「フォーウ、フォーウ。」
「あの、昼でも夜でもありませんから、起きてください。」
「んん…む…ここは…?」
知らない廊下で目が覚めた。
それも白い生き物に頬を舐められて目が覚めたようだ。少し首を上に向ければ、さっき頬を舐めた雪色の毛並みの動物と、その奥にいる眼鏡の少女に眼があった。少しかがんだ姿勢の少女は、こちらをいぶかしむように首を傾げていた。
少し目線を下に向けると、床が近くなっている。
なぜ廊下でうつ伏せになっていたのだろうか…
私は人としてアストラルに甦って…
Vの研究の手伝いをするようにナッシュに言われて…
「…の…あの…大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、すまない」
私は思考を一時的に止め返事をしようと声の方を向く。
「君は…?」
紫髪の少女は少し間を開けてこう言った。
「名乗るほどのものではありません」
「…いきなり何を言い出す?」
「いえ、名前はあるのですが、あまり名乗る機会がなかった為にこう、印象的な自己紹介ができないと言うか……」
「…ならばこの生き物は…」
「この方はフォウ。カルデアを自由に歩き回る特権生物です。わたしはフォウさんに誘導され、ここで先輩を発見したんです。」
「そうだったのか、わざわざすまない。しかし…見たこともない生き物だったな…」
バリアン世界にもいなかったのではないか?
そう思っていると、フォウはどこかへと去っていった。
「またどこに行ってしまいました。あの様に、特に法則性もなく散歩しています」
「言った通り自由なのだな…」
「私以外にはあまり近寄らないんですが、あなたは気に入られたようです。おめでとうございます。カルデアで二人目のフォウさんのお世話係の誕生です」
「あまり嬉しくないような係だな。ハートランドでもここまでのものは…」
「ハート…ランド…?」
「あぁ、なんでもない。それで、だ。」
「はい、なんでしょうか。」
「いくつか質問がある。まず1つ、ここはどこなんだ?」
「ここは人理継続保障機関、『フィニス・カルデア』です。」
「カルデア…?人理…?」
この呟きを聞き取ることができたのだろうか、マシュは聞いてきた。
「もしかして…。先輩はマスター適性という言葉に聞き覚えは?」
「無いな…。まぁそれはあとにしよう。次に君の名前は?」
「私はマシュ……マシュ・キリエライトといいます。その…あなたは?」
「我が名は…」
そこで私は少し頭を回した。
私のようなバリアンの人間には名字はない。
ナッシュのように記憶をなくして人間として蘇ったならまだしも、私はそうではない。
かといってナッシュのような名字なら怪しまれる。ここは…
「我が名はドルべ・アークライト。よろしく頼む、キリエライト。」
─後に私は知る。この少女との出会いが、まさしく運命の出会いだったと。
奥から足音が聞こえた。
「あぁ、そこにいたのか。マシュ、断りも無しに移動するのはよくないとあれほど…おや?」
そこから現れたのは深い緑色の紳士服と、同様の帽子を被った男だった。
マシュと呼ばれた少女はその男の方へ向く。
その男は、穏やかな表情をしていた。
それも、裏を秘めた人間の…、それこそベクターのようなろくでもないことを秘めた穏やかな表情を。
ベクターの場合は大袈裟なほど堂々としていたが。
「レフ教授。」
「レフ?」
「どうしたんだ?マシュ。」
「教授は、この方についてご存じですか?マスター候補生では無いようですが…」
「…もしや…ここは…異世界では?」
「異世界…?突然何を…」
「私はフィニス・カルデアだのマスター適性などは聞いたこともない。君たちはハートランドという地名は知っているか?」
「聞いたことがないな。マシュは?」
「いえ、私も…」
「ならば決まりだ。世界的にも注目のあるハートランドを知らないはずがない。それこそ、異世界でなければな。」
「なるほど…となれば何もカルデアのことについては知らないようだ。ならば最低限のことを教えよう。」
レフという男が言うには、
─人理継続保障機関『フィニス・カルデア』。
それは魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない『世界』を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために設立された特務機関。
ある日、何の前触れもなく、カルデアで観測を継続していた未来領域が消失し、人類は2017年で絶滅することが証明されてしまった。
カルデアは時空の特異点を探し出し、解明あるいは破壊し、人類滅亡を阻止するために動き出していた。
カルデアは守護英霊召喚システム「フェイト」を使い、英霊と呼ばれる強力な力を持った過去の英雄たちをサーヴァントとして召喚して契約を結び、共に戦う。
その英霊を召喚し、契約を結ぶために48人のマスター候補生が集められ、マシュもその一人である。
ということのようだ。
「人類滅亡に、世界を駆けて守る戦い。いよいよ壮大になってきたな…」
「しかし、本当に何も知らないようだ……それに、なぜ君がここで倒れていたのかも不明だ。さて、どうするか…おっとそうだ。そろそろ、マスター適性者のブリーフィングが始まる。急いで中央管制室に、いいね?」
「承知しました。」
「…!。待て、レフ。」
「何かな?」
「提案がある、私もそれに参加させてほしい。今の私には異世界ゆえに住処もない。私がここにいて、彼女と出会った。人類滅亡に立ち向かう人々がいる。ここまでの偶然が重なれば、これは最早運命だ。それに人類滅亡など、そう簡単に無視できる問題ではない」
「ふむ…。適性のあるマスターは四八人と決められているがあくまでもそれは適性があると認められた人々で、上限はない。もし君にマスター適性があるならば、レイシフトに参加することも可能かもしれないな。よし、私からも話を通してみよう。ただ……もうすぐブリーフィングが始まる。遅れたら大変だ。ウチの所長は、結構根に持つタイプだからね。」
「厳格なのだな、所長とやらは。いい所長を持ったな。」
マシュは後ろ手に手を握って急かすように走り出す。
「ドルべさん、こっちです。急ぎましょう」
「ま、待て。1人で走れる!」
「ほぅ、マシュが自分から人が関わるとはね。マシュ、彼の何処に興味を惹かれたんだい?」
「この人は今まで出会った人達とは違う気がするんです。」
「違う、とは?」
「…分かりません。意志の強さというのでしょうか…それともなんといいますか…とにかく違う気がするんです。」
やがて私たちはカルデアの中央管制室に到着した。
いざ中へと踏み込もうとする。
…が、追い出されてしまった。
急なことに対応できず、またうつ伏せに倒れる。厳しい女性の声が響き、ドアは閉じてしまう。
…閉め出されたことにすぐには気がつかなかった。
「いきなりなんだというのだ…」
「ドルべさんは、ファーストミッションから外されてしまったみたいです。」
「…まぁ、彼女の態度とこの状況からすれば、そうだな。彼女のお眼鏡には敵わなかった、とでも言ったところか。」
「個室に案内します。」
「しかし、あそこまで気が揺れるとは…」
「魔術の世界は実力は勿論の事、家柄がものを言います。所長は魔術の名門の出で、血筋に強いこだわりを持っているんです。試験段階のレイシフトを成功させる為には多くのマスター適性者が必要です。しかし、その候補者も一握りしかおらず……」
「つまりは私は最初から出来ないかもしれない、ということか」
「はい、そういう事になります」
「まぁ、うすうすそうだとは思っていた。しかも魔術師がその風潮なら、ぽっと出の私がこうなるのも必然か。」
そう話しているうちにマシュが1つのドアの前で立ち止まる。
「ここがドルべさんの部屋です。レフ教授が急いで空き部屋を探してくれました」
「そうか、わざわざすまないな。彼には君から礼を行ってくれ。」
「分かりました。それでは、また。」
「ミッションか?」
「はい、この後すぐにです。」
「そうか、頑張れよ。」
その言葉を最後に、キリエライトとは別れる。
踵を返し部屋のドアを開いた。
そして私は、呆気に取られてしまった。
誰もいないはずの自分の部屋のベッドには、白衣を着た青年が鎮座し、ケーキを頬張っているのだ。
「何者だ?」
「ふぁーい、入ってまーす……って!?誰だね君は!」
白衣の青年はフォークを私に突きつけて問いただした。
「それはこちらの台詞だ。」
「ここは僕専用のサボり場だよ?誰の許可を得て入ってきたんだね!」
「サボり場所…まぁいい、キリエライトにこの部屋が私の部屋だと聞いたのだが…」
「え!?マシュに!?だって、マスターは48人なんじゃあ!?ここに来て、一人追加!?」
「まぁ、そうなるな。それで、お前は誰だ?」
「ん?ああ、紹介が遅れたね。僕は、ロマニ・アーキマン。医療部門のトップで、カルデアの皆からはドクターロマンって呼ばれてるよ。」
「ドクター…つまりは医者か。っと、すまない。自己紹介が遅れたな。我が名はドルべ、ドルべ・アークライトだ。」
「よろしく、ドルべ君。でも、もうすぐレイシフトが始まるのに、どうして君はここに?カルデアに来たという事は、マスターなんだろう?」
「それが…」
私はアーキマンに経緯を話した。
それを聞いた彼は、苦笑いを浮かべケーキを口に運ぶ。
…少し分けてもらおうと思うのは野暮だろうか。
「僕のいない間にそんなことが…なるほど、僕みたいに外された訳だ。」
「僕みたいに…とは?」
「所長に、『ロマニがいると現場の雰囲気が緩む』って言われて、追い出されてね。だからここで拗ねてたって訳さ」
「なるほど…まぁ、アーキマンの雰囲気は嫌いではないぞ。厳格なのはいいが、過ぎるのも考えものだ。お前みたいな少し緩いやつがいた方が、気が楽だ。」
「おお!僕のことを理解してくれる人がいるとは…僕はドルべ君の様な分かってくれる人間を待っていたんだ!所在ない者同士、仲良くしようじゃないか!」
「よろしく頼む。ところでアーキマン。聞きたいことがあるのだが…」
私が彼に質問しようとした時、ロマニの手首に巻き付いている腕輪が音を鳴らした。
聞こえてきたのはレフの声で通話機能が備わっていた。
「うん?レフ、どうしたんだい?」
『もうすぐレイシフトが始まるんだが、Aチームは良好、しかしBチームの何名かに微かな変調が見られる。来てくれるか?』
「分かった、麻酔をかけに行こう。すぐに向かう」
『そこからなら二分で到着するはずだ。頼むぞ』
「OK」
通話を切ったアーキマンに引っ掛かったことを問う。
「ここは医務室じゃなくお前のサボり場所のだろう?」
「……まぁ、言い訳は考えるさ。今の彼は……」
「レフ、だったな。確か、技師の一人と言っていたが…」
「控えめに言ったなぁ。レフはね、『カルデアス』の大事な部分を設計した魔術師なんだ。」
「彼が設計を?」
「そうだよ…っと、長くなるわけにもいかないな。それじゃあ、僕はこれで行くね。楽しかったよ、ドルべ君。もし暇だったら医務室に来てくれ。美味しいケーキでも……」
その時、アーキマンの言葉を謎の爆発音が遮った。
直後に不気味な音が続いて響き、部屋の天井の照明が切れた。
「えっ?停電?」
「みたいだな…」
「まさか。カルデアで停電なんて……」
『緊急事態発生、緊急事態発生』
緊急のアナウンスが流れ、カルデア内の発電所から火災が起きている事が知らされる。
「火災だって……!?」
アーキマンがすっとんきょうな声をあげる。
突然訪れた緊急事態に私は現状がとても危険な状態にある事を悟った。
そして、脳裏に先ほど別れたキリエライトの姿が浮かんだ。
「!、キリエライトが危ない!」
私はマシュの身を案じ、部屋を飛び出した。
「あっ!待ちなさい、ドルべ君!危険だ!」
私はアーキマンの制止を振り切り、キリエライトの無事を確認する為に中央管制室へ向かった。
本文につきましては鳳凰白蓮さんの「Fate/Zexal Order」の本文の一部を改変して使わせていただきました。
本人の許諾を得て使わせていただいてますので、無断での持ち出しはお止めください。
七皇の次回予告
突如として起こった緊急事態
爆音、そして火災
嫌な予感がするな…
急げよ、ドルベ。
恩人を失いたくないのならな!
次回「人理救済への翼」
俺もそこへ行ければ…
(ナッシュ)