≪七星剣武祭≫まで残り4日と迫った日の事。
破軍学園の理事長、神宮寺黒乃は黒鉄兄妹を
自らの部屋へと招いた。
「すまない」
開口一番、黒乃は二人にそう詫びた。
「そんな、理事長が謝るような事じゃないですよ」
「ええ。ですが驚きですね……まさか裏にいたのが
珠雫の言葉に黒乃は苦々しい表情で深く頷く。
≪暁学園≫の襲撃後、その理事長と名乗る人物が
表舞台へと姿を現した。
日本の総理大臣、月影 漠牙である。
彼は己が権力を持って暁学園に対する責任追及を
止め、結果として≪暁学園≫は何のペナルティもなく
≪七星剣武祭≫へと出場することに相成った。
一方で破軍学園の面々は一輝、ステラ、そして
有栖院から出場権を譲り受けた珠雫以外は
全員が棄権。その他の学園でも棄権者が相次いで
いるらしく、今回の大会は波乱の幕開けと
なりそうであった。
「まさか月影先生がこんな事をするなんて……。
まだ信じられん」
「先生は月影総理をご存知なのですか?」
「私が学生だった頃の理事長だった。
優しかったあの人が、一体どうして……」
黒乃はそう言いながら頭を抱えた。
2人はその姿を見て黒乃に心の底から同情した。
裏切りを受けるのは誰であろうと心に傷を
受ける事だ。しかもそれを行ったのが
信じていた人間ならば尚更のことである。
「……すまん、お前達には関係ない事だったな。
とりあえず≪七星剣武祭≫が始まる前に一つ、
注意してほしい事があって呼んだんだ」
黒乃は冷静を取り戻してから真剣な表情で
2人を交互に見やった。
「破軍襲撃時、ガウェインと名乗る人物がいただろう」
その言葉に、一輝はピクリと眉を寄せた。
知っている。ガスマスクと黒のコートを纏う
異様な風体の男。
「はい。彼は自らを“教師”と名乗って、戦闘には
参加しませんでしたが……」
「アレが戦闘に参加していたら、
間違いなく全員やられていた、と言いたいのか?」
その黒乃の言葉に首肯する一輝。
「……無理もない。奴は≪KORT≫の人間だ。
むしろ無事だった事を喜ぶべきだろうな」
「≪KORT≫……‼︎あの最恐の傭兵集団ですか⁉︎
なんでこんな所に……‼︎」
「ここからは、一部の人間にしか知られていない
話になるが」と黒乃は前置きして話し始めた。
ーーーーーー数年前、≪連盟≫は1人の
凶悪な犯罪者を捕らえる事に……表向きは
捕らえた事になっている……成功した。
彼の者の名は、エムリス・アンブローズ。
齢100を超え、世界に強大な影響力を持つ
怪物。
彼は高齢でありながら、過去に自身のみに
施した不老化の技術によって20代の体を持ち、
傭兵集団≪KORT≫を束ねる長でもある。
≪連盟≫は当時最新鋭の設備を持っていた
日本の某所にある刑務所に彼を幽閉。
いずれ彼を処刑するはずであった。
「……だがしかし、奴は解き放たれた。
≪KORT≫の総意として。
ガウェインとは別の奴らにな。
そして今奴は……≪暁学園≫の教師として
日本にいる」
「ッ‼︎」
「あと数日で≪七星剣武祭≫が始まる。
その時は≪KORT≫の連中に対しては
絶対に気をつけておけ」
その言葉には、重圧感があった。
「……もし、もしもです。
奴らと戦闘になったらどうすれば良いですか」
「逃げろ」と黒乃は言い放った。
「今日本にいるのはエムリスにガウェイン、
≪
ブルーノとガウェインは数人がかりでなら
なんとかなるだろう。
……だが、ランスロットとエムリスと万が一戦闘に
なるようであれば“戦う”という選択肢は真っ先に
捨てろ。そして逃げろ。目の届かない所まで、
息が切れるまで全力で走って逃げろ」
そう黒鉄達に忠告しながら、黒乃はかつての
光景を思い出していた。
黒乃の幾千もの弾丸を、寧々の鉄扇による
斬撃を、ありとあらゆる異能の力を
その身に受けながら一歩たりとも退く事のなかった
≪KORT≫きっての怪物……ランスロットの姿を。
黒乃は自分の攻撃を悉く受けて、尚も
進む事を辞めなかった彼の姿に恐怖を刻まれた。
今だからこそ分かる。
あの時の自分と寧々ではアレには到底敵わないと。
そして……彼の最強の≪
≪比翼≫にも匹敵する力を持っていたであろう事を。
「……だが、奴らが干渉してくる事などほぼ
ないだろう。≪KORT≫に関しての事は我々
大人が対処する問題だ」
故に、黒乃は決意する。
彼らに自分の様な恐怖を与えさせる事はさせないと。
もし≪KORT≫が干渉してくるようならば、
この命を懸けて守り抜いてみせると。
「お前達は何も考えず、
七星の頂を目指して走り抜けろ‼︎」
「「はいっ‼︎」」
ーーーーーーその頃、≪暁学園≫では。
「だーーかーーらーーッ‼︎アタイは白雪とは
付き合ってねェッてば‼︎いい加減にしろよ‼︎」
「冗談が上手な事で。車の中でもイチャイチャ
していた癖にどの口が言うのやら」
ガウェインがため息を吐きながらやれやれと
ばかりに口を開く。
「おや、それは本当ですかガウェイン?
これが噂の“ツンデレ”とか言うものなのですかね」
「違う、違うって⁉︎マジで違うから‼︎」
だが幽衣の反論は聞き入れられない。
唯一ランスロットだけが反論を聞いてはいたが、
悲しいかな彼は喋る事が出来ない。
「……」
「これは赤飯炊いてお祝いですかねェッ⁉︎
盛大に≪KORT≫の皆で呪ってあげましょうよ
彼女達の結婚を‼︎」
「ちょ、本当に……あ、おい、白雪‼︎
テメェからも何かアイツらに説明を……‼︎」
困り果てた幽衣は通りがかった白雪に
誤解を解くように頼んだが。
「?なんで本当の事言ってんのに説明しなきゃ
いけないの?ボク達愛し合ってる仲でしょ?」
にべもなく断られた。
「えっ、ちょッ……⁉︎待っ⁉︎白雪、待て!
行くな行くな行かないで下さい頼みますから‼︎
せめて、せめて結婚だけは延期の方向で
調整するように頼んでええええええええええッ‼︎」
幽衣のその心からの叫びは、周りの山中に
響き渡る事になったのであった。
リクエストとか待ってます。
活動報告で募集してますのでどうぞご自由に。