多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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ストストからのクリスマスプレゼント代わり。
楽しんでくれたら僥倖です。
皆様、良いクリスマスを過ごして下さい。
これ投稿時点で後1時間しかないけど。


番外編:凶手達の聖夜

ーーーーーークリスマス。それは神の子イエス・キリストの生誕を祝う、どんな気難しい人であろうとなんとなく浮かれてしまう日。

しかし、それを真実心から祝えない人間が1人いた。「彼女」にとっては、クリスマスなど何の意味も持たない字面だけのものであった。そう、あの雪の日まではーーーーーー。

 

 

 

 

「クリスマス?……あァ。なんかここら最近騒がしいと思ったら、そんなことかよ?」

 

欧州の某地方。その奥まった山脈の中に≪黒い家(アップグルント)≫の本拠地は存在した。

そしてその本部に「彼女」の姿はあった。

濃い隈の付いた朱色の目。ボサボサの黒く長い髪。

寒い地方故にその格好はマフラーにコートなどの防寒着の重装備で、その顔の全貌を拝む事は難しい。

フィーア・アップグルント、後に「多々良 幽衣」と呼ばれることになる少女である。

 

「テメェもあんなボンクラ共と同じことで騒ぐんじゃねェよ。仮にもテメェ、≪黒い家(ここ)≫の≪姉妹(シスターズ)≫だろうが」

 

そんな彼女は今目の前の相手に怒りをぶちまけていた。

普通の相手なら彼女も馬鹿にしたような様子で嘲っただろうが、目の前の少女はそんな様子で嘲っても屁とも思わず、むしろ逆効果になるだろう。

 

「……でも。ボクは素直に姉様と祝いたいんだよ。今年のクリスマス、無事に生き残れたことをさ」

 

その目の前の少女は、フィーアと同じ姿をしていた。

だが全てが全て同じという訳ではない。

顔立ちと背丈は全くフィーアと同じなのだが、その髪は絹のように、肌は新雪の如く白い。

フィーアを真っ直ぐに見つめる目は深い蒼。

ゼクス・アップグルント……後に「多々良 白雪」の名を授かる少女である。

 

ゼクスは元々≪黒い家(アップグルント)≫の出身ではない。かつてはとある傭兵集団の出身で、フィーアとは紆余曲折あって好意を抱くようになり、ほんの1年前フィーアを追って≪黒い家(アップグルント)≫に移籍してきたのだ。

しかし、フィーアにとってはゼクスは自分に執着する厄介な存在だという認識しかなかった。

 

「そんなの、別にアタイとじゃなくてもいいだろうが。ツヴァイやドライの姉貴ならどうだ?」

 

「ツヴァイさんは仕事でインドの方行ってますやんか。更に言えばドライさんはアメリカにいるし」

 

「……フュンフはいるはずだよな?」

 

「フュンフは風邪で休んでるから引っ張り出すのも悪いかなと思ってさ。風邪移されても困るし」

 

何となく嫌な予感がし出したフィーアは背中に冷や汗が流れるのを感じながら、恐る恐る口を開く。

 

「……親父達は?」

 

「あ、≪解放軍≫の本部に用事があるってさ。さっき外出したよ。多分だけど2日は戻って来ないんじゃないかなー?」

 

「………どういう用事でだ?」

 

その問いに申し訳なさそうな顔をして、白雪は言葉を零す。

 

「……ボク関連でかな?」

 

「テメェかアアアアアアチクショオオオオオッ‼︎やりやがったな‼︎仕組みやがったなコノヤロオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

瞬間、白雪の胸ぐらを幽衣は掴むと赤べこの如くガクガクと揺さぶり始めた。

 

「し、仕組んでないよー‼︎ちょっとだけでいいから姉様と居られないかなって下心で頼んだだけだよー‼︎」

 

「それを仕組んでるッつーんだよ‼︎テメェをオーナメント代わりに木に吊るしてやろうか⁉︎」

 

「あー、さっき“クリスマス?どーでもいい”みたいな口ぶりだったのにその脅しからするとさては割とワクワクしてるんでしょ⁉︎」

 

「やかましいいいいいいいいッ‼︎」

 

もういちいち突っ込んでいたらこの場で寿命が尽きるんじゃないかと幽衣は思った。故に、深い深い、本当に深い溜め息を吐いてから白雪の胸ぐらから手を離した。

 

「はあ、はあ……‼︎クソ、いねェモンはどうしようもねェが、アタイはぜッッッッたいにテメェと一緒にクリスマスなんて過ごすモンか‼︎」

 

「えぇー……。ダメなの?お願いします一緒に過ごして下さいなんでもしますから」

 

「ん?」

 

刹那、フィーアの脳裏に天啓が走った。

なんでもしますから。

なんでも、そうなんでもするとゼクスは言ったのだ。

この突如舞い降りた天啓にフィーアは思わず口端に笑みを浮かべる。

これならば、この事態を切り抜けられると。

 

「今、なんでもするって言ったよね?」

 

「うん?そうだけど、それがどうかしたの?」

 

「よし、じゃァ服脱げよ」

 

「……は?」

 

 

 

 

……2分後。

ゼクスは一糸纏わぬ姿で真冬の山の中に放逐されていた。

この地域の気温は冬になると零下を上回ることはなく、ましてや白雪がいるのは山頂近く。その寒さは体感で–10℃にもなるだろう。

 

「うう……寒い……。でも、姉様とクリスマスを過ごす為だ……。頑張ろう……ヘックショッ‼︎」

 

何故、ゼクスはこんなことをしているのか……それはフィーアの先の一言が発端である。

「服を脱げ」という言葉から始まったフィーアの課したゼクスへの条件は非常に厳しく、危険極まりないものだった。

具体的には、ゼクスに服を全て脱がせ、≪黒い家(アップグルント)≫の近くにある山の中に放置しフィーアが迎えに来るまで耐え切れれば約束通りフィーアはゼクスに付き合うというものだ。

 

「に、しても……ちょっとヤバいかもしれないな」

 

体温調整がこの寒さで上手くいかない。下手を打てばこのまま凍死、あるいは体温を上げる為のエネルギーで餓死するかもしれない。

本音を言えば、かなり危険な状況に置かれていた。

 

「生きてるかなぁ……明日の夜まで……」

 

ゼクスは白く揺蕩う息をほう、と吐いて満天の星空を見上げながらそう思ったのだった。

 

 

 

 

次の日。

その日は朝から5m先も見えない程の吹雪だった。

 

「ひでェなこりゃァ。滅多にねェ大吹雪だ」

 

フィーアは、窓からその様を眺めていた。

これほどの大雪なのは生まれてからずっと≪黒い家(アップグルント)≫本部で暮らしてきたフィーアとしても数回しか見たことがない。

 

「こんな雪が来るって分かってたら、少しはマシなヤツにしてやったんだが……チッ、くたばっちゃいねェよなゼクスの奴」

 

幽衣は苛立たしげに背後に立つ影に同意を求める。

 

「ゲホッ……。そったこと知らね、わぁには関係ねことだはんでね。おめのやったことだはんで自分でカタばつけへ」

 

少し赤い顔で、訛った言葉で返事をする茶色のショートボブに銀色に輝く目をもつフィーアより頭一つ背の高い少女。

フュンフ・アップグルント。フィーアとはほぼ同期の仲間である。

 

「大体一晩付き合ってけるばしだろ?了承へばいがったんだば。そうしとけばこったことにはまねがったのにさ、そさねがったせいであの娘は死ぬかもしれねろ?」

 

「わーったわかったよ‼︎行きゃいいんだろ行きゃァ‼︎」

 

フィーアはフュンフのどこか責めるような口ぶりに耐え切れず、逃げるようにして外へと続く扉へと向かう。

そして扉を開け、銀世界を目の前にしてフィーアはフュンフの方へと振り返る。

 

「あと、その訛りいい加減直せよフュンフ。言葉が分かりづれェ」

 

「直す気はさらさらないよわぁは」

 

その人を食ったような態度とニヤニヤと笑うフュンフの表情にフィーアは更なる苛立ちを覚えながらゼクスを置き去りにした山へと向かったのだった。

 

 

 

山に着いたフィーアを待っていたのは、次のような一言だった。

 

メぇぇぇ~~~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーーースぅ!!

 

結論から言えば、ゼクスはピンピンしていた。

山で冬眠している熊を銃殺し、その皮を剥いでコート代わりにし、冬眠に使っていた穴に篭っていたのだ。

 

「意外と早いお出迎えだったね姉様。ところでボクの服は?」

 

「……ピンピンしてるじゃねーか‼︎フュンフの奴心配させること言いやがって‼︎」

 

「あの……ボクの服は?」

 

「持ってきてねェよそんなの‼︎まぁいい、とりあえず家に帰るぞゼクス‼︎」

 

コイツに関わるとロクな目に遭わない。

心配して余計な損をした気分だ。

フィーアは未だ裸のゼクスを連れて重い足取りで≪黒い家(アップグルント)≫へと戻る。

その頃には日はもう落ちかけていて、雪の勢いも粉雪が舞う程度になっていた。

 

黒い家(アップグルント)≫の門の前で、フュンフが待っていた。

彼女は銀色の目でゼクスを認めると一言。

 

「ろー、わぁの言う通りになったびょん?」

 

「流石フュンフ、予測1mmもズレてないや。頼んで正解だったよ」

 

「あ……⁉︎ちょっ、あーッ⁉︎」

 

そのやり取りでフィーアは理解した。

何故あんなにフュンフがフィーアを責め立てるような口ぶりで喋ったのか。ゼクスが予定より早く来たフィーアに驚きもしなかったのか。

 

「て、テメェら……謀りやがったな⁉︎」

 

「頼まいじゃ断らいねはんでね。悪がった」

 

とは言うものの、フュンフの表情は「テヘペロ♪」、あるいは「やっちまったぜ♪」みたいな様子で、ちっとも反省しているようには見えなかった。

 

「どれもこれも、全て姉様とクリスマスを過ごす為さ」

 

驚愕の表情でゼクスの方を向くフィーア。

ゼクスは微笑を浮かべて静かな、まるで湖底のような瞳でフィーアを見つめていた。

 

「クリスマスの用意は出来でらはんで、後はおめだづが来ればいつでも始めらいるど」

 

「じゃあ……行こうか」

 

「ちょっと、待って、待て‼︎心の準備って奴がまだ‼︎」

 

何を言ってるんだ、とゼクスはフィーアの腕を引っ張りながら楽しげに囁く。

 

「約束したじゃん。姉様が来るまで雪山で耐え切れたら……クリスマスを一緒に過ごそうって」

 

刹那、ぐいっとフィーアの体が強い力で引っ張られ、≪黒い家(アップグルント)≫の中へと引き摺られるようにして入っていった。

 

「テメェと過ごすと同性なのに貞操の危機を感じんだよォォォッ‼︎マジで勘弁してくれゼクスゥゥゥゥゥゥゥッ‼︎」

 

「あはは、何言ってるの姉様。女同士で子供が作れるわけないじゃないか」

 

「じゃあ、せめて……せめて服は着てくれよーーーーーーォォォォォッ‼︎」

 

その悲痛なフィーアの叫びは、雪深い山々に木霊したのであった。

……なお、クリスマス自体はフュンフ曰く「フィーアはつまらないと盛んに言っていたが酒が入ってからは私とゼクスより楽しんでいた。今度は皆でクリスマスパーティも良いかも知れない」ということだった。




フュンフの台詞(津軽弁)標準語訳。
一応何言ってるのか分からない人用です。
「ゲホッ……。そんなこと知らないよ、私には関係ないことだからね。アンタのやったことなんだから自分でカタ付けてよ」

「大体一晩付き合ってやるだけでしょ?了承すれば良かったのよ。そうしとけばこんなことにはならなかったのにさ、そうしなかったせいであの娘死ぬかもしれないわよ?」

「さらさら直す気ないわよ私は」

「ねー、アタシの言う通りになったでしょ?」

「頼まれちゃ断れないからね。悪かった」

「クリスマスの用意は出来てるから、あとはアンタ達が来ればいつでも始められるわよ」

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