……≪暁学園≫の面々が計画を開始した頃、
神宮寺黒乃は大阪、武曲学園にいた。
≪七星剣武祭≫に関する事案を他の学園の校長と
共に取り纏める為である。
だが、彼女は浮かない顔をしていた。
≪七星剣武祭≫の事案は全て円滑に
纏まった、というのにである。
「くーちゃん、どうしたのさ?
なんか浮かない顔しちゃってさ。
あ、もしかしてアレの日?」
「はしたないぞ、寧々」
ペシン、と軽く隣にいた寧々の頭を叩く。
寧々はわざとらしく「ぐわー、やられたー」と
頭を抱えてうずくまった。
「私が気にしているのは赤座の一件だ……。
なんで私があのクソ野朗に関する事で頭を
悩ませなければいけないんだ?」
「……そうだねぇ。ま、あの古狸が今まで
良い思いをしてきた分の“代償”を払わされたん
だろうけどさ、黒坊の件のすぐ後でやられたのは
困ったものさね」
その言葉に黒乃は思わず頷いた。
選抜戦の一件の後、赤座は全てを失った。
地位も権力も……命すらも。
一輝が≪雷切≫に勝利してから数日後、
赤座はとある街の路地裏で死体で発見された。
その死体はその殆どを蛆や蝿に喰われ、原形を
留めない状態であった。
赤座であると分かったのも死体の近くにあった
財布から発見された免許証からだった。
故に警察も誰がどのように殺したか、いや
どのようにして死んだかすらも判断出来ずに
「変死」として処理せざるを得なかった。
「おかげでマスコミに変な疑いを持たれた。
まあ、≪侍局≫の方も疑いを持たれていたがな」
「あっちの方が黒い噂は絶えないからねー。
因果応報だよ、ざまーみろだ」
「……私が気にしているのは赤座が
死んだ事じゃない。もっと別の事だ」
黒乃の言葉に寧々は不思議そうな顔をして
彼女の顔を見た。
「へえ。じゃあくーちゃんが気にしてる事って
一体何?」
「……まだこれは誰にも言っていない事だったが」
と黒乃は前置きしてから数日前、自身が見たものの
事について話し始めた。
「黒鉄と≪雷切≫の試合が終わった後の事だ。
監視カメラの業者から電話があったと教師の
一人から伝えられてな。
……数台の校内の監視カメラが壊れたらしい、と」
「監視カメラが数台?たった一日で?」
「ああ。しかも、その壊れた原因も異常だった」
教師からの伝言を受けて、黒乃はその現物を
確認しに行った。自身の能力……
≪時間操作≫によって元の状態に戻す為だ。
「その壊れた監視カメラを見た時、一瞬だけ
本当に度肝を抜かれかけたよ」
そう言って、黒乃は一拍置いて、そして
再び口を開いた。
「……蟲だ」
「……蟲?」
「ああ、蟲だ。蟲が、羽虫も芋虫も毒虫も
纏わり付いていたんだ」
想像して寧々はうへっ、と声を出した。
「何それ、凄く気持ち悪いじゃん⁉︎」
「ああ、おかげでその日夢に出てきたよ。
……いや、私が本当に戦慄したのは修復した
映像を確認した時、“奴”が映っていた事だ。
……悪名高い傭兵集団≪KORT≫が一人、
≪
「……ッ‼︎」
その名を聞いて寧々が一瞬身を強張らせた。
≪KORT≫のメンバーは全員が全員、
正視の魔導騎士程度ならば軽く数十人を
屠れる程の強さを誇る。
寧々や黒乃も過去に≪KORT≫のメンバーと
対峙した事がある。
その際二人以外にも≪連盟≫の騎士も数名いたものの
そのメンバーに全員惨殺。
結果として寧々の師匠である≪闘神≫南郷寅次郎が
彼を撤退させるまで二人が「足止め」をする
という形になったのであった。
そんな化け物の様な連中が破軍学園内にいた
という事実に寧々は、
「……笑えねー冗談だぜ」
思わずそう口走っていた。
「私がそんな冗談を言う人間だと思うか?」
無論、黒乃はそういう人間ではない。
だが寧々が思わず冗談か?と聞いてしまう程に
事態は悪かった。
「……恐らく≪蟲使い≫の目的は赤座の暗殺か
何かだったんだろう。だが……」
「それ以外にも目的がある、かもしれないねえ。
今日本にいるんだろう?“あの男”がさ」
重々しい空気の中、黒乃は苦々しくその言葉に
頷いた。
「≪KORT≫が奴の解放の為に動く事は
充分あり得る話だ。だが奴がいるのは
造られてから誰一人として脱獄を許さなかった
死刑囚の伐刀者専用の刑務所……。
その上看守は7割が凄腕の伐刀者、
いくら≪KORT≫のメンバーとはいえ、そう簡単には
脱獄させるのは無理だ」
「……でも、ウチらが殺りあったあの男。
アイツ並のが来たら流石に無理さね」
「そう簡単にあんなのがいてたまるか。
アレは間違いなく≪魔人≫の域に入るぞ」
事実、黒乃と寧々が戦ったそのメンバーは
≪KORT≫の中では五指に入る実力者であった事が
後に判明している。
「とりあえずは、≪連盟≫に報告すべきだぁね。
もしも黒坊やステラ姫がそいつらと相対する事に
なったらどんな事になるか……」
と、その時であった。黒乃の携帯が鳴り出す。
黒乃が電話を繋げるやいなや教師の切羽詰まった
声が携帯から漏れ出た。
『た、大変です校長‼︎校内に侵入者が……!』
その言葉だけで黒乃と寧々は血相を変えた。
「侵入者だと?一体誰で、何人いる⁉︎」
『私が確認しただけでも3名‼︎
その内1人はウチの生徒です‼︎』
「な、……なんだとッ⁉︎
そいつの名前は分かるか‼︎」
『は、はい!特徴的な服装なので名前は
よく覚えています。名前は、多々……ぎゃが⁉︎』
教師の蛙の潰れた様な声と共にゴキッ、と
電話越しからでも聞こえる程大きな異音が響き、
続いてドサッ、と倒れる音が聞こえてきた。
「ッ‼︎おい、大丈夫か⁉︎返事をしろ‼︎」
電話口からは教師の声は返ってこなかった。
ただその代わりに、
『……先程の男性ならば、私の足元で
眠りこけていますよ?』
別の嘲る様な返事が返ってきた。
「貴様……さては≪KORT≫のメンバーか⁉︎」
『おっと。流石に一度校内に侵入すれば
分かりますか。……いかにも、私≪KORT≫の
メンバーの一人、≪
申します。以後お見知り置きを』
電話の向こうで銃声や悲鳴が聞こえる。
どうやら生徒や教師が襲われているようだ。
その事に臍を噛みながら黒乃はガウェインを
問い詰める。
「貴様らの目的は何だ⁉︎」
『簡単な事です。
我々がここにいる、ということはいずれここに
戻ってくるであろう大事な大事な≪七星剣武祭≫の
メンバー達はどうなるのでしょうかねぇ。ククク』
「……‼︎」
ガウェイン達の目的は一輝達≪七星剣武祭≫の
選抜メンバーであると分かった途端、
黒乃は駆け出していた。
最早一分一秒が惜しい。少しでも早く
破軍学園に戻らなければ。
寧々も後ろから慌てて追ってくる。
ガウェインはというと電話越しに
黒乃達の様子を見抜いたように、
『おやおや……忙しそうですね。
ならば私もお暇させて頂きましょう』と
言い放ち、通話を終了した。
だが、既に黒乃はガウェインが何を
言っているのかは余りにも急いでいて
気づく事すらなかったのであった。