多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

6 / 52
多々良幽衣は妹から離れたい

貪狼学園の生徒であり≪暁学園≫の生徒の

一人である多々良幽衣は慢性的な寝不足であった。

それに関してはかつては彼女の能力の特訓が

原因だったが、途中から妹の日夜問わずの

接近を察知しなければならなくなったのが

原因となった。

……それによって幽衣は雨粒一つ一つを見分ける

ことのできる動体視力、目をつぶっていても

気配を察知できる勘、更には的確な挙動を

行える判断力を獲得できたのだが。

 

「アァ……寝みぃ……」

 

くああ、と大口を開けながら幽衣は寮の

自分の部屋の鍵を開けた。

 

(白雪がいないと、本当に安心する。

おかげでアタイもゆっくりリラックスできるよ)

 

そう思いながら彼女は扉を開け……

 

 

「あ、姉さまおかえり‼︎ボルシチとピロシキ、

あと少ししたらできるから。

それまで姉さまは何してる?お風呂?

それとも……ボク」バタンッ‼︎

 

コンマ数秒で再び閉めた。

 

そして扉に背をもたれかけて、ずりずりと

座り込んだ。

 

(落ち着け……。今のは白雪から送られてくる

大量のメールによるストレスでアタイが

幻覚を見たんだ……現実じゃない、現実じゃない)

 

「姉さま、早く入りなよー」

 

「あぁッ、クソッ‼︎夢じゃなかった‼︎」

 

幽衣は自分の見間違いであれば良かったのに、

と心から思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……相変わらずテメェの料理は美味いな」

 

「でしょ?ボクは姉さまの為ならなんでも

するよ。料理だってその限りじゃないしさ」

 

観念した幽衣は白雪が作ったロシア料理を

(無論睡眠薬が入ってないか何度も確認した)

食べていた。

ただ幽衣は白雪の料理はかなり好きだった。

自分の味の好みを分かってくれている上に

白雪の料理の腕自体も高いからだ。

 

「というか、どうやって入ってきたんだよ‼︎

監視カメラとか色々あったろ‼︎」

 

「あ、それはもう監視カメラの死角を抜けて

鍵はピッキングで開けたんだ」

 

「そんなことで凶手の技術を使うんじゃねぇよ⁉︎」

 

技術の無駄遣い、ここに極まれり。

 

「入ってみて思ったんだけど……姉さまの

部屋結構汚かったねぇ。ちゃんと掃除したけど」

 

余計なお世話だ、と幽衣は返しながら食事を

終えた。掃除に何かやったか、とかはもう

聞く気にはなれなかった。

白雪の突飛な行動に自分のツッコミが

追いつかないし寿命が縮みそうだからだ。

 

「姉さま、先にお風呂入ってきていいですか?」

 

「ああもう勝手にしろ勝手に」

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂場からシャワーを浴びる音が聞こえる。

幽衣は白雪のことについて思案していた。

 

(いい加減、アタイへの愛が重すぎるって

気付いてくれねぇかな……?

……無理か)

 

白雪の幽衣に対する思い入れようは凄いもの

であった。

かつて、白雪を疎く思った幽衣がなんとか

自分から離れさせようと幽衣に常人には

難しい注文をしたのだ。

「自分の指を喰い千切れ」と。

ただ、幽衣はたった一つだけミスを犯した。

その時に「出来たら姉さんと呼んでもいい」と

うっかり約束してしまったのだ。

その結果として、白雪は迷うこともなく自分の

親指を喰い千切った。

喰い千切ってしまったのである。

 

(あんときゃアタイもビビったよ……。

クソ、あんなこと約束しなきゃ良かった……)

 

しかし、約束していなくとも白雪ならやり遂げ

そうだとも思い、幽衣は考えるのをやめた。

 

「姉さまー。ボク出たから入っていいよー」

 

そう言って、白雪がすっぽんぽんの状態で幽衣の

ところへと呼びに来た。

 

「服ゥ‼︎せめてパンツぐらい履けコノヤロー‼︎」

 

「えっ、パンツ?」

 

そう言うと、白雪は迷うことなく自分が掃除した

時に持ち出したのだろう。

 

 

姉のパンツを荷物から取り出した。

 

「待て待て待て待て‼︎その下着アタイのだよなぁ⁉︎

しかも今どこに履こうとした⁉︎」

 

「えっ……やだもう姉さまったら。決まってる

じゃないですか。姉さまのパンツは

頭か顔に履くものでしょう?」

 

「バッキャローーーーーーッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、「姉さまの髪のトリートメントを

したい」という理由でいつも入っている時間の

二倍近い時間をかけて入浴させられ、

学園生活について色々と話しあった。

 

「……ところで、いつ帰るんだ?

破軍といや武曲と同じように今年から

選抜戦始めるんじゃなかったか?

お前のことだからやられるようなことは

ないと思うが」

 

「明日の朝イチで帰る。選抜戦は明後日から」

 

白雪は幽衣の髪をタオルで挟むようにして

水分を取りながら答えた。

 

「……寂しくない?」

 

「バカ。お前と一緒にすんなよ。

アタイは一人でもやってけるから」

 

子供の頃甘えられるような機会がなかった故か

白雪はたまにこういう子供っぽいような

凶手らしからぬ言動をとることがあった。

幽衣は白雪のそういうところは可愛いとは

思ってはいるのだが、いかんせん伝えられずに

いる。

 

「子守唄歌ってあげようか?」

 

「いや、なんでそうなる」

 

「口ではそんなこと言ってるけど、

実は寂しいんじゃないかな、って」

 

幽衣は苦笑いしながらドライヤーで

自分の髪を乾かしてくれている白雪に

「勝手にやればいい」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽衣の寮には布団は一つしかなかったので、

二人で使うことになった。

 

若干暑苦しいものの幽衣はどうせ一時間

程度しか眠れないだろうとたかをくくって

目を閉じなかった。

と、そこに。

 

「……Спи, младенец мой

прекрасный,」

 

白雪が子守唄を静かに歌い始めた。

どうやら幽衣が眠れないと勘違いしたらしい。

 

(……ほっとくか。こんなのでアタイが

眠れるわけないし、大体アタイは赤ん坊じゃ

ないし。そのうち白雪が眠っちまうだろ)

 

「Баюшки-баю……」

 

幽衣はそう思って、白雪の歌うままに任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Баюшки-баю……。

……ごめんなさい姉さま、うるさかったよね?」

 

しかし、幽衣からの返事はなかった。

 

「……姉さま?」

 

恐る恐る白雪が隣の姉の顔を確認すると。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

ものの見事に熟睡していた。

ちっとやそっとでは起きそうにない。

白雪は驚きつつも、

「……やばい、姉さまの寝顔超可愛い」と

危うく騒ぎかけた。

 

(……姉さまが望むならボクはなんでもする。

悪魔だろうと神だろうと、姉様が望むなら

殺してみせるよ)

 

それで、またこの寝顔を見られるのなら

本望だと。

多々良白雪は姉の寝顔を見ながら思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小鳥のさえずりで幽衣は目を覚ました。

 

「ん……んう……」

 

ふわぁ、と欠伸をしながらぼけーっとした

顔で起き上がり、なんとなく時計を

確認した。

 

「……あ?9時⁉︎嘘だろおい⁉︎」

 

休日だからまだいいものの平日であれば

遅刻確実である。

どうやら、白雪の子守唄でまさかの

熟睡をしてしまったらしい。

 

「いつもならニ、三時間しか寝られねえのに

なんでまあそうなるんだ……?」

 

部屋に白雪の姿はなかった。

どうやら帰ったらしい。机に置き手紙が

置かれていた。

 

「どれどれ……?」と幽衣は置き手紙の

内容を読み始めた。

 

『姉さまへ

とても幸せそうに熟睡していたので

起こさずにしておきました。

もしそれが気に障ったら申し訳ありません。

冷蔵庫に昨日の残りが保存してあります。

なるべく早く食べて下さい。

お身体と美容に気を付けて。

白雪より』

 

それを読みながら幽衣はぷっ、と

噴き出した。

 

「全く、変なところで気を使うんじゃ

ねぇよ、ホントに」

 

と、手紙の隅にあとがきがあるのに気付いた

幽衣はそれも読むことにした。

 

『p,s

姉さまのパンツ一枚持って行きます』

 

「……あ……⁉︎

し……白雪イイイイイイイイッ‼︎」

 

朝の貪狼学園に、怒号が響き渡るのであった。




11/16ルーキー日刊41位にランクイン
しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。