「白雪」
幽衣は真剣な表情で白雪を見た。
「何、姉様」
白雪も同じく真剣な態度で話を聞く。
幽衣は意を決して、重い口を開きーーーーーー。
「頼むから、アタイが何かするまでは
問題起こすんじゃねェぞ」
≪七星剣武祭≫の出場者が集まる
パーティ会場、そこに向かう途中の
エスカレーターの中で白雪に忠告した。
「大丈夫だってば。姉様の側に近寄る不貞な
クソを始末する位しかしないよ」
「それが問題なんだよッ‼︎大体テメェ、
こないだ≪KORT≫の連中の誤解を解くのが
遅れたせいでどうなったか知ってんのか⁉︎
今日本に来てねェ他の≪KORT≫の連中にも
誤解される羽目になっただろうがッ‼︎」
そう、幽衣が白雪と付き合っているという
誤解はあの後白雪が解いてくれたものの、
その時には既に≪KORT≫が1人、ブルーノに
よってほぼ≪KORT≫全員に誤解が伝わって
しまったのである。
何よりも幽衣が許せないのは、その時の
ブルーノが「大草原不可避」等と下らない事を
宣って結局謝りもしなかった事だった。
「すいません何でもしますから許して」
「ん?今なんでもするって言ったよなァ?」
なら、と幽衣は白雪の鼻先に指を突きつけて
「絶対に、アタイがしたい事を終えるまでは
何もするんじゃねェぞ」と言い放った。
「……うん。わかった姉様。約束する」
白雪が頷くと同時、エスカレーターの扉が
開き、パーティ会場に到着する。
「ならいい。ここ最近イライラしてんだ……。
せっかくの休みだ、発散させてもらうぜェ……‼︎」
そう言いながら幽衣は口端に笑みを浮かべ、
白雪は覚悟を決めたようにきゅっと手を握りしめ
それぞれ菫色と群青色のドレスの裾を靡かせて
パーティ会場へと歩き出した。
一方その頃、
七星剣武祭の舞台、湾岸ドーム近くの
廃ビルにて。
「吹き荒れろ≪
ビル中を大量の虫が暴風の如く吹き荒れる。
だが、その暴風を悉く斬り裂いて一つの影が
飛び出す。
「ヒヒッ……ヒャハハハハハハハハッ‼︎」
≪狂笑≫ブルーノ。
両手に己が霊装の糸で作り上げた剣を携え、
その暴風を作り上げた張本人……ガウェインへと
斬りかかる。
ガウェインはその行動を予想していたかのように
ブルーノの斬撃を籠手型の霊装で弾く。
しかしブルーノはけたたましく笑いながら、
ガウェインを切り刻まんと高速の斬撃を繰り出す。
その剣捌きは鋼線使いとは思えない程に疾く速く
ガウェインは防戦を余儀なくされる。
……だが彼はいくつもの死線を越えてきた
傭兵集団≪KORT≫の1人。
このままでいる訳がなかった。
「……き、ヒヒッ」
瞬間、ブルーノは感じ取った。
360°全方位からの殺意を。
その殺意の形は……蟲の弾丸。
ガウェインは≪
操っていた蟲に魔力を纏わせ、ブルーノに
撃ち放ったのだ。
「蜂の巣にしてやる。踊れピエロ」
ガウェインに操られた蜂や甲虫は
己が毒針や角をブルーノの全身に突き立てんと
一斉に襲いかかりーーーーーー。
「≪
ブルーノが両手の剣を解いて作り上げた
真紅の繭に阻まれた。
だが、蟲の弾丸を防いだ代わりに
今度はガウェインの攻勢を許す事になる。
「シイイィィィィィィッ‼︎」
渾身の右ストレート。
裂帛の気合いと共に放たれたそれは、
繭に衝突すると同時に周りの空気と
コンクリートを破砕する。
それだけでは終わらない。
先程のお返しとばかりに拳をこれでもかと
ばかりにつるべ打つ。
拳が衝突する度に周りが砕け、破れてゆく。
いずれ勝負はガウェインの勝利。
……そのはずであった。
ーーーーーーキヒッーーーーーー。
声が、ガウェインを嗤う声が響く。
刹那、ガウェインは後先考えず後ろへ下がった。
感じ取ったのだ。このままではキケンだ、と。
……そして、その直感は的中する。
ドン、と先程コンマ数秒まで
ガウェインがいた所の床から紅い槍が
床を砕き高々と突き上げられた。
あのままでいたら串刺しであっただろう。
「……あ〜アァ。あと少しだったのになァ」
笑いながら、糸で編んだ槍で開けた穴から
ブルーノが現れる。
彼は、繭を作ったのちに、床を糸で切って
下の階へと移動し、下から奇襲を行ったのだ。
「ヒヒッ、キヒヒヒヒヒヒヒヒッ‼︎」
下卑た笑い声を上げながらブルーノが
槍の穂先を下げ、身体を斜に構えた。
ガウェインもそれに応じて拳を握る。
「……そこまで」
しかし、両者は戦いを眺めていた
自分達のリーダー、エムリスの一声で
霊装を消した。
「素晴らしい戦いだった。僕がいない間も
2人とも力を磨いていたようだね」
「身に余る光栄です」
そう、先程の戦いは只の手合わせ。
2人とも殺す気など毛頭ない戯れだったのだ。
「……白雪君も、私がいない間にどれほどの
力をつけたのでしょう。≪七星剣武祭≫が
楽しみですね」
「……ええ、全くその通りです」
ガウェインは、エムリスに同意しながら、
ある思いを燻らせていた。
(多々良 白雪‥…。≪KORT≫唯一の例外、
我々に劣る雑種風情が……粋がるなよ)
……白雪に対する、憎悪を。
(貴様の命日は、あと少しだ……‼︎)