多々良白雪は、赤ん坊の時から既に≪解放軍≫の
凶手として育てられていた。
何故赤ん坊の時には既に≪解放軍≫の中にいたのかは
白雪は知らなかったし、知る気もなかった。
≪解放軍≫の誰かが捨てられていた自分から魔力を
感じて拾ったのか、はたまた≪解放軍≫の幹部の
隠し子か。
別にどうでも良かったと今でも白雪はそう思っている。
赤ん坊の頃から凶手としての知識、体術と
ありとあらゆることを身体に、頭に、
血肉に刻みつけられた。
やがて12歳で一人前の凶手となった
白雪……その時はまだそのような名前はなく、
≪スノーホワイト≫という名で呼ばれていた……
彼女には、ありとあらゆる感情が欠如していた。
喜怒哀楽を表現することができなかったのだ。
幼少期は人間の性格や感情、考え方などの
“根底”を創る時期である。
そんな時期に、彼女は暗殺の技術を拷問のように
身体に叩きこまれてきた。
その結果、彼女は「感情は暗殺に不必要」として
感情を“捨てた”。……捨てざるを得なかった。
そうして凶手となった白雪はロシアで暗殺を
行うようになった。
暗殺を続ける内に、彼女の性格は非常に歪んだ。
まず、損得勘定で動くようになった。
仲間が傷だらけになって捕まりそうになると、
捕まえようとする敵ではなくその仲間の方を
殺害した。
捕まれば情報を喋る可能性がある上に、
その仲間を助けるためにより多くの仲間が
危険な目にあうのを防ぐためである。
また、いつも部屋に閉じこもり、タオルケットを
身近な所に置いておき、常に被っているように
なり始めた。
更に常に部屋に閉じこもる内に他人との会話が
少なくなり、相手とのコミュニケーションの
取り方が分からない状態に陥った。
段々と異常性が増してゆく≪スノーホワイト≫に
対して≪解放軍≫の者たちは恐怖した。
やがて、≪スノーホワイト≫という通り名ではなく、
≪白の死神≫の通り名で呼ばれ始めた。
理由としては、敵味方問わず“死”を振りまくこと、
そして彼女の霊装がかつてとある雪国で起きた
戦争にて多大なる貢献をした英雄の霊装と同じ
タイプの霊装であったこと、
その英雄が敵国に≪白い死神≫の名で呼ばれた
ことが主な理由だ。
だが、彼女の運命を変える出会いが14歳の頃、
彼女に訪れた。
きっかけはとある要人の暗殺依頼だった。
依頼内容を確認した≪解放軍≫の幹部は、
≪白い死神≫の他にもう一人、凶手を指名し
2人で依頼を遂行するように言ったのだ。
暗殺決行の前日、彼女はそのもう一人の
凶手と初めて顔を合わせた。
そして、互いに驚愕した。無理もないだろう。
……お互いの顔が瓜二つだったからだ。
驚くに決まっているだろう。
もう一人の凶手は彼女に対して顔が瓜二つである
ことが気に入らなかったらしく、ありとあらゆる
罵詈雑言で彼女を責めた。
無論、彼女の方も黙っているわけでもなく、
無言でその凶手へと霊装を顕現して襲いかかり、
あわや≪解放軍≫の支部が一つ消えかける
結局、二人の勝敗はつかず、お互いに
険悪な状態でその日は終わった。
それこそが、≪不転≫と呼ばれる少女……
多々良幽衣とのファーストコンタクトだった。
暗殺決行の日。
彼女たちは首尾よく標的を暗殺した。
……≪白い死神≫が腹を撃たれたことを除いて。
彼女は≪不転≫に対し自分を殺すように言った。
常々自分がそうしてきたように、相手に
そうするように強要した。
だが、それを聞いた≪不転≫は、≪白い死神≫に
こう返した。
「バカかテメェは。まだアタイとどっちが上か
決めてねえのに殺せるかってんだよ」
そう言って、最後まで殺すようなことはしなかった。
逃げる途中、≪白い死神≫は相手の行動に疑念を
抱いた。
何故自分を殺さない?その方が身軽になって
捕まる可能性は低くなるのに?
その答えはいつまでたっても見つからなかった。
≪解放軍≫に戻り、腹の怪我が治っても、未だに。
やがて、再び≪不転≫と共に任務を遂行することに
なり、彼女に再開した時、そのことを問うた。
「あ?アタイはな、おまえを助けたかったから
助けたんだよ。それ以外の何物でもねぇ」
その答えに衝撃を受けた。
そんな考えがあるのかと。このような人間がいる
のだ、と。
≪白い死神≫は≪不転≫に、否“人”に対して初めて
興味を持った。
最初は彼女の考えを理解しようとその後を
ついて回った。
だが、その目的が彼女の考えではなく
「多々良幽衣そのもの」に切り替わっていることに
気がついた。
自分と瓜二つの顔でありながら性格は真逆。
知りたいと、≪白い死神≫は……「多々良白雪」は
そう願った。
多々良幽衣を知りたい。彼女の全てを。
幽衣と触れ合ってゆく内に白雪には「感情」が
芽生えた。
幼少期に出来なかった「根底」の成長が
幽衣と触れ合ったことで再開したのである。
新しい考えと感情を得た白雪には
わかりきっていた。
自分は多々良幽衣には勝てない。
自分にないものを彼女は持っていたからだ。
それを彼女は自分にも分け与えてくれた。
これは一生かけても返せないほどの恩だ。
ならば、彼女にずっとついて行こう。
≪解放軍≫などどうでもいい。
彼女さえいれば自分は満たされるのだから。
そうして、「多々良白雪」という少女が誕生した。
多々良幽衣を姉として慕い愛し、だがその愛が
重すぎて数年後に≪暁学園≫の一件で白雪と
共に破軍へと送られそうになった際、
この世の終わりだと言わんばかりに
「白雪とは別にしてくれ、じゃないと殺される」と
全力で抵抗するぐらいに姉に恐れられる妹が。