そんな出せてない……。
すいません許して下さいなんでもしますから‼︎
(必ずとは言っていない)
ーーーーーーホテルから走り出た少女は、
夏特有の照りつく日差しに嫌悪感を覚えながら
タクシーを止めた。
タクシーのドアが開き、中に入ると同時に一言、
「湾岸ドームへ」
少女は普段の彼女にしては珍しく焦っていた。
タクシーの運転手もその様子をなんとなく
感じ取ったのだろう、すぐさま車を発進させた。
その時、車内に付けられていたラジオの実況が、
≪紅蓮の皇女≫が≪魔獣使い≫をKOした事を
甲高い声で叫んでいた。
ーーーーーーその頃、湾岸ドームでは。
「……ふう。こんなものかな。まずは、一人」
もうもうとリング上に煙がたゆたう中、ステラは
悠々と≪
彼女はつい先程、伝家の宝刀である
≪
やってのけたのである。
そもそも≪
先程敗れ去った凛奈の最強の手駒である
シャルロットが全魔力を以って創り出す最硬の
守りである≪千弁盾花≫と相打ちする程の代物。
それを何発も放てるのだから、どれほどの強さか
はっきりと先の攻防で観衆は理解した。
彼女は、ステラ・ヴァーミリオンはこの変則試合で
ようやく相手と
無論その強さは相手である平賀、鶴屋、多々良にも
充分に、いや観衆より間近な分より鮮烈に
伝わっていた。
「こ……こんな強いなんて……」
震える声で鶴屋が呟く。
恐らく心の奥から真にそう思っているのだろう。
彼女の声には拭いきれない絶望感があった。
「大丈夫、勝てますよ。ボクの切り札を使えば、
それこそ一撃でカタがつきます」
それを嘲笑うかの様に、彼女の後ろから声が
かかる。平賀の声だ。
「……何か策でもあるの?」
「ええ、もちろん。ただ、いかんせん時間が
かかるものでしてね。ですが完成すれば
間違いなく≪紅蓮の皇女≫を粉砕出来る。
だからお願いがあるのですが、少々時間を
稼いでくれませんかねェ。
お互いの利になること、ここは協力しましょうよ」
全てを嘲笑するかのような平賀の声に不快感を
覚えながらも、鶴屋がそれに従おうとした、
まさにその時。
「リンナの奴、五分も持たなかったな。
……しょうがねえアタイが時間を稼ぐ。
ヒラガ、その間にその切り札とやらを完成させろ」
「おや、タタラさん。……なら、お願いしますよ」
その言葉に牙向くような笑みを浮かべると幽衣は
魔力による加速を施して一人ステラへと突進した。
「ギャギャギャギャーーーーーーッッ‼︎‼︎」
ステラは幽衣の姿を認めると、≪
を幽衣の方へ正眼に構えた。
『今度は多々良選手が吶喊‼︎ステラ選手、これに
向かいたちます‼︎』
「はあああああああああああああああっっ‼︎‼︎」
ステラは正眼に構えた≪
向かってくる幽衣へと思い切り
その豪剣を振り下ろしーーーーーー。
真っ二つに斬り裂いたーーーーーーはずだった。
ステラが斬り裂いたはずの幽衣の姿が。
斬り裂いた刹那、ゆらりと歪み、消えたのだ。
「『「「なっ⁈」」』」
そして、幽衣本人はと言うとーーーーーー。
「……≪猪突≫ッッ‼︎」
「が、ァッ⁉︎」
いつのまにかステラの左側に移動し、その脇腹を
鋭い一撃で撃ち抜いていた。
『な、なんとステラ選手、痛恨のミスッ‼︎
脇腹にキツい一撃をもらってしまいましたッ‼︎』
実況が叫び、観衆のボルテージが上がる中、
観衆の一人、黒鉄一輝は信じられぬとばかりに
目を見開いていた。
「あの技は……⁉︎」
「どうしたのですか、お兄様?」
見れば、黒鉄の隣にいる黒乃も驚愕の表情を
していた。
「黒鉄、気付いたか」
「ええ……さっき多々良さんがやったのは、
足捌きだけですが、間違いなく僕の≪蜃気狼≫です」
≪蜃気狼≫。黒鉄一輝のオリジナル技の一つ。
急激な緩急をつけた足捌きを以って自らの
目前に幻影を作り出す技である。
「多々良さんにあの技を見せたのはほんの
数分前。そんな時間で真似出来るものじゃない。
どうやって……」
困惑する一輝。しかしそれは、彼の反対側の席に
いるエムリス達にとっても同じだった。
「馬鹿な……≪猪突≫、≪猪突≫だと⁉︎
あの技は我々≪KORT≫以外門外不出だぞ⁉︎
どうやって身につけた‼︎」
≪猪突≫。一見ただの突き技に見えるが、
その実は全く違う。
≪猪突≫の一番の特徴は加える力をたった
そのため、側から見れば中指の関節のみを
突き立てるように見える。
力が一点に集中するため威力は凶悪の一言。
魔力のこもったものとなれば厚さ5cmの鋼板をも
易々と貫く程だ。
「……白雪は彼女に贈り物をしたわけですか」
そのエムリスの一言で、ガウェインは得心が
入った。成る程、白雪は≪猪突≫を覚えている。
幽衣が白雪からその技術を盗んだと考えれば
ごく自然ではないか。
「ふふ、成る程。俄然面白くなってきましたね。
幽衣さんがどれだけ白雪さんから技術を盗んだか
とことん見物させて頂きましょう」
エムリスはそう呟いて、幽衣の一挙一動を
見逃さぬべく身を乗り出した。
こうして周りが騒いでいる間にも試合は
刻々と続いているのだが、趨勢は幽衣の優勢で
進んでいた。ステラも≪
駆使して立ち回るが、幽衣は小柄を生かし
ヒットアンドアウェイを繰り返していた。
ただ、ステラは纏っている魔力のおかげで、
最初に食らった≪猪突≫以外ロクなダメージを
負っていなかった。
「アンタ、舐めてんの……‼︎霊装なしで
闘うなんて、妹譲りじゃないの⁉︎」
「違えよ。テメェにゃ
充分だからなァ。ギャギャギャギャッ‼︎」
多々良のその言葉には真実味があった。
それを立証するように、実況が告げる。
『えー、多々良選手は先程の試合でも
同じように相手選手を徒手空拳のみで
KOしていますね』
『恐らくよほどの相手でなければ霊装は
出さないでしょうね。ひょっとすると
徒手空拳のみで優勝するかもしれませんよ?』
『そうなったら何の大会なんだ、って話に
なりそうですがねえ』
ステラはようやく、目の前の少女を敵と認識した。
だがそこで、幽衣は平賀の方を向くと、
「ヒラガァ‼︎出来たかァ⁉︎」と叫ぶ。
平賀がそれに手を上げて肯定すると、幽衣は
笑みを浮かべた。
「ギギッ。どうやらここまでらしいなァ、
≪紅蓮の皇女≫。まあ精々頑張って足掻きなァッ‼︎」
その言葉と共に、会場に影がかかる。
次の瞬間、リング上に大量の瓦礫が降り注ぎ、
組み合わさり、巨人の形を成す。
「タタラさん、お待たせ致しました。
それでは始めましょうかステラさん。
この≪
作り上げる際に中に入ったのだろう。
巨人の中から会場中に嘲笑うような平賀の声が
高らかに響き渡るのだった。
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