多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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背徳の刃

白雪が行動を起こしたのは、大会前日の

夜まで遡る。

その夜、白雪は寂れた摩天楼のビルの屋上にいた。

 

「やあ、白雪。2日も待たせるとは酷いなぁ。

こちらはずっと待っていたんだがねえ」

 

「……早く本題を話したらどう。

下らない話だったら帰るよ」

 

かつての仲間、ガウェインからの呼び出しを

受けたからだ。

あまり乗り気でない白雪に対し、ガウェインは

「まずは何も言わずにこれを見ろ」と

スマホを白雪に投げ渡した。

 

その映像を見て、白雪は絶句した。

 

「なん、だ……これ……⁉︎」

 

映像の中身は、森が燃えていく様子を遠くから

撮影したものだった。

ただの火事だったなら、白雪も何の反応も

しなかっただろう。

だが、その燃え方が異常であった。

木々が、()()()()()()()()()灰となり

消えてゆくのだ。相当な熱量がなければ出来ない

所行である。

 

「……ステラ・ヴァーミリオンが成した事だ」

 

ガウェインの言葉に、白雪が顔を上げた。

 

「ンン、分かるとも。何故、どうやって彼女が

これほどの力を得たのかが分からない。

だが分かる事がある。彼女は恐らく、

この大会を制する程の力を得たという事だ。

我々≪暁≫を含めて、蹂躙するだけの力が」

 

「……それで、僕に何をして欲しい?

暗殺?残念だけど、今彼女は……」

 

「違う、違う。君には多々良幽衣に紛して

大会でステラを殺して貰いたいのだよ」

 

その言葉に、ブツッ、と音を立てて白雪の

頭の中で何かが切れた。

 

「テメェ……‼︎僕だって凶手である手前、

手段は選ばないつもりだがそこまでする気は

ねぇよ……それに姉様に紛する?

ふざけるな、そんな事姉様が許すとでも……‼︎」

 

「……なら、世界中に君の姉が無様に

やられる姿を晒すかい?ンフフフフ」

 

刹那、ガウェインの額に白雪の霊装、

≪銀雪≫の銃口が突きつけられていた。

あとは引き金さえ引けばガウェインは死ぬ。

だがしかし、ガウェインはなおも笑いながら

白雪に語りかける。

 

「ン〜。良い案だと思うのだがねえ。

幽衣君はステラ・ヴァーミリオンを理解しては

いないが、君は十分に理解している。

それに君がステラ姫を倒してから

また入れ替われば露見することもない。

姉の無様を晒すか、勝利するか。

選ぶまでもないと思うが……」

 

白雪は何も言わずに、≪銀雪≫を下げた。

その表情には未だ濃い怒りが残っていたが、

彼女はゆっくりと、ガウェインに問うた。

 

「……方法を教えろ。ガウェイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、白雪は幽衣のいる部屋へと戻って来た。

 

「おう、白雪。……なんだ、浮かねえツラ

しやがって。何かあったのか?」

 

……ガウェインの教えた方法は、聞けば

呆気ない程に簡単な代物だった。

 

ただ、ほんの一瞬だけ幽衣の警戒を緩ませる事。

 

「いや、何でもないよ姉様。

それよりもこの大会、姉様はどれぐらいまで

行ける?」

 

「そうさな……」と幽衣は首を傾げて

暫し思考してから、こう答えた。

 

「優勝は無理だな。精々ベスト4程度か」

 

「そう、か……ねえ、姉様。

ボク達この大会で戦えるかな?」

 

「無理とは言わねえが、無駄だろ」

 

無駄。かつて交わした約束を忘れたのだろうか。

この計画に参加すると決まった時、二人で

誓ったあの約束を。

決勝の舞台で、どちらが上か決めると。

 

「……うん。そっか、そっか。

なら姉様。ステラとは……ボクが代わりに戦うよ」

 

ほんの一瞬、数秒にも満たない時間、幽衣の

警戒を緩ませる事。その結果は、

「……どういう意味、ガッ⁉︎」

 

幽衣の胸から刺し貫かれて姿を晒す

黒の短剣が示していた。

 

 

 

 

 

 

「ガッ……あっ……⁉︎」

 

幽衣は自らの胸から突き出た短剣を茫然と

眺めていた。

幽衣は若手の凶手の中でも指折りの存在だ。

そんな彼女が、背後に立たれる事を許す程

警戒を怠った訳がない。

ただ、白雪に謀られた事のみは理解できた。

 

「ジ、らゆ……ギィ……ッ‼︎て…めェェッ……」

 

白雪は、ただただ何処か悲しい目で

幽衣を見つめていた。

 

「ごめん。だけど……こうしなきゃっ……

こうでもしないと姉様大会出ちゃうじゃん……」

 

「……ッ⁉︎てめ、ぇ……何を……っ⁉︎」

 

「だってだってだってッ‼︎僕はッ‼︎

姉様が傷つく姿を見るのは嫌なんだよッ‼︎

傷つく姿も、負ける姿も、苦しむ姿もッ‼︎

だから……僕は姉様が傷つく前に

姉様を止める。そう、……()()()()()‼︎」

 

愛するが故に殺す。常識的な愛としては

狂っているだろう。

だがその実、愛というものは、恋というものは

大抵()()()()()()だ。

 

幽衣の胸を貫いたのは≪幻想形態≫の霊装らしく、

幽衣は一瞬意識が落ちかけたもののなんとか

持ち堪えていた。

 

「さっきから聞いてりゃワガママばっか

言いやがってテメェはッ‼︎」

 

だが、胸の短剣が引き抜かれると同時に

幽衣は背後の何者かに組み伏せられる。

 

「早くしろガラハッド。貴様に拒否権は

もうない」

 

老齢の嗄れた声が響く。

 

「……分かってるよ、アグロヴァル。

僕は、もう後戻り出来ない」

 

そう言うと、白雪はアグロヴァルなる者に代わり

幽衣の首にゆっくりと手をかけた。

 

「白雪ッ……テメ……ッ⁉︎や″め″ッ……‼︎」

 

幽衣の能力≪反射≫は瞬間的な衝撃には

強いものの、徐々に加圧される攻撃には

滅法弱い。例えば締め上げる類。

なので、今の彼女には何も出来なかった。

 

「ごめん……ごめんなさいっ……‼︎

ごめんなさい……ごめんなさい……‼︎

姉様……ごめん……ッ‼︎」

 

「ガッ……カ……ジ、ラ″ユ″……ギ、ィ……‼︎」

 

 

白雪は謝り続けた。幽衣が気を失うまで。

その様を、アグロヴァルは冷めたような目で

じっと見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……自分は姉を手にかけた。

もはや後戻りは叶わない。

それ故に。

「……審判が寝てる以上、ルール違反の

判断は下しようもない。

僕には先はない。だから……

ここでテメェぶっ殺して相打ちで終わらせてやるよ

ステラ・ヴァーミリオンーーーーーーッッ‼︎」

 

この戦いでステラを落とすと白雪は決意した。

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