「大丈夫か!?」
ログアウトした草薙仁が最初に聞いたのは藤木遊作の声。学校であった心肺蘇生の研修で最初にするように言われる、意識の確認のことを思い出すようなとても大きな声だった。
「……まあ、うーん、一応?」
精霊の力により強制ログインされた仁は座布団を枕がわりにして寝転ばされていた。
目を開くと視界には心配そうな顔の遊作。リンクセンスでの感知があともう少し早ければ助けられたかもしれない、と後悔が滲み出ている表情をしている。
……自分はそこまでされるほどの人間だろうか。ずっと周囲には迷惑をかけてばかりで、お返しができたためしがないのに。自分と他者の間の温度差に申し訳なくなりながら、もそもそ動いて起き上がる。
「怪我は何もしてないから、うん。大丈夫」
仁はあの場所で起きたことを上手く説明できないが、きっと賢いライトニングが補ってくれるだろう。一番賢いと何度も自慢するぐらい頭がいいイグニスだからなんとかしてくれるはずだ。
「データマテリアルでのカード生成は完了した。さっさと出ろ」
仁から勝手に期待を背負わされているライトニングだが、デュエルディスクからカードをぺいっと吐き出して【M∀LICE】の救出が完了したことを示す。
決闘者にとってカードは大事なものなのにぞんざいに扱うとなると、その行為に込められているのは嫌悪か無関心か……どっちかは他者からはわからない。
どんなカードであろうと放っておけなかったロボッピがワ、ワ、ワワ! と慌ててキャッチする。
『……逃げられた、のですか?』
「喋ったデスー!?」
しかし、カードから聞こえてきた突然の女性の声にびっくりしてロボッピは思わず放り投げてしまった。
「おっと、ほいっと!」
散らばったカードは複数あり、両手だけでは全部回収できない。Aiは捕食形態に変身し、にゅるっと伸びてそれぞれの触腕で器用にキャッチする。
「ごめんなさいデスアニキ〜……」
「ロボッピはあんまり精霊に慣れてないもんなあ、仕方ない仕方ない……いや慣れてきてるこっちがおかしいのか?」
小さな身体をより縮こませてごめんなさいをするロボッピをヨシヨシ撫でて慰める。
本来なら認識できないオカルト存在たちが日常に溶け込んでおり、しかもそれを科学技術の結晶であるAIが受け入れているのはよくよく考えると変なのでは……?
Aiが変な気付きを得ようとするのは知らず、遊作が仁に問いかける。
「リンクヴレインズで何があった?」
「ううん、リンクヴレインズのような、精霊界のような〜……ライトニング全部説明して」
「横着するな」
丸投げ計画、失敗。頼みの綱その2としてキスキルとリィラに頼み始めたため、すぐには説明は終わらないのだろう。その間、Aiがキャッチしたカードの一部を確認する。
遊作は精霊つきのサイバースのカードとしてアストラムとデミウルギアに接触したことがある。どちらもイグニスと関わりはなかったが、人間に友好的ではあった。
あの件が終わってからは基本的に精霊界にいる二体だが、今もカードを現実世界に残したままのためデュエルでは使用可能だ。
イグニスも人間とも全く関わりのない、しかも初対面の精霊にどう接するべきかわからない。印象がマイナスから始まるのは良くないので、とりあえずステータスや効果を褒めておけばいいのだろうか。
「闇属性のサイバースか」
「リンク3に、ライフポイント300と3の倍数……なにかと3を意識してるなぁ。プレイメーカー様のファンだったりしちゃう?」
『誰が何のファンですって!? 勝手な決めつけはやめていただけます!?』
カードから響いてくる気の強そうな声が反論する。
「ここにおわすのはリンクヴレインズの英雄、プレイメーカー様だぜ? そしてこの俺が最強の相棒であるAi様」
「Ai」
「だって事実じゃん?」
ハートの女王様は胸を張って偉そうな態度をしているAiを睨み、件の人間も睨みつけ……ようと、目が合って。
――顔が真っ赤になった。
『ふーん……そ、そうなの! なら貴方に私を使う名誉を与えます! 光栄に思いなさい!』
命令口調だが声色が柔らかくなった気がしないでもない。あれ? と周囲にいた皆が首を傾げる。もしやこれは怒りではなく、もっと別の感情によるものだろうか。
「サイバース族は一般流通が始まったから持っていてもおかしくはないが……目立たないか?」
プレイメーカーではなく、藤木遊作として紙束と言われかねないダミーデッキから、今上詩織から貰ってデュエル部で使い続けている【空牙団】へとデッキを変えた経験はある。
別のデッキを増やしても問題はないが、サイバース族となると必要以上に目立ってしまう。
「プレイメーカーとして使ってたらいんじゃね? ストームアクセスでカード増えたりしたし知らないカード増えてても受け入れられるだろ」
「確かに、サイバースしか出せなくなるのはあって無いような縛りだからな……しかし、俺に使われることでお前に利はあるのか?」
『強き者が力を示すのは当然でしょう! だから、べ、別に貴方のそばにずっと……とか、絶対にそんなんじゃないんですからね!』
つんっ! とイラストの中で動く女王様は顔を背ける。
「なんとも面倒くさいことになったな」
「これなんてテンプレなツンデレ〜?」
「わあー……一目惚れの瞬間はじめて見ちゃった」
『恋バナ! 大好物!』
『恋愛リアリティーショー始まっちゃう〜?』
三人とキスキルリィラコンビが遊作に視線を集める。
可愛い女の子、しかも人ならざる存在を惚れさせてしまうとはなんと罪な男なのだろう。
闇のイグニスのオリジンであることが影響したのかは定かではないが……まあ、恋愛とは程遠い生活を送っていた彼にこんな経験があって損はないだろう。これもまた青春。
「――何かあったか?」
藤木遊作はきょとんとした顔をしていた。
「クソッ、コイツ気づいていないぞ! どうなっているAi!」
「俺のせいなのぉ!?」
「もしかしてこくごの成績悪かったりする? この時の気持ちをってやつ全部外しちゃう?」
『くそっ、じれってぇ! くっつけてきます!』
『やめな』
叫ぶひそひそ声、という矛盾するそれを器用に両立している皆が何をきっかけにこうなったのかを頭にハテナを三つ浮かべて眺める。
『――まさかロスト事件によって色恋関係の感情を失い鈍感を得たというのか。なんと悲しき決闘者だろう――』
キスキルリィラコンビが勝手に地の文モドキを増やす。
「決めつけはやめようね」
『ハイ』
このままだとずるずる恋バナを引きずってしまう。無理やりに仁が巻き込まれた件について話を戻すべく、かくかくしかじか説明終了。
「あの知らない機械族モンスターが原因なのは間違いないし、今上さんなら正体がわからないかなあって。……にしても、また兄さんに心配かけちゃったな……」
「いざとなれば今上が解決するから問題ないだろう。リンクヴレインズでそれほど暴れていてSOLが気付いていないとなると今からその現場を調べても痕跡は残っていないだろうな。ハノイの騎士にも伝えて監視を強めてもらう必要があるか……」
彼らには精霊案件をお任せできる偵察兼最終決戦兵器今上詩織がいる。
当人はもう精霊関係の事件は大変だからヤダーッと言い張っているがなんだかんだで力を貸してくれるので丸投げしておいて問題はないだろう。
「……ん?」
ぴんぽんぴんぽんコココンコンコン、呼び鈴とノックが愉快なリズムを刻む。
「バイトから戻ってきたのかな?」
だとすれば早すぎる気もするが、きっと二人ともキッチンカーに乗って急いだのだろう。そう納得し、家主である遊作がドアを開いた先には一人の少女が立っていた。
「おじゃまします」
ぺこり、と丁寧に腰を折っての挨拶。黄色のリボンと紫のロングヘアーが重力に従って垂れる。
この場所にいる全員の心は一致した。
――この子は誰?
顔を上げて気付いたが、首には不思議な菱形があった。しかもそれは発光している上に首と一体化していて……それを認識したライトニングは目を見開きわなわなと震え、動揺を明らかにする。
「…………待て、それは私がこの付近に隠していたSoltisか!?」
「ん。場所をイヴリースがゲロった」
「え、この近くに? ……何のために?」
「………………」
仁から出た当然の疑問に光のイグニスは答えず、恨みがましく少女を睨むも怯む様子は見られない。とりあえずライトニングは後で問い詰められるのが決定した。
「だめ。渡さない。そっちが使うより有効活用できる。というよりしてる」
Soltisを使う必要のある存在としてはAIデュエリストであるグラドスが思い当たるが、声と喋り方が少し違う。
「グラドス……ではないな。誰だ?」
遊作が確認のために問いかける。
「ガラテアi――《オルフェゴール・ガラテアi》。それが今の私の名前」
「あぁん? アイだぁ?」
胸を手に当てて微笑む彼女が名乗った【オルフェゴール】、それはヴァンガードが使っていたカードの一つだ。カードの精霊がSoltisを動かす理由がまだ分からないが、名前を聞いたAiがオラつきながらメンチを切る。
「俺の方が先にアイ使ってるの! 後追い禁止!」
「そっちはエーアイだからアイ、なんて適当に名前をつけられた後で意味をくっつけた。でも私は最初からこの言葉に込める意味を分かって名前を決めたもん。後追いはそっち」
「ぐぬぬ……」
「むっふーん」
「覚えてやがれよー、俺もSoltisを貰ったら超絶豪快悶絶でエレガントなスーパーかつウルトラスーパーなAiちゃんになってやるからなー!」
……どこで張り合おうとしているのか意味不明なやり取りは、とりあえずガラテアiの勝利で終わったようだ。
「いけない。こんなことしてる場合じゃなかった。早く伝えないとってコレ使って駆けつけたのに。失敗。……現在進行形で結構大変なことが起きてる。だからあの時に関わってた人間全員集めて、はやく対策考えないとまずい」
「具体的には?」
「あの時と同じぐらいになるかもしれない、世界の危機」
「――ッ」
空気がひりつく。
……あの時、そう口にするとなると冗談では済まされない。
「他の皆は連絡できたけど草薙仁くんには連絡がつかなかったから、万が一を考えて現実の肉体を確認しにきた。当人だけで問題は解決できたように見えるけど、その問題の原因が今起きてることに関係あるかもしれない」
精霊が関わることに良い思い出のない光のイグニスが話を聞いて不機嫌になり、それを光のオリジンがまあまあと宥める。
「ライトニング、そんなもにょもにょした顔になってもどうしようもできないよ」
「……フン。どうせあいつがまた何かしらやらかしているに違いない」
「勝手な憶測はやめようよ」
「残念ながら実績がある」
「あるのかぁ」
――時はそこそこ遡る。
平和な日々を揺るがす突然の事件、意識の誘拐。
弟に万が一があってはならぬ、と法令に違反しない程度に草薙翔一はキッチンカーをかっ飛ばし藤木遊作の住む家へと向かっていた。
意識がリンクヴレインズ内に囚われた、だけでどこにいるのかが不明。故にリンクヴレインズで起きていることをほぼ把握しているボーマンから正確な地点を教えてもらってから向かわなければならない。
かつて遊作や尊が使っていた部屋を使わせてもらい、リンクヴレインズへとログインして数分――。
「オウオウオウ! ねぇちゃんちょっとツラ貸してもらおうか」
――凶暴そうな動物に跨り、パラリラパラリラ鳴らす集団にヴァンガードは絡まれていた。
「ああ、うん、グラドス? いきなりごめんね、騒音で聞き取りづらいでしょ? 今ちょっと過ごしやすい気温なったら元気に活動開始するガソリンの高騰を気にしてるのかよくわからないタイプのヤカラに絡まれててね」
「あんなちゃっちぃハシリで満足してるガキと一緒にするんじゃねぇ!」
「ノリがなんか不良漫画か世紀末なかんじするけどロールプレイ勢じゃなくて精霊だと思う。……たぶん」
威嚇の代わりにぶおんぶおんエンジンをふかして回り続ける乗り物アニマルだが、種類は統一されていない。哺乳類に爬虫類に鳥類……亀はのたのたドスドス全速力で頑張っているが周回遅れだ。
「俺たちは!」
「だから私の代わりにボーマンのところ行って座標を……うん、お願いね」
「泣く子も黙る賞金稼ぎ【
「通話終了っと。……あっすいませんちゃんと聞いてなかったんでもう一回やってもらえます?」
「だぁあ!! 無視して電話してんじゃねぇ!!」
話の流れを相手に奪われないよう意識しつつ、情報収集のための会話を開始する。
「まずさ、私が誰だかわかってる?」
「勿論だぜェ……
「ちょっと待ってその肩書き言い出したの誰!?」
暴走族っぽいネーミングをされていて思わずつっこむ。世界観が近未来SFから荒野でサティスファクションの方向にクラッシュされそうだ。
「いやもう気にしたら負けなヤツか……? んで、目的は何なの」
「そりゃもちろん! アネさん……いや、あのにっくき黒魔女がいない内に有名人からオタカラ巻き上げてウハウハ生活よ!」
サーベルタイガー的なアニマルに跨がる、体型がでっかいやつが一番偉いっぽい。そしてでっかいやつが恐れるアネさんなる黒魔女が気になるが今はいない、と。
もっと情報を引き出したいが、時間をかけすぎるのは良くない。ヴァンガードには仁を助けに行く急ぎの用事がある。
「つまーり! おてて揃えてお前が持ってる金になりそうな珍しいモン差し出してもらいたいってワケさぁ!」
「それを言うなら耳を揃えてじゃ?」
「そうとも……言うかもしれないな」
「そうとしか言わないと思うよ」
「……」
「…………」
なんとなく気まずい、無言の時間。
「よーくもこのガボンガ様に恥かかせやがったな! もうゆるさねぇ! お前の全財産を賭けて俺とデュ! エル! しろーっ!!」
「うわっ責任なすりつけられた!?」
ヴァンガードの今のデッキには【クシャトリラ】カードが入っているが『こんなのが初戦? えぇ……』とテンションが落ちていってるのが分かる。
適当に会話を終わらせて早めにデュエルを受けても良かったが、そっちでも結果的にテンションが落ちそうなので困る。とても困る。
「あーもうわかったよやりゃいいんでしょ!」
態度から強さがわかりにくいのはやめてほしい。切実にそう願うヴァンガードだった。
立ちはだかるゴブリンライダー達。
イマイチ乗り気にならないクシャトリラを従え
小鬼退治と洒落込むも、
なんだか一筋縄ではいかないようで……?
▶︎プレイメーカーの デッキに M∀LICEが くわわった!
▶︎クシャトリラたちの テンションは びみょうだ!
▶︎クシャトリラ・オーガが しょきてふだに くるかのうせいがでた!