「……ホント、アンタには感謝してるよ」
ホテルの一室にて多々良幽衣は目の前の相手に素直に感謝を述べた。
アグロヴァルとの一件にて病院を出たはいいものの、仮にも相手は≪KORT≫、すぐに追ってくるだろう。その時に幽衣がとれる行動は2つあり、絶えず場所を変えて逃げ続けるか、あるいは……うかつに手出し出来ないような相手の元に逃げ込むことだ。
そして幽衣が選択したのは後者の行動。選んだ人間とは……。
「まーったくだよ。本来ならウチには何の利益もないのにさ。アンタらはもっとウチに感謝してもいいんだぜぃ?」
≪KOK≫三位にして、破軍学園の臨時教員である西京寧々。
面識があり、なおかつ≪KORT≫が迂闊に手を出せない程度の強さを持つ騎士ときて、幽衣に唯一心当たりがあったのは彼女だけだった。
流石にいきなり飛び込んできて「匿ってほしい」と開口一番言われた寧々は嫌そうな顔をしていたものの、幽衣が背負っていた白雪が病衣のままであったことや幽衣の緊迫した表情を見てなんらかの事情があったと察してくれた。
「しっかし、かの≪KORT≫に追われるなんて何しでかしたんだい?」
「知らねェ。こっちゃ何もしてねェッてのに、いきなりあっちから襲って来やがったんだよ」
この点に関しては本当に二人は無実の身である。
強いて言うなら白雪の行動が発端だがそれだって唆されたものだから、白雪が全て悪いとは言い切れない。
と、ベッドに寝かせていた白雪が大きく身じろぎして、その瞼が弱々しく痙攣した。
この様子を幽衣は何度も見てきている。そして同時に歓喜の想いも湧き出した。何故ならば……白雪が目覚める時の合図だったからだ。
だが、それを表情には出さずにあくまでも冷徹に幽衣は行動する。
「……そろそろ目覚めの時、か。悪ィが、ほんの少しだけ外してもらえねェか。コイツと1対1で話し合いたいんでな」
「人遣いの荒い奴だーねぇ……はいはい分かったよ。ま、その分の対価も払ってもらえるんだよねぇ」
「約束する」
その言葉に満足したのか、寧々は紅色の袴の袖をなびかせて部屋の中に幽衣と白雪を残して暫しの間退室していったのだった。
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「……ん、ぅあ……あ、姉様……?」
「起きたか。散々人に迷惑かけさせやがって」
起きたばかりの白雪の記憶は混濁していたが、やがて覚醒していくと共に自分の犯した事実に元々白い顔色を更に白くして震え始めた。
「ぁ、あ……あの、その、ね、姉様」
恐る恐る口を開いた瞬間、エンジンの唸り声をを上げて彼女の鼻先1cmに駆動するチェーンソーの刃が突きつけられる。
否が応でも話させない、そんな心理の読み取れる幽衣の行為に益々体の震えを強くする白雪。
「ぅ、あぅぅ……」
「……あの時。なんでテメェはアタイに全て話してくれなかった?」
「そ、れは……その、ぁの……」
「その口は何の為についてんだ?アァ⁈喋るんならよォ、きっちりと喋れッてんだよッ‼︎」
「ひぃいッッ‼︎」
部屋中に響き渡る怒号に体を丸めて悲鳴を上げる白雪。それで観念したかのように、今度はしっかりとした口調で話し始めた。
「……あの時。あんな事をしたのは、姉様を傷つけなくなかったからだよ。あんなバケモノを相手に、姉様が嬲られて負ける様なんて見たくなかった」
全て、彼女を愛しているが為に。愛するが故に白雪は幽衣を手にかけて成り代わり……重傷を負った。
その間の幽衣の想いなど知る由もない。どれだけ彼女が苦悩したか、ただ眠っていた白雪には知ることはなかった。
「でも、傷つけなくなかったから先に姉様に危害を加えるなんてさ……僕は狂ってるよね。姉様、失望したでしょ?こんな、こんなクソみたいな女に好かれたなんて……っ‼︎」
「失望なんかしてねェよ、このバカ」
え?と半泣きの表情で白雪は幽衣の顔を直視する。同時に、幽衣は白雪の体を抱き寄せていた。
「テメェがクソだって?だとしたらアタイも同じだよ。アタイが強くなかったばかりにテメェだけに色々背負わせちまった」
幽衣だって後悔していた。もっと自分が強ければ、白雪はそんな行動に走らなかったかもしれない。その想いは、鎖のように未だ彼女の心を縛っている。
だから、と幽衣は白雪の頭を強めに小突いて笑みを浮かべる。
「これで、おあいこだ。これでアタイとテメェは対等、二人で全部背負っていくぞ。苦悩も怒りも悲しみも、そして喜びも」
「え、それ、って……⁈」
頰を赤らめながら、その真意を問おうとする白雪。
その唇に、幽衣は自らの唇を重ね合わせた。
「ッ……〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ⁉︎」
「……っ、はァ。なんだよ、顔赤くしちまってさ。長年テメェが望んでた事だろーが」
そして、混乱の極みに達した白雪に、幽衣はいつもの意地悪げな笑顔を浮かべてその言葉を紡ぎ出す。
「好きだ、白雪。テメェのせいでアタイはこうなっちまったんだから、ぜってー責任取れよな?」
「ふわ、ふわぁぁぁぁぁぁ……‼︎」
口元を両手で隠しながら、声にならない悲鳴を上げる白雪。
そうだ、自分はこの顔が見たかったのだ。期待と喜びに駆られて幽衣は後退りする白雪に言葉を投げかける。
「こ、ここっこれ夢じゃないよね⁈現実だよねッ⁉︎僕のこと、初めて姉様が……⁉︎」
「……愛してるぜ白雪。テメェはアタイのモンだ」
「ひゃあァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
なんだ、この気持ちは。白雪はいつもこんな感じだったというだろうか?だとしたら羨ましいものだ。もっとこの気持ちを知りたかったと幽衣は後悔の念を抱く。
頭から湯気を出しながらゆで蛸のように真っ赤になっている白雪に対して、更なる言葉を言おうとして……。
「何やってんだい、アンタらは?」
戻ってきた寧々にその空気を壊されたのだった。
「ちっ、いい雰囲気だったのに。今までの仕返しをたっぷりとさせてもらうつもりだったんだがなァ」
「え、じゃあさっきのは嘘なの⁈僕を好きだと言ったのも⁉︎」
「いやそれは本当」
「にゃあああっ‼︎」
悶絶する白雪を尻目に、寧々は幽衣に対して彼女らを匿うことへの対価の話題に入る。
「……で、アンタらがウチに話すっていう情報は?内容によっちゃ警察に突き出すよ」
「わーってる。白雪……テメェ、今知ってる≪KORT≫の情報、全部ここで話せるか?」
そう言いながら、幽衣は背後の白雪を見やる。
「……ふにゃ……夢みたいだよぉぉ……‼︎」
「……ダメだこりゃ」
だが生憎、白雪がまともに戻るにはまだ暫しの時間を必要とするようであった。
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「よぉ、ガウェイン」
「どうした、ブルーノ。任務の遂行の話か?」
アジト内にて、先程東南アジアから届いたばかりの小包の中身を確認しながら、ガウェインは突然来訪した仮面の男を見上げた。
「おう。今回イッキとか言った奴の捕獲任務だけどさ、手ェ組まない?俺ちゃんとお前とでさ」
「なるほど。確かにその方が任務の遂行に有効だな」
その言葉にチッチッチと指を振りながら、ブルーノは≪狂笑≫の二つ名に相応しい笑みを仮面ごしでも分かるほど浮かべると更に言葉を続ける。
「でもぉ、そんだけじゃーたーりねーえーな。ランス兄とドクターの力も借りたいところさね」
エムリスは手段問わず、と言っていた。なるほど、確かにそういう手もあるだろう。ガウェインはブルーノの提案に思わず舌を巻く。
「すぐにドクターに意見を具申しよう。ブルーノ、計画はお前の十八番だろう、その辺りは頼めるか」
「もちのロンよぉ〜。いやぁ楽しくなってきた、道化師としての腕の見せ所って奴だぁ‼︎ヒャアハハハハハハハハッ‼︎」
高笑いを上げるブルーノ。忍び笑いを漏らすガウェイン。大阪に巻き起こる災厄の期限はゆっくりと、しかし確実に迫って来ていた。
大胆な告白は女の子の特権。