メンバーの顔合わせから数日。
あれからボクは様々な情報を得た。
暁メンバーの一人、紫乃宮の能力≪未来予知≫
により有栖院が裏切るという事態が発生する
ことが分かったという事。
有栖院は裏切る瞬間まで泳がせておくという事。
その他メンバーの能力、身体能力、性格。
ボクにとって必要な情報はある程度得ることが
出来た。
しかし、今のボクにはまだその情報を活用する
機会はない。
その前にボクは選抜選手に選ばれなければ
ならないのだから。
そして今日、ボクは17連勝を記録した。
「白雪‼︎あんたやるじゃない‼︎」
ルームメイトの蜂谷が飛び上がりながら
まるで自分のことのように喜ぶ。
「まぁ、運が良かっただけだよ。
それよりボクお腹空いちゃった。何か食べに行こう」
「じゃあ17連勝を記念して、あたしが奢るよ」
「そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて」
食堂のメニューの中で、高いとも安いとも言えない
カツカレーを注文して、ボクと蜂谷さんは
互いに向き合ってテーブル席に着いた。
「あんた未だに
やってるんだって?」
「そ、徒手空拳でやってる」
「いい加減に
やったらどうなのよ?」
「いや、考えたんだけどね?いかんせんねぇ……
狭すぎるんだよ。フィールドがさ」
直径約100mもある選抜戦のフィールド。
だがボクにとっては100m「しか」ないのだ。
狙撃銃という
少なくとも500m程の広さが欲しい。
後障害物とか。
「狭すぎるって……あんたは何の
なのよ?鋼線か何か?」
「教えない」
「教えなさいよ〜も〜。ケチー」
そんなこんなでギャアギャアボク達が
騒ぎあっていると、隣の席に誰か座る気配が
あった。
見るとそこには、ファイアブロントの髪と
端正な顔をした少女がイライラした様子で
座っていた。
「……誰かと思えば、ステラさんじゃないか。
何をそうカリカリしてるの?」
「カリカリもするわよ」とステラは僅かな燐光を
辺りに放ちながら言った。
「……イッキが、連盟の日本支部に連れて
かれたんだもの……」
ステラが言うには、一輝と日本支部の局長は
親子関係ながらもほぼ絶縁状態。
おまけに親の方は一輝に魔導騎士の道を
歩ませたくないらしく、今までに
何度も邪魔をしてきたのだそうだ。
前理事長と結託して彼を留年させ、
学生を嗾けて彼をとことん負傷させ孤立させ、
今回はステラと一輝の関係を利用して
スキャンダルだのなんだのと騒ぎ立てる始末。
挙句の果てに彼に対して査問を行う為に
連盟の日本支部が監禁紛いの行為を
行ってきたらしい。
「今回もその連中の仕業だと?」
「ええ、間違いないわ。この間の新聞に
載っていたイッキのことだけど……」
「新聞見てないし、テレビも見てない」
「……まあ、いいわ。とにかく、
新聞やテレビで取り上げられたイッキの情報は
でっち上げ。あいつらはなんとしてもイッキを
引きずり落とす気なのよ。この魔導騎士の
世界から」
話を聞いていた蜂谷さんが、震える声で
ようやくといったように呟いた。
「……なんて、なんて理不尽なの」
そう、理不尽。彼は、黒鉄一輝は何も
悪いことなどしてはいないのに、周りは
彼を害す。これ以上ない理不尽だ。
だけどそれはーーーーーー。
「確かに理不尽だけど、
「ッ⁉︎」
「な、あんた何言って……」
驚いて声も出ない二人。
甘いんだよなぁ。その気持ちは分かるけどさ。
「ボク達は魔導騎士……正確にはその卵だけど。
魔導騎士が魔導騎士たる所以はなんだと思う、
蜂谷さん?」
「自らの運命を切り開き、力なき者を
守る……かな?」
「そう。魔導騎士は自らの運命を切り開き、
霊装という“形”に変えて闘う人間だ。
イッキ君だってその一人。
彼だってそのことは分かっているはずだ。
今回の件で彼が騎士の道を閉ざされるような
ことになったとしても、それは同情に値しない。
事なんだよ」
運命に呑まれたという事は即ち、その人間には
魔導騎士になる資格などないという事だから。
「だからボクは彼のことは心配しない。
……大体ステラさん、彼はノコノコと連盟支部に
向かった訳じゃないと思うんだよ」
「なんでよ‼︎イッキはアタシの為に連れてかれた‼︎
アタシがイッキの足枷になってるのよ⁉︎
こんな大切な時期に、アタシが……‼︎
こんな苦しい思いをイッキにさせるんだったら、
別れた方が……‼︎」
刹那、ブチッという弾力のあるものが切れる音を
蜂谷は聞いた。
「なーにバカな事のたまってんだこのガキがァッ‼︎
一輝にはなぁ、査問に応じないって手も
あったんだよ‼︎おまけにそっちの方が苦しい思いを
しねーで済む‼︎なのに、だ‼︎なんで彼は
その選択肢捨てて苦しい方選んだと思う?
……ステラ、お前が中傷の的にされた事が
許せなかったんだよ。
二人の関係をこんなゲスい思惑で穢された事が、
それだけ腹に据えかねたって事だ。
そんなことでさえ理解出来ないんだったら、
今すぐに別れちまえ‼︎」
普段の白雪からは想像もつかない暴言を受け、
ステラは大きく目を見開き、そして
伏せた。
「……ごめん、アタシが馬鹿だったわ」
「はぁッ……もういい。蜂谷さん、
悪いけどボクは先に帰るよ」
心底うんざりした様子で、白雪は席を立つ。
そのまま、すたすたと歩いていってしまった。
「あっ……あの、ステラさんごめんね⁉︎
あの子普段はあんなこと言わないんだけど……」
「大丈夫。おかげで踏ん切りがついたわ」
白雪の叱責のおかげで踏ん切りがついた。
『誰の前でも胸を張って好きだって言いたい』
自分の彼氏はかつて交わした言葉を
今まさに実践してくれている。
「アタシも、アタシの約束を守る」
それこそが、自分の出来る事だと思い、
ステラは決意を新たにしたのだった。