多々良幽衣の妹(自称)は平穏に過ごしたい   作:ストスト

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≪落第騎士≫との手合せ

破軍に点在するドーム型闘技場の一つ。

 

第二訓練場の中心に20、30mほどの間を空けて

黒鉄 一輝と多々良 白雪は対峙していた。

周りの観客席にはステラを含め数十名の生徒が

視線を二人へ向けていた。

一輝に剣を教えてもらいたいもの、元々

トレーニングに来ていた者が大半を占めている。

 

(……全く、すごいプレッシャーだ)

 

白雪は体中にビリビリと電流が走るような感覚を

覚えながらも、対峙している一輝を睨んだ。

やはり剣客のプレッシャーは一味違う。

だがしかし白雪も≪不転≫ほどではないにしろ

名うての凶手。この程度ではびびらない。

 

「多々良さん。本当に霊装なしでやるのかい?」

 

「……ボクの技術がどこまで君に通用するのかを

知りたいだけだから。破軍で一番近接戦が

強いのは君だとボクは思ってるからね」

 

それを聞いて、一輝は思わず苦笑いした。

この学園には前年度七星剣武祭ベスト4の

≪雷切≫や≪紅蓮の皇女≫などの強豪がいる中で

彼女は一輝が最強だと言い切ったのだ。

相当な買いかぶりだと思いながらも、

単純にそう思っていることに対して嬉しいとも

一輝は感じた。

 

「お互い、出し惜しみはなしにしよう」

 

「……そうだね」

 

そうして、≪落第騎士≫対≪白兎≫の模擬戦が

幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、先に動いたのは白雪であった。

すっ、と体を沈めて魔力による加速と共に

一輝へと襲いかかる。

その速さは疾風の如く速く、更に≪抜き足≫の

使用によって一輝には探知できなくなっている。

 

白雪はそのまま一輝の間合いを詰め、打突を

見舞おうとした刹那。

 

 

 

一輝の視線が自分を捉えていたことに気付き、

全神経を総動員して彼の間合いから逃げた。

直後、白雪がいたところに白刃の閃光が走る。

≪幻想形態≫の使用なので怪我はしないものの、

これがもし実戦であれば、そして白雪の判断が

もう少し遅ければ彼女の首は今頃飛んでいた。

 

(あ……ぶなっ……)

 

初見でこれを破られたのは白雪も初めての

経験ではないが、まさか破軍の生徒にこれを

破られるのは想定外であった。

一瞬背中に噴き出した冷や汗を気にしながらも

白雪は一輝に向かってニヤリと笑う。

 

「……流石。これ避けたの君が初めてだよ」

 

「さっきの歩法……≪抜き足≫だね?

ボクも前に一回同じようなものをやられたから

対処法はわかっている」

 

(抜き足って言うんだ……ニンジャ・ウォーク・ジツ

ではないんだね)

 

新しい発見をしながらも、白雪は再び一輝へと

≪抜き足≫を使用して襲いかかる。

 

『おいおい、また突っ込んでいくのかよ⁉︎』

 

『今度こそ斬り刻まれちまうぞーー‼︎』

 

野次馬から驚きの声、白雪の危険を案ずる声が

上がる。

≪抜き足≫は使えないことは白雪も重々承知の上だ。

 

(だからこそ、使う意味がある)

 

破られるという前提があるなら、更に別の

技術を以って突破するまで。

 

(≪落第騎士≫……これは見破れるかな⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(また使うのか、≪抜き足≫を)

 

一輝は懲りもせず再び≪抜き足≫を使用した白雪を

自らの霊装≪陰鉄≫を構えながら思った。

考えられるパターンは二つ。

単純に≪抜き足≫しか使えないのか、

それともまだ他にも隠し球を持っているのか。

 

(彼女の様子から恐らく後者の可能性が高いな)

 

まだ彼女の論理思考を≪完全掌握≫出来ていない

一輝は今回も後手に回る。

白雪は再び一輝の間合いに入りーーーーーー、

 

 

(ッーーーーーー‼︎)

 

次の瞬間今度は一輝が白雪の間合いから

逃走した。

だが白雪が繰り出したのはただの抜き手。

観客は何故一輝が逃げたのか理解に苦しんだ。

 

『おいおい、なんで逃げちまうんだ?』

 

『だよなあ。あのままいけたぞ』

 

その中でたった一人、

 

(……今のは一輝の判断が正解ね)

 

ステラ・ヴァーミリオンだけが一輝の行動を

理解していた。

白雪の攻撃を一輝が受けようとした刹那、

ほんの僅か(・・・・・)に一輝の動きが

鈍った。それによって一輝が防御するよりも

先に白雪の攻撃が直撃すると一輝は理解して、

彼女の攻撃が届かない範囲へと逃げる判断に

変更したのである。

 

「……どうしたの?顔色が悪そうだけど」

 

一輝の動きが鈍った理由を知っているのか、

はたまた一輝の顔色から察したのか、白雪は

一輝へ問うた。

 

(さっきの身体の不調は……⁉︎一体なんなんだ)

 

白雪が間合いへと踏み込んだ瞬間、目の前が

ぐらりと揺れ、強い偏頭痛に襲われた。

この状態では白雪の攻撃を防御するのは難しいと

判断して逃げたのだが、彼女の間合いから

逃れた途端に身体の不調が嘘のように消えた。

恐らくは彼女の異能か、または自分の身体の不調か。

だが目の前の少女はそんなことを考えさせる暇は

与えない。

 

「ちょこまかと……逃げないでよね‼︎」

 

白雪が再度一輝へと襲いかかる。

今度は≪抜き足≫すら使用せずに。

だがその速さは先程よりもずっと速く、

更に彼女が間合いに入ると必ず一輝を身体の

不調が蝕むために、一輝は防戦を余儀なく

強いられてしまう。

 

『おお‼︎≪白兎≫の方がなんか押してねえか⁉︎』

 

『頑張ってー‼︎≪無冠の剣王≫ー‼︎』

 

激しく勝負を繰り広げている両者。

観客の興奮のボルテージも戦いが長引くにつれて

上がってゆく。

 

 

 

 

(……まずいな)

 

そう思ったのは、一輝ではなく白雪の方だった。

本来なら、この手段を用いてすぐに終わらせる

手はずだったのだが、終わらせるどころか

まず触れられてすらいない。

ぎりぎりのところで避けられているのだ。

側から見れば一輝は追い詰められているように

見えるものの、一輝の顔には焦燥の色などなく

攻撃がいなされていることを否応なく

理解させられた。

 

(このままだと≪石化の魔眼(ガンド・ロック)≫の

副作用で眼がやばい事になる)

 

石化の魔眼(ガンド・ロック)。それこそが

白雪が≪抜き足≫と共に使用していた技術であり

一輝を襲っていた身体の不調の原因である。

 

北欧の地域に伝わる魔術「ガンド」。

それは指先から相手の体調を崩す魔弾を

放つ技(この時対象を指差すため“人を

指で指してはいけない”という由来が生まれた

のでは、という逸話がある)なのだが、

石化の魔眼(ガンド・ロック)はそれを

眼から放てるように改良した魔術だ。

……無論魔弾ではなく眼が輝く形で、だ。

効果範囲は本来のガンドに比べ遥かに狭いが

その分発動までの時間は短縮され、

範囲は狭まったとはいえ効果は変わりない。

 

と、一輝がふと、小さく呟いた。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

口元に僅かな笑みを浮かべて。

 

「ッ‼︎」

 

白雪が思わず立ち止まり、一輝を見た。

 

「白雪さん、今まで逃げ回っていてすみません。

……だけど、今理解した。だから今度は

僕が攻める番だ」

 

(石化の魔眼(ガンド・ロック)を破る方法を

見つけたのか⁉︎まさか、ありえない‼︎)

 

石化の魔眼(ガンド・ロック)は眼で見ることで

発動する特性上、逃げるのは難しい。

そして一輝には遠距離の攻撃法はない。

つまり、一輝は近接戦で白雪を攻められると

言ったに等しいのだ。

 

「だったら、見せてもらうよ。

黒鉄 一輝、君の実力を‼︎」

 

模擬戦が開始されてから初めて白雪が

本気を出した。

≪抜き足≫と石化の魔眼(ガンド・ロック)の併用。

これを破ることは並大抵の伐刀者では不可能だ。

……だが、今彼女の目の前にいるのは

並大抵の伐刀者ではない‼︎

 

一輝は迷わず白雪へと駆ける。

そして、彼が白雪の間合いへと入った刹那。

石化の魔眼(ガンド・ロック)によって

身体の動きを鈍らされ、その胸に渾身の一撃を

 

 

 

 

 

「……は?」

 

刹那、彼女が見たのは自分の横を通り過ぎる

一輝の姿。

だが、先程まで彼は彼女の目の前にいたはず。

 

……いや、と白雪は理解した。

先程、目の前にいたのは残像だと。

 

直後、防寒具のフードを掴まれて白雪は

コートの地面に叩きつけられた。

 

「第四秘剣ーーーーーー≪蜃気狼≫」

 

一瞬意識が飛び、再び白雪が目を覚ますと

鼻の先に切っ先が突きつけられていた。

 

「ダメだな、こりゃ」

 

ため息をついて、白雪は諸手を上げ降参した。

こうして、≪落第騎士≫対≪白兎≫の模擬戦は

≪落第騎士≫の勝利に終わったのだった。

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