ブラック★ロックシューター Kagero Symphogear 作:イビルジョーカー
遅くなってしまいましたが8話です。どうぞ!!
「な、何なんだアレは……」
S.O.N.G.作戦司令室
移動本部の中に設けられたそのルームでは、大型のモニターから外の様子を捉えた映像を見て、その場にいる誰もが戦慄した。
一騎当千と規格外の強さを誇るS.O.N.G.の司令官こと“風鳴弦十郎”も同様だ。
強敵と言っていいあの自動人形を難なく、虫を潰すかの如く呆気なく破壊してしまった。
それだけでモニターに映る白き少女がいかなるものなのか、一瞬にして理解せしめた。
「何処の馬の骨か知らねーが、味方って雰囲気じゃなさそうだな……
」
「私も同意見だ。このままでは切歌と調が……ッ!」
「お待たせしました!!」
焦燥。不安。この二つが装者達やスタッフの皆全員を掻き立てる中に一つの声がドアの開く音と共に響いた。
「“エルフナイン”!!」
「ギアの修理が終わったのか!」
翼がエルフナインと呼ぶ少女はクリスの言葉に対し真剣な面持ちで頭を縦に頷く。
オートスコアラーの策略とアルカノイズの力によって破壊された翼とクリスのギア。その待機状態である赤い結晶体のペンダントを見せることで、修理が終わったことへの証拠をしかと見せつける。
しかしそれだけではない。
シンフォギア強化計画“プロジェクト・イグナイト”により、2人のギアは相応のリスクを伴うものの、新たな力を内包していた。
☆☆☆☆☆☆☆
失望。最初に、直でそれを見て思った感想がそれだった。それ以外になかった。
戦闘面に特化した自動人形…それは自分達の保有する特殊技術“アーマメント術式”に似た技術である“錬金術”の叡智をもって作られたものらしい。
が、蓋を開けて見ればこのザマ。
あの赤い小娘のような機体は他の青と緑、黄のオートスコアラーに比べ戦闘特化型だと。
確かにそう報告を受けた。
“こんなものが戦闘特化? 笑いを通り越して呆れる他ない”。
心内に漏らした愚痴にも聞こえるミカの評価は散々だった。
ならば、シンフォギア装者である切歌と調はどうなるのかと問えば同じ様なものだった。
手加減しても、保って3分か5分。
本気を出せば……それこそ1分も掛からない秒速さで肉塊へと変えられる。
それが白き少女、いや、ハクト総督“ホワイト☆ロックシューター”の見解だった。
「さて。あの人形は塵芥に還ったがお前達はどうする?」
ホワイトはその紅蓮の瞳から殺気の視線を放ち、切歌と調を捉える。
とうの2人は身動きができず、ただ冷たい汗が額から顎へと流れ落ちていく。
勝てない。
そんな言葉が2人の中に無意識に浮かんで来てしまうほどに、その戦意は殆ど削がれてしまっていたのだ。
「どこまでやれるか、試してみるか?」
口の端を釣り上げて凶悪な笑みを見せるホワイトは、照準を正確に2人へと定める。
そして、あの赤い閃光を放とうとした瞬間。
エネルギーのチャージをやめ、ホワイトは立っている建物の位置から地上へと飛び降りた。
側から見れば何事かと思うかもしれないが、ホワイトのいた位置に無数の赤い弓矢が降り注ぎ爆発。
威力は大した程ではないが、もしアレが危険性を有する攻撃だった場合を鑑みれば回避は当然の行為だった。
「何処の馬のヤッコさんかは知らねーけどな、大事な後輩に手を出してただで済むと思うなよ」
「貴様が何者なのか、ここに問わせてもらおう!!」
日本刀型のアームドギアを構え、青を基調としたパワードスーツ…“天羽々斬”を纏う音符のような髪型をした青髪の少女こと風鳴翼。
真紅に染まるイチイバルを纏い、両手に同色のボウガン型のアームドギアを装備した癖毛の混じった銀髪の少女、雪音クリス。
後輩の危機に馳せ参じた青と赤の戦姫が今、ここに復活を果たした。
「雪音センパイ!!」
「翼さん!!」
切歌がクリスを、調が翼の名を叫ぶ。
その声と表情は喜びに満ちたもので、先ほど味わった恐怖は未だ完全には拭い去れていないが、それでも少しはマシなものとなっていた。
「おっと。戦う気満々のところ申し訳ないが、今回は話があって来たのだ。先程のアレはジョークに過ぎん。あの人形を排除したのは話し合いに邪魔なんでな」
「話し合いだぁ? 随分とふざけた事言ってくれるじゃねーか」
「……何を話し合うつもりだ?」
警戒を解かない装者全員。その中で翼は相手の真意を問う。
ホワイトは、ただでさえ悪質な笑みを深める。
「まずは、私がどのような存在なのかを話そう。私の名はホワイト☆ロックシューター。この世界とは違う異世界の知的生命体ハートレスで、私はそのハートレスの組織“ハクト”を束ねる者だ」
「異世界だと? バカな……」
「信用できないのは仕方ないと思うが、先程の攻撃を見れば判断はつくだろう。アレは、貴様等で言う所のシンフォギアや聖遺物などの異端技術、または現代科学で作ったものではない」
疑心を剝き出す翼や他の装者達の目を逸らさず、虚言を言わぬと自信堂々とした顔で彼女は続ける。
「そも、現代科学では不可能。そしてアレが異端技術由来のものではないということはお前達がよく分かる筈。どうせ今頃解析などで調べているのだろう?」
『業腹だがそいつの言う通りだ。解析結果は聖遺物でもシンフォギアでもない、まったく未知のものだ』
本部から通信で送られる弦十郎の声は、彼女の言葉を思う所はあれど
、認める答えだった。これでホワイトの言葉を虚偽の妄言と断ずることはできなくなった。
「ここまではいいな? 話し合いというのは実に簡単なこと」
“貴様らのシンフォギアを渡すか、我が組織の傘下に加われ”
「「「「!!!!ッッッ」」」」
シンプルな二択一択の要求。
それは4人の心内に驚愕という一言に染まるほどの衝撃も同然な内容
。
そして、到底首を縦に振ることのできるものではなかった。
「どういうことか、言を頂きたい」
「三度は言わん。貴様らの持つシンフォギアを黙って献上するか、我が組織ハクトの支配下に加わるか。この二択の内一つを選べと言っている」
決して冗談ではない。
そう断言できるほどに虚偽を捲し立てる様子はなく、隠そうともしていない威風堂々たる雰囲気。
無論、雰囲気では明確な証明にならないが……それでもそう感じさせる何かがあった。
「貴様等は…ヒトモドキに過ぎないストックとしておくのは惜しい器と信念、合理的な面からすれば戦闘能力は雛子に過ぎないが、磨けば相応に輝き価値を見出せる原石の持ち主。それ故の誘いだ。無理ならばシンフォギアを寄越せ。我々が有効活用してやる」
言葉から臭わせるのは、まるで自分達は今の現状では弱いと吐き捨てる“嘲笑”と“侮蔑”。
そして相手の気持ちを容易く虫かゴミのように踏み躙っては潰すかの如き“傲慢”。
切歌と調はあの恐怖で実力の差を思い知らされてしまった為、強くは出れないがそれでも悔しそうに歯と歯を食い縛る。
しかし、それ以上に看過できない者達がいた。
エルフナインのおかげで新たな力を得た翼とクリスだ。自分達のみならず後輩にまでも他愛ない雑魚な存在と見下す姿勢、それを前に憤怒を抱かないほど“先輩”をしていないつもりはなかった。
更に言えば……クリスはめっさ短気な部類だ。
「さっきからピーチクパーチクと言ってくれるじゃねぇか。アタシ等からの返答はこれだァァッッッ!!!!」
叫ぶクリス。
答えだ。と言ってばかりに放つのは、一発のミサイル。形状はトマホーク型のそれに近く、威力で物を言えばトマホーク以上。
そんなものを真正面から食らったのあれば、敵もただでは済まされない。
“普通の敵”なら……。
ガシィィッッッ!!
「……分かった。ならば是非もない」
ミサイルは爆発せず、その際に生じる衝撃と炎の嵐に巻き込むことなくホワイトの片手によって容易く無力化させられた。
「なっ?!!」
「バカな……ッ!」
「て、手で受け止めたデスか?!」
「……ッ」
そしてその事実に驚愕や畏怖やらを四者四様とばかりに顔に出す装者達に対し、ホワイトは不思議そうに可笑しいとばかりに口元を緩ませる。
「フフフ、何を驚く? あまり知られていないだけでこの位やってのける者はいるだろう? どれ程いるかは分からないが」
「そんなビックリ人間ショーなんざお断りだァァ!!ッ」
自分達の司令がまさにそのビックリ人間の体現者とも言うべき人な為、あまり否定はできないのだがそんなことなど露知らず、吼える
クリスは更なる追撃に打って出る。
「蜂の巣にしてやらァァ!!」
ボウガンだったアームドギアを4門式のガトリング型へと変形させて赤弾の雨を飛ばす。
その名も“BILLION MAIDEN”。
一斉掃射という攻撃仕様の為、集団で群成すの敵に対し有効に立ち回れる他、敵が単独の場合でも凄まじい弾圧でもって身動きを封じるので役立つ。
「面白い。まずは貴様から潰してやる赤娘」
ミサイルを後ろへと紙屑のように軽々と放り捨てたホワイトは赤弾の雨によって生み出される弾圧を受けながらも難なく急速に接近。
ダメージは愚か、傷もない状態でホワイトはクリスの懐へと入り込んで腹部を殴りつける。
「ガハァァッッッ!!!!」
「吹っ飛べ」
ホワイトの言葉通り、是非を問わず。成す術もなくクリスは吹き飛ばされた。
ギキィィンッッッ!!!!
「くっ!!」
「己を乱さず、的確に“妾”の首を狙ったのは良い点だ。しかし……遅い」
首を取ろうと迫る刃を紅蓮の炎と共に現出した黒刃の白刀で、しかも下手人である翼を見ずにしかと防いで見せた。
「だから雛子と言ったのだ。未熟極まる!」
「ぐあぁぁッ!!」
翼の刀を力で押し退け、その隙にホワイトの白刀が斜めと横に翼を切り裂く。
身に纏うシンフォギアの保護機能とホワイトの手加減によって外傷はないものの、受けたダメージは生半可なものではない。
翼は何もできず、ただ無様に倒れ伏してしまう。
この間で僅か1分。
もはや言うまでもなく力の差は歴然だった。
「なんだもうお終いか?」
「勝手に決めるなデス!!」
怒気を乗せて吐き捨てるように叫ぶ切歌は鎌を振るい、袈裟の切り方で入り一撃。しかしその一撃は白刀で防がれ、更にそこから二撃三撃と激しい打ち合いを繰り広げる。
切歌が斜め横から上へ振り上げるように斬りかかるのなら、ホワイトは白刀で円を描くように振るいエネルギーバリアのような半透明の膜を一時的に出現させて防ぎ、一撃を繰り出す。
それを何とか紙一重で躱し、今度は左右横薙ぎと上下縦薙ぎによる十字の連続切りで行くが、ホワイトは難なく白刀で防いでいく。
とここで調がヘッドギアの左右のホルダーからアームの付いた巨大な2枚の回転鋸を出現させて斬りかかる。
γ式・卍火車。
本来ならばアームを外して投擲する技だが、アームを付けた状態での白兵戦も可能な為に接近タイプの技でもある。
片手は刀を握り、切歌へ注意を向けているし空いた手で防がれたとしても、一つで二つを防ぐ術などない。だから二人は思った。
“勝った”と。
「……それで終いか?」
しかしそれは幻想に終わった。
「なっ?!」
「デェェスッ?!」
あっという間だった。
巨大な丸ノコの二つが線を何本も引かれたようにバラバラに分断され、金属の破片と成り果てた。
「これでも落としたのだがな……それでも見えなかったか?」
「ガァッ!!」
だがそれに終わらず、血を吐き、身体中からも血を吹き出して倒れる調。
「調ェェェェッッッ!!!!」
親友の名を叫ぶ切歌。
それが隙となってしまい、鎌を刀で弾かれた直後からの一閃を腹部に受け、浅くも横一線の大きな傷を貰ってしまった切歌も調と同じく地に伏してしまう。
「アアッッッ!! うぐっ……し、調ぇぇ……」
「月読! 暁! おのれぇ……」
「てんめェェッ!! ただじゃおかねぇぞ!
!!」
意識のない調の手を取り、ポロポロと目前の現実に涙を流す切歌。自分の傷など御構い無しだ。
そして大事な後輩を手にかけたホワイトに翼とクリスは憤怒の情念を松葉杖代わりに立ち上がり、殺気を向け修羅の如き形相で睨む。
「いい顔をするな。だが吠えるな。今でさえ弱いのにもっと弱く見えてしまうぞ?」
あくまで余裕綽々にして、威風堂々の姿勢。
傲岸不遜なる態度。
そして、それらを崩せないほど手強い。
イグナイトを使えば勝てる可能性はあるものの、ダメージの多い今の状態ではどうなるか分からない。
「ひっく…調ぇ……しっかりするデスゥ…」
溢れる涙が止まらなかった。
それでも切歌は大切な親友の名を呼ぶ。
「誰か…調を…センパイたちを…私の大切な人たちを……助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!」
「その思い、確かに受け取った!!」
一つの声と共に一筋の蒼き閃光が迸った。
ご感想あれば、是非よろしくお願いします!!