多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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接触

最近、黒鉄一輝の元に破軍の生徒が集まってきて

いる。各々の霊装の刀や弓などの技術を高める

ためらしい。

 

(黒鉄一輝……剣術だけでなく弓術や小太刀術も

学んでいるようだね。ボクにとっては天敵だよ)

 

今までの選抜戦6戦全てにおいてボクが

優位に立つことが出来たのは相手がなんらかの

武術を学んでいなかったことが大きい。

ボクの“初見殺し”は武術の達人の前では効果が

半減してしまうからだ。

 

(しかしまあ……黒鉄君は甘いねえ……

そんなことばらすような真似しなくてもいいのに)

 

戦いにおいては自分がどのような選択肢を持って

いるのか、敵に知られないようにする方が有利だ。

その方が敵に手の内を読まれなくなるから。

これは長い間凶手をやってきたボクの経験からの

話だ。

 

「……ねえ、白雪。アンタも行ってみたら?

最近みんなが行ってるっていう落第騎士の

講習みたいなの」

 

黒鉄君の元に破軍の生徒が学びに来るようになって

4、5日経った頃、ボクはそうルームメイトの

少女に言われた。

 

「……なんでボクが。ボクより君が行った方が

いいんじゃないの?蜂谷さん」

 

「あたしはだってほら、選抜戦より夏コミだし。

非力だし。……あ、夏コミに何か買ってこようか?

≪白兎≫さん?」

 

このルームメイト、魔導騎士になるためではなく

他の企業に楽に入るために破軍に入ったと

聞いている。そのため選抜戦にあまり興味がない。

ちなみに≪白兎≫というのは最近つけられたボクの

二つ名。

選抜戦全てでラビットパンチで決めているのが

理由だそうだ。

……正直言って、あまりこの二つ名は好きとは

言い難い。大体ラビットパンチは元々兎を

殺すために使われた技で、そこからいくなら

ボクにやられた連中が兎のはずなのだが。

 

「……ちっ……あ、今のは気にしないで」

 

「今一瞬すごい殺意が見えたけど」

 

「気のせいだよ……気のせい。夏コミの件は

百合本買ってきて。R18指定のやつ」

 

「……あんたも、中々だねえ……」

 

失敬な。百合のどこが悪い。むさ苦しい男同士の

絡み合いより遥かに良いと思うのだが。

それにしても講習の件だが、

黒鉄君から学ぶことはなさそうに思える。

しかし、黒鉄君の弱点を探るにはうってつけの

機会と言えよう。

 

「……ぼちぼち、行くとしようかな……」

 

「夏コミの話?」

 

「違う……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近の気温は春のような陽気ではなくなり、

熱帯みたいな日本の夏の暑さが

随所に感じられる。

 

(これからどんどん暑くなるのか……辛いなぁ)

 

姉さまは大丈夫だろうか?ボクよりかはある程度

暑さに強いと聞いているのだが、いかんせん

心配である。何せ彼女、弱い所を他人に対して

見せたがらないからだ。

眠りながら寝言で「ごめんなさい」と泣きながら

呟いているところなんてたくさん見た。

だからこそボクは姉さまの元で姉さまの苦しみを

軽減してあげたいのだが……。

 

『おい、見ろよ。≪白兎≫がいるぜ』

 

『あの霊装なしで6戦全て勝ったって噂の?

まさかそんな訳ないでしょ』

 

『いや、俺一回彼女の試合見たけど、

殆どワンサイドゲームだったぞ?』

 

『嘘ぉ⁉︎霊装なしで⁉︎信じられない‼︎』

 

まあ、6戦全て霊装なしで勝ったとなれば

そりゃあ噂にも登るだろう。

今年入学した≪深海の魔女(ローレライ)≫や

≪紅蓮の皇女≫に比べれば幾分は劣るが。

 

そんな噂をあちこちで聞きながらもボクは

黒鉄君が行っているという剣や弓の講習を

している場所へと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、イッキ……」

 

ステラ・ヴァーミリオンは丁度一人の男子生徒を

教え終えた黒鉄一輝に向かって話しかけた。

 

「ステラ……気づいた?」

 

「ええ……」と二人は目だけでその方向を

確認した。

 

そこには、防寒具を纏った少女がベンチに座り、

コーヒーの味がする豆乳を飲みながら

こちらの様子を伺っていた。

 

「……」

 

それがただ見つめているだけならば二人とも

それほど気にはしないのだが、その少女は

二人へ向けて一種の殺気を放っていた。

およそひりつくような感覚が二人の背中を

刺激する。

 

「これだけの殺気……あいつ、一体何者?」

 

ステラはそう言いながら少女の元に

詰め寄った。

いつまでも殺気を放たれていてはおちおち

鍛錬も出来ないからだ。

 

「ちょっと貴女‼︎話したいことがあるなら

ちゃんと話しなさいよ‼︎」

 

そう言われて少女は、「……そう、じゃあ」と

言って話したかったことを話した。

 

「ボクは噂の≪落第騎士≫の強さを見にきた。

ただそれだけ」

 

「ボクの強さ?」

 

黒鉄が不思議そうな顔をして少女の方を見る。

少女はマフラーで隠された口角を吊り上げ、

笑った。

 

「そう。≪紅蓮の皇女≫に≪狩人≫を倒した

無名のFランク。注目されない訳がないじゃないか」

 

(注目はしてたけど本当は行く気なかったん

だけどね……)

 

少女は……白雪はそう思いながらも一輝に

向かってそう言った。

 

「大体同じクラスの人間の顔ぐらい覚えておいて

くれよ、≪落第騎士≫」

 

「同じクラス……?……あっ‼︎」

 

暫しの間考え込む様子をした後に一輝は

自分が相対している少女の名を思い出した。

 

「多々良白雪さんか⁉︎ごめん、思い出した‼︎」

 

「……いやまぁ、そんな話さないから

忘れられても文句言えないけどね?」

 

「というか貴女、強さを見にきたってことは

野次馬感覚で来たの?さっきのアレを出せるなら

選抜戦にも出てるはずよね?」

 

「一応は」

 

「どの程度の戦績か、もし良ければ教えて

くれないかな?」

 

「……無敗全勝」

 

一輝とステラは顔を見合わせた。

6戦もしていれば上位の生徒とも当たったはず。

それを屠る程度にはこの少女は強い事を

理解した。……先程の殺気でなんとなく強いとは

分かってはいたが。

 

「無敗って……だとしたらアリスみたいに

噂に登っても仕方ないと思うけど。

貴女の噂は聞いたことないわね」

 

「まぁ、アリスとかいう人だったか。

彼、イケメンだからね」

 

アリスと白雪は暁学園にて面識がある。

だが、一応知らない振りをして白雪は

話に相槌をうった。

 

「もしかして……≪白兎≫って白雪さんのこと

じゃないかな?」

 

「……ん。それだね、ボクの二つ名」

 

「 ≪白兎≫?何、それって?」

 

ここで一輝は自分が知りうる≪白兎≫の噂の

内容を話し、それを白雪が肯定した。

 

「霊装なしで全勝って……どんだけ強いのよ⁉︎」

 

オーバーリアクションで驚いているステラを

尻目に、白雪は一輝の方へと向き直った。

 

「で、本題に入るよ黒鉄君。

……ボクと手合せしてほしいんだ」

 

白雪の切り出した決闘。

 

「……分かったよ」

 

一輝は、それを首肯を以って受け入れた。

 

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