「全く
ため息を吐き、ビルの屋上からごった返す人々の群れを
マスクの奥から人々を眺めるその視線は到底同じ人間を見詰めるものではなく、まるで虫を見下すような嫌悪の感情を纏っている。
「こうして見ていると
「だから鬱憤を晴らしに行くんだろぉーがよ?ドクターからの任務も兼ねて、一挙両得一石二鳥ってなーァ」
隣で茶々を入れてくるのは黒いタキシードに白い仮面を付けた奇怪な言動の男、ブルーノ。
元より二人はエムリスの命により《作戦》の第一段階、陽動を担当していたが、ここでとあるアクシデントが生じた。
《七星剣武祭》の準決勝にて、エムリスの興味の的であった黒鉄一輝が人事不省の重体に陥ったのだ。
それも助かったとしても数日は目を覚ますことのない程の重体に、である。
これによって《七星剣武祭》の終結を待つ必要がなくなったと判断したエムリスは急遽《作戦》の実行を前倒しにしたのであった。
「ドクターもさー、よくも実行に踏み切ったよなぁぁ。
「ドクターの言葉に従えば何の間違いもない。我々はそれに粛々と従うまでだ」
その言葉と共にガウェインは己の《
魔力は色彩を薄くしながら重力に従って下界の人々の頭上から降り注ぎ────。
「《
ガウェインの言葉により、一瞬にして平和な街は修羅場へと変貌した。
先程まで笑い合っていた友人同士で殴り合い、食事を共にしていた家族同士で殺し合う。親しい者があろうとなかろうと、辺りの人間全てに害をなそうと皆が暴れ狂う。
この状況では、もはやガウェインの能力下にない人間の方が悲惨であった。家族や恋人を制止しようとして、あるいはそこから逃げようとして袋叩きに合う。
これを地獄として何と呼べば良いのだろう。
「うははははっ、えげつねェ!!自分の意思とは関係なく無理やりやらせてやんの!!クズだねガウェイン!!」
「クズはお互い様だ、ブルーノ。貴様も似たようなことをこれからするのだからな」
場所を移すぞ、とガウェインが歩きだす。やがて《魔導騎士》がここへ来れば数分で事態は沈静化するだろう。
だがこの騒ぎが5ヶ所で起これば?あるいは10ヶ所で起これば?事態は多少の時間では収まることはない。
「さて……お手並み、拝見といこうじゃないか」
「イーッツ、ショオオオオタァァァァイム!!」
ブルーノの哄笑が甲高く辺りに響き渡る。
だがしかし、一人の男の高笑いなど争乱の只中にいる人々は誰も気付けるはずもなく、そしてこれこそが動乱の始まりであるとも知るわけがなかったのであった。
●
そして、《七星剣武祭》会場。
一輝の容態が好転しないまま、《白衣の騎士》こと薬師キリコの尽力の結果を只待つしかない珠雫達をそのままに足早に外へと出てきたのは、一輝達が所属する《破軍学園》校長、
「
「5ヶ所で大規模な暴動さね。多分まだ起きるよこりゃ」
その内容はまだ想定の範囲内でこそあったものの、懸念が現実のものとなってしまった事実に黒乃は忌々しげな顔で舌打ちする。
「全く、しでかしてくれたものだな《
「しかもこれ、多分『陽動』の段階だっつーのに大阪中の《魔導騎士》が駆り出される規模だぜくーちゃん。もっとやばい『本番』はこれからだ」
どちらにせよ、この騒ぎは早急に鎮めなければならない。
その思いを胸に秘め、二人が現場へ向かおうと動き出した瞬間─────。
総身を走る、おぞましい戦慄にその足を縫い止められた。
二人はこの感覚を知っている。戦慄の源を知っている。
遥か昔、まだ新米の《魔導騎士》であった頃。邂逅は僅か一度、されど鮮烈に鮮明に身体に刻み付けられたその男の名を。
「────おい、まじかよ」
がり、がり、と硬いコンクリートを削るのは牙のようにギザギザと不揃いの刃が並ぶ巨大な鉈。
恐らくは己の身長と同等の長さの《
胸の辺りまで届く黒い布袋で頭を覆い、下半身にはボロボロの袈裟を纏う筋肉質ながらも痩身の大男。
《KORT》のメンバー、《
(《KORT》でも指折りの化け物をここに……!?まさか、奴らの本命は
その尋常ならざるプレッシャーを前に黒乃は確信する。
《KORT》、いやエムリス・アンブローズの目的が会場の中───そこで治療を受けている、黒鉄 一輝であると。
一体彼のどこがエムリスの琴線に触れたのかは分からない。だが実際にランスロットがここへ来ている以上、黒乃達がするべきことは分かっていた。
「寧音、暴動の鎮圧は後だ。まずはこいつを止めるぞ」
「あいよ、くーちゃん。12年前のリベンジマッチとしゃれこもうぜぃ!!」
黒乃は二挺拳銃、寧音は鉄扇の《
ランスロットもそれに応えるようにして引っ提げていた《
3名全員がAランクの《
今ここに、《
◎
《
例えば『影絵』として立体的な存在を生み出す
こうした能力を持つ《
「さて、ランスロット達が私の為に動いてくれたのです。私個人としても、ここは一つ働きを見せねばなりませんね」
廃ビル群が並び立つ、エムリスが一時の根城としていた場所。
その中の一つのマンションの屋上にて、彼はとある《
「……《
エムリスが右手を開くとそこに収まるようにして表紙に魔方陣が描かれた、分厚く白い本が顕現する。
その重みを懐かしむように握りしめてから、彼はゆっくりと本を開いた。
「思えばこれを顕現したのはいつだったでしょうかね。久しく手に持ったことはありませんでしたが、相変わらずよく手に馴染みます」
そして、エムリスの全身から魔力の塊が迸ると真っ白な本のページに吸い込まれるようにして集まっていく。
エムリス・アンブローズ。《KORT》の首魁たる彼の異能は《空想の具現化》である。
彼が知り、その在り方を想像し得るものであるなら、どんな存在であれ現実の存在として召喚することが出来る。
例えそれが、
「《
極限まで魔力が高まり、光に包まれた《
魔本に集約した魔力の塊はページから弾かれるようにして中空に飛んでゆき……3つの頭と巨大な翼を持つ、ドラゴンの姿に生まれ変わる。
爬虫類のようでありながら凶悪な顔つきに二本の角。全身に纏う黒く脂ぎった鱗。大きさはそこらの民家の5倍近い巨体である。
エムリスの『想像』というプログラムに沿って行動する、ロボットに似た存在でしかないのだ。
「さて、これ程なら大丈夫ですかね。適度に空でも飛び回らせれば《魔導騎士》達の目を引くでしょうし」
そう呟きながらエムリスが軽く手を振ると、《
たった一度の羽ばたきで、怪物は天高く舞い上がり、何処かへと飛び去っていく。
それを見送るように眺めながら、エムリスはランスロット達とは別の任務を与えたアグロヴァル、そして白雪達に思いを馳せていた。
「『己の裁量で白雪と幽衣君の力量を見極めろ』……彼は任務には忠実な男、手を抜くことはしないでしょう。身勝手な行動とは分かってはいますが……彼女達には、彼を乗り越えて貰わなくてはならない」
いずれ近い未来に来る、《戦乱》を生き残るためにも。
そして、白雪達の未来の為にも。
決意を胸に秘め、エムリスは強烈な風によって巻き起こされた砂塵に紛れるようにしてその場を立ち去るのであった。
エムリスの能力は《空想具現化》。
やろうと思えばクトゥルフ神話の『深きものども』も具現化出来るし、ゴジラやウルトラマンも具現化出来る。
でも能力も具現化するからガタノトーアみたいな『見たら終わり』な存在は具現化出来ない。