多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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姉様と‼︎

選抜戦が終わって数日。

ボクは姉様の住んでいる貪狼学園の寮に

入り浸っていた。

 

「白雪、テメェなぁ……」

 

「? 何、姉様?」

 

「いい加減に自分のいるべき場所に戻れよ」

 

それを聞くと白雪ははっ、と声を出して笑うと、

「ボクにとってのいるべき場所は、姉様の

いるところだよ?だから今ここがボクの

いるべき場所」と言い放った。

 

「ええ……」

 

幽衣の方はというと、なんとしても妹を

どこかにやりたかったので、譲歩を

引き出す事にした。

 

「じゃあ、代わりにテメェの要望を出来る範囲で

聞いてやるから、それで手打ちにしよう」

 

「本当⁉︎じゃあね、じゃあね……」

 

幽衣の提案に嬉しそうに口端を歪めて悩む白雪。

どうせ彼女のことだ、簡単な事だろう。

幽衣はそう白雪を見ながらほくそ笑み、

 

「じゃあ姉様の生パンツハスハスしたい」

 

「却下ッ‼︎」

 

次の瞬間大慌てせざるを得なくなった。

 

「冗談だってば、冗談」

 

「テメェが言うと冗談に聞こえねぇよ‼︎」

 

「もー、姉様ったら可愛いんだから」

 

そう言いながら白雪は軽くえいえい、と

幽衣を小突いた。

 

「怒った?」

 

「怒ってねぇよ」

 

それはそうと、と白雪は幽衣に提案を

返した。

 

「姉様に何かして欲しいって言ったら……

そうだね、“アレ"がいい」

 

「アレ?」

 

「そう、アレ」

 

白雪は不思議そうな顔をしている幽衣を

見ながら、くすくすと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

二人はショッピングモールにいた。

 

うきうきした様子の白雪とは正反対に、

幽衣は眉をひそめていた。

 

「おい……まさかだが、テメェもしかして」

 

「そのもしかして。服買いに来たんだ。

姉様とボクでお揃いの」

 

幽衣の手を取り、白雪は微笑む。

天使のような悪魔の笑顔を見ながら

幽衣はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

服屋にて。

 

「うーん……このワンピースも捨てがたいなぁ。

でも……やっぱこっちの方がいいや」

 

青系統の色のワンピースと白のパーカーを

交互に見比べ、時折幽衣の方を見ながら

白雪は熟考していた。

 

「早くしてくれよ……。もう何分になる?

アタイにも色々やる事があるんだが」

 

「だーめ。服ってのは時間かかるものだよ?

このぐらいでへばらないで」

 

こういう時の白雪は誰が何と言おうと

てこでも意地を曲げない。

何より、彼女の顔は真剣に集中したものなので

ものを言うのが憚られるのだ。

その顔を少しだけ美しいと感じた自分がいる

事実に幽衣は思わず舌打ちした。

 

(クソ……なんでこんな事感じたんだアタイは?)

 

「……よし、これでいい。姉様、待たせて

ごめんね。あと試着だけしたら終わりだから」

 

白雪が真剣な表情を緩めてにへらと笑う。

幽衣は持たされていたホットパンツを白雪の頭に

載せると、「さっさと行くぞ」と白雪を促した。

 

 

 

 

 

 

試着室の前に来て、唐突に幽衣は白雪の方へと

向き直った。

 

「一応言っとくけど、アタイが着替えてる

途中で試着室の中に入ってくるなよ?」

 

「絶対に?」

 

「絶対に、絶対に‼︎入ってくんじゃねェぞ‼︎」

 

幽衣はそう言いながら白雪の選んだ

服を両手に持ち試着室に入っていった。

 

「絶対だからな‼︎」

 

入る直前にも白雪に注意して。

 

幽衣は入った後も白雪の気配を探っていたが、

やがてその気配が遠ざかっていくのに

安堵して、いつも着ている防寒着を脱ぎ始める。

 

コートを脱ぐと、華奢な手足が現れる。

 

「白雪の野郎、何考えてんだか……」

 

「呼んだ?」

 

「ッ⁉︎」

 

振り向くと、白雪が試着室の仕切りから

顔を覗かせていた。

 

「テメェ人の話聞いてたのかァ⁉︎

覗くなって言ったよなアタイ‼︎」

 

「いやでも言うじゃない。

押すな押すなは押せの合図だって」

 

「いやそういう事を思って言った訳じゃねぇよ‼︎」

 

すまなそうな顔をして白雪は、

「あ……ごめん」と謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物を終えて、

二人は駅前まで来ていた。

幽衣の姿はというと、白雪の要望から

服屋にて買った服を着ていた。

 

「ったく。夕方まで付き合わせやがって。

これで、少しの間離れるんだな?」

 

「うん……ちょっと寂しいけど、そうする」

 

しゅんとした様子でしおれる白雪。

その様子がおかしくて、思わず幽衣は

白雪の額をデコピンするイタズラをした。

 

パチン、という快音。

 

「痛っ⁉︎何するの姉様‼︎」

 

「ギギギ、テメェの顔見てたらなんとなく

いじめたくなってな。こんぐらいガマンしろ」

 

むー、と頰を膨らませた白雪は姉に向かって

デコピンの仕返しをした。だがそれは、

 

「≪完全反射(トータルリフレクト)≫」

 

幽衣の伐刀絶技(ノウブルアーツ)に防がれる。

 

「ずるいっ‼︎」

 

「ギギギ‼︎やれるもんならやってみな白雪ィ‼︎」

 

刹那、幽衣の頰に手が添えられると、

 

 

 

 

 

白雪の唇が幽衣の唇に重なった。

 

「……〜〜〜〜〜〜ッッ⁉︎」

 

その事態に幽衣は流石というべきか、

すぐに白雪を突き放した。

 

「な、何してんだよテメェ⁉︎」

 

「ふふっ、姉様がいじめるから……

ボクもちょっと、姉様をいじめたくなっちゃった」

 

少女なのに妖艶な笑みを浮かべる白雪。

 

「……でもしばらく会えないから、

これで手打ちね?今日はありがとう、姉様」

 

そういうと、白雪はじゃあね、と幽衣に

手を上げると、彼女の元から去っていった。

 

「……ったく。何考えてんだか。あの馬鹿妹は」

 

幽衣は小さくなっていく白雪を見つめながら、

薄くふっと微笑むのだった。


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