戸惑うことなく対応し始める。
なお、すぐそばに居るドルイドヴルムは陣営変えの瞬間をアルベルに見られていたことと、さっきの口約束を無かったことにした場合に起きることの二つを天秤にかけた結果何もできずに硬直していた。
「いやはや地主さんがもうやって来るとは。もてなす準備ができておらず申し訳ありません。そうだ、ここで採れた果物でも食べてみます?」
「いらん」
道化師は差し出された手と果実を強い力で払い除けた。
重力に従って落下する果実。木の世話をしていた小さな妖精たちがあわあわしながらもキャッチし、傷ものになるのを防いだ。
「……まあ、予想はしていましたがやはり邪悪な存在のようですね」
真正面で相対し、目を見たことで相手が真に悪なる存在だと確信する。
劇的ビフォーアフターによりアルベルの目論見の一つを潰したリウムハートとしてはここで諦めてくれる方がよかったのだが、相手は明確な悪意を持っている。そう簡単には手を引かないだろう。
「なぜこんな事をした?」
返答次第では即行動しかねないほど苛立つアルベルに対し、話し合いで解決できるなど楽観的な思考はしない。温和そうな雰囲気を纏う顔から戦闘時の顔に変わる。
「その質問はこちらがそっくりそのままお返ししたい言葉でもありますが……答えましょうか。この場所が隠れ蓑として使いやすかったんです」
「…………なん、だと?」
あっけらかんと言い放った予想外の言葉に、流石のアルベルもうろたえる。
暗躍を察知して善側の存在が先手を打ったのではなく、用意したものを勝手に利用された。何故の二文字が頭の中に満ちる。
「こちらの世界へ来た当初は全員で新世壊にいる予定でしたが――あの巨大な機械を見てしまった王は我々を残してどこぞへと向かってしまったのです」
まだ記憶に新しい出来事を思いだしながらリウムハートは話す。
「何をすべきかの指標も示されず、我の強い怒りと哀しみはやりたいことを勝手に始めようと散り散りになってしまい……置いていかれた私ともう一人で取り敢えず雨風凌げる場所を探していたら、ね?」
何を見つけたのか、は固有名詞を言わなくともわかる。この場所だ。
「大変なことになってるモノを見つけてしまったので、まあ、ついでに悪事の芽を摘んでもいいよねって感じでえいやっと外装のホールを残し内装だけそれっぽく整えさせてもらいました。……怒りと哀しみは居場所作りに失敗してしまったようですが、安全をもたらせる人間と巡り会えたようなので良しとしましょう」
「はぁ? ここはまだホール、だと? こんなわけのわからん改造をしておいてなにをほざいている」
話を理解して復活したアルベルは一歩踏み込む。
「おっとと、話を急くのはよくありませんよ? かの決戦にて、世界観の異なる別個の世界に存在した経験のある神を見た経験が活きました。あの要素を真面目に取り入れた結果こうなってしまいましたが」
……男がそう明かすと同時にどこぞの天空竜がくしゃみをした。恐らく偶然である。
マナドゥム・リウムハートは毛魂と書いてスパークリングと読ませたい某作品の上っ面をなぞるだけで精一杯のため、内容を真に理解できてはいない。というか理解できたらそっちの方が多分ヤバい。
具体的な例を出す場合、実力はあるがハジケネタが弱いためハジケを強制されると弱体化するカギ真拳使いなレベルである。
周囲では果実をキャッチした妖精とは別の妖精がアルベルきゅーん、アルベルきゅーん、ぼくらのアルベルきゅーん! と勝手に騒いでいるが彼ら自身も言葉の意味は全くわかっていない。やっといたらこの世界を安定させやすいからしている、そんな理解度だ。
――という事情があると知らないデスピアからすれば、目の前にいるのは未知の技術を使う不気味な奴らという認識になる。
「クソッ、コイツら……悪巧みをする連中には何をしても良いと思っていやがる……!」
「善意による居直り強盗ですかね」
ようやっと追いついたマクシムスも会話に加わる。もしここに落胤と聖女がいたらあんなことしでかした奴らが言ってんだ、とばかりに口を揃えて反論する言動だ。
「デスピア――苦しみにより形作られた彼らを浄化し楔となる大樹を育て、新たなるカラリウムへと……まあ正確にはモドキなんですがね。近くにあった悪意を冠するサイバースの住処からも少々栄養を頂いてすくすく育って、で、今に至ります。質問への回答はこれで十分ですかね」
「成程、ようくわかった。――その木が無くなれば良いわけだな?」
道化師の足元から闇色が噴き上がる。大きく膨れ上がった力の波動を裂くのは人外である事を示す爪と翼。
アルベルは竜に――マスカレイドへと変化し、改変の楔となっている大樹を滅ぼすべく炎を撒き散らす。
「知らないかもしれませんが、生きている木はそう簡単には燃えませんよ」
熱波に怯むことなくリウムハートは立っている。……立っているだけで、動こうとしない。
油断か? いいや、違う。
「ア゛ァルルラァッ!」
ずっと固まっていたドルイドヴルムを踏み台にし、紫が――ヴィシャス=アストラウドが跳躍する。なおドルイドヴルムは踏み台になった衝撃でその場に埋まった。
乱暴狼藉許すまじ、と二体のモンスターが組み合い攻撃し合う。優勢なのはヴィシャス=アストラウド。マスカレイドは力負けしている。
「ヴァアッ!」
投げられ大地に叩きつけられる直前に竜化を部分的に解除し、翼でくるりとアルベルは受け身を取り無傷で着地。
禍々しい戦士がふしゅうと排気するような勢いで息を吐くのは無力化に失敗した怒りからだろうか。リウムハートの背後へと降りる。
「ハ! 随分とやんちゃな番犬を飼っているようだな」
「先程の攻防で何もしなかったそちらの足長さんよりは、力になってくれますよ」
「……ほう?」
「挑発に乗るなマクシムス。最初から奇襲が成功するなどとは思っていない。――己の生を賭けるのであれば、やはりこれが一番いいだろう」
アルベルの腕にホールと同じ菱形が集まっていきデュエルディスクの形になる。
「奇遇ですね、私もそう思っていたんですよ」
光はリウムハートの腕に収束しデュエルディスクを形作る。
「俺の先攻か。烙印開幕を発動! 悲劇のデスピアンを捨て、デッキからデスピアの導化アルベルを守備表示で特殊召喚」
《デスピアの導化アルベル》
星4/守0
発動された魔法によりフィールドに赤黒い幕が下りる。数秒して幕が上がり、消えた後に残るのは仮面で顔を隠した道化師。絶望を齎すための下準備を開始する。
「烙印開幕の発動後、エクストラデッキから特殊召喚できるのは融合モンスターのみになる。
手札から出すのは手札に加えたものとは違う1枚のカード。その影響で周囲の風景が変わっていく。
活気を感じさせない淀んだ空気、滅びに向かう国を象徴する黒い劇場と化した城。
「フィールド魔法、烙印劇城デスピア発動! 効果を使用し手札・フィールドのモンスターを素材に、レベル8以上のモンスターの融合召喚を行う!」
「融合を内蔵したフィールド魔法……!」
「フィールドの
《赫灼竜マスカレイド》
星8/攻2500
先程アルベルが変身していた竜が、フィールドにモンスターとして降臨し咆哮する。
「融合素材になったデスピアの
《デスピアの
星8/守1500
マクシムスもデスピアとしての装束になり、効果を発揮してアルベルの前へと跪く。
「永続魔法烙印の使徒を発動。カードを1枚セットしてターンエンド」
デスピアの空間へと変わりゆくフィールドの中で、光の力を持つ戦士は怯むことなく立ち向かう。
「私のターン。ドロー」
「スタンバイフェイズに赫の烙印を発動! 墓地の悲劇のデスピアンを手札に回収し、フィールドの
《デスピアン・クエリティス》
星8/攻2500
闇の満ちた禍々しい鎧が一人でに動く。人の関節を無視して曲がる腕は剣を手にし、背中から生えた無機物的な羽に散りばめられた無数の目玉が決闘者を見つめる。
「融合素材となった悲劇のデスピアン、
「また融合ですか。にしても、1枚の魔法からモンスターの追加と手札補充……もう私のターンなんですけどね」
アルベルの思い描く盤面はこれで完成した。
手札の喜劇のデスピアン――フィールドのデスピアを対象とするモンスター・魔法・罠の発動時、自身を捨ててそれを無効にする。
赫灼竜マスカレイド――相手はライフポイントを600払わなければカードの効果を発動できない。
デスピアン・クエリティス――レベル8以上の融合モンスター以外の攻撃力をターン終了時まで0にできる。
デスピアの
烙印の使徒――効果処理時にレベル8以上の悪魔族融合モンスターがおり、攻守どちらかが0なら効果を無効に。また、攻撃力0同士が戦闘した場合相手モンスターを破壊できる。
墓地の烙印開幕――融合モンスターが効果破壊される場合の身代わりになる。
攻防揃った突破困難なカード達。男がみっともなく足掻く様を見てやろうと口角が上がる。
「マナドゥム・リウムハートを通常召喚」
《マナドゥム・リウムハート》
星4/攻1500
「そして
フィールドに出た写し身の効果を使おうとした途端、マスカレイドが発する力がチリチリとリウムハートの肌を焼く。
「融合召喚したマスカレイドがいる限り、ライフポイントを600払わねば相手はカードを発動できない。勝利のためなら身を削る程度、安いものだろう?」
初期ライフポイントは4000。かの竜の前では7回効果を使えばそれだけで敗北する。
「そうでしたか。ではライフポイントを600払い
リウムハート
LP 4000→3400
《マナドゥム・ミーク》
星2/守1500
肌が、肉がゆっくりと焼ける臭い。目に見えてライフポイントが減っていくが、一切怯まずに展開を進める。
「…………おや、妨害は使わないんですね」
「いつどうやって動くのかを決めるのはそっちじゃないだろう? どうぞ好き放題なさって下さい、こちらの演者は全て揃っておりますので」
慇懃無礼な態度で受け答えするアルベル。
「では全力で迎え討たねばなりませんね。手札のヴィサス・スタフロストの効果をフィールドのマナドゥム・ミークを対象に発動。破壊し、チューナーモンスターヴィサス=スタフロストを特殊召喚」
《ヴィサス=スタフロスト》
星6/守1500
「……アイツと同じ顔?」
顔という共通点が妙に気になるモンスターだが、精霊は宿っていないためアルベルの呟きに答えることはない。
「破壊されたマナドゥム・ミークの効果でデッキからマナドゥム・ミークを特殊召喚し、レベルを2から4に変更します」
《マナドゥム・ミーク》
星2→4
リウムハート
LP 3400→2800→2200
「レベル4になったマナドゥム・ミークとレベル6のヴィサス=スタフロストをチューニング!」
「何!? チューナーのみでシンクロだと!?」
今から呼び出されるシンクロモンスターの召喚条件にはチューナー以外、の指定はない。全てがチューナーでもシンクロ召喚が可能である特殊なモンスター。
「星霜の安寧乱されし時、喜びを守るが我が定め。シンクロ召喚! レベル10、マナドゥム・プライムハート!」
《マナドゥム・プライムハート》
星10/攻3000
全身を白い鎧で覆い隠した、光の騎士の様な天使。鎧の両肩から噴き出すオーラは後頭部を通り、ぐるりと輪を描くように繋がっている。
デスピアの闇を討ち滅ぼす、善なる存在だと疑いようもないそのモンスターに対しアルベルは悪なる存在であるモンスターの効果を発動させる。
「シンクロモンスターか……クエリティスの効果発動! レベル8以上の融合モンスター以外の攻撃力を0にする!」
《マナドゥム・リウムハート》
攻1500→0
《マナドゥム・プライムハート》
攻3000→0
クエリティスの鎧より闇がフィールド全体へと広がり、マナドゥム達の輝きは落ちる。この度の光と闇の対決はどうやら闇に軍配が上がったようだ。
クエリティスの効果で変化するのは攻撃力のみで、守備力は下がらない。アルベルの場にいるモンスターは融合以外は守備表示のため影響を抑えられるが、リウムハートはエースモンスターの力を封じられた。
「ならば! 墓地のヴィサス=スタフロストとフィールドのマナドゥム・リウムハートを除外し、エクストラデッキよりヴィシャス=アストラウドを特殊召喚!」
《ヴィシャス=アストラウド》
星8/攻3000
それは融合モンスターでありながら、融合の魔法を不要とするモンスター。暴走する破壊衝動。獣のように背を丸め、アルベルを睨みつける。
「特殊召喚したヴィシャス=アストラウドの効果をマスカレイドを対象に発動! 破壊する!」
リウムハート
LP 2200→1600
「
「バトルです! ヴィシャス=アストラウドでマスカレイドに攻撃!」
相手の攻撃を誘いつつクエリティスの効果を最大限発揮できるようにするため、アルベルのフィールドにいる融合モンスターは全て攻撃表示にしてしまっている。
攻撃力3000の一撃がドラゴンを屠る。
アルベル
LP 4000→3500
アルベルへダメージが発生するも、マスカレイドによる効果ダメージで生まれた二人の大きなライフポイント差はそう簡単には埋まらない。
「くっ……! だが、融合モンスターが離れたことでプライムハートを対象に墓地の
「残念ながらマナドゥムを素材としたプライムハートは相手の効果対象にはなりません。……効果の無効を伴う特殊召喚、ですか。それでは
デスピアの道化アルベルが対象にできるのは相手モンスターのみ。
リウムハートのフィールドにいるモンスターは2体。そのどちらも効果を無効にできず、ゆえに蘇れない。……アルベルの動きが止まる。
「相手の墓地にいる闇属性モンスター、デスピアの道化アルベルを除外し
《
星6/攻2500
『タスケテ……ハヤクモドシテ』
相手フィールドにモンスターがいるためフリーチェーンで特殊召喚可能な
……ヴィシャスに踏み台にされて埋まった状態のまんまで。誰もあれから掘り起こしていなかったようだ。
「ドルイドヴルムでデスピアン・クエリティスに攻撃!」
『タスケ――アッ』
悲しい事だが、自爆特攻であってもモンスターは決闘者の命令には逆らえない。ブレスを放つドルイドヴルムに武器を投げつける事でクエリティスは対抗するも、攻撃力は同じ2500。互いの攻撃が届き戦闘破壊される。
「フィールドから墓地へ送られたドルイドヴルムの効果を特殊召喚されたモンスター、
「手札の喜劇のデスピアンを捨てて効果発動。その効果を無効にする」
「プライムハートの攻撃力は0ですからね……これでバトルフェイズを終了します」
「マスカレイドの効果を発動し墓地から特殊召喚。この効果の使用後、マスカレイドはフィールドから離れた場合除外される」
《赫灼竜マスカレイド》
星8/攻2500
マスカレイドが復活したが、融合召喚で呼び出された時と違い肌を焼くひりつきを感じない。カードの発動を邪魔されることはないだろう。
「カードを3枚セットしてターンエンド。エンドフェイズにプライムハートの攻撃力は元に戻ります」
アルベルのフィールドには守備表示のデスピアの
対するリウムハートには共に攻撃表示のヴィシャス=アストラウドとマナドゥム・プライムハート。
互いのエースモンスターの見せ合いは終わり、デュエルは折り返しを迎えようとしていた。
攻撃をなんとか凌ぐも、
邪悪な竜は赫灼の熱を再び放つ。
嘲笑う悪魔の声が響く戦場だが、
僅かな勝機はすぐそこにある。
――恐怖せよ、その驕りを。
本来ならミークの効果に使うべきだろう烙印の使徒による効果無効でしたが、アルベルのエースモンスターを潰したい欲&マナドゥム知識0のため「多分プライムハートには発動する効果があるだろ……そこ無効にしてぇ……」と思っていたために使われず、結果このターン仕事できませんでしたとさ。
〜そう遠くない過去にあった会話〜
「ううむ、私一人では繋ぎ止める力が足りませんね……9戦士……いぬ……そうだ、君は今から『なのら』って語尾になりませんか?」
「何言ってんだお前」
流石にそれは無理だよなとなったので毎日おでん生活がスタートした。
……いやなんでだよ!? 訳わかんねぇよコイツこえーよ! ヴィサスお前マジでどこ行ったんだよーッ早く帰ってきてくれーッ!!