多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

29 / 52
≪比翼≫と魔術師

「……」

 

とある山中。エムリス達は≪暁学園≫の

建物手前まで来ていた。

エムリスは物思いに耽り、ブルーノは

後部座席で未だ昏倒し、ランスロットは

エムリスの隣でじっとしていた。

 

「……ん?」

 

と、車の行く先から一人の女性の姿が見えた。

夜闇に薄ぼんやりと輝くその姿を形容するならば

白き輝きと形容した方がいいだろう。

 

まるで欧州……北欧神話に聞く戦乙女(ワルキューレ)

想起させる出で立ちの女性が、両手に

一対の剣を携えてこちらへと歩を進める。

 

それを見た刹那、エムリスは直感した。

彼は戦場に身を置いた事は数える程しか

ないものの、その感覚は忘れる事はなかった。

そう、……殺気を。

 

 

 

 

 

断、という音。

それと共に、車がすらりと正中線から

二つに割れ、女性の……、

≪比翼≫エーデルワイスの横をすり抜けて

奔り、闇の中へと消え、

やがて遠くから爆発音と光が届いて来た。

 

「……」

 

刹那、闇から何かが振り抜かれる。

 

「ッ」

 

エーデルワイスは苦もなくそれを

左の剣で弾いた。

鉄骨と鉄骨を10本纏めて叩きつけた様な

轟音が辺りを震撼させる。

 

「……Uhhhhhhh……」

 

獣の様な唸り声と共に、再び

“それ”は放たれる。

エーデルワイスが弾く度、“それ”は

地を削り、木を裂き、空気を斬る。

その跡はまるで……。

 

「A h h h h h h h h h h h h h h……‼︎

≪アァァァァァァァァァァギィィィィィィィィィィトォォォォォォォォォォォォォォォォォォ≫ーーーーーーッッッ‼︎」

 

雷の如き咆哮を上げ、闇の中からランスロットが

自らの霊装≪アギト≫を構えて突進して来た。

 

その大剣は剣と呼ぶには余りに、歪すぎた。

刃は大きく刃こぼれし、まるで獣の牙の様に

形作られていた。

その柄には古びた包帯が巻かれ、それは

ランスロットの手にも巻かれており

血で滑らないようになっている。

 

「ーーーーーーッ‼︎」

 

「L a a a a a h h h h h h h h h h‼︎」

 

双方が己が魂を振り抜かんとした、

まさにその瞬間。

 

「2人ともそこまで。山一つ無くなるのは

ごめんですよ僕は」

 

エムリスがブルーノを担ぎながら2人を制した。

先程のエーデルワイスの暴挙など気にも

止めずに、闇の中から姿を現した。

 

「……U、rrrrrrrrrrrr……」

 

唸り声を上げながらもランスロットはその

言葉に従い、すごすごと引き下がった。

 

「……久しぶりですね、エムリス」

 

「ええ、全くです。何年ぶりでしょうか?

5、6年前でしょうかねぇ?

いずれにせよまた会えて嬉しいですよ」

 

旧知の友との再会を喜ぶ様に、エムリスは

微笑んでエーデルワイスを見た。

 

「私もまた会えて嬉しいです。

……だけど、何故今になって脱獄を?」

 

その問いに対してエムリスはおや、と

いうような顔をしてエーデルワイスに

返答した。

 

「簡単な事ですよ。エーデ。

貴女も知っている通り、僕はいずれ起こる

“戦争”にどちらが勝つのか演算する為に

安全な(刑務所)の中に篭っていました。

そして私が出てきたということは即ち」

 

「どちらが勝つか演算が終了した……と

いう事ですか」

 

「その通り。≪黒騎士≫や≪饕餮≫、

その他各国の戦力が増えたので多少

時間はかかりましたが」

 

エムリスはエーデルワイスの解答に

丸をつけて微笑んだ。

そうして、担いでいたブルーノをランスロットに

託し、先に行くように伝えた。

 

「それでどちらが、≪連盟≫と≪連合≫

どちらが勝つのか教えてくれませんか?」

 

「≪連盟≫の勝つ確率が32.1452%、

そして≪連合≫の勝つ確率が77.8648%」

 

「……成る程。よほどの事がなければ

その戦争、≪連合≫の勝利となる訳ですか」

 

そう言いながら、エーデルワイスは

エムリスに対し僅かな畏れを抱いていた。

 

彼は誰にも求められてもいないのに、

どちらが勝つのかという、

まるで無双ゲームの攻略者の如く

そこに介在する失われるであろう

少なくない人間の命に対する興味など

持たず、ただ淡々と籠の中で演算を行い

続けてきた。

まともな神経の人間ならおかしくなるだろう。

事実。

彼はまともな人間ではなかった。

 

「……()()()()寿()()だ。

僕はこの戦争でもう二度も

対戦を経験することになる。

第二次大戦、そして次もまた。

そう名付けるならば……≪第三次対戦≫で」

 

エムリス・アンブローズが≪神代の魔術師≫と

呼ばれる所以の一つ。

彼は、あまりにも長命で、不老であった。

()()()()()()戦争を経験しながら

その身体は今も尚20代の頃で変わらない。

普通の人間からすれば遠い過去……そう、

まさに≪神代≫から生きてきた人間である。

 

「ああ、またこんなことになると知っていれば

不老不死の研究などしなかったものを……」

 

重い溜息を吐いてエムリスは天を

仰いだ。

 

「……先刻、星の様に輝かしい“未来”が

見える人間を私は見ました」

 

「………ほう。“あの領域”に至っている

君が言うなんて珍しいじゃないか?

一体、どんな人間で、どんな名前なのかな?」

 

その言葉を聞いてエムリスが興味深そうに

エーデルワイスを見た。

別に戦いたい訳ではない。

彼は殺戮を好む倒錯者ではなく

一般の常識を持つ厭戦主義者である。

……少しその思考がズレているという点を

除いて、だが。

 

「黒鉄 一輝。……まだ学生の身でありながら

私に傷を負わせた少年です」

 

その時になって初めてエムリスは、

エーデルワイスの左手の甲に一文字の

傷があるのに気付いた。

 

「まさか。……フフ、成る程。

ガウェインからの報告を聞いた時は

取るに足りない人間と思っていましたが

僕は少々見誤っていたようですね。

興味が湧きました。彼の全てを知りたい」

 

「私はもうこの国から出ますが、

貴方はこれからどうするのですか?」

 

その言葉を聞いて、エムリスは

期待に満ちた笑みを浮かべて、それを

行動で示した。

 

「聞いたでしょう、アグロヴァル‼︎

彼を、黒鉄一輝を調べなさい‼︎

彼に関する情報を、人間を、全てです‼︎」

 

命令を下す。闇に潜むエムリスの懐刀、

≪KORT≫が1人≪群雲(レギオン)≫に。

かつて誰もその姿を見た事のない、

最強のアサシンに。

 

「無論、私はここに残ります。

その少年……黒鉄一輝を調べ尽くすまでは」

 

エムリスはそう言って、エーデルワイスに

別れを告げ、闇の中へと消えるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。