多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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車内にて

某県北、川沿いにある県道。

そこを走る車の中で、エムリスは何者かと

電話で話していた。

 

「……ええ。今回不運にも殺さざるを得なかった

伐刀者(ブレイザー)の犯罪者235名と看守421名。

のべ656名の事後的処理は我々≪KORT≫に

お任せ下さい。……駄目、ですか。

はい、そう思っても仕方のない事でしょう。

なら別方向から支援させて頂きます。

……そう、支援です。そう例えば、金銭的支援とか

口の堅い葬儀屋の斡旋などですかね」

 

恐らくは高い地位の人間とでも話をつけている

のだろう。エムリスは真剣な表情で相手と

会話していた。

 

「欧州のアスホール公国に葬儀会社がありまして、

僕はそこの会長……シリヒップ・デンブマンと

知り合いでしてね。彼に僕の名前を付けてこの事を

伝えてくれれば問題なく葬儀を済ませてくれます。

……住所はアスホール公国のシモキタ。

電話の番号は114–5148–1019です」

 

そうして、僅かな問答を交わしてから、

エムリスは電話を切った。

それから、一息ついて車のシートに寄りかかる。

 

「さて……この国は発展の進度が凄まじい。

僅か4年と5ヶ月収監されていた間に、

このような地方にまで県道が作られている。

……成る程、アメリカ、中国に次ぐ経済大国と

評価されるだけはありますね」

 

「……ええ、全くその通りだ。ドクター」

 

それに反応したのは隣の運転席にいるブルーノ。

ただその表情は、仮面越しからでも良く分かる程

無機質で、つい最近まで浮かべていた笑顔が

何処かに行ってしまったようだった。

 

「この国はかつての世界大戦で破壊された

都市機能を他の国よりいち早く回復させ、

その後のアジアやアフリカでの紛争に伴う

軍需によって発展してきた。

戦争によってここまで発展出来たと言うべき

でしょうね……」

 

「ブルーノ君……いつそんなにこの国について

詳しくなったのですか?」

 

「さあ?いつ調べたかは忘れましたよ、

僕は……いや俺か?それとも私?

……まあいいでしょう。

しかしまあ、この国の人間は少々呑気すぎる。

欧州で毎週のようにテロが起こり、

紛争地域では地獄すら生温い事が

起きているのに彼らの大半はそれを

知ろうともしない。何故か?」

 

そこまで言ってブルーノはごぎん、という

異音と共に首を90°に曲げて、

エムリスを見やった。

 

自分には関係のない事(・・・・・・・・・・)だと思って

いるからですよドクター。

自分にとってどうでもいい。

一人や二人死んだとしても生活には何の

影響もない。

そんな事を言っておきながら、いざ自らに

関係のある事と分かると馬鹿みたいに

なんとかしろと声高に主張し、騒ぎ立てる‼︎

僕は、そんな馬鹿を殺したくてたまらない。

そしてここにはそんな馬鹿が沢山いる。

なら……殺すしかねぇよなぁこれはァァ‼︎

キキ、ギャハハハハハハハハハハ‼︎」

 

エムリスは彼の言葉に対して何も言わず、

ただ彼の目を見つめていた。

その表情は穏やかで、とてもブルーノが

話している過激な内容を聞いて出すような

表情ではなかった。

 

「この世は不平等だ‼︎アンフェアだ‼︎

才能のある人間は数多くいれどその力を

他の人間の為に使う者はごく少数、

後は自らの欲の為だけに使うだけ‼︎

ヒヒハハハハ……俺は違う。

俺は馬鹿にはならねぇ、欲に溺れもしねぇ……

ただ不幸な人間を。……俺の力で

喜ばせてやりたいだけだァァァァァァァァッ‼︎

キャキャキャキャキャアァァーーーーーーッ‼︎」

 

言うなり、ブルーノはアクセルを限界まで

踏み込んだ。

当然ながらエンジンは唸りを上げ、

エムリス達の乗る車は暴走を開始した。

幸運というべきか道路には現在エムリス達

以外の車は走っておらず、ぶつかる心配は

なさそうだった。

だがしかしこのまま暴走させる訳にはいかない。

エムリスの行動は迅速であった。

 

「ランスロット‼︎ブルーノ君を押さえつけて‼︎」

 

刹那、グワッとブルーノの背後から骨張った腕が

飛び出し、ブルーノの首を絞め上げた。

背後の席で狭そうに座っていたランスロットが

エムリスの指示を受けてブルーノを

押さえつけたのだ。

 

「ギャハッ、ガガ……ガハハヒャハハハハハ‼︎」

 

尚もブルーノは笑うが、一瞬だけ足がアクセルから

離れた。

そしてその一瞬をエムリスは見逃さなかった。

素早く片足を突っ込み、ブレーキを思い切り

踏みつける。

 

直後、キイイイイイイイッ‼︎という甲高い

擦過音と共に車は急停止した。

 

いつのまにか車は、市街地の手前の

丁字路まで来ており、車が急停止したほんの

1秒後、黒髪の少年と小柄な少女が乗った

バイクが高速で通過していった。

もしあのまま暴走していたら、先程の

少年達は車に轢かれて死んでいたであろう。

 

「……危ない所だった……また罪のない人間を

殺す事になる所だった……」

 

「カッ……クカッ……」

 

見ると、隣のブルーノは首を絞め上げられて

気絶していた。ランスロットが手加減してくれた

おかげで、後数十分もあれば回復するであろう。

 

「しばらく彼に運転は任せられませんね。

僕がやるしかないか……」

 

ただ、エムリスは未だ高鳴っている心拍を

収める為にしばしの間休息した。

……先程自らの前を通った少年と少女が、

これからエムリス達が行くべき≪暁学園≫の

本校に向かっていた事など思わずに……。

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