多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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この小説で書いて見たかったことの一つは原作とかで書かれてない霊装(デバイス)とか能力の『もしも』の掘り下げだったり。
アグロヴァルでやったような多重人格ならどういう風になるのかとか。

書く前に原作でやってくれたのは霊装(デバイス)のデカさかなぁ。車の形をした霊装(デバイス)とか考えてたけど原作でそれ以上の規模が出てきた時は『作者スゲーな』ってなった。


動乱、そして対峙

突如として混乱と災禍に包まれた大阪。多くの人々が事態を理解出来ぬままに右往左往する中で、状況を理解し、行動を起こす者達もいた。

建物の屋上から屋上へと飛び移りながら《七星剣武祭》会場へと疾駆する二つの影────幽衣と白雪の多々良姉妹もその該当者である。

 

「あーあー派手にやってくれちゃって。はしゃぎ過ぎだよ皆」

 

()()()()なんてレベルじゃねえだろ。こいつはバカ騒ぎだ、それもド級のな」

 

地上の騒ぎを横目に見送りながら、幽衣は気にくわないといった様子で悪態を吐き捨てる。

元々暗部の世界で産まれ、育ってきた二人にとってこんな光景は見慣れたものではあるが……それでも、負の感情は抱くものである。

 

「なぁ、おい。《KORT》ってのはここまでバカやる奴らか?」

 

「必要ならなんでもやるからね……だけど正直、ボク(多々良白雪)という存在を炙り出すだけにここまでやるとは思わなかった」

 

「他にも目的はあるんじゃねえのか?テメェ一人にこの騒ぎはどう考えても釣り合わねぇよ」

 

「多分、そうなんだろうけど。どちらにせよボク達は寧音先生の元に転がり込むだけでしょ?」

 

そんな白雪の間延びした言葉を、幽衣は「馬鹿か」という辛辣な返答で即刻切り捨てた。

 

「別にバカ騒ぎしてるだけならどうでも良いが……あいつらは《解放軍(リベリオン)》も《暁学園》も、そしてアタイ達《黒い家(アップグルント)》も裏切りやがった。これはプライドの問題だ。裏切り者には相応のケジメを付けなきゃならねえ」

 

自分達は金で他人の命を勝手に売り買いし、恨みを抱かれ、道端で野良犬のように死んでいく存在である。

だがそんな存在にだって、最低限のルールは存在するのだ。

そのルールを破った《KORT》の面々に怒りを燃やす幽衣の姿に、白雪は微笑みながら口を開く。

 

「それでこそ姉様だよ……だから」

 

姉様は、先に行って。

白雪の言葉の真意を聞かずとも、幽衣は分かっていた。

その場に立ち止まった白雪を尻目に、会場へ向かうスピードを上げて走り去る。

 

「死ぬなよ、白雪」

 

「姉様も」

 

去り際に交わした言葉は僅かに一言。されどその一言に多くの願いを託し、二人は別れた。

後に残された白雪はため息を吐き、姉の無事を祈りながら姿を現した『追跡者』と相対する。

 

「……何故、二人に別れた。共にいれば勝てずとも負ける可能性もなかっただろうに」

 

その場に降り立ったのは、数人の男女。

彼らに共通する特徴は何もない。背丈も性別も髪型も、何もかもがそれぞれ異なっている。

だが白雪は、『彼ら』の名を知っていた。

 

「いい加減、()けられるのもうんざりしてきたからね。ここらで終わりにしよう……アグロヴァル()

 

「へえ。まさかまさか、ロクな情報もなく僕らの正体を言い当てられるとは」

 

集団の中でも若齢の少年が驚いたと言わんばかりの様子で顎を撫でて呟く。

他の面々も表情にこそ出さないものの、白雪の発言に感心したような様子で白雪を眺めている。

 

「ほぼ推察ではあったけれども……反応を見て確信出来たよ」

 

「別に隠していた訳ではないわ。貴女のように推測でアグロヴァルという存在が多重人格の特殊な伐刀者(ブレイザー)であるというたどり着いた者はいくらだっている。まあ、知った者は一人として例外なく────」

 

銃声。

刹那の殺意を感じ取り、南蛮刀の《霊装(デバイス)》で辛うじて弾丸を叩き落とした中年の男を除く全員が、急所を撃ち抜かれ崩れ落ちた。

撃ったのは───当然、白雪である。

片手にはいつの間に顕現したのか、狙撃銃の《霊装(デバイス)》《銀雪》が携えられている。

速撃ちという狙撃銃には難しい芸当。それを安々とやってのけた白雪の技量に男は戦慄を覚えながら刀を構える。

 

「……どうでも良いよ、貴方達が何者だろうと。姉様がケジメを付けに行くのを邪魔させる訳にはいかない」

 

「ケジメだと?《KORT》にたった一人で勝てると思っているのか、笑わせるなよ」

 

「笑わせる、ねぇ。ならもう一つ面白いこと言ってあげようか」

 

白雪は《銀雪》を肩に担ぎ、口の端に薄く笑みを浮かべ、挑発的な視線で男を見やる。

 

「────勝つよ。姉様も、ボクも。()()()風情に負けてやるもんか」

 

「……言ってくれる……!!」

 

男の怒気をはらんだ声と共に新たな分身達が白雪を取り囲むように現れる。

その全てがアグロヴァルの人格の中の一人であることは彼女には分かりきっていた。

────ただ、その数が余りに多すぎることを除いて、だが。

 

「人格の総数400と34。その全てが牙を剥く!!これこそ、我ら真髄の伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《悪霊大隊(ガイストバタリオン)》!!貴様を《KORT》に連れ戻す前に、一つ格の違いとやらを教えてやるとしようか!!」

 

周囲の分身達が、大小様々な形の《霊装(デバイス)》を顕現する。

剣、銃、弓、斧に鞭に大鎌。一つとして同じ形の《霊装(デバイス)》は見当たらない。恐らく能力も同上だろう。

知れば知る程に実力の彼我の差を思い知らされるが……白雪にはそんなことは負ける理由にはならない。

 

「吠えるな、数だけの雑魚が」

 

単純な数にして、434対1。

《KORT》の任務を背負う者と姉の思いを背負う者。

互いのエゴを潰すための戦いは、この瞬間幕を開けた。

 

 

 

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

大阪中を掻き乱す混乱。その多くは《KORT》のガウェインの能力によるものであるが……中には、別の要因によって引き起こされた混乱もある。

今、暴動を鎮圧に向かおうとしていた連盟の《魔導騎士》達の前に立ちはだかる真紅の鎧を纏う騎士も、その一つであった。

片手には鮮血に塗れた剣を引っ提げ、切り捨てた者を足蹴にしながら相手の方向へゆっくり向き直る。

 

「隊長!!この鎧、間違いありません!!あの悪名高い《狂笑(メフィスト)》、ブルーノの霊装(デバイス)です!!」

 

「分かってる!!だがこいつは……!!」

 

隊長である中年の男は部下に《霊装(デバイス)》展開の合図を出しながらも、何故か攻撃しようとせずジリジリと後退していく。

その理由は至って明快。

 

「……た、隊……長……逃げ……助けて……」

 

───鎧の中にいるのが、先程まで行動を共にしていた部下であるからである。

鎧を纏った……否、()()()()()のは彼のみではない。その背後からまるでゾンビのようにふらふらとした挙動で、鎧の姿をした人間が姿を現す。

ブルーノの糸に捕らわれた者は彼の伐刀絶技(ノウブルアーツ)不実の機織り(アラーニェ)》により編まれた鎧の中に閉じ込められているのだ。

そして中の者の意識はそのままに、ブルーノの遠隔操作により外部の鎧は勝手に外敵を駆逐し始める。

それが、例え中の者の知己同胞であろうとも。

人質を取ると同時に、手駒を増やすという合理的にして悪辣な戦法である。

 

「……外道め……!!」

 

どこかでこの状況を見ているであろう黒幕に悪態を吐き捨てる男。それと同時に操られた騎士が武器を振り上げて襲いかかり、《連盟》の騎士達は仲間との思わぬ死闘を強いられることになったのである。

 

「仕事は順調だな!!ヨシ!!」

 

一方、とあるデパートの屋上、遊戯施設のエリアでいくらかの人々を操っていたブルーノはその二つ名に相応しい狂気的な笑みを浮かべて悠々と状況の推移を見守っていた。

 

「さて今回もやってまいりましたお仕事タイム!!俺がやらにゃならねぇのは《魔導騎士》共の足止めって訳だ!!」

 

ブルーノ自身は、この任務はそこまで苦労するまでのものではないと思っていた。

そもそも一人で撹乱や作戦の立案、実行まで行わなければならない普段と比べればあまりに人員が豊富。更にエムリスやランスロットが参加しているのだからそう時間はかからないと踏んでいたのだ。

 

「手段は不問、任務は楽チン!!これさえあればいつでもワクワク絶好調さッ!!」

 

これ程楽な任務はあるまい。顔を覆う白い仮面の中で、たかを括っていたブルーノの両手から伸びる十本の赤い糸が一瞬の内に断たれたのは、正にその時である。

 

「ッ!!」

 

首筋に走る冷ややかな感覚を振り払うようにその場から飛びずさるブルーノ。直後、彼の身体があった場所には一振りの槍が墓標の如く突き立っていた。

 

「……っち。そう簡単には終わらんか。ま、両手の悪さしとる糸は全部ぶった斬れたからそれでええか」

 

妨害する者が来ることは当然ブルーノは想定していた。その上で様々な罠を多重に張り巡らせていたのだが───()()()()()()と素直に感嘆し、引きつるような笑い声を上げる。

 

「いよーォ、どうしたんだい色男(ロメオ)。ジュリエットはここにはいねぇぜ?」

 

「別に逢い引きに来た訳やないわ。ちっとばかし、バカ騒ぎしとる道化(ピエロ)をシバきにな」

 

長く黄色い槍の霊装(デバイス)《虎王》をひっ掴み、ブルーノの前に立ちはだかるのは、前《七星剣王》諸星 雄大。

ブルーノの想定では……二番目に最悪な相手であった。

 

「よくもまぁワイの地元で好き勝手やってくれよったな。その仮面ひっぺがして道頓堀に沈めたるわ」

 

自分の故郷を、そして大切な者達を危機に陥れている元凶の一人を前に、青筋を立て隠しきれぬ殺気を放つ諸星。

対してブルーノの方は、この状況をなんとも思っていないように諸星の殺気を総身に浴びながら腕を組んでくっくっと身体を揺らして笑っている。

 

()してくれよォ。道化(ピエロ)の仮面を取っちまったら……笑えなくなっちまうだろうが」

 

「既に笑えんようなことやっとるのはどこのどいつや、このボケ。とっとと地獄に落ちろや」

 

《虎王》の切っ先を向けたまま、ブルーノの一挙一動を見逃さぬといった様子でじっと構え続ける雄大。

これは雄大の戦い方は『待ち』に近いというのもあるが……なによりも、ブルーノの周りを護るように張り巡らされた紅い糸の霊装(デバイス)の存在があったからである。

 

(目を凝らさんと見えない程巧妙に、しかも糸が何処かに繋がっとる。こりゃ切ったらどうなるか分からんで……)

 

下手に切って建物ごと倒壊するようなことになれば大惨事である。その懸念が脳裏をよぎり、雄大の思考は一瞬だけ惑う。

その惑いを、ブルーノが見逃す訳がなかった。

組んでいた右手の人差し指を軽く上に動かし、プツリ、と彼の周りに張ってあった糸の一本を切る。

ブルーノの先制に即座に応手を返せるよう身構える諸星。

その目前にごとごとごとっ、と黒い物体が転がり落ちた。

くすんだ緑色をした、見ようによってはマンゴーにもパイナップルにも見える十数個の金属の物体。

 

(手榴弾(グレネード)ッ!?まずっ、この数は流石に───!!)

 

当然全ての手榴弾のピンは抜かれており……直後、諸星の思考など知ったことかと言わんばかりに、諸星とブルーノのいるアトラクションエリアを爆煙で呑み込んだのであった。


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