【完結】二回目の世界とメアリー・スー   作:ネイムレス
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第九話

 キールのダンジョンを攻略してから数日。本日は朝から冒険者ギルドの片隅に陣取って、良いクエストが無いかの見張り番を言い渡されている。

 待機の任に当たるのは、金髪の女騎士とフードの召喚士の二人。魔法使いの少女は所用があるとかで、行先は告げずに出かけて行った。

 そして、待機を命じた最弱職の少年もまた、青髪女神と共にとある店舗へ赴いている。何でもスキルポイントが溜まったので、バランスの悪いパーティを補える様な、有効なスキルを習得して来るのだそうだ。

 そんな訳で現在は絶賛暇を持て余し、女騎士と召喚士は盤上遊戯で無聊を慰めていた。

「ん……。アークウィザードの前にクルセイダーを移動して守らせ、その後に魔法で敵前衛を薙ぎ払う……」

「ダークプリーストの支援魔法により魔法耐性を増加。ガーゴイルの弓兵により後方のアークウィザードを刈り取る。チェックは掛けずに、そのまま戦闘を続行。クルセイダ―の攻撃をオーク戦士に耐えさせ、こちらも魔法攻撃を開始する」

「うぐ……。ロー、お前本当にこのゲームをやるのは今日が初めてなのか……?」

 戦績は現在、召喚士が有利。初めの内は駒の役割も知らなかった召喚士だったが、負け続ける度に女騎士の戦術を覚え、改良しながら反撃に出る。持って生まれた知能の高さが、知的遊戯にコレでもかと発揮されていた。

 現在は逃げ回る王を無視して、周りの戦力を削り捲ると言う嫌がらせを敢行している。女騎士も必死に頭を悩まさているが、駒の数が倍近くの差が出ると反撃のしようが無かった。

「くっ……、初心者に教えていた立場から一転、追い詰められて嬲られるこの状況……。しかもクルセイダ―がオークに嬲り者に……くぅんっ! なかなかやるな、ロー!」

 召喚士は嬉しそうに負ける女騎士に、ニコニコと笑顔を向けるばかりである。なんせこうでもしないと女騎士は負けを認めないので、途中から容赦と言う物は投げ捨てられた。ちなみに女騎士は、途中での降参を認めてはくれない。どうあっても屈辱的な負け戦になるまで粘るので、召喚士にとってはもうほとんど接待の様な状況だ。

「ふう……、また良い勝負をしてしまったな。時間も結構経ったし、私はまた掲示板を見て来るとしよう」

 一人だけホクホクと喜びに頬を緩ませた女騎士が、スキップでもするかの様に軽やかな足取りで掲示板に向かう。ようやく接待から解放された召喚士は、珍しく疲れた様子でほうっと大きく息を吐いていた。流石に五回も六回も、殲滅戦ばかりはしたくない物であろう。

「災難だったね。ダクネスもあの癖が無ければいい子なんだけど……」

 そんな疲れ気味の召喚士の背後から、明るい調子で語りかけてくる者が居た。椅子に腰かけたまま振り向いてみれば、そこに居たのは銀髪の盗賊職の少女。その胸は平坦であった。

「やあ、お久しぶり。覚えてるかな、前にカズマにスキルを教えた時以来だよね」

 召喚士はもちろん覚えている。こんなにも特徴的な人物を忘れられるはずもない。思わず指を指しながら、記憶にある特徴をそのまま口にする。

「お久しぶり、カズマにパンツ盗られた人」

「クリスだよ、クリス! っていうか、その話はやめて!」

 あらん限りに叫び声を上げて、テーブルをバンバン叩いて自己紹介する銀髪少女。名前はもちろん知っていたが、あえて言わなかった召喚士はご機嫌である。

 まったくもうと疲れた様子を見せながら銀髪少女は召喚士の向かい席、いままで女騎士が腰かけていた場所に腰を下ろした。挨拶に声を掛けただけでは無く、何かしら用事がある様だ。友人である女騎士になら分からなくも無いが、ほぼ面識しかない召喚士に何の用があるのだろうか。

「いやあ、この間の魔王軍幹部との戦いでは大活躍だったそうだね。聞いたよ、城壁みたいに大きな召喚獣で、洪水から町を守ってくれたんだってね。その、ありがとう」

 何の用かと素直に訪ねてみれば、お礼が言いたかったとの事。しかし、何故彼女からお礼を言われねばならないのかは分からない。その事についても突っ込んで聞いてみると、先輩がどうのとごにょごにょ言ってから、結局は誤魔化されてしまった。

「ま、まあ、要件の一つはこれでお終い。それで、もう一つなんだけど……」

 そこで銀髪少女は言葉を区切った。言い難いと言うよりは、まるで覚悟を決めるかの様に表情を引き締める。

「メアリー・スーって名前に聞き覚えはないかな?」

 召喚士は少女の唇から紡がれた単語に、口元をにやっと歪めさせた。それを見て、銀髪の少女の視線がスッと細められる。

 メアリー・スー。言葉の意味だけで考えるならば、それは人の名前と言うのが一般的だろう。更に言えば、これは二次創作における符号の様な物でもある。創作者の自己投影とも言われる、限りなく蔑称に近い物。

 銀髪の少女はどんな意味を持って、この単語を使っているのだろうか、召喚士にはわかりかねる。

「君って黒髪に黒目だよね。この辺じゃ珍しい、一部では有名な人達の特徴に似ている……。君はもしかしたら、ニホンジンって奴なんじゃないかな?」

 まるで探りを入れる様に、慎重に言葉を選びながら尋ねて来る銀髪少女。召喚士はその言葉に首を振って応えるが、少女の疑惑は晴れなかったらしい。

「君の使っている召喚術、非常に珍しい物だよね。アレって、誰かにもらった物なんじゃないのかな……。例えば……」

「……女神様からの贈り物、とか?」

 召喚士が少女の言葉を代弁し、反射的に少女がガタッと腰を浮かせる。そんな過剰な反応にも、召喚士は喉の奥でクックックッと笑って喜んでいた。

 笑う召喚士に一方的に警戒する少女と言う絵面だが、一触即発の空気は召喚士が言葉で崩す。両手の掌を見せひらひらと振り、降参の意志を見せながら。

「僕はニホンジンではないし、この召喚術も自前の物だよ。君が何を探って居るのかは分からないけど、そんなに警戒しないで欲しいな」

 ニヤニヤと信用出来そうも無い笑みを浮かべながら言う召喚士に、銀髪少女は何とか気持ちを落ち着けて浮いた腰を下ろした。値踏みする様な視線はそのままだが、今すぐ飛び掛かって行くつもりは無い様だ。

「物語は、眺めている方が好きだよ。誰かの居場所を奪うなんて、僕の趣味じゃないな」

「……君はやっぱり――」

 召喚士の言葉に反応した少女が言葉を返そうとして、ハッと何かに気が付き途中で口を噤ませる。

 召喚士が視線を掲示板の方に向けると、女騎士が掲示板の確認を終えてこちらに戻ってくる姿が確認できた。銀髪少女も同じ様にそれに気が付いたのだろう、追及の言を止めて盤上遊戯の駒を指先で転がしている。

「ん……。クリスではないか、久しぶりだな。息災の様で何よりだ」

「やほー、ダクネス。そっちも、新しいパーティにすっかり馴染んでるみたいだね。ちょっと妬けちゃうなー」

 女騎士が戻って来る頃には、銀髪少女は何時もの明るい調子に戻っていた。先程まで見せていた剣呑さを隠しきった、大した演技力である。微塵も険を感じさせずに、友人同士の会話を楽しむ。

 昔からの友人同士会話が弾むかと思ったが、銀髪の少女は次の用事があると言い立ち去る素振りを見せた。去り際に召喚士に対して、にこやかな笑顔で告げるのを忘れない。

「今日は有意義なお話をありがとね。今度会った時に、メイド服の女の子の事も紹介してよね」

 そんな事をウインクと共に告げて、銀髪の少女は風の様に去って行った。召喚士はそれを笑顔で見送り、手まで振って見せる。表面上は穏やかだが、二人は静かに冷戦へと突入したのだった。

「相変わらず、忙しない奴だ。たまに会った時ぐらい、ゆっくりして行けば良いのにな」

「まあ、あの様子なら直ぐに、また会う事になるんじゃないかな?」

 女騎士は飽きれながらも、どこか嬉しそうに友人を語る。それに返す召喚士は、何処までも適当であった。緩く緊張する素振りも無く、いつも通りにんまりと笑って余裕を見せる。

「カズマが納得しそうな依頼も無かった事だし、まだまだ待機時間は長くなりそうだな。わ、私は一撃がきつそうなのや、大群に囲まれる奴は歓迎なのだが……」

 そう言うのは、最弱職の少年に言って貰いたい。大仰に肩を竦める召喚士であった。

 

 

 結局、最弱職の少年がギルドに顔を見せたのは、半日過ぎた昼頃になってからだった。その頃には出かけていた魔法使いの少女もギルドに顔を見せており、一足先に安い定食をモリモリと貪っている。

 他の面々も各々昼食を頼み、卓を囲んで腹を満たしている場で、最弱職の少年は出先での出来事を語り、そしてこれからの行動予定を提示してきた。

「幽霊退治のクエスト、ですか? 現場が屋敷の中だと、爆裂魔法の出番はありませんね」

「アクアの悪戯で動けなくなったウィズの代わりに、か。それで報酬の代わりに屋敷に住んで良いとは、何だかウィズに悪い気がするな」

 話を聞いた魔法使いの少女は自らの出番がないと言うのに、今回は以外にも冷静であった。否、話よりも食事に夢中でそれどころでは無いだけなのかもしれない。今日も、彼女の口元は食べかすだらけである。

 そして、女騎士の言葉の中に出て来た青髪女神は、自らの名を呼ばれてびくっと肩を竦ませた。傍若無人の女神様にも、一端の罪悪感と言う物はあるらしい。

「何にしても、これから本格的な冬が来る前に、居住問題が解決するのはありがたい。おいアクア、普段役に立たない分、今回はきっちり働いてもらうからな」

「わ、わかってるわよ! って言うか、この高貴な女神様を役立たず扱いとか、甚だ不敬なんですけど! 謝まりなさい! 女神様、御免なさいって! 謝って!」

 罪悪感を紛らわせるためか、最弱職の少年に青髪女神が噛み付いて、何時ものいがみ合いが始まる。口で少年に勝てるはずも無く、直ぐに泣いて黙る事になるだろうが、それでも女神にも譲れないものがあるのだろう。

 そんな日常の光景を見て、召喚士は決心した。今までは出来なかったが、言い出すならばここしかない。

「すいません、ミード……蜂蜜酒ください」

「おまっ! 昼間から飲んでんじゃねー!」

 待機の間は自制していたのだから、これぐらいは許してほしい。召喚士は少年の叫びを馬耳東風、運ばれてきた酒杯に嬉しそうに口を付ける。それを見た青髪女神も酒を注文して、収拾がつかなくなって行く。

 そんな風にワイのワイのとしながら、作戦会議を兼ねた昼食は賑やかに進んで行った。

 

 

 問題の幽霊が出ると言う元貴族の屋敷は、アクセルの街中心部から外れた郊外に建っていた。幽霊屋敷の悪評が付いているとは言え、元貴族の別荘は最弱職の少年の知る一軒家とは比べ物にならない程に大きい。不動産屋の話では部屋数が少ないとの事だったが、今のパーティメンバー全員を住まわせても尚部屋は余る規模であろう。

「ふふん、なかなか立派なお屋敷じゃない。女神たるこの私が住むには相応しい所ね」

「ほわー……、今日からここに住んで良いのですね。なんかこう、わくわくしますね!」

 屋敷への仲間達の評価は上々。青髪女神は自らに相応しいと豪語して、普段は冷静な魔法使いの少女も今日ばかりは年相応に興奮で頬を赤らめていた。召喚士は郊外まで来るのに疲れたのか、いつも通り狼の上でぐったりしている。

「外門は、仕掛け等は特に無い様だな。カズマ、門の下側に杭があるから、それを持ち上げてから一緒に動かそう」

 女騎士はこう言った屋敷には慣れているのか、門の開け方などを少年等に教えてくれたりと、意外な教養を見せて周囲を驚かせた。彼女は普段からも立ち居振る舞いに気品を見せる事があり、とても普段からいじめられてハァハァしている人物とは思えない。

「とりあえず、中の様子を見てみようぜ。幽霊も出るとしたら夜になってからだろうし、もし出て来たらアクアに任せれば大丈夫だろうからな」

 屋敷に入って行った一行は、うきうきと各々の部屋を決めてから清掃に移った。日も既に傾き掛けていたので、宿泊の準備に取り掛からねばならなかったのだ。

「見える……。見えるわ、この屋敷に住み着いている幽霊の姿が。この私の霊視によるとこの屋敷には、昔貴族がメイドとの間に遊び半分で作った女の子の幽霊が――」

 ちなみに、主に夜に活躍するであろうと期待された青髪女神は、玄関先で霊視を開始して只管胡散臭い事を話し続けている。いつまでたっても霊視と言う名の設定披露が終わらないので、放置して先に屋敷内へ入ってきてしまった。荒唐無稽な細やかな設定を聞いて、少年達は本当に信用して良いか悩み始めてしまった程だ。

「定期的に清掃は行われていた様ですね。これなら、そんなに時間はかからず住める様になるでしょう」

「屋敷全体の掃除はまた明日にしよう。今日のところは、とりあえず寝られる様にだけすれば良いだろう。フフッ、仲間達との共同生活とか、なんかもうドキドキするなあ!」

 そんなこんなで青髪女神を除いた一同は、屋敷の窓を開け放ち簡単に埃を落として寝具の準備を進めている。女騎士は家事自体には不器用さを見せているが、そのテンションは初めて友達の家にお泊りする乙女もかくやであった。

「はあ……、やっと一人の空間が手に入ったな。別にやましい気持ちは無いけど、思春期男子には雑魚寝はきつい物があるよな。別にやましい気持ちは無いけど」

 少年もやはり個室が嬉しいのか、イソイソと自分の部屋を決めて荷物を運びこんでいた。長い馬小屋生活では、心休まる暇も無かったのであろう。

「レベル五召喚。へーちゃん、出番だよ」

 案の定、呼びだされたオッドアイのメイド服。今回はレベルが高くなって姿が幾分か成長して、幼女から少女に少しだけ背が伸びている。長い黒髪は今回は両サイドで縛られてツインテールとなっていた。

 彼女は何を言われるまでも無く、諦めた表情で背中に背負った掃除道具で埃と戦い始める。彼女の戦場は長い間放置されていた台所。作戦目標はキッチンを機能させる事であった。初級魔法を駆使して、室内で激戦が繰り広げられる。

 それはそれとして、最後に全員で大きな暖炉のあるリビングの清掃を始めた。流石貴族のお屋敷と言った所か、なかなかの広さでソファーも完備している。人の集まれる場所を用意しておくに越した事はない故、仕上げとばかりに全員で取り掛かった。

「ふー……、ここがひと段落したら今日は飯食って寝るか。もうすっかり日も暮れたな――げっ!?」

 換気の為に居間の窓を開けた最弱職の少年が、なにやら奇妙な声を上げて凍り付く。その視線の先には、未だに霊視を続けてペラペラと喋り続ける青髪女神の姿が……。

「名前はアンナ・フィランテ・エステロイド。好きな物はぬいぐるみ人形、そして冒険者の冒険話! でも安心して、この子は悪い幽霊じゃないわ。おっと、子供ながらにちょっぴり大人ぶって、甘いお酒を飲んだりしてたみたいね。お供えするならお酒を――」

 パタンと少年の手によって窓が閉じられる。そんな背中にどうしたのかと仲間達が声を掛けるが、少年はかぶりを振るばかりで何も答えはしない。

「見なかった事にしよう……」

 そういう事になった。

 

 

 若干一名を除いた掃除の後に、機能を取り戻した台所を使って簡単な食事を済ませた一同は、今日はもう就寝してしまう事にした。青髪女神は掃除が終わってからノコノコとやって来て、置いて行かれたのを一人でプリプリ怒っていたが、そんな事は食事をしている間に忘れてしまう。おそらく思考が食べ物で埋め尽くされた為だろう。

 彼女の選んだ部屋は全員が食事をしている間に、呼びだされたメイド少女が死んだ魚の様な眼をしながら清掃してくれた。何も問題なく、一同は床に就く。

「ああああああああ!? わあああああああーー!!」

 そんな全員の寝入り端を叩いたのは、つんざく様な青髪女神の悲鳴であった。

 何時に無く深刻な悲鳴の上げ方をしていたので、仲間達は寝間着姿にも構わず慌てて彼女の部屋へと集まる。ジャージ姿の最弱職の少年が扉を開けると、その中には果たして酒瓶を抱きかかえる青髪女神の姿があった。

「ふえええええ、カジュマあぁぁぁぁ……」

「えっと……、俺には空の酒瓶を抱えて泣いてる様にしか見えないんだが、一応何があったのか説明してみてくれ。酔っぱらって奇声を上げたとかだったら、頭からクリエイトウォーターぶっかけて目を覚ましてやる」

 割り合い本気で心配して駆け付けた少年は、物凄い微妙そうな表情で唇を引き結んでいる。そんな状態でも一応話を聞いてあげる彼は、きっと女神並みの慈悲の心を持って居るのだろう。

 そして話を聞いてみれば、青髪女神は楽しみに取っておいた高級酒を、知らない間に悪霊に飲まれてしまったのだと言い張った。そして、このお酒が如何に貴重で、如何に楽しみにしていたのかを力説する。身振り手振りも付いた、正に魂からの訴えである。

 幽霊がお酒を飲むのかとか、借金があるのにそんな高級な酒をどうやって手に入れたのかとか、いろいろ聞きたい事はあったが、それを問い詰める前に青髪女神は部屋を飛び出して行った。酒を飲んだと思しき悪霊を、目についた端から浄化して来るらしい。

「そうか、じゃあお休み。また明日な」

「もう結構遅い時間なんですから、勘弁してください……」

 最弱職の少年と魔法使いの少女の二人は、欠伸を隠しもせずに各々の部屋へ戻って行った。面倒見のいい少女まで帰って行ったのは、おそらく眠気に勝てなかった為だろう。

 残されたのは意外と可愛らしい寝巻の女騎士と、何時もと変わらないローブ姿の召喚士のみ。今日は何かと縁が在る組み合わせである。

「ふむ。私もクルセイダー、聖職の端くれだ。微力ながら、アクアを手伝ってやろうか。ローはどうする?」

「楽しそうだから、付いて行こうかな」

 二人が連れ立って部屋を出ると、青髪女神の姿は既に無かった。そう広い屋敷でもないが、既に日も落ちて久しい夜の廊下に紛れては、人一人探すのは億劫そうである。

 だが、そんな心配は杞憂に終わった。

「『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『花鳥風月』ぅ~! 『ゴッドブロー』オオオオッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッ! 『ターンアンデッド』ッッ!!」

 屋敷全体に響き渡る青髪女神の奮闘の声。これならば、何処に居ても簡単に見つける事が出来るであろう。とりあえず声を頼りにして、応援の二人は歩きだした。

「今、宴会芸スキルが混ざって無かったか?」

「きっと間に宴会芸を挟むと、次の技の出が速くなるんだよ」

 そうして追いついた時には、青髪女神はぜーはーと肩で息をして大変お疲れ気味であった。アレだけの勢いで魔法を連発していたのでは、声の出し過ぎて息が切れるのも無理はない。

「順調の様だな、アクア。二人だけだが加勢に来たぞ」

「あら、ダクネスとローだけなの? お子様なめぐみんは仕方ないとしても、カズマは一体何をしているのかしら」

 追いついてきた二人に気が付くと、青髪女神は最弱職の少年が居ない事に怒り始めた。彼女的には、従者である少年は手伝って当たり前だと言う考えがあるのだろう。

「カズマとめぐみんは寝たよ。まあ、あの二人は幽霊相手には有効なスキルが無いから、問題は無いと思うけど」

「まったくカズマさんったら、女神の信徒としての自覚は無いのかしら。麗しい女神様だけを働かせて、自分はグースカ寝てるなんて、不敬よ不敬!」

 少年はあっさりと眠りに着いたと召喚士が伝えると、女神の怒りは光の如く加速して、それはそのまま悪霊にぶつけられる事になる。

「こうなったら、ダクネスとローだけでも手伝ってもらうわ! このまま屋敷中の悪霊を浄化してやるわよ!」

「もちろんだ。依頼の事もあるし、眠る時間が無くなるまでには終わらせてしまおう」

 無論、ここに居る時点で手伝わないと言う選択肢は無く、二人はそれを快諾した。寝間着姿ではあるが、女騎士の気合は十分である。

「レベル十召喚。出番だよ、ヘーちゃん」

 やる気があるのかないのか判然としない召喚士は、ニコニコと笑顔のままで召喚魔法を使う。呼び出されたのは、狼や蛇では無く、赤青オッドアイのメイド少女。今回もまたレベルが上げられた事により、背が伸びてより成長を見せていた。小柄な魔法使いの少女よりも、既に身長は超えて容姿も大人びている。髪型は右側だけのサイドテールだ。

「ふーん? その子を見るのは初めてね。どんな事が出来るのかしら」

 呼びだされたメイドの娘を前にして、青髪女神は初対面でも何時もの様に尊大に振る舞って見せていた。が、途中で何かに気が付いたのか、首をひねってスンスンと鼻を鳴らしている。まるでメイド娘から、嫌な臭いでも嗅ぎ取ったかの様に。

「うん? アクアはまだ会った事が無かったのか? 彼女はローの身の回りの世話を、以前から色々してくれている様だったが……」

「会った事は無いわね……。ねえ、それよりもその子ってもしかして、アンデッドとかだったりしないわよね……?」

 女騎士も女神も別々の意味で訝しげにしているが、どちらも視線は召喚士へと向けられる。視線を向けられた方は、にっこりと笑顔で答えた。

「もちろんアンデッドだよ」

「『ターンアンデッド』ッッ!!」

 答えを聞くが早いか、青髪女神の浄化魔法が炸裂しメイド娘が浄化の光に包まれる。それを見て慌てたのは、前々からメイド娘を知っている女騎士であった。

「あ、アクア!? いくらアンデッドだからと言っても、仲間の召喚獣にまで問答無用とはあまりにも容赦がなさすぎるぞ!」

「るっさいわねぇ、アンデッドなんてこの位するのが丁度良いのよ。それに御覧なさいな。この子、私の浄化魔法にピクリとも反応してないわ。ロー、アンタまた私達をからかったでしょ」

 言われてびっくりな女騎士が顔を向けると、メイド娘は健在で二度びっくり。召喚士は女騎士の様子にご満悦だが、メイド少女は死んだ魚の様な眼でそんな召喚主をぼんやり見つめるばかりである。

 からかわれたと理解した女騎士に頭を掴まれてミシミシ締め付けられながら、召喚士はとても安らかな笑顔でメイド娘の正体を教えてくれた。

「うふふふ、この子は半分死んでいて半分は生きている。暗く冷たい氷と霧の国の住人だよ」

 ちなみにメイド服を着せているのは、それを本人が嫌がっているから。プラーンと片手だけで吊り上げられながらも、嬉しそうに自らの召喚獣に施した嫌がらせを語っていた。とんでもない主人も居たものである。

 と、件のメイド娘が廊下の奥をちらりと見やると、主人を吊り上げていた女騎士の手を引いてサッとその陰に隠れた。戸惑った女騎士がつられて視線を廊下に向けると、なんとその顔面に飛んできた壺が直撃。陶器が砕ける音と共に、女騎士の悩まし気な喜びの声が廊下に響き渡る。

「んはぁん! な、なんと言う雑な扱い……」

「ポルターガイスト!? 生意気に、浄化されまいと反撃してきたのね。この麗しの女神様に、悪霊如きが良い度胸じゃないの!」

 パカァンと見事な音を立てて粉砕したそれは飾られていた調度品で、廊下のの奥から独りでに飛んで来た様に見えた。それを悪霊の仕業だと看破した女神はすぐさま反撃の構えを取る。

 しかし、女神が魔法を放とうとした時には、メイド娘が掌を向けて悪霊が居ると思しき場所に魔法の光を放っていた。直撃した悪霊を強制的に天へ昇らせる聖なる光。

「ヘーちゃんは魔法と名の付くものはほぼ使えるんだ。だから、このパーティでは戦闘には出して無かったんだよ」

「ああああ、アンデッドの癖に半分アンデッドの癖に浄化魔法が使えるですって!? 生意気よ、生意気だわ! なによ、私の方が支援でも浄化でも役に立てるんだから!!」

 どうして今まで青髪女神に会わせなかったのか、女騎士はその理由を一瞬で理解した。嫌がらせのタイミングを計り、ここぞと言う所で暴露して青髪女神を涙目にしたかったのだと。ニヤニヤと、実に幸せそうに笑う召喚士を見て確信していた。

「こうなったら、どっちが悪霊を多く倒せるかで勝負よ! 見てなさい、この女神様の力を見せ付けてやるわ!!」

 そうして始まった、悪霊退治と言う名の争奪戦。飛び交う浄化魔法、けたたましく騒ぐ自称女神。そんな光景を見やりながら、女騎士はしみじみと悟る。

 ああ、これは朝まで寝られない展開だ――と。

 

 

 深夜近いと言うのに騒がしい事を除けば、除霊作業は至って順調に進んでいた。浄化魔法を使える戦力が二人も居るし、攻撃自体は出来ないが霊の位置がなんとなく分かる前衛も居る。若干一名は戦力外だが、ゴーストバスターには過剰戦力と言っても過言では無いだろう。

「はぁ……はぁ……、ようやく数が減ってきたか。先程の様に、集団で纏わり付かれる攻勢が無くなってきたな」

 そう言って頬を上気させながら嬉し気に言う女騎士は、メイド娘に借り受けたハタキを装備して前衛を務めていた。文字通り体でポルターガイストから味方を護り、途中から大量のアンティーク人形に乗り移った悪霊に全身這い回られてとても元気である。何でも、動けなくされた後に、体中を弄り回されるのが堪らないんだとか。

 競い合う様に悪霊を浄化し続けた為に、流石に出会う頻度が減少してきた。そう思い狩場を一階から二階へと移そうかとしていた所、その二階から雑巾を引きちぎるかの様なけたたましい悲鳴が響いてきた。

「……今のはカズマか。かなり深刻そうな悲鳴だったな」

「まったく、しょーがないわねぇ……。カズマさんを助けて、この私のありがたみを教え込んでやりましょう!」

 そんな事を言って、返事も待たずに駆け出していく青髪女神。何だかんだ言って、自分の有用性を売り込みに行きたいらしい。

 そんなこんなでまずは、悲鳴の聞こえて来た最弱職の少年の部屋へと向かう。そこで出迎えてくれたのは蠢く人形達。どうやら少年はこれに襲われて、既に部屋から逃げ出したらしく姿が見えない。

「『ターンアンデッド』ッ! っと……、カズマさんったらどこに行ったのかしら。せっかくこの私が、直々に来てあげたって言うのに」

「ん……。おそらく、抵抗手段が無くて逃げたのだろう。めぐみんも似た様な状況だろうから、一応部屋を確認してから探しに行った方が良いだろうな」

 居ない物はしょうがないと、とりあえずは魔法使いの少女の部屋に寄ってから探索を再開しようと意見が纏まる。しかし、青髪女神はなぜかその場から動かずに、じーっと少年の部屋のベッドを眺めていた。

「どうした、アクア? まだ室内に悪霊が残っていたのか?」

「いいえ、違うわ。ねえねえダクネス、男の子ってやっぱり自分の部屋のベッドの下には、恥ずかしい物を隠したりするものなのかしらね?」

「うえ!? そ、それは……。だ、だめだぞアクア! 勝手に人の部屋を漁るなど、プライバシーの侵害と言う物だ!」

「なぁによう、ちょっと位いーじゃないの。それにダクネスは興味ないのかしら、カズマさんがどんな娘が好みなのかとか、どんな汚らわしい妄想をしているのかとか。これは弱みを握るチャンスでもあるのよ!」

「えっ、あ……う……、それは……。いいや、駄目だ駄目だ! 騎士としてそんなハレンチな振る舞いは……」

「ダクネスの振る舞いなんて、今更だと思うんですけどー」

 話が長くなりそうだったので、メイド娘は心底どうでも良さそうにため息を吐きながら、一人で魔法使いの少女の部屋を確認しに向かった。召喚士は目の前のコントに夢中で、口元を抑えて笑いを堪えているので動けない。

 程なくして、メイド娘が部屋主の不在を確認し戻って来ると、残して来た三人は興味深げにベッドの下を覗き込んでいる。女騎士も好奇心には勝てなかったらしい。メイド娘、再び盛大なため息。

 そして、そんな馬鹿な事をしていると再び悲鳴が響き渡った。

「はっ!? しまった、ついアクアの口車に……」

「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでちょうだい。ダクネスだって興味津々だったじゃないの」

「二人とも、たぶんカズマとめぐみんが一緒に襲われてる」

 確かに聞こえてきた悲鳴は二人分。少年と思しき声の他に、甲高い少女の物も一緒に聞こえていた。

 こんな事をしている場合じゃねぇ――と召喚士の指摘で気が付いた一行は、悲鳴の聞こえた方を目差して部屋を飛び出していく。少年はともかく、あの気丈な魔法使いの少女が悲鳴を上げるなど、ただ事ではないからだ。

 悲鳴のした方向に加えて、悪霊の対処を求めるだろうと鑑み、二人の居るのは青髪女神の部屋かと当たりをつけて急行する。辿り着いてみればそこは既に、ドアが開け放たれてもぬけの空。既に二人は別の場所に逃げ出してしまったらしい。

「ああもう、じれったいわねえ。さっきから空振りばっかりじゃない。こうなったら屋敷全体に結界でも張ってやろうかしら!」

「お、おい。そんな事をしたら、無害だと言っていたこの屋敷の地縛霊の女の子まで浄化してしまうんじゃないか?」

 置き土産の様にわさわさと蠢く人形達が数匹居るばかりで、とうの本人達が居ない事に青髪女神が苛立つ。それを諌めている女騎士だが、内心では魔法使いの少女が心配で焦れているのは同じだろう。

「こういう時、カズマならどうやって敵をやり過ごす?」

 今まで何をするでもなく、ただ後を着いてきていた召喚士が久々に口を開く。そして、その言葉にハッとして女騎士と女神は互いに顔を見合わせる。

「カズマは潜伏スキルを持って居るが、アンデッドや悪霊の類には通用しない。ならば、物理的に立てこもれる場所を選んで逃げ込むだろうな」

「ヘタレヒキニートのカズマさんなら、わざわざ立ち向かうなんてことはマズしないわ。きっと鍵の掛けられる所に、めぐみんと一緒に引きこもっているはずよ」

「付け加えるなら、この部屋みたいに窓のある部屋は避けるだろうね。いざという時に、敵の来る方向を限定する為にも、外から見られる可能性を下げる為にも」

 この屋敷の中で自室以外で、鍵の掛けられる場所はそう多くない。その上、敵に追われている状態で視線が通る場所に逃げ込むとも思えない。慎重過ぎる臆病な性格で、石橋を誰かに叩かせる最弱職の少年ならばなおの事である。

「身を隠せるものが沢山あって、尚且つ鍵の掛けられる窓の無い場所……。……物置か!」

「難しい事はよくわかんないから、とりあえずそこに行きましょう!」

 今の推理に根拠などは無い。だがなんとなく、少年ならばそうしそうだという信頼がある。ならばあとは行動あるのみだと、一行は二階の物置をしらみつぶしにして行った。

 幾ら広い屋敷と言えども、物置部屋はそう多くない。そして少年少女が襲われている以上、この上ない目印がそばに居る筈だ。

 果たして、探していたものは見つかった。蠢く不気味な人形が、大挙してドアにぶち当たっている物置部屋を。

「アクア、私が引き付けている間に頼む。『デコイ』ッ!」

「纏めて片付けてやるわ! 『セイクリッド・ターンアンデッド』ッッ!!」

 女騎士がスキルを使って敵を集め、青髪女神の強力な浄化魔法が悪霊の宿った人形をまとめて光に包む。無論、人形に集られている女騎士もまとめて包まれるが、浄化魔法は人間には無害であるため人形だけがぼとぼとと落ちて行く。女神の魔法から逃れた取りこぼしは、メイド娘が浄化魔法を連射して駆逐する。召喚士は全力で観戦だ。

 程なくして、物置部屋の前に居た人形達は全滅した。その中心で青髪女神がどんなもんだと胸を張る。アンデッドが相手ならば、実際この女神の実力は比類なき物だろう。

「よーし、部屋の中で蹲ってぶるぶる震えてるカズマさんに、盛大に恩を売りつけるのよ。もしかしたら、感謝してお酒の一つも奢ってくれるかもしれないし!」

 そんな自分に都合の良い事を言い放ち、ドアノブに手を伸ばす。周囲の仲間達は苦笑して、そんな様子を見守っていた。活躍したからご褒美が欲しいとは、何ともこの自称女神らしいモノである。

 たったったーっと子供の様に無邪気な笑顔で扉に駆け寄り、そしてドアノブに手が届くかと言った瞬間――

「だりゃあああ! 掛かってこいや、人形共!! あとでうちの狂犬女神けしかけてやっかんなああああっ!!」

 そのドアが内側から勢い良く開け放たれ、女神の顔面を強かに打ち据えた。無防備な所への攻撃で、哀れ女神は一撃でノックダウン。目を回して人形達とご一緒に床の上で伸びてしまった。

「お、おいアクア! 大丈夫か!? しっかりしろアクア!」

 女騎士が慌てて声を掛けるも反応は無い。メイド娘も何が起こったのか理解できず、驚きに目を丸くしている。召喚士は面白い物が見れたので、指を指しながらけらけらと笑っていた。本日一番の大笑い。

 一方、扉を開け放った最弱職の少年は、自分がしでかしてしまった事を察して顔を引きつらせている。他の面子も、もう言葉すら出ない。何ともグダグダな結末と相成った。

「あの……、皆が居るという事はもう悪霊は退治し終わったという事でしょうか?」

 そんな場の空気を控えめな声で断ち切るのは、最弱職の少年の背後から現れた魔法使いの少女。何故かパジャマの上だけの姿で、ズボンを履いていなかった。上着の裾を握ってもじもじして居るので、下着すら履いていないのかもしれない。

 そんな格好の少女と物置部屋で一体何をしていたのか、そんな視線が少年へと突き刺さる。特に女騎士は表情を引き締めて、割とご立腹であった。

「まて、落ち着け。俺達はトイレで襲われて、そこから逃げて来ただけだ。誤解するんじゃない」

「そんな事より、誰か一緒にトイレについてきて欲しいのですが……」

 必死に弁解する少年を押しのけて、少女がオズオズと手を上げながら申し出て来る。付き添いはメイド娘に任せる事になり、二人は連れ立って廊下の奥に消えて行く。

 そして、残された者達は――

「……暗がりでめぐみんの下履きを脱がせて、あげく二人きりで何をしていたのか、きっちり話してもらおうか」

「何にもしてねえよ! おまえ、俺達がどんだけ必死に人形達から逃げ回ってたと思ってんだ。トイレの鍵ぶっ壊す事になるわ、めぐみんには花瓶手渡されるわ。大変だったんだからな!」

 ぼきぼきと指を鳴らして詰め寄る女騎士と、若干顔を赤くしつつも反論する少年。パジャマの下を脱がせた事については、特に否定はしないようである。

 そんな様子を眺めていたい気持ちもあったが、召喚士はとりあえず気絶した女神を運搬する為に低レベルの狼を召喚した。あとは巨大な子犬が首根っこを噛んで、ひょいっと器用に振り回して背中に乗せてしまう。

「めぐみんの様な小さな子にいかがわしい事をするなんて、恥ずかしいと思わないのか! まったく、暗がりで押し倒す様な真似をするならこの私に! 是非この私に!!」

「結局お前がやられたいだけじゃねーか! ふっざけんなよ、人をセクハラ常習犯みたいに言いやがって。おめーこそ、変態性癖のどうしようもないドMじゃねぇか。ちったあ反省しろ、反省!」

「んっ……! なんと言うキレのいい罵倒……。良いぞ、もっと来いカズマ!」

「話を聞けえ!! お前は本当に駄目だな! 何て言うか本当に駄目駄目だな!」

 背後からの名残惜しい会話を惜しみつつ、召喚士は愛犬と共に女神の部屋を目指す。急いで女神を部屋に寝かせて戻って来なくては。妙な使命感に燃えて召喚士は急いだ。

 そして、眠れぬ夜が明けた。

 

 

「結局、原因はアクアの怠慢だったという事ですか。私はその為にあんな恥ずかしい思いを……」

「ちょっ! 私が墓地の浄化サボったのは違わないけど、恥ずかしい思いをさせたのはカズマさんなんですけど!?」

 翌日。適度に睡眠を取って昼過ぎに置きだした一行は、屋敷のリビングに集まって流石にぐったりと過ごしていた。

早々に気絶して休めた青髪女神と、夜更かしに強い最弱職の少年は朝からギルドに悪霊退治の報告に出かけていたが、今しがた帰ってきたところである。

「まあ、なんにせよだ。今度からはきちんと、ウィズとの約束を守りに行かないといけないな」

「わかってるわよう……。でも、共同墓地があんなに遠いのが悪いと思うの。あんな所にあるから、定期的に通うのが面倒になっちゃうのは仕方のない事よね?」

 そしてその二人が仕入れて来たアクセルの街で起きていた悪霊騒ぎの原因は、公共墓地に仕掛けられていた強力な結界のせいだと言う情報を聞かされた。無論その事に心当たりがあるのを少年は見抜いて、青髪女神を問い詰め結界の仕掛け人である事を暴いている。そのおかげで臨時報酬を手に入れ損ねてしまったが、責任を追及されるよりはマシであろう。

「頑張って除霊しないと、カズマにまた怒られちゃうよ?」

「ローまでそんな風に言わないでよ。もっと私に優しくしてくれてもいいじゃない。もっと甘やかしてくれてもいいじゃない! 私女神なのに! 女神様なのに!」

 なお、屋敷の管理者には既に、マッチポンプじみた真相は話して謝罪している。話を聞いた管理者は特に怒り出すでもなく、なおの事この屋敷に悪評が消えるまで住んで欲しいと依頼をしてきた。その代りに条件を二つ程追加されたが、それでも破格の対応には違いない。そんな慈悲溢れる管理者に、少年も女神も思わず土下座したと言う。

「はあ、アクアはいつも通りですね。爆裂散歩に付き合ってもらった事もありますし。私で良ければ一緒に行きますから、ちゃんと頑張りましょうね?」

「うぐ……、分かったわよ。でも、寂しいから本当についてきてね?」

 その条件の一つは、冒険を終えた日の夜に、夕食を食べながらでも冒険話に華を咲かせてほしいとの事。そしてもう一つは、今窓の外で冒険者の少年が行っている、庭の片隅にある墓標の清掃であった。

 事情は語られなかったが、青髪女神の話も併せて考えると、屋敷の管理者は屋敷の地縛霊の少女を気遣っているのかもしれない。死を悼むのは、何時だって死者の為であり、また己の為であるのだから。

「ん……。そろそろ良い頃合いだし昼食にするか。キッチンは昨日、ヘーが清掃してくれたのだったな」

「そのへーちゃんが、今はカエルのから揚げを作っていると思うよー」

 そんな少年の傍には、顛末の確認に来たのかリッチーの女店主の姿がある。にこやかに談笑しているが、少年の視線が胸元をちらちら見ているのが遠目でも良く分かった。流石は鬼畜と名高い少年である。

 程なくして台所の様子を見に行った女騎士が戻り、食事の用意が整ったので食堂に移動しようと告げて来た。それを聞いて顔を綻ばせた青髪女神が庭に面したバルコニーに出て、大声で最弱職の少年に呼びかける。全員揃わないと食事が出来ないから、さっさと戻って来いと催促している様だ。

「あまり遅くなる様なら、カズマの分のから揚げは一分に一つ没収してしまいましょう」

「ふふっ、そうだな。そう伝えれば、あわてて帰って来るだろう」

「っ!? カズマー! めぐみんが一分遅れる毎に、唐揚げ一個没収するって言ってるわー!」

 そんな二人のやり取りを聞いて、更に青髪女神が大声を出す。から揚げが欲しいからむしろ戻ってこなくて良いとのたまって居る。これなら食卓に全員が揃うのも直ぐであろう。

 早く早くと捲し立てる青髪女神に促され、各々は食堂へと向かって行く。

「退屈しない事だけは保証するよ。……ま、これからよろしくね、お嬢さん」

 最後に残っていた召喚士が、部屋から立ち去り際にぼそりと呟く。仲間達とプラス一。奇妙な共同生活がこれから始まって行くのだと、改めて確認する様な呟きであった。

 

 



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