どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

85 / 94
この世界で起きていること、その一端。


忘却せし二度目の君へ

 舎弟というか従属させた感じの百鬼羅刹(ゴブリンライダー)をアッシーに、ヴァンガードは精神的に疲れながらもようやく辿り着いた。

 

 百鬼羅刹(ゴブリンライダー)たちはこんな奴とずっと一緒なんて……と絶望顔継続中だったのでスプリガンズのいるデュエルディスク内へ放り込んでおいた。

 多分気が合う相手になるはずだが、こっちの思い通りに上手くいくかはわからない。

 彼女としては使わないカードを拘束する必要はないので、合わなかったら縁がなかったということでサヨナラバイバイも当然視野に入れている。

 

「ここ、で合ってるよね」

 

 降り立ったヴァンガードはデュエルディスクを胸の辺りの高さまで上げ、あちこち動かす。デュエルディスクによる本人確認に成功したのでジジッとノイズ混じりに隠された入り口が開いた。ボーマンの用意した別空間だ。

 そうそう関係者以外がやってくる事はない場所だが万が一はある。ささっと中に入りボーマンの下へ向かう。ヴァンガードの全身が入りきったあとに入り口は勝手に閉じた。

 

 彼女が足を踏み入れたのはリンクヴレインズの近未来な建築物とは少し違う、実用性を重視した大広間の様な空間。

 

「――なぁにこれぇ」

 

 そこで広がる光景を見たヴァンガードによる一言は他の声にかき消された。

 

「だから知らないって言ってるだッぐあああああ!!」

 

「りゅうえんをさらったのはほのおのドラゴンだった。アルバスはそんなことしないから、はんにんはおまえ」

 

「…………ねぇ、あの人はなんむぎゅっ」

 

「目を閉じていろアステーリャ。なんというか……教育に悪い」

 

「エ、エジルちゃん!? アルベルの関節はたぶんそっちには曲がらないと思いますよ!?」

 

「うーん。流れでここまで来ちゃいましたけどどうしましょうかね」

 

「でっかい穴空けられたからもう隠れられないもんな……やっぱそろそろ王様探さないとマズイだろ」

 

 ヒエッヒエの少女により磔にされた道化師がシバかれている。小さな魔女のお目目を優しくガードする白髪の少年と、ヒエヒエ少女の大暴走をなんとか鎮めようとする聖女。

 宇宙の光を宿すライズハートと似た顔の男二人は目の前のこととは関係ない別のことを話し合っている。

 

 うーんカオス。アストラル世界に持ち込んだらブチ切れられそう。

 

「遅いんだよヴァンガード」

 

 来たなら早く何とかしろと訴えかけてくるハルの視線が痛い。ボーマンの影響で兄弟AIである彼もカードの精霊というものを受け入れはしたが、だからといって積極的に関わりたくはないらしい。

 

「……ボーマンとグラドスは?」

 

 真面目な二人が騒がしい状況を放置しているのは流石におかしいと問いかける。

 

「あっちで情報整理中。だからさっさとアレをなんとかして」

 

 あっち、と示された方では二人のAIが空中にウィンドウを複数浮かべリンクヴレインズ内で起きた事象を整理していた。

 

「外部からの侵略、我々の知らなかった脅威が潜んでいた……そのどちらもがあり得る」

 

「出現し始めたのは貴方が神となって以降ですからね。となるとどこかに我々が感知できない繋がりが……?」

 

 時々道化師が痛みに喘ぐカオスなBGMの中でとても真面目な話をしている。精霊たちの取っ組み合いを止める気はなさそうだ。

 

 あーコレは自分が行動しないとダメなやつですねわかりました、と覚悟を決めてヴァンガードは精霊たちの輪の中へと割って入る。

 

「ハイハイちょおっとお話いいですかー」

 

「だれ?」

 

 突然の声かけによりヒエヒエ少女は手を止めた。解放された道化師は流石に関節を逆パカされかけるのはかなり痛かったらしく床に倒れ込んで動かない。

 

「……もう大丈夫そう、か?」

 

 バイオレンスな状態が終わったので少年は目隠し係をやめた。そうなると小さな魔女は初対面になる人間を見るわけで、びっくりしたのか白髪の少年の後ろへとピャッと隠れる。たぶん人間慣れしていない精霊なのだろう。

 

 とりあえず精霊達の騒がしい時間は終わった。

 

「人間界で精霊関係のことをほぼ全部任されてる決闘者、ってとこかな。ここではヴァンガードって名前で呼ばれてる」

 

「わかった」

 

 ヒエヒエな子、バイオレンスな行為をしていた割に聞き分けがとてもいい。本当はいい子なのかもしれない。

 自己紹介から信用できる相手と認識されたのか、聖女が話しかけてきた。

 

「私はエクレシアといいます。彼はアルバス。私達はこの子……アステーリャちゃんがディアベルゼを名乗った精霊に襲われているのを助けてからここに来ました」

 

 エクレシアがアステーリャに出る様に促すも隠れたままでこちらに顔を見せてくれそうにはない。

 

「……まだ恥ずかしいみたいですね」

 

「気にしないので大丈夫ですよ」

 

 ライズハートと顔の似た全体的に紫色な男は後頭部で腕を組んでその様子を見ていたが、女性同士の会話が終わり気付く。

 

「……ん、もしかしておれらの番?」

 

「我々は機械に襲われるところを見た王がどこかに去ってしまい……アルベルが悪巧みのため作っていたホールを改造して棲家にしていました。……まあ、それもエジルの突撃で壊されて使えなくなったんですが」

 

 ほんのり発光している黄色な男が答える。

 話に出てきたヒエヒエ少女――エジルは破壊行為に関して特に気にしていない様だ。良い子というわけではないのかもしれない。

 

「貴様らはアレに襲われなかったのか」

 

 語る中に引っかかる部分があったのかクシャトリラ・ライズハートが姿を見せる。

 

「偽装してましたからね。というかライズはしてなかったんですか」

 

「………………」

 

 こいつにそこを言われるなんて、な嫌そうな顔をしている。

 思いつかなかったのか、それとも見つからない自信があったのか。どちらなのかは自分から絶対に言わないだろうが、彼の発言に対しての対応が答えになってしまっている。

 

「ふーん、お前がライズハートを拾った人間か。……世界って狭いな」

 

 同じ存在から分かれた分身に現在の自分が従っている決闘者がどんな人間かをじろじろと見られ、ライズハートの機嫌がまた悪くなっていく。

 ヴァンガードの実力はあるが変な女、という評価のせいで自分のことも変に見られるのが嫌なのだ。

 

「レイノハートの時も気になってたけどさ、どなた? 知り合い?」

 

「……ヴィサスから分かれた存在同士だ」

 

「あー、ズァークみたいなもの?」

 

「納得できるような前例があるのか」

 

 何なら理解できないんだこの女。ライズハートによるヴァンガードの変な女ゲージは今日も上昇していた。

 

「そーいやどっかいったレイノの野郎は多分お前が何とかしたんだろ? どうしたよ」

 

「アレは捕まえたぞ。アライズハート製造のために必要だからな」

 

「…………良くも悪くも変わらないよなーお前」

 

 仲は悪そうだが会話ができている。まあ、放置しても問題はなさそうだ。

 ざっくりと聞いた情報だけだがボーマンとグラドスの会話には混ざれるだろう。ヴァンガードは二人の元へと移動する。

 

「何が起きているかは聞いたか?」

 

「なんとなくはね。巨大な機械。そしてディアベルゼを名乗る精霊……共通点が見つからないし繋がりがあるのかも分からない。あ、そうだ! その機械ってどんな見た目をしているかわかる? 私が知ってるかもしれないモンスターだったりするかも」

 

「了解した。今画像を出す」

 

 ボーマンは空中を撫でるように手を動かす。

 新たに出現したウィンドウへと映し出されたそのモンスターを見て、ヴァンガードは思わず声が漏れた。

 

「――え、なんで? どういうこと?」

 

 青と金の装甲。背中の巨大な砲塔。黄色く光る真空管を無数に取り付けた、無機質な四脚歩行兵器。

 構成する要素に見覚えがあった。

 

A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)……ディサイシブ・アームズとフィールド・マーシャルの2体が合体してる、のかな……というか付いてるのもしかしてインフェルノイドの真空管……?」

 

『――回答。ジェネクスはtierraが創造した』

 

「え、あっ、えー……そういうことぉ!? マジ!?」

 

 だいぶお久しぶりに言葉を発したクリフォートによる衝撃の真実。

 

「そこが繋がるのか……マジかぁ」

 

「何故今になって情報提供を?」

 

 ボーマンが問い詰めるのも当然だ。早くに知っていれば前もって打てた手があった。

 

『認知による存在意義固定を危惧』

 

「…………その意義が我々にとって危険、ということか」

 

『肯定』

 

 端末世界にいた原生機械生命体、ジェネクス。環境改善をひっそりと行い続けていた無害な存在たち。

 彼らへ侵略者と共に戦うよう依頼し、力を貸してもらい作られたのがA・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)。侵略者との戦いにて、共同戦線のはずが戦いの中でジェネクスらを使い捨てる結果となってしまった。

 現実世界で起きたならば非人道的行為と非難されるだろうそれにより、正義のため集まった部族の中で一悶着あったりしたのだが……それは製造者たちでの揉め事だ。

 

 兵器に組み込まれてしまった彼らが製造者を襲うならまだわかる。それらと無関係な精霊を襲う理由がいまいちぴんとこない。

 

「復讐のため、にしては変。まだ知ってることあるよね」

 

 デュエルディスクの中にいるクリフォートらを問い詰める。観念したかのように機械音声が流れた。

 

『…………ジェネクスの真の製造目的はsophiaが作り出した世界を破壊し、tierraのための世界を作り上げること』

 

「んなっ…………なんでそんなこと隠してたの!?」

 

 ヴァンガードは怒りと困惑を混ぜた大きな声をぶつける。隠れながらも人間のことが気にはなっていたアステーリャはびっくりして耳を塞ぐ。

 決闘者の感情を理解しつつもクリフォートは機械らしく淡々と返事をする。

 

『忘却。個としての感情。放棄された端末世界。数多を受け入れた精霊界。複数の要因より行動には起こさないとシミュレーション結果が出ていた』

 

「しかし攻め落としやすい小さな世界から狙われているのは事実です。いずれ被害は拡大していくでしょう」

 

『………………』

 

 グラドスは事実を述べる。クリフォート側としても現在起きていることは異常らしく、どうしてを思考し続けた結果何もかもが遅くなってしまった。

 はあ、とヴァンガードはため息をつく。

 

「もう起きたことをどうこう言っても仕方ない、か。リンクヴレインズって思考もデータ化してるから何かしら情報は残るはずだよね、それはどうなの?」

 

「それは当然調べたが……『救済』、としか分からずどうしようもない」

 

「ううーん、スケールがデカすぎるし何をするのかが漠然とし過ぎていて結局なにもわからない! それになぁ、あのtierraがこんなわかりやすく自分の手駒動かして黒幕だよー、とか丸わかりなのも変なんだよね」

 

「同意します。黒幕は別にいると考えた方がいいでしょう」

 

「ヴァンガード、グラドス、まだ謎の精霊としてディアベルゼもいることを忘れるなよ」

 

「忘れてないけどジェネクスのショックがだいぶ大きくて……。知らない相手に知らないモンスターときたかあ。……あの件で一緒にデュエルしてくれた誰が対応してもいいように時間を作って、皆でデュエルの特訓をしていくしかないのかなぁ」

 

 どちらもいつ出現するか不明。ボーマンから連絡を飛ばして手が空いている誰かに相手をしてもらうしかない。……完全に後手に回っている。

 

 こちらができるのは各自鍛えること、としたヴァンガードだったが突然デュエルディスクがエラーを吐き出す。

 表示されるのはエクストラデッキの上限越え。15枚から17枚になっている。

 

「…………勝手にカードが増えてる?」

 

 あの戦いを超えて新たな姿となったオルフェゴール。リンク1と、リンク4。話を聞いていたのかカードイラストに彼女の姿はない。現実世界に残っている遊作らに早速伝えに行ったのだろう。

 力が必要になった途端に増える。まあそういう事もあるよね、とヴァンガードはカードを抜き取る。

 

「これで後はパライゾスとクシャトリラ・アライズハートが復活したら私としては強化完了、でいいのかな」

 

 精霊界で行われている作業がいつ終わるのかは分からない。近くて遠い世界へと思いを馳せていた。

 

 

 

 誰にも知られず空を駆けていく炎を纏う白い竜――蛇眼の原罪龍(スネークアイズ・ダムド・ドラゴン)

 融合を解除し、二人の人影は持ち帰ってきた一つの氷塊を地面へと置く。

 

「ぽぷ、つぎどうすればいい?」

 

「いいのよ、ずっと私についてこなくても。ここからもっと危険なことになるんだから、貴方は安全なところに逃げなさい」

 

「でも……であべゆすた……」

 

 大きな本を抱え、桃色のフードを被った男の子はディアベルゼのコートの端をぎゅっと掴む。

 大きな蛇の目はうるんでいて今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 

「あの子の魔力をずっと食べてたせいで諦めないところまで移っちゃったのかしら? ……しょうがないわね。なら、私よりも人間界の決闘者を頼りなさい。私とあなた、二人で別々の方法を使って助けるの。そうしたら助けは二倍よ、二倍」

 

 白い魔女はしゃがみ、目線を合わせて優しく話す。

 

「…………ゔん。であべゆ、がんばって!」

 

 ぐずぐず声の応援の後、炎はどこかへと飛び去った。

 

「当然。今度こそ倒してみせるわ」

 

 ディアベルゼは穏やかな顔で炎の蛇を見送る。

 

「さて! 私は私のするべきことをしなくちゃね。貴方が龍淵で間違いないわよね、っと!」

 

 先程までの優しい魔女から一転。手にした杖を何度か突き刺し氷にヒビを入れ、最後に一発強打を加える。がらがらと崩れていく氷塊の中に閉じ込められていた男は魔女へと短く問う。

 

「…………何者だ」

 

 凍りついていたが、話はぼんやりと聞こえていた。何やら企んでいる様子の魔女を軍師は睨む。

 普段ならば疑わしき存在は捕らえて情報を吐き出させるのだが、それができるほど力は戻っていない。自らの生殺与奪は目の前の女に握られてしまっている。

 

「私は原罪のディアベルゼ。善い魔女よ。そんな善い魔女から軍師サマへの頼み事。代金はあの寒い牢獄から解放してあげた命、でどう?」

 

 誰かをわかっていて解放したうえで善良を自称するなど、きっとろくでもない女に違いない。そんな女にいいように振り回されるなんて御免だ。死んだ方がマシだ。

 

「笑止! 我が覇道を利用しようなど千年早いわ女狐が!」

 

 相剣を握る。視線が合う。

 ……その瞳に映る光に動揺する。その光は、悪人には持てない光。

 

「――助けたい人がいるの。力を貸して」

 

 軍師の目の前に悪辣な魔女などいない。

 孤独に抗う子供が一人、いた。

 

 

 

 黒い森の中、妖魔の前で膝をつく黒い女がいた。

 

『リゼットは』

 

「…………不明。こちらとの通信は絶たれました」

 

『にげましたか。しかしそれもゆるしましょう』

 

 笑みに込められたのは慈悲か、無関心か。

 天秤に揺れは無い。水平を保ち続ける。

 

『さじにかまうひつようはありません。すべてがすくわれるのですから』

 

「必ずや、救済を」

 

『ええ、すべてにきゅうさいを』

 

 その目に光は無い。その体に自我は無い。

 彼女の力となっていた二人の罪宝も無い。

 

 この場に善き魔女がいたならば、何度も彼女の名前を呼んだだろう。

 

 ――黒魔女ディアベルスター。

 

 物語は終われど、カードは残り続ける。効果という繋がりは必ずしも良いもののみとは限らない。

 ハッピーエンドは覆された。黒魔女は欺きの中、ただその力を使い続ける。

 


 

次回予告
次回予告
次回予告
次回予告
次回予告
戦いの後、地元へと帰っていた穂村尊。

リンクヴレインズへと幼馴染を誘い

平穏に過ごしていた彼に襲いかかるのは蛇眼の炎。

不屈の炎は未だ消えず、

電子の風に乗り再び燃え上がる。

 

「俺達の炎はそう簡単に消えやしない!」

 

次回
どうも、ハノイの騎士(バイト)です。

 

燐火襲来
燐火襲来
燐火襲来
燐火襲来
燐火襲来
燐火襲来

 

「Into the VRAINS!」




実は謎の機械の正体については「世界を均すモノ」に見た目情報だしてたけど、その話にはボーボボ次回予告ネタをぶち込んだせいで読者の記憶と感想が全部ボーボボに持っていかれました。全部作者のせいです。

なお、アルベルは捕まったけどマクシムスは逃げるのに成功した&カラリウムがエジルにより破壊されてしまったため烙印再演計画はまだ完全に潰えてはいません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。