ようやく、ようやく最後の選抜戦の日が来た。
最初はそれなりには楽しんでいたものの、
8戦目辺りからは飽きを感じるようになり始め、
退屈な気分を選抜戦の度に味わされるように
なっていた。
しかし物事には必ず終わりというものがある。
今日の選抜戦に勝ってしまえばもうこんな
飽き飽きした気分を味わうこともなくなる。
そう思うと何故か変な気分になってしまうのだが、
何故だろうか?とボクは選抜戦の会場で
疑問に思っていた。
「白雪、いつもの調子で頑張っていけば
大丈夫だから‼︎落ち着いていきなよ!」
「……うん。まずガクガクしてる足を止めてから
そのセリフを言ってよ。こっちが落ち着いてって
言いたくなる」
地面掘れるんじゃないかと錯覚するぐらい
削岩機みたいに足ガックガクしてる。
蜂谷さん緊張し過ぎだから。
そもそも試合するのはボクだから。
「あ、ああごめん……なんかあたしの方が
緊張しちゃって……でも、あんたが勝つって、
あたし信じてるから!」
「まあ、勝ってくるよ。いつもみたいに、
ステゴロで、さ」
ボクがそう言うと同時に、選手入場を
促すアナウンスが流れた。
もうすぐ、始まるらしい。
さてと、行こうか。
七星の頂への切符、それを手に入れる為に。
『さあー先程はステラ選手、開始3秒という
選抜戦始まって以来の最速の記録を
叩き出しましたが……。
しかししかし‼︎それまで選抜戦最速KO記録を
保持していた人間を我々は忘れられません‼︎
1戦目の竜崎選手から19戦目、葉暮牡丹選手
までを悉く拳一つでKOしてきた≪白兎≫こと
多々良白雪選手が今、七星の頂への切符を
賭けて、リングへと上がりましたァァァァァッ‼︎』
その実況の言葉と共に、今までと同じように
白雪はいつものあの姿でリングの中央へと
歩みを進めた。
『対するは昨年度校内序列6位‼︎
“伸縮”の概念干渉能力を使用した棒術で
相手を近付けることなく倒してきた、
3年、速雨 玲選手です‼︎』
歓声が上がり、白雪が出てきた反対側の
コートから、長髪をなびかせ少女が出てきた。
『白雪選手にとっては竜崎選手以来の
難敵ですが、はてさて速雨選手が先輩としての
威厳を見せつけるのか‼︎
それとも白雪選手が七星の切符を
手に入れるのでしょうかァッ⁉︎』
伏せがちだった顔を上げて、白雪は目の前の
速雨を見た。
今までの選手は能力のみにかまけた
強さだったが、この少女は違う。
能力と技術、両方が揃っている。
「少しは、張り合いがあるかな?」
そう、白雪は挑発した。
口元に笑みを浮かべて、楽しげに。
速雨は顔にかかった髪をかきあげて、
同じように、笑った。
「だといいわね。あなたにそこまでの力が
あれば、だけど」
そう、速雨が言うと同時に、試合開始の
宣言が、成された。
『『『Let’s Go Ahead‼︎』』』
試合開始と同時に動いたのは、速雨だった。
真っ直ぐに向き直り打突を離れた位置から
放つ。
≪如意棒≫はその名の如く大きく伸び、
白雪の喉元を狙う。
「ッ‼︎」
間一髪で首を曲げて回避すると白雪は
速雨へと近づこうとする。
だがしかし、一歩踏み出した途端、
足元を薙ぎ払われて転倒した。
『ああっと⁉︎白雪選手、手も足も出ず転倒‼︎
速雨選手にチャンスが到来したアァァァァッ‼︎』
速雨はこの隙を逃さない。
白雪へと思い切り棒を振り下ろした。
「ちっ」
頭への一撃をなんとか回避すると、白雪は
今度は距離を置く。
否、置かざるを得なかった。
速雨は白雪を更に遠くへと追いやろうと
棒を操り、合間合間に急所を狙う打突を
放つ。
『白雪選手、どんどんとリングの際へと
追い詰められていくゥ‼︎
速雨選手、完全に試合の流れを掴みましたァ‼︎』
(押されている?ボクが?)
白雪は伸びる棒の払いや打突を避けながら、
そう思った。
確かに、攻撃範囲の広い速雨に対して退がるのは
愚策中の愚策。
何の抵抗も出来ず、リングアウトか打ちのめされて
KOにされるのがオチだ。
だが、それは……。
(違うんだよなぁ……
並の伐刀者、それも近距離の霊装を持つ者のみに
限られた話‼︎
「あーあ、最後まで残った奴だから、
少しは骨があると思ったんだけどなぁ……」
「……?」
白雪は、そう心からため息を吐くと、
右手に自らの霊装を……、
この選抜戦始まって以来始めて、顕現した。
「だけどまぁ、最後だからボクも少しは
本気でやらなきゃいけないよね?
……頼むから、すぐにやられないでね?」
そう言いながら、白雪は顕現した狙撃銃の霊装……
≪銀雪≫の銃口を右手だけで持ち上げて
速雨へと向ける。
刹那、速雨の背筋をまるでムカデが這いずるような
悪寒が走った。
原因は、数十m先の白雪から放たれる……
異様なまでの殺気。
(何……⁉︎なんなのこの殺気は⁉︎)
一瞬、速雨は怯えた。
今までに感じた事もなく、また向けられた事も
ないおぞましいまでの殺意に。
故に、白雪の先制攻撃に、速雨は対応出来なかった。
「穿て、≪銀雪≫」
その言葉と、激しい炸裂音と共に速雨は
左肩に大きな喪失感を覚える。
見るや、肩から先、左腕が≪如意棒≫を
掴んだままの状態で千切れていた。
「〜〜〜〜〜ッ‼︎」
激しい痛みと鮮血が肩から噴き出すと同時に
速雨はそれを抑え、
次弾を撃たれる前に白雪へと右手一本で
打突を放つ。
なんとしても彼女に撃たせてはならない。
そう速雨の本能が訴えているのだ。
しかし、その打突はあっさりと避けられ、
逆に今度は右腕を中程から穿たれる。
「ぐうううッ‼︎」
ガラン、という音と共に≪如意棒≫が地面に落ちた。
それを見て、審判は続行不可能と判断し、
両手で×の印を作った。
『試合終了オオオオッ‼︎
白雪選手、追い詰められたように見えましたが
逆に速雨選手を圧倒しました‼︎
これで、白雪選手の七星剣武祭への出場が
確定しました‼︎』
同時に、歓声と拍手がわき起こり、
会場を包み込んだ。
「ほんと無様ね、私ったら」
両腕を失った速雨が自虐的に笑う。
「いや、速雨さん。貴女はボクが戦った中でも
一番強かった。また機会があれば是非
手合わせお願いします」
そう、白雪は速雨へ言ってから頭を下げた。
それから、彼女に背を向け、ある場所へと
向かうのだった。
会場の外。
もう試合は行われる事はない為か人の姿は
見えない。
……たった一人を除いて。
会場のドームの壁に寄りかかるガスマスクと
黒のコートを纏う痩躯の姿。
「……日本にいるとは聞いていたけど、
こんな所にまで顔を出すなんてね」
そんな彼に声をかけたのは、
「久しいな……≪スノーホワイト≫。
いや……今の名前は多々良白雪とか言ったな?」
白い長髪に青の瞳を持つ少女……。
多々良白雪その人だった。