ーーーーーー湾岸ドームへと続く道路。
タクシーは一路その道を疾走していた。
車内に取り付けられたラジオは、
≪道化師≫平賀玲泉がステラ・ヴァーミリオンを
滅多打ちにしている様を生々しく実況していた。
それが少女を尚更にイライラさせた。
そもそもの彼女の気性も荒い為に、車内には
刺々しい空気が蔓延している。
何かあればドカン、といきそうな空気であり、
「お、お客さん?大丈夫か?」
それはまさしく運転手の不用意な一言で。
「……やかましいぞクソがァッ‼︎
とっととスピード上げて湾岸ドーム行けッ‼︎」
爆発した。
それと同時にずっと伏せられていた少女の顔を
間近に運転手は見ることになった。
「なっ……⁉︎あんた、その顔は……⁉︎」
だが、運転手の問いは腹の底から響く振動と騒音に
よって掻き消されてしまう。
その激音は、遥か遠くから遠雷の如く辺りの
廃ビル群に轟いたのだった。
「……ヤレヤレ、これ、は……失敗して
しまいましたネェ」
焼けた地面に大の字に倒れながら、平賀は
ぼそりと呟いた。
平賀は、切り札を使ってステラを拘束し、
一方的に攻撃し、勝利まであと少しという
所まで来ていた。そのはずだった。
だがその切り札が……
鶴屋美琴を人質とすることだったのだが、それが
文字通りステラの
そして……その結果がこれだ。
無事な所などないほどに焼け、壊れ果てたリング。
その全てが、ステラの所業であった。
今この瞬間、平賀は漸く理解した。
ーーーーーーこの少女を、試合という「枷」から
解き放ってはならなかったのだ、と。
「参りましたよ。やはりあなたはボクn」
バギャリ、という音と共にステラの足が
平賀の顔面を人としてはやけに硬質な音と共に
踏み砕いた。
……事実、平賀の身体は人のものではなかった。
樹脂と鉄くずを使って造られた、精巧な人形。
≪
人形の一つでしかなかったのだ。
それを知ってか知らずか、ステラの目には
白けたような気色が映っていた。
そうしてステラは周りを見回す。
リング上にはステラ以外立っている者の姿は見えず
観衆は誰もがステラがこの試合の勝者だと思った。
だがステラはため息をついて、こう言い放った。
「……いい加減に出て来なさい。
アタシがこんな簡単な騙し討ちに気付かないと
思ってるの?」
恐らくはリング上にいる、何者かに。
観衆は困惑した。
先の≪
その範囲が広すぎる為に会場にいた運営委員が
障壁を張って押し留めなければならない技。
その証拠に、≪幻想形態≫で放たれたそれは
平賀どころか審判まで巻き込んでしまっている。
そんな技を食らって耐えられる者がいるものか。
観衆は誰もがそう確信していたのだ。
だが……意外な所から、その答えが現れた。
「……ギハハッ。バレちまったかァ。なら、
仕方ねえな。出て来るとするか」
リング上の土がモコモコと盛り上がる。
その中から現れたのはーーーーーー。
「生き残るのは達者ね。タタラ」
「褒め言葉か?それは」
多々良幽衣であった。彼女はなんとリングに
穴を穿ち、その中に逃げ込んで≪
免れていたのである。
「ったく危ねぇったらありゃしねェ。
テメェ本当にあの時の甘ちゃんか?」
「それはこっちのセリフよ、タタラ」
「……アァ?」
どういう意味だと訝しんだ幽衣に、ステラは
単刀直入に告げた。
「あなたこそあの時の少女なの?
もう演技はよしたら?タタラ ユイ。
それともこういうべきかしら。
……
その言葉に幽衣は一瞬驚いた顔をして……、
次の瞬間、嘲笑うような表情を咲かせた。
「……キ、キキ。ギャハハハハハッハッハハハハ‼︎
テメェの目は節穴かァ⁉︎いや、頭の方が
空っぽなのかもなァ‼︎バァカ‼︎
ギャギャギャギャギャギャギャギャッ‼︎」
会場中に幽衣の嘲笑が響き渡る。
その様を一輝達は……いや、一輝を除いて
驚きの表情でリング上の多々良を見つめていた。
「やっぱり、か……」
「お兄様、分かっていたのですか⁉︎」
「可能性の一つとして考えていただけだよ。
僕の≪蜃気狼≫を真似出来る状況を考えたんだ」
一輝の中での有力説は二つ。
一つは過去に一輝の≪蜃気狼≫を見た白雪から
幽衣が教わった。
あるいは……。
「白雪さんが幽衣さんに化けて試合に出場した、と
考えるのが妥当だと思ったんだ。何より、彼女の
雰囲気がパーティの時の幽衣さんとどこか違う。
おかしいと気づけたのはついさっきだけどね」
だが、リング上にいる多々良が本当に幽衣なのか
判定出来る方法はない。試合が終わってない以上、
強制的な介入は出来ない。
その時であった。“彼女”が会場に現れたのは。
「白雪イイィィィィィィッッ‼︎テメェふざけてんじゃァねェぞォォォォォォォッッ‼︎」
まさしく、大音声。
誰だ今の声はと観衆達がその出所を注目する。
ーーーーーーそこには。
『な、……なな、なんとリング上と‼︎観客席の‼︎
最上席に‼︎
立っているううううううッ‼︎一体どちらが
本物の多々良選手なんだァァァァァァァァッ⁉︎』
最上席にいる方の幽衣は顔を真っ赤にして
リング上にいる幽衣を睨んでいる。
もう一方の幽衣はというと、何の感情もなく、
強いて言えば「あー、来ちゃったか」と
いったような雰囲気があった。
「観念したら?」
ステラの言葉に、多々良は軽く頷き、頭に
手をやり、黒く長い髪を引き剥がす。
その下から現れるのは白銀の長髪。
続いて紅い目のカラーコンタクトを外して
観客達に蒼の双眸を晒す。
そうして最後に顔に施したメイクを落とし、
彼女はーーーーーー、「多々良 白雪」は
改めてステラと向かい合った。
「……これでいいんだろう?」と言いながら。
次回、白雪は何をしたのかが明らかに。
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