ブラック★ロックシューター Kagero Symphogear   作:イビルジョーカー

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 遅くなってすみません(汗)

 二話をどうぞ!








第2話『交差する邂逅』 part2

 

 

 

 

 

 

 

シンタローにとって『ショッピングモール』という場所は一種の鬼門と言っていい。

 

 かつては、引きこもり生活を得意とする生粋のヒッキーであった故に『人が多い場所』という点でも苦手意識はあるのだが、それ以上に『強盗団による人質事件』に巻き込まれた経緯が過去にあった為、それがショッピングモールという公共の場を『最悪的印象』として脳内に焼き付けてしまった。

 

 しかしあの事件がシンタローとメカクシ団の邂逅であり、今の現状に至る始まりでもあったのは事実だ。その時はメカクシ団とエネのおかげで犠牲者もケガ人も出さず、一切全てにおいて事なきを得て強盗団は全員逮捕。

 

 一件落着なのはいいが、この一件でショッピングモールという場所が軽いトラウマになってしまったのは言うまでもない。脳内に焼き付くほどなら尚更だ。

 

 とは言え、あくまで『軽い』ものなのでこうして足を踏み入れられているのだが。

 

 しかし今回は前回と似たような状況のせいか、あの時のように何か良くない事が起こるのではないか。とシンタローは予感めいたものを心中に感じてはいたが、今は故障したパソコンに代わる新しいパソコンの目的の購入が最優先事項。

 

 一階のモール正面の入口から足を踏み入れたメカクシ団一行。

 

 その奥手前にあった目的の店舗を見つけた瞬間、根拠のない予感をとりあえず頭の隅へと追いやったシンタローは急ぎ足で店舗の中へ入っていく。

 

「あ、あの、お客様?」

 

「……」

 

 しかし入ってすぐ目に入った光景は、並ぶ電化製品の数々よりも一際目を引く奇妙な光景だった。

 

 白いカッパのような衣類を身に着け、フードで頭を覆い隠す怪しい人物ら二人が何も言わず佇んでいる。気になった女性の店員が声をかけているようだが無反応で、訪ねても何も言ってこないに何らかの動作を起こす様子も見受けられない。

 

 まるで、そういったオブジェクトのように佇むという気味の悪さを嫌という程に体現していた。 

 

「なんだ……あいつら」

 

「ん? どうしたのシンタロー君」

 

「……随分と怪しい格好の人たちがいるな」

 

 少し遅れて入ってきたキドとカノ。

 

 カノは何かを見ているシンタローを不思議そうに思い問いかけ、逆にキドはシンタローが見ているものに逸早く気付き、率直な感想を述べた。

 

「あれ、なんだろ……」

 

「う~ん……なんとも言えないっスね」

 

 続いて入ってきたセトとマリーも、白装束の異様な人物たちに気付き疑問符を浮かべた。

 

「撮影か何かか?」

 

「でもカメラはないみたいっす。それに何となく雰囲気もそーゆーのとは違う気が…」

 

 キドはドラマか、あるいはドッキリ番組の演出的なものかと疑った。しかしそれに対しセトはあの白装束が放つ異様なオーラを感じてか、そういったものとは違うと言う。

 

 そうして。ほんの数秒ほどメカクシ団一行がその異様な光景を見ていると、ようやっと白装束の内の一人が声を発した。

 

「一つ、聞きたい」

 

 開口一番はそんな問いかけだった。声は20代か30代辺りの普通の若い男性のそれだ。

 

 まるで機械的な無機質さを感じさせる淡白さ。それが気味の悪さを醸し出してはいるような声だったが、ようやっと喋ってくれたことに女性店員は安堵した様子で男の声に答える。

 

「はい、なん…」

 

 だが言葉は続かなった。

 

 男の、顔を隠していたフードの中から、『それ』が現れ一瞬にして女性店員の顔を覆い尽くしたからだ。

 

 グジュッ!

 

 まるで柔らかいものが容易く潰れるが辺りに響き渡る。

 

 それが一体何を意味するのか……見ていたシンタロー達には分かってしまった。

 

 潰れたのは否定しようもなく、紛れもない『女性店員の頭』だったからだ。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「お前はどんな味だ?」

 

 人間では、なかった。

 

 『それ』から発せられた男の声を聞き、混乱と恐慌が自身の脳へ襲い掛かろうともシンタローは、それだけでも何とか冷静に把握できた。そして状況を理解した上で改めて『それ』を凝視する。

 

 『それ』は、白装束のフードの中から…丁度顔のある位置から出てきた太く真っ白な肉のような不定形の塊だった。それが女性店員の

頭部を覆ったかと思えば、その凄まじい力の圧迫で彼女の頭を『グチャッ』と。

 

 まさにトマトのように容易く潰してしまったのだ。

 

 大量の血を吹き出しながら女性店員は床に倒れ込み、その命が確かに消失した事は骨格も肉も滅茶苦茶に潰された頭が何よりの証明であり、同時に殺した男が人間ではない何かであることを物語っていた。

 

 糸の切れた操り人形の如く事切れた女性店員を一瞥し、男は辺りを見渡す。

 

 周囲はパニック状態の一言に尽きる有り様だった。

 

 とても現実的ではない死に方をした女性店員に、彼女を殺した張本人である男の現実とは認識し難い殺し方。

 

 これを目の当たりにして冷静沈着に分析に耽れる人間など皆無に等しい筈だ。

 

「まったく。堂々と殺してどーすんのよ」

 

 3人いる白装束の中で女性と思わしき人物が鮮血に染まった白い肉塊をうねうねと気持ち悪く動かしている男に対し、言を投げる。

 

「いいだろ別に。聞くより直接『血』を味わった方が旨さが分かる」  

 

「じゃあ、なんで最初問いかけたのよ」

 

 呆れる他ないと。そう言いたげに溜息を吐きながら女性らしき白装束は言う。

 

「いいじゃん。遅かれ早かれこうするつもりだったんだし、気にしなくてもいいんじゃないかな?」

 

 三人目は、少年のような幼さを持った声の持ち主だった。

 

「じゃっ、始めよっか!」

 

 軽快な声の少年らしき白装束は、懐から白く丸いボールのようなものを取り出したかと思えば、そのボールから紫電のような光が放出された。その矛先には突然の事態に唖然として逃げ遅れた人間におり、光は一つの現象として感情なく無慈悲に牙を剥いた。

 

 光は、人体を覆い駆け巡ったかと思えばたった数秒の内に消滅。この間に人体の内臓部位……心臓や肺、脳など生命維持に重要なものを含む全ての臓器が多大なダメージを負い細胞が壊死。

 

 体内の臓器が黒ずんだ状態で機能を停止させ、一瞬の内に目立った外傷を与えることなく死に至らしめた。

 

「逃げるぞ!」

 

 人がありえない方法で、迅速に死を迎える。

 

 そんな異常極まる状況の中でシンタローはメカクシ団全員に発破をかける形で一喝。そしてすぐこの状況下で最適な判断を下した。

 

「キド! 俺達を隠せ!」

 

「!ッ」

 

 メカクシ団には、全員が共通して持つ異能の力がある。それは俗に“目にまつわる力”と呼ばれるものだ。

 

 ここではキドの持つ目の能力について説明しよう。

 

 キドは“目を隠す”力の持ち主であり、その効果は自分や一定範囲内にいる対象の存在感を極限まで薄くし、周囲の人間・動物・電子機器から認識されないようにすることができる。

 

 能力を緩めても存在こそ認識はされるが、顔も覚えていない他人程度にしか認識されない為に変装にも向いている。

 

 ただしデメリットもある。

 

・能力の範囲外の人間と接触した場合、能力が強制解除される。

 

・能力を使う時に相手が目を離していなければ、能力を行使してもその相手には姿が見えたままの状態になってしまう。

 

・長い時を一緒に過ごした家族などの相手に対し、能力を少しでも緩めてしまうと存在を認知されてしまう。

 

 以上のこれらがキドの目を隠す能力に関してのデメリットだと言える。

 

 ともかく。キドはシンタローの言葉に従い、明確な自らの意思をもって目を隠す力を発動させた。

 

 この時、彼女の瞳は“赤”に染まる。

 

 目にまつわる力の保有者が共通に持つ“能力発動中を意味する特徴”である。能力によってメカクシ団は全員隠蔽され、周囲の人間又は人外らしき白装束達からも自分達の存在が認知されなくなった。

 

 今、この場にいるメカクシ団はシンタローにモモ。キド。カノ。セト。マリー。

 

 以上の6人となっている。

 

 彼ら以外にも他にいるのだが、他のメンバーは諸事情から一緒には来ていない。

 

「な、なんだよアレぇぇッ?! ぜってー人間じゃねーよアイツ等ッ!!」

 

「知るかそんな事! とにかく今は逃げることだけに専念すべきだ!」

 

 先程の逸早く指示を飛ばした時とは異なり、パニックに陥り気味な情けない声を上げるシンタローにキドが怒鳴り返す。

 

 白装束が人間なのかそうでないのかなど些末な事に過ぎない。

 

 ならば、自分達に死を齎しかねない脅威から逃げる事だけを考え行動する。

 

 この一択に専念するべきがこの現状において、利口で合理的手段と言えるだろう。

 

 とにかく正面の入口へ目指し彼等は駆け走った。

 

「ぎゃあああーーーーッッ!」

 

「やめ…がァァッ!」

 

 かつて、大勢の人々で賑わっていたショッピングモールの一階全区画は“鮮血の舞踏会”と化していた。

 

 あの白装束が3人以外にも他に大勢いたらしく、その白装束達はただ無言で一切躊躇もせず無抵抗で何も成す術もない一般人を相手に容赦なく、一切の慈悲もないまま殺戮を演じていた。

 

 ある者は白色の剣のような棒状の武器で切り裂き、ある者は手から光球を生み出して身体を撃ち抜き、またある者は単純な腕力で即死同然の致命傷を与えていく。

 

 しかも最悪な事に目的の正面入口の前では白装束等がひしめき合う程の数で行く手を遮り、しかも殺した人間へと食らい付いて、その血肉を悦とばかりに貪っていた。

 

 これでは正面入口からの脱出は不可能と化した。

 

「う、うえぇ……」

 

 恐怖以外にない未知の存在が人間を喰らう。この異様な光景を前に思わず吐きそうになるのを必死に抑えるモモだが、それはメカクシ団全員も同じ思いだろう。

 

 彼らは至ってまともだ。

 

 確かに非凡と断言できる異能の力こそ持ってはいるが所詮は人の子。

 

 この地獄と称する他ない惨劇を前に平然余裕をかまして見せる程の豪胆、あるいは図太い神経をもってなどいない。

 

「ま、マズいよね~これ」

 

「……これでマズくないって、言える人いないっすよ」

 

 引き攣った笑みで言の葉を零すカノにセトが返答を口にする。

 

 確かにマズい状況だろう。だがその為に脱却すべき策も道具もない、この現状はドが付く程かなりマズい状況下には違いない。

 

「くそッ……近くの非常口から出るぞ!」

 

 シンタローがそう叫ぶ。

 

 外へ出られる希望を目前にして引き返さなければならないというのは、悔しさと共に気力を削られる思いだろう。

 

 そんな指示を出したシンタロー自身もそれを感じつつ、口から零れ出さないように噛み殺しているのだから尚更だ。

 

 もし今、ここで。

 

 何とか噛み殺して抑えている負の感情を投げやりのままに吐き出して、強行突破のつもりで突貫する。それ自体は簡単だろうがその後で状況が好転することもなければ、脱出が成功することなど万が一にもない。

 

 あるのは予想し得る限り最悪な結果に終わるだけだ。

 

 メカクシ団全員の能力はそのどれもが非戦闘向けと言っても相違ないものばかり……つまり、まともに戦えないという事を意味している。

 

 それを補えるだけの戦闘的な技と力があれば話は変わるかもしれないが、そも無理な話というものだろう。

 

 比較的平和で小さな紛争の一つもない日本という国で生まれ育った彼等が、己の非戦闘向けの能力を戦いでも十全に生かす事のできる戦闘技術や経験、知識、武器などを手に入れられる機会など皆無だったからだ。

 

 非凡な力を持つ以外では所詮、メカクシ団はそこかしこにいる一般人……その少年少女らのお子様集団に過ぎない。

 

 それを踏まえて、強行突破という手段がいかに無謀極まるものか。それを踏まえて冷静に考えているからこそ、シンタローはこのまま何もせず引き返し新たな出口を探す選択肢を出したのだ。モモやキド達に反論意見はない。

 

 メカクシ団全員が正面入り口から背を向け、引き返そうとしたその時。

 

 凄まじい衝撃と閃光がその場を飲み込んだ。

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆ 

 

 

 

 

 シンタローたちがいるショッピングモール。

 

 そこで尋常ではない、予想すらできないような異常事態に陥っている頃。

 

 その場所を特定すること叶わぬ暗黒の一室では、一席の座に腰を下ろす少女らしき人影と、うさ耳のようなものを取り付けた少女の人影が相対していた。

 

「なぁ~に? 『フォメトス』が勝手に部隊を動かしただと?」

 

「……どうにもやることが無くて、憂さ晴らしの為の独断行動に至ったらしい」

 

 パッと。光が闇を一切払い二つの影だった少女たちの姿を曝け出した。

 

 まず、“フォメトス”という名前らしき単語を口にした少女は実に鳥を彷彿とさせる容姿を成していた。

 

 両腕は羽毛に覆われた鳥の翼のそれと化し、下半身の両脚は逆関節となっており菱形状の黄色い鱗が皮膚を隠している。更に足首から下もまんま鳥のものと大して変わらず、指には鋭利な爪が研がれた刃の如く鋭利に輝く。

 

 しかし全部が全部そうであるわけではなかった。

 

 頭と胴体は紛れもなく人間の少女と変わらず、純白のフードジャケットの下に黒のノースリーブを着ていて腰には計6本の黄のラインが縦に入ったスカートを履き、髪は灰色に前の方に左右黒のメッシュが入っていた。

 

 彼女の名は『バード・スラッシャー』。

 

 地球の存在する宇宙空間とは異なる次元の空間世界『クシロロ』に存在する闘争主義組織『ハクト』所属の幹部であり、その役職は空軍における全権限を一任する『航空将官』に就役している。

 

 ついでに言えば、その航空戦術における実力は追いつく者を出させない程に本物なれど、持ち前の臆病な気質と矮小極まる小悪党な性根のせいで、実力を十全に出せないのが残念な所。

 

 その上人望もあまりないのが悲しい。

 

 そんな彼女が面倒臭そうな顔を張り付かせて、相対している巨大な機械の両手両腕の少女に“どうにかしろ”と言いたげな視線を送る

機械的巨手の少女……ハクトの幹部にして参謀の『ナフェ』は頭部両サイドに取り付けられた聴覚センサーの端末をピクッと動かし、“それはこっちの台詞だ”と叩き返すばかりの鋭い視線をバードに飛ばした。

 

「……アレは、お前の部下だった筈」

 

「うっ……」

 

 中々痛いところを突かれた。

 

 まさにバードの心情は、これだけで容易く言い表せるものだった。

 

 バードの部下はハクトの空軍の兵以外にも実はおり、主に味方の航空部隊の支援・援護を担当している部隊だ。今回の一件はその支援部隊の隊長格の者が勝手に部隊を動かし、人間社会で騒動を巻き起こしているというものだった。

 

 当然、部下の暴走を止めるのは上司たる者の務めであればこそ、事態の収拾はバードに一任されるべきなのだ。

 

「分かった、分かったよ! なんとかすりゃいいんだろ?」

 

「当然。さっさとやれ」

 

 ヤケになった風な口調のバードに対し、冷たく坦々と指摘し述べるナフェ。

 

 重い腰を上げて飽々した様子のバードは小言をぶつくさ呟きながら、部屋を後にする。それを最後まで見送ったナフェはすぐさま通信で自らの師であり、自分達幹部を管理・統制する元帥へと報告する。

 

「こちら参謀ナフェ。管理元帥ザハ。応答求む」

 

《聞こえている。一体何用だナフェ》

 

 通信先の声は、重厚な威厳さを含ませた壮年の男性だった。

 

「バードの奴が、いえ、正確に言えばその部下がストックの社会域で問題を起こしました。事態収拾の為バードを向かわせましたが」

 

《よい、お前の考えは分かっている。バードだけでは心許ないのだろう。偵察部隊と隠密部隊の出動を許可する。我等が総督はまだ先の戦いでの傷が癒えない身。故に些細な規模であっても問題なぞ決してならぬ》

 

「承知致しています。では…」

 

《頼んだぞ、我が弟子よ》

 

 通信を終え、ナフェはすぐさま行動に移した。

 

 同じ幹部の失態の尻拭いの為に……。

 

 

 

 

 

 







 うちのナフェは優秀&忠誠度100%。バードは狡猾&反骨度100%。

 コンビとしては最悪だけど、根の方では何やかんで認め合っている節があるのか反発が原因での大事には至っていないんです、不思議と。


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