『おいおい……誰か試合止めろよ。
ルール違反だぞ⁉︎』
『でも審判気絶してるし誰が止めるっていうの?』
『委員会は何やってんだ‼︎早く止めろ‼︎』
『待て、委員会が止めないんだから
ルール違反じゃないんじゃないか?』
観客達はあまりにも想像を超えた事態に
混乱していた。
この試合が止められて終わるのか、はたまた
続行するのか誰にも分からなかったのだ。
だが、試合会場の周りにいる委員会の人間達は
誰も動かなかった。
……いや、
(なんだ、この感覚は……っ⁉︎)
(まるで、総身が押し潰されるような……)
全身に襲いかかる今までに感じた事のない
異常な圧力。まるで「その場から動くな」と
言うかのように。
ただ一人、神宮寺黒乃だけは、この異様な
圧力の正体を知っていた。
人の範疇を超えた≪魔人≫の領域の権能。
それを扱え、尚且つこのような場で使用するのは
たった一人しか居ない。
(この感覚は……っ‼︎エムリスめ、
妨害する気なのかっ……⁉︎)
「さて、と。邪魔する者はこれでいないね。
存分にやるといい白雪。君の本気を
見せてもらうとしようか」
「……何故お止めになられたのですか?
規律を重んじるドクターが珍しいですね」
いや、とエムリスは手を軽く振りながら
答える。
「僕はそこまで規律を重んじる人間ではないよ。
今回だって、白雪くんが目に余る程の違反行為を
しでかしている訳ではないから止めないだけさ。
……まあ、何故そんな事をしたのかは
問わずに置こうか」
じわり、とガウェインの背中に冷や汗が湧く。
エムリスはガウェインが白雪を唆した事を
知っていたのだ。知っていて、あえて見逃した。
彼が何を考えているかは分からないが、
見過ごした以上自らの利になる事だと
踏んだのだろう。
「……恐れ入ります」
「いずれにせよ、この場にいる誰も
この闘いは止められないよ。
それに彼女は今、一つの事を成す事に全力を
集約させている」
もはや結果は問わない。
ただ一つ、ある事さえ成せれば構わない。
それはーーーーーー。
「≪紅蓮の皇女≫を抹殺する、と言う事に」
タン、と軽い音がリングに響く。
続けて空気が張り裂けるような音と共に
数発の銃弾がステラへと襲いかかる。
だがその全てがステラを撃ち抜く前に彼女が纏う
焔によって蒸発してしまう。
先程から、ずっとこの調子である。
時折ステラが魔術による遠距離砲や豪剣の一撃を
白雪に放とうとしても彼女の異能である≪歪曲≫に
よって、それらは全て的外れな方向にへと捻じ曲げられ、傷一つ付ける事すら出来ない。
(才能の差、か……)
白雪は苦々しい表情を浮かべてステラの放つ炎熱の弾丸を≪歪曲≫の概念によって捻じ曲げ、横や上にへと逸らす。
この調子で勝負が続いてゆけば、いずれ自分の方が体力切れで敗れるだろう。
何故ならば、
世界一の魔力量を誇るステラのこと、自分より先に魔力切れになることなどあり得ないと白雪は気づいたのだ。
(ボクなんて動く必要さえないってか……クソッ!)
格が違う。何もかもが、次元が違う。
だけど、負ける訳にはいかない。負けられないのだ。
(姉様を手にかけて手に入れられるのがそんな結末だなんて、……嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だッ‼︎)
それでは報われないではないか。命より大切な者を手にかけて、敗北しか手に入れられないなんて、それならば死を選んだ方がマシである。
(ちまちま撃ってるんじゃ埒が明かない‼︎一発だ‼︎とびっきりの、全霊の一弾で彼女を貫くッ‼︎)
決死の覚悟の元に白雪は≪歪曲≫の概念を発動すると同時に魔力を足から放出、会場の中央に開く穴から飛び出す程天高く跳躍する。
『おおっとォ‼︎リングを移動しながら撃ちまくっていた白雪選手がここで変調を見せる‼︎これは大技の予感だァ‼︎』
「……」
興奮した様子で実況するアナウンサーに対しステラは無言で白雪を見上げる。
その怜悧な瞳に白雪はギリッ、と悔しさに歯をくいしばる。
(だが、この一発お前に受け止められるか⁉︎)
止められる訳がない。全魔力を以って放つこの
「穿てェェェェェェェェェェェェェェッ‼︎≪
放つは今までと同じくらいの大きさの弾丸。
しかしそれに込められた魔力は桁違いだ。
曲がることもなく真っ直ぐにステラへと吸い込まれるように突き進む弾丸に対し。
「……ッ」
「ッ‼︎」
(今、何を呟いた⁉︎)
ステラは何かを呟いた。その刹那。
「「「「「ーーーーーーーーッッ⁉︎」」」」」
音として聞こえる範囲を凌駕し、衝撃として爆音が会場そのものを激震させ、リングを砂塵の嵐が蹂躙した。
白雪の最大火力である
その余りの威力に暗殺の場ではほぼ無用と化していたが、これならばかの≪紅蓮の皇女≫でもひとたまりもあるまい。
『な、なんて威力だァーーーーーーーーーッ‼︎先程のステラ選手の
「やったか、これで……‼︎」
「……中々良い攻撃だったわ、シラユキ」
一たまりもないはず。なのに。
「……な、ァ……⁉︎」
「流石に今のはアタシでもコレを使わなきゃやられてたわ」
リングの嵐が晴れる。
ステラ・ヴァーミリオンは、立っていた。
無傷で、微笑を浮かべて、……体から燐光を放ちながら。
「な、ンで……」
自身の最大火力が破られた。その事実に白雪は驚愕する。
「これを使った以上、先は見えてるわ。だから……すぐに終わらせてあげるッ‼︎」
瞬間、未だ高空にいた白雪に影がかかる。
「ッ⁉︎」
慌てて顔を上げるがもう遅い。
顔を上げて白雪の視界に映ったのは、こちらへと剣を振り上げるステラの姿。
そして、今まで経験したことのないような衝撃と痛みが白雪を上空からリングにへと叩き落したのであった。