白雪は周囲に人がいないか警戒しながら、
2階の階段を利用し最上階である4階まで
移動した。
このショッピングモールは吹き抜けになっている
広場があり、そこに人質は集められていた。
それは狙撃銃を扱う白雪にとっては
とてもやりやすい状態にあった。
4階から広場全体を狙え、更に自らの位置が
悟られにくい場所へと気配を消して移動し、
白雪は≪銀雪≫を構える。
(見たところ、下っ端しか見えないな……
≪使徒≫は別働隊を率いてるらしい)
そして≪信奉者≫の数から推測するに恐らく
≪使徒≫の人数は一人。
念の為、他の位置からの視界も「作り出して」
おくべきと判断し、白雪は≪銀雪≫を上に向けた。
「≪
その言葉と共に、銃口からまるで豆粒みたいな
魔力で作られた弾丸が発射され、中空で
留まった。
この弾丸には殺傷能力は殆どない。
しかしその代わりにこの弾丸からの
魔力を介して伐刀者の位置、または自分の
視界外にいる敵を見つけることができる。
(人質の中にも伐刀者がいるな。2人……
いや、他の位置にも2人いる。
≪使徒≫らしい伐刀者は……まだ3階には
来ていないか)
と、人質の少年が≪信奉者≫の男に向かい
アイスクリームをぶつけた。
(あーあ、こういう正義感の強いバカがいるから
事態がより悪化するんだよ……)
そして彼女の思った通り、男は激昂して
少年を撃ち殺そうとしているが、
母親らしき女性が庇っている上に
多分≪使徒≫から止められているのだろう、
仲間も男を制止していた。
が、男はそれを振り切り銃のトリガーを
引いた。
しかし、その銃弾は、間に割り込んだ
紅蓮の髪をした少女の炎によって跡形も
なく消滅した。
(あ、ステラ・ヴァーミリオンだ)
白雪は上から見ていたので、つば広の帽子を
被っていたステラに気づけなかった。
(彼女なら、油断でもしない限り平気だな。
さて、逃げよう。こんなゴタゴタ
付き合ってられないし)
と、コソコソと逃げようとした刹那、
「落ち着きなさいッッ‼︎‼︎」
「あひゃあッ⁉︎」
と、思い切り肝を冷やされた。
(ッ〜。驚かさないでよ‼︎寿命が縮むかと
思ったわ‼︎)
「おやおやおや〜?これはこれはとんでもない
お方が紛れ込んでたもんだぁ」
下卑た声が下から聞こえ、白雪は恐る恐る
≪弾眼≫からの視界を共有した。
そこからは、ステラと相対する顔に刺青の
入った男の姿が見えた。
黒地に金刺繍の外套を着用している。
(来た。あれか≪使徒≫は)
そして白雪は彼に見覚えがあった。
数ヶ月前に任務で一緒になった記憶がある。
(あいつ……確かビショウとか言ったか。
霊装は、えーと……)
と、白雪が考え込んでいる間にビショウは
先程の少年に向け銃口を突きつけ、
ステラはそれを防ごうと自らの霊装、
≪妃竜の罪剣≫で斬りつけた。
(あ、思い出した思い出した。
≪大法官の指輪≫だったっけあいつの霊装。
で、その能力が……)
その渾身の一撃をビショウはなんと指一本で
受け、ステラの腹部に右の拳を打ち込んだ。
その衝撃に耐えられず、彼女は膝をつく。
(姉さまと一緒の≪攻撃の反射≫だったな。
……あれ、ステラが膝ついてる)
どうやら考えてる間に勝負のカタがついた
ようらしい。
ビショウは高笑いしながら、悦に浸っている。
「……誰もが知ってる簡単な贖罪の方法、
悪いことしたら謝る。それだけのこと。
つまりですねぇ、お姫様があのガキの代わりに
謝るんですよォ、……全裸で、土下座してネェ‼︎
カカカカカカカカカカカカカ‼︎」
(よし、殺そうコイツ)
ビショウが悦に浸りながらステラに強要しようと
したことが白雪のカンに障ったらしい。
(本能的にやっぱ受け付けないや。
……ところで姉さま、羞恥プレイは好きかな?)
訂正。今までビショウを殺すかどうか悩んでたが
先程の言葉で殺すことにしたらしい。
白雪は≪弾眼≫からの映像を共有しながら、
ビショウの頭に向けて銃口を定めた。
(フヒヒヒヒヒ……皇女サマの
ヌードなんざ、そうそうお目にかかれる
もんじゃねぇよなぁ。ヒヒッ)
どんどん服を脱いでゆくステラの姿を
見ながらビショウはそう思った。
猛る気持ちを抑え、睨め付けるように
ステラの肢体を眺める。
ステラは羞恥と怒りで爆発しそうになって
いた。
……実際、上の階から炸裂音が響いたが。
「ッ‼︎チッ、上に仲間がいやがったな‼︎」
そしてその音と共に一発の魔弾がビショウの頭
目掛け直進する。
更に、先程からずっと潜伏していたステラと
一緒に来ていた一輝、アリスが奇襲を仕掛けた。
ビショウはまず魔弾を防ごうと自らの霊装
≪大法官の指輪≫の左手を突き出した。
このままでは、魔弾は≪罪≫としてビショウに
吸収され≪罰>として撃ち返されるだろう。
ビショウは、この次の展開を完全に読めて
いた。
少なくとも、この時までは。
「……は?」
次の瞬間、ビショウはとんでもないものを
見せつけられた。
自分の左手へ向かっていたはずの魔弾が、
まるで生きているかのように人差し指と
親指の間を“曲がって”すり抜け、更に
弾道をビショウの頭へと再度ロックオンする
非常に奇怪な挙動を。
「なッ……⁉︎」
いかに攻撃を反射できようが、その≪罪≫の
左手に捉えなければ意味はない。
魔弾は今度こそビショウの頭へ突き進み、
「こ……こんなのアリかよォォォォォ‼︎」
一寸のブレなく額のど真ん中を貫いた。
「こんなのアリかよとか、お前が言うな」
ビショウが負けた理由は一つ、
「自らの霊装の情報を白雪に見せてしまった」。
それによって白雪にそれを破る術を生み出させて
しまった訳である。
「逃げましょ逃げましょ」
今度こそそそくさと退散しようとした時、
影から一人の背高の青年が現れた。
「≪暁学園≫の多々良白雪ね?ついて来て。
出口まで案内してあげる」
白雪はその言葉に従い、彼の元へと向かった。
有栖院の≪日影道≫によって無事白雪は
ショッピングモールの外へと出られた。
「ありがとうございます、アリスさん」
「いいのよ、貴女の存在が知れたら余計な
詮索をされる可能性があるしね」
と、アリスは白雪の顔を眺める。
「にしても、≪不転≫の妹の実力は初めて
見たわ……」
紡ぎ出す言葉が途中で止まった。否、
止められたのだ。
何故ならば。
「一介の凶手風情が、姉さま呼び捨てに
してんじゃねぇぞ……‼︎」
白雪から放たれた怒気に言葉を出すことを
恐れたからだ。
「ッ……‼︎も、申し訳なかったわ。
知らなかったのよ」
ヒリヒリとした怒気が静まっていく。
「……あっ、す、すいませんでしたッ‼︎
やだもうボクったら、恥ずかしいッ‼︎」
ハッとした表情で赤面しながら白雪は顔を
隠した。
その様子を見て、アリスは確信する。
(やっぱり、本当だったのね。
多々良白雪は相当な姉狂いって噂)
その傾倒たるや、かつて姉を傷つけようと
したという理由から多々良幽衣の実父を
殺害したという眉唾な話まで上がっている
ほどだ。
(こんなのがいるなんて、暁は本当に
やってけるのかしらねぇ……?)
ショッピングモールを≪解放軍≫が占拠した
事件。それを解決したのは紅蓮の皇女、
そしてFランクの騎士とまことしやかに
言われているが、実は解決する糸口を
姉狂いの狙撃手が作り出したことは
殆ど知られていない……。