ブラック★ロックシューター Kagero Symphogear 作:イビルジョーカー
「ッッ……いてて……何が……!!ッ」
シンタローが目を開けると、自分はいつの間にか床に伏していた。
他のみんなも同じ様な体勢で気を失っており、さっきの衝撃で多少吹き飛ばされたのかバラバラに距離を離されてしまっていた。
更に目を引くのは、その先だ。
先程まで白装束らが群がっていた正面入口は、もはや大穴と称す他ない形状と化し、大小様々な瓦礫やガラスが周囲に散乱。
まるで何らかの爆発によって為されたような惨状へと変貌していた。
いや、原因こそ不明だが少なくとも爆発によるものであることは惨状から見て間違いないだろう。
しかし今はそんな事など問題ではない。
キドが失神し、能力の効果範囲外に皆が出て来てしまった以上皆の姿は他者に目撃されてしまう。
「や、やば……グゥゥッ!!」
立ち上がろうとしたが、突然背中に何かを押し付けられる様な感覚と共に強制的に地へ伏せ戻されるシンタロー。
そんな彼の鼓膜に声が届く。
「ん? なんだこいつは?」
何とか頭を動かして視線を上へ向けると、そこには異様な風貌の男性らしき人物が自分の背に足を乗せ踏みつけていた。
異様な風貌、と一口に言っても色々とあるが男性は漆黒のフード付きコートを纏い、赤く妖光な瞳から出る鋭利な視線をシンタローへと向けていた。
いや、瞳ではなく、赤い光そのものというのが正しいだろう。
何故ならその顔は……皮膚も肉も、眼球さえない獣の様な髑髏のそれだったからだ。
「ヒィィッ!!」
「おいおい、そんな怯えるなよ。
それより見ろよストックのガキぃぃ。この、美しい破壊を!!」
やけにハイテンション気味に叫ぶ黒装束の異形は、踏みつけていたシンタローへご高説を述べたくる。
「俺が愛し信奉する力……そいつは『爆発』よォォッ!! いいもんだぜ爆発は! 何もかもを纏めて吹っ飛ばしちまうんだから、こいつはもう破壊っつー概念を頂きまで特化させた破壊という概念の終着点!!
!!」
狂ってるだろ、こいつ。
陽気高らかに意味不明な言葉の羅列を垂れ流す異形の姿はシンタローにしてみれば、まさに狂気という言葉の二文字を置いて他になかった
。
そして、ある事実を導き出した。
「まさか、これって……」
「そうだ。俺の爆発だよ。まぁ、小規模だがそれでも俺の爆発は芸術的の一言に尽きる。見ろよ、さっきまで出入り口があったところを。見ろよ! 群がってた俺の足どもを吹っ飛ばした威力を!! こいつはぁ、パーフェクトにクールインパクトだろうがァ!!!」
もはや支離滅裂。常人には理解しかねる言動の数々はシンタローの頭には入ってこない。
だが、それでも分かることがあった。
先程の衝撃、光、轟音。それらによって引き起こされたこの惨状は、全てこの髑髏の男の仕業であること。
そして『俺の足ども』の台詞から、あの白装束の集団はこの男の手下だったこと。
この二つが導き出す答えは『ろくでもない』、この一言に尽きる。
「お前……自分の部下を……」
「んん? なになに? 教えてもないのに分かっちゃった系か?」
髑髏男は首を曲げて疑問系とでも言いたげな様子だ。
「確かにあいつらは俺の部下だ。でもな、いくらでも替えがいるんだよ。だから余裕で吹っ飛ばせる。俺の芸術的爆発をより華やかにする為のついで、でな!!」
そこに罪悪感だとか何からの深い思慮がある…など存在しない。
さも当たり前を語ったのみで、彼からしてみればちょっとした世間話を口にしてみた程度の認識でしかない。
人間ではない。改めて、シンタローはそれを確かに感じた。
仕草口調などは人間と大して変わらないが、それを否定する冷たく情に欠けた思考性。
人間でもサイコパスと呼ばれる人間のそれとは思えないような、まさしく悪魔の如き感性を持つイかれた人種を指す言葉だがそれは眼前の異形にも言えるだろう。
故に言葉で待ったをかけても無駄だ。
幼き子の命乞いも、BGMとして聴きながら殺しを平然と実行する殺人鬼。
そんなサイコパスと同じ存在なのだ。
「んじゃ、もののついで……だ。お前を爆破のアートに着飾らしてやる!! ありがたく思えよォォォォッッッ!!!!!」
声をシャウトさせ、とんでもないことを言ってのける髑髏男にシンタローは全身の流れ出る汗がより増したかのように錯覚した。
このままでは、死ぬ。
如月伸太郎という一個の命が今、訳の分からぬ状況の坩堝で消え失せる。
本人が恐怖しないなど有り得ない。
シンタローが言葉を発する前に髑髏男がその足を退けてシンタローの顔を掴み上げ、宙吊りの状態で天へ掲げる。
まるで至高の神に捧げる生贄のように。
「俺のアーマメント術式……つっても分からんか。まぁ、超能力って思っとけ。
俺の能力は『触れたものを爆弾に変える』、『爆発の威力そのものを放出できる』、『任意次第でいつでも爆破できる』……こんな感じだ。で、俺は今お前に触れている。この意味が分かるよな!!」
「がっ……!!」
顔を掴む手に力が込められる。ミシミシと頭蓋骨が軋むような音を僅かながらも立てて、それ故にシンタローは苦痛に苛まれる。
「あ、一つ言い忘れていたな。俺の爆弾、あるいは爆破の力は俺自身には何の影響もダメージもない。まぁ〜当然だろうな。毒虫が自分の毒で死んじゃ意味ねーように、俺が俺の能力で死ぬなんざ有り得ねーよなァァ!!」
更に力を込める。
苦痛が増し、木っ端微塵に散り果てる自分の未来の姿に心が仄暗いの絶望に支配されかける。
こんな訳の分からぬ状況の中で死ぬ。
シンタローにしてみれば想像なんてしていなかったし、死ぬ覚悟もできやしない。
それでも、覚悟を持とうが持たないとも、今自分が死ぬ事実に変わりはない。
(クソが……こんな、こんな訳の分からねーことで死ぬのかよ俺……)
絶望は心にとって最大の毒だ。
一度蝕むと隅々まで心を崩壊させ、その意志をへし折る。躊躇なく。
だが……。
バリィィィィン!!!!!
偽りでも何でもない。
「な、何だァァッッ!!」
「ッッ?!」
確固たる希望は、この上もない対絶望の特効薬だ。
「ロック……ファイア!!」
天窓のガラスを割り、降って来たのは一人の少女。
青いファイアーパターンが刺繍された漆黒のパーカーに身を包み、黒髪のツインテールを波のように揺らす彼女は、その手に持った大砲の砲身のようなものを髑髏男とシンタローに向ける。
そして、凜とした少女の掛け声が合図になったのか。砲身からフットボールに似た楕円形の岩石のような青い光弾が放出され、一直線に髑髏男とシンタローへと迫る。
「チィィッッッ!!!!」
このままでは拙いと思った髑髏男は、シンタローを光弾への当て身とする為に彼を迫り来る光弾へと投げ付けた。
「うわァァァァァァーーーー!!!!!!」
いきなり投げられ、しかも光弾が確実に当たるという恐怖から叫び声を力一杯腹から絞り出すかのように叫ぶシンタローだが、それは無意味に終わった。
光弾が、シンタローに当たることなく軌道をくねりと捻じ曲げ、髑髏男の方へ向かった。
「ぶべぁぁッッ!!!!」
光弾は計三発。
一つが顔面、残り二つが胴体腹部に直撃した髑髏男は間抜けな声を上げて後方へと盛大に吹っ飛ぶ。
その間、宙へ投げられたシンタローを抱き寄せるように片手でキャッチした少女は、結構な高さだった筈なのに無事着地を決めて見せた。
「ふぅ。大丈夫?」
「……………あ、ありがと……って!?」
間を置いたものの、何とか声を絞り出して礼を述べるシンタロー。
少女は無表情だが何処か安堵しているように見える。やがてシンタローは自分が抱き寄せるようにして抱えられていることを思い出し
、すぐさま少女から離れた。
「とにかく、ここは危険だから他の子たちと一緒に安全な場…」
一旦言葉を断ち、シンタローを押し退ける形で再び砲身から青い四角状の光弾を放つ。
光弾は飛来した瓦礫のカケラと衝突、軽度だが爆発を起こした。
「いってぇぇんだよ、クソが。俺ぁぁな、自分の芸術タイムを台無しにされるのが、一番むかつんだよォォッッ!!!!!」
いくつかに積み重なった大きめの瓦礫から、ゆっくりと顔を出すように立ち上がったのはあの髑髏男だった。
死んではいなかったようだが、それでもコートの胴体腹部は焼けたような穴が開き、顔はフードの部位が消失して全貌を嫌というほど見せつけていた。
やはり肉食獣のそれに似た髑髏の顔。ここまではいい。ただ、その後方両サイドに二つの鹿に似た黒い角があり、正確な大きさは不明。
何故なら、その角はゆっくりとだが人間の目でも分かる速度で大きくなっているからだ。
「食らいやがれ! インパクト・ボーン!!」
技名らしき単語を叫ぶ髑髏男は、大元から枝分かれした角の一部一部を鋭利な針へと変えて射出。
一直線に二人へと向かって来る。
「おいおい!! アレ、食らったら……ッ!!」
「大丈夫。ふんッ!」
人体なぞ軽く吹っ飛ぶ威力の爆発力を秘めた角の飛来針。
当然そんなものをこちらへ投擲されて焦らないほどシンタローの肝は豪胆でないし、何より迫る危機を理解できないわけではない。
よって、こうして情け無さ全開の慌てた様子に陥っているわけだが、同じ状況に置かれているはずの少女は至って冷静。
何故か? 簡単なこと。
この程度のことは、彼女にとって修羅場の内には入らないほど矮小な障害だからだ。
少女は力強く息を吐き出すように力強い声を上げる。
同時に左目の瞳に青炎が灯され、大砲の砲身のような武器に青い光のラインが浮かび上がる。
すると瞬く間に砲身はギゴガゴと音を立てて各パーツが組み変わり、変形していく。
やがて黒い砲身は、円形を取るように並んだ銃口を有するガトリングへと完成を遂げる。
この間、僅か0.05秒。
黒い角の飛来針よりも早かったおかげで、迫り来る飛来針は銃口から連なる無数の実弾で撃墜。食らうことはなかった。
「もうすぐ来る私の仲間と一緒に安全な場所へ避難して。勿論、君の友達も」
「あ、あんたは?」
「奴を仕留める。アレは私の……いいえ、私達クロワの敵である“ハクト”。ここで奴を排除しない限り罪なき人達が死んでしまう」
「ロック〜!!」
軽快そうな声と共に真上、割れた天窓から3人の人影が舞い降り、床へと着地する。見た所は少女のようだが、しかしその風貌は異様奇天烈の一言に尽きた。
まず、一人目は黄色いウェーブのように波立つ、ふんわりとした黄色の髪の少女。
黒を基調に白をサブとしたゴスロリ似の格好で、両手は黒い外骨格に覆われ異形のような風を呈している。頭部には王冠に似た黒い飾りを付けており、両脚もまた両手のように黒い外骨格だが、こちらは生物的な有機要素はなく、むしろ機械的な無機要素で構成。更に目を引くのは両脚の先……本来なら足首があるはずの部位には一般的な車のタイヤに近いサイズの車輪ローラーが備えられている。
二人目は、もう一人と車輪少女と比べて小柄な体躯だがそれを思わせないほどに目を引かれるのは巨大な一対の両腕。
チャリオットのような有機的な外骨格ではなく、こちらは機械のそれだ。髪は白髪で浅い褐色の肌を持ち、黒いノースリーブのパーカーを纏いフード部位を被っているが髑髏男と違い顔を隠すほどではない。
最後の3人目、外見は背中部分を開いた漆黒のワンピースドレスを身に纏い、骨格を彷彿とさせる尖端が緑色に染まった角を頭から左右一対に生やしている。背中の腰部には鎌の刀身のような部位が存在し、その部分も角と同様、先端半分が緑色で彩られている。
「先に行かないで! リーダーに何かあったら困るよ」
「ごめん。でも事は一刻を争うから」
「まぁ、何はともあれ指示を頼む『ロック』。
今すぐこいつ等をぶちのめしたくて、拳が疼いて仕方ない」
「そう血気盛んにしないの。で、指示は?」
「チャリオットとデッドは彼等をお願い。私とストレングスでハクトどもを鎮圧する」
車輪少女の『チャリオット』。
角の少女の『デッドマスター』。
鉄拳少女の『ストレングス』。
彼女等と他愛もない会話を交わした後、ツインテールの少女
『ロック』は、己が武器を敵へ向けた。
「さぁ、戦いの時だ!!」
多分、今年最後の更新になります。
今まで築いて来たものが何かしらの理由で崩れて、また一から始める
のってやはり大変だな、と。
しみじみ思います。来年の抱負は『注意深く、確認、絶対』なんてのがいいですかね。