多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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バトル描写なかったので久しぶりに。


猛毒の支配

≪KORT≫が≪解放軍(リベリオン)≫から離反したというニュースは、一両日と待たずに全世界へと駆け巡った。

これにはありとあらゆる人々が驚いたが、一番驚いたのは当の≪解放軍(リベリオン)≫の幹部達である。

なにせ≪KORT≫を束ねるエムリスはどちらかと言えば穏健派に属し、そんな大それたことをしでかすとは到底思えない人間だったからだ。更に言えば、今人材不足に悩まされている彼らにとって≪KORT≫の離反はとんでもない痛手。故に早急に彼らを説得して元鞘に納めなければならない。

そして、この情報に世界で誰よりも憤怒に燃え上がった者が一人孤独に立ち上がった。

解放軍(リベリオン)≫の幹部にしてエムリスと古い知己の仲でもある、≪隻腕の剣聖≫の異名を持つ男、ヴァレンシュタインである。

 

「一体どういう了見だエムリス……‼︎」

「どういう了見、ですか。私はあくまでもこれが一番の選択と思ったのですが……」

 

現在エムリス達がアジトとしている大阪にある廃ビルの一角にて、両者は向かい合って対峙していた。

その二人を取り囲むように、ガウェイン、ブルーノ、ランスロットの3名が傍観の構えをとっている。

 

「馬鹿な真似をしおって。悪いことは言わん、早々に≪解放軍(リベリオン)≫に戻ってくるのだ」

「戻ってこい、と言われましても。こちらから言い出した手前、すごすごと引き下がるのもなんと言いますか、馬鹿みたいじゃないですかね?」

 

千日手のような終わりのない、堂々巡りの話し合いを続ける二人。かれこれ2時間近くこの状態が続いている。

やがてこれにしびれを切らしたヴァレンシュタインはエムリスだけではなく、その周りの≪KORT≫の面々の説得にかかる。

 

「貴様ら、≪解放軍(リベリオン)≫を裏切る気かッ‼︎かつての世界を変えるという気概はどこに落として来たというのだ⁉︎」

「私は別に、そこまで興味はないのですが……ドクターに従っていたらこうなっていただけですよ、ええ」

「……」

 

あまりに腑抜けた返答に顔を怒りに赤く染め上げるヴァレンシュタイン。ただ一人、ブルーノは笑顔を貼り付けて突っ立っていたが、それを見て嘲るように声を上げる。

 

「あっは。気概を忘れたのはそっちじゃねーの?≪解放軍(リベリオン)≫創立当初はさ、バカスカやべーことしてたってドクターから聞いてたよ」

 

でもさ、と彼は長い腕をゆらりと広げてげらげらと嘲りの色を強める。

 

「今や≪解放軍(リベリオン)≫は金持ち共にこき使われて、狂犬から首輪のついた忠犬になっちまった。ワンワンってな。ヒャハハッ」

「何を……‼︎」

「何も言えねーってこたぁ図星かぁ?ま、いーけど。≪KORT≫はこれから過去に遡る。過去の≪解放軍(リベリオン)≫に。あの孤高にして素晴らしき組織に戻るのさ。腐り切ったテメェらに変わってさ。

それともあれか?アンタももう腐っちまったってか?」

 

その言葉に、とうとうヴァレンシュタインの堪忍袋の緒が切れた。激怒とは、最低限の常識すら奪い取ってしまうものであり、この場合は彼は≪KORT≫の面々に対し禁忌の一言を怒鳴りつけてしまったのである。

 

「こ、……この『人モドキ』共がッ‼︎そこのエムリスが気まぐれを起こさなければ生まれてすらこなかった落ちこぼれの、実験動物風情が、この≪隻腕の剣聖≫に対してよくもそんな大きな口を叩けたものだなァッ‼︎」

「……抜かしたな、老いぼれが」

 

その言葉にブルーノを押しのけて己の≪霊装(デバイス)≫、≪玉虫籠手≫を顕現させて詰め寄るガウェイン。

 

『人モドキ』『実験動物』。なぜこの言葉が彼らに対して侮辱と取られるのか、それは≪KORT≫の面々の出生に秘密がある。

彼らは、エムリスがとある目的の為に己の遺伝子と有力な女性のそれとを交配させ、試験管の中で育てた……いわゆる≪人造人間(デザインベイビー)≫と呼ばれる存在だからである。

彼らには『母親』という家族の概念は存在しない。あくまで存在する家族は『父親』であるエムリスと彼の血を継いだ『兄弟』達しかいない。

故にこそ、彼らには意地というものがある。

 

「我々は神の才能を持つドクターの血を継いだ者達だ。母の顔なぞ知るか‼︎ドクターさえいればそれで良い‼︎我々の侮辱は即ち、我らが父エムリス・アンブローズの侮辱‼︎その罪は万死に値するッ‼︎」

「ほざけ青二才‼︎貴様らこそ、≪解放軍(リベリオン)≫を裏切った罪は到底許されるものではないわッ‼︎」

 

火花を散らす両者を交互に見やって、もはや衝突は免れないと悟ったエムリスは、深くため息をついてからガウェインに向けて指示を出す。

 

「殺すことだけはしないように。頭は固いですが、彼は数少ない友「ヒィヤッハハハーーーーッッ‼︎」

 

紛うことなき奇襲。エムリスの言葉を遮りながら攻撃を仕掛けてきたのは≪狂笑≫ブルーノである。

彼だって≪KORT≫の一員、ヴァレンシュタインの言葉にはとうに沸点を超えていたのだ。

ガウェインの体の影から野獣の如く疾走し、糸の≪霊装(デバイス)≫で編み上げた槍で以ってヴァレンシュタインの胴を貫かんとする。

だが、それは悪手。何故ならばヴァレンシュタインの能力は≪摩擦≫を操る力。摩擦力をゼロにされればどんな攻撃も通用しない。

 

「馬鹿が。この程度で私を倒せるとでも?」

 

そう嘯いたヴァレンシュタインへと走った槍の一閃は見事につるり、とその表面を滑り、バランスを崩したブルーノに彼は巨躯を生かした蹴りを放つ。

 

「ぐえッ⁉︎」

 

その時、不思議な現象がブルーノに起こる。体に突き刺さった蹴りによって彼は窓ガラスへと叩きつけられた、がしかし窓ガラスが割れる気配がない。

それどころか衝撃を吸収するように彼の体を包んで撓み、再びヴァレンシュタインの方へと弾き返そうとしている。

≪狂笑≫ブルーノ、概念干渉系能力≪物質弾体(ゴム)化≫の持ち主である。

 

「……ならば、今度は叩ッ斬るまでだ」

「させると思うのか、くたばり損ないが」

 

ブルーノを倒そうとするヴァレンシュタインに立ちはだかるは、拳を構えたガウェイン。

それに構う様子もなく、ヴァレンシュタインは大剣の≪霊装(デバイス)≫を顕現させ、居合いの構えを取る。

彼の≪伐刀絶技(ノウブルアーツ)≫である≪山斬り(ベルクシュナイデン)≫は超広範囲にして防御不可能の攻撃。

さらにガウェインの武装は籠手、どうやってもヴァレンシュタインの攻撃が先に入ってしまう。

 

「──────≪山斬り(ベルクシュナイデン)≫」

 

だからこそヴァレンシュタインは躊躇うことなく必殺の大剣を抜き放ち──────、

 

「≪能力支配(アビリティジャック)≫」

 

その一閃をガウェインがあっさりと『弾き飛ばした』光景に、愕然とした。

そして、その一瞬をガウェインは見逃すはずがなく、ステップインすると共に胴に渾身のストレートを叩き込む。

 

「ぐ、ガッ⁉︎」

「ギャハッハハァッ‼︎」

 

そこへ仰け反った所にブルーノがゴムの勢いも合わせたドロップキックを浴びせ、ヴァレンシュタインは壁へと勢いよく叩きつけられて動かなくなった。

 

「……死んじゃったかねー?」

「まだ死んではいない。ドクター、この老骨をいかが致しましょうか」

「うん、病院に送っておきなさい。このことは後々彼に謝るとするとして……2人とも、本当に成長したね」

 

無法者を片付けた2人に労いの言葉を送るエムリス。

しかし、なぜヴァレンシュタインの攻撃は不発に終わったか?

それは、ガウェインの能力が深く関係している。

彼の能力は概念干渉系──────≪支配≫。

生物に己の魔力を送り込み……その能力、身体機能を思いのままに操ることの出来る力である。

無論、人間などには相応の魔力を必要とするが……ガウェインは『一手間』を加えてそれを簡単なものにしている。

 

「本当に、虫というのは良いですね。小さく、小回りも替えも利く。だからこそ……利用価値がある」

 

ガウェインが懐から取り出したのは試験管に入れられた数匹の蚊。彼はその蚊に魔力を送り込み、支配して対象の血を吸わせる。

そして血を吸わせると同時に彼の魔力を送り込むのだ。小さい為にごく少量しか送れないものの、それでも能力を1〜2秒支配下における。そしてその時間さえあれば、更なる魔力を送り込む一撃を放てるのだ。

そうこうしているうちにランスロットがヴァレンシュタインを担いでビルから歩き去っていく。それを見送ってから、エムリスは残された者達に向けて宣言した。

 

「さて、これで今度こそしがらみから我々は解き放たれました。3日後の七星剣舞祭の終わりの時が……始まりの時です」

 

これにて、≪KORT≫は真に世界に解き放たれた。彼らがいかなる災厄を、あるいは変化を世界にもたらすのだろうか。今それを知るのは、エムリス・アンブローズ唯1人だけであった──────。




≪蟲使い≫ガウェイン 能力≪支配≫
攻撃力C 防御力 D 運D
魔力量B 魔力制御A 身体能力B
総合評価 B

≪狂笑≫ブルーノ 能力≪物質弾体(ゴム)化≫
攻撃力B 防御力C 運E
魔力量C 魔力制御C 身体能力A
総合評価 B
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