多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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取材

破軍の選抜戦の回数が10を超えた頃。

ボクのルームメイト、蜂谷 由奈がボクにあることを

頼んできた。

 

「取材?なんでさ」

 

「いやね、10回選抜戦があったじゃない?

それで無敗のままの一年で取材を受けてないのって

あんただけなのよ。一人だけ取材を受けてないのは

ちょっと仲間はずれにしてるように思えてね……」

 

ボクはマフラーの下からチョコバナナ味の

豆乳を飲みながら、「断る」と言ってやった。

 

「なんでや‼︎」

 

「だって蜂谷さんの言ってることは本当の理由とは

思えないからね。それに面倒だし」

 

蜂谷さんの先程言ったことは理由の一つではあるが

彼女を動かすにはそれはあまりにも「薄い」理由。

それに凶手の身としてはあまり、

目立つようなことはしたくはない。

まあ、同じ凶手の花京……じゃない、

有栖院はかなり目立ってはいるが。

 

「本当の理由言わなきゃ取材は受けないよ」

 

「あうう……分かったわよ……」

 

蜂谷さんはそういうと、一呼吸置いてから

本当の理由を述べた。

 

「あんたが寂しそうに見えるからよ……」

 

「寂しそう?ボクが?」

 

「そう。あんたいつも一人だし友達いなさそうだし

喋る相手いなさそうだし……だから、あんたの

たった一人の友達であるアタシがあんたのことを

他の人に知らせて、友達を作らせてあげたいのよ」

 

この言葉を意外だとボクは思った。

蜂谷さんには悪いがボクと彼女との仲はそれほど

深くはないと思っていたし、

ボクに対してそんなことを思ってくれていたなんて

初めて知った。

流石に彼女の気持ちを無下にしてしまうのは

人間としてはまずいと思う。

だから、

「……わかった。そこまで言うなら、取材

受けるよ」とボクは答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2日後。

ボクは2人の女子生徒を前にしていた。

1人は蜂谷さん。

そしてもう1人が、同じクラスの女子、

加賀美さんだった。

 

「いや〜まさか多々良さんが取材を了承して

くれるなんて、私としてもびっくりだよ」

 

本当に驚いた様子で加賀美さんがまくし立てる。

 

「クラス内だとなんというか、“近づくなオーラ”を

出してるから取材も断られるかな、って

思ってたんだけど」

 

「まあ、心境の変化ってことで」

 

「えーと、じゃあ私から質問がいくつか」

 

そう言いながら懐からメモ帳を取り出す加賀美さん。

ブン屋としてはかなり優秀な人材だと、直感的に

ボクは感じた。

 

「何故白雪さんはそんなに厚着をしてるんですか?」

 

「そりゃ、顔を見られるのが恥ずかしいに

決まってるから」

 

「は、恥ずかしい?」

 

「そう。恥ずかしい。ボクって恥ずかしがり屋

だからあまりこう顔を見せたくないんだよね。

例えるならそう……加賀美さん、貴女

赤の他人の前で裸見せられます?

見せられませんよね。ボクが言ってるのも

似たようなことなんですよ」

 

「へ、へえー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからいくつかの質問を経て、ようやく最後の

質問となった。

加賀美さんが眼鏡をかけ直しながらボクに尋ねる。

 

「どうして、今まで大きな大会に出場しなかったのに

今回の選抜戦に出ることにしたんですか?」

 

仕事だから……とは口が裂けても言えない。

だからこう答えることにした。

 

「今回の選抜戦は基本生徒全員が参加という形で、

ボクは普段暇だし、授業を免除してもらえるなら

やろうかなと思って参加してみたんです。

それと少しだけ、自分の力量も確かめてみたかった。

……まあ、まさか無敗でここまで来られるなんて

思ってなかったんですけどね」

 

顔で苦笑を浮かべながらボクはなんとなく違和感を

覚えていた。

なんというか、もっと別の理由を言っていないような、

そしてそれが一番の理由だと思えるような。

 

(あれ、何を言ってないんだ?)

 

別に言わなきゃいけないという訳でもないが、

言わなきゃ言わないで腑に落ちない。

 

と、その理由が天啓の如くボクの脳裏に浮かぶ。

ああ、と理解すると同時に加賀美さん達に

対して口を開いていた。

 

「あとは、……これが一番の理由なんですけどね。

好きな人が七星剣武祭に出るんです」

 

「出るって……それはもう確定で?」

 

「まあ、ほぼ確定じゃないかな?

ボクはね、その人が大好きなんですよ。

鋭い目つき、常場戦場の心意気。

それでいて優しいその姿に、ボクは惚れたんです。

だからこそ決めたんです。

その人と同じ場所に行きたいって。

そして、どちらが上かそこで決めようって」

 

それからボクはつらつらとその人(姉様)について

丸々60分間喋り続けた。

その間の記者二人の様子はよく覚えていない。

ただ。

 

「あ、あのー。……申し訳ないんだけど

カメラの電池が切れちゃった……」

 

「にゃはは……もうちょい聞きたかったんだけどね。残念だなー」

 

その顔はかなり強張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、蜂谷さんから「取材の件だが倉敷蔵人と

黒鉄一輝の盤外試合の一件でお流れになった」と

言われ、謝られた。

 

「別に謝らなくてもいいよ。こっちとしても

楽しかったし。また今度あったらお願い」

 

「い、いやいや。こちらこそよろしく……あはは」

心なしか、その笑いはひどく凍てついたものに

聞こえた。

 

と、ボクの電話の着信の通知音が鳴った。

呼び出し人の名前は、「平賀 冷泉」。

蜂谷さんに断ってから部屋を出たところで

電話に出る。

 

『ああこれはこれは白雪さん。

ずいぶんとご無沙汰しておりましたよ』

 

どこか人を小馬鹿にしたような、男の声が

電話口から聞こえてきた。

 

「……別に」

 

まだ声でしか知らないがこの平賀という男、

なんとなくだが“先生”と似た感じがする。

 

「用件は?」

 

『実はですねえ、そろそろメンバーの顔合わせを

したいと思いまして。場所と日時は追って連絡

しますから、ちゃんと来て下さいね。ウフフ』

 

「……分かってるよ」

 

電話を切りながら、ボクは近いうちに姉様に

会えることに心を躍らせながら部屋に戻るのだった。

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