【完結】二回目の世界とメアリー・スー   作:ネイムレス
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第二章最終話の予定でしたが、長くなったので前後編に分けました。
去年の内に完成させようと思っていたのにそれも叶わず。
大体、地球の平和を守っていたせいです。


第十一話 前編

「『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です! 冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ! そして、街の住民の皆様は、直ちに避難してくださーいっ!!』」

 街中に響き渡った冒険者ギルドからの放送は、平穏だった日常を一撃で粉砕してくれた。その事を今一番痛感しているのは、平穏に街しか知らない最弱職の少年であろう。

「逃げるのよ! 遠くへ逃げるの!」

「住処も何もかも失うというのなら、いっそ魔王の城にカチコミでも掛けてやりましょうか」

 リアカーに手当たり次第に家財を乗せた青髪女神がそれを引きながら、殆ど恐慌した状態で少年に逃亡を訴えかける。屋敷の玄関から現れた魔法使いの少女も、風呂敷に包んだ荷物を背負って何やら物騒な事を言っていた。

 仲間達の見た事も無い様な狼狽振りに、最弱職の少年は戸惑うばかりである。

「どうしたんだよお前ら、放送は聞いてたんだろう? さっさと準備してギルドに行こうぜ」

「カズマったら一体何を言ってるの? まさかあんた、機動要塞デストロイヤーと戦うつもりなの?」

 またもや飛びだして来たデストロイヤーと言う単語。最近よく耳にするそれに少年は眉根を寄せる。一体全体、機動要塞デストロイヤーとは何者なのか。この世界の常識を知らない少年には、未だその存在は未知の物である。

「機動要塞デストロイヤーとは、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないと言われる最悪の大物賞金首の事です。はっきり言って、これと戦うとか無謀も良い所ですよ」

「ねえ、どうして私の可愛い信者達がそんな風に言われているの? この間ウィズにも言われたんだけど、あの子達はみんな普通の良い子達なのよ? 何でそんなに怯えられてるの!?」

 この少年が世情に疎い事は周知の事なので、見かねた魔法使いの少女がこの街に迫る危機について簡潔に説明してくれた。悪名高いアクシズ教徒以外の全てを蹂躙すると言われれば、大抵の者は納得するしかない事実である。

 しかし、アクシズ教徒の恐怖をまだ知りえぬ少年には、いまいちピンと来ない例えであった。今の説明でどうして街を捨てて逃げ出す事になるのか、納得が行かないと言う表情をしている。

 青髪女神も納得いかないと喚いていたが、こちらは誰にも相手にされずに黙殺された。

「その大物賞金首は、めぐみんの爆裂魔法でもどうにもならない相手なのか?」

「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔法結界が備わっています。いかに最強の爆裂魔法と言えど、一発だけではどうしようもありません」

 負けん気の強い少女のあっさりとした敗北宣言に、いよいよ少年も事態の深刻さが理解できて来た。少年が知る限りでは正に最強と言う名にふさわしい威力の爆裂魔法を凌ぐとは、何者だと言うのかまだ見ぬデストロイヤー。

「ねえ聞いて! 私の信者達が悪く言われているのは、心無いエリス教徒の陰謀だと思うの! エリスって実はけっこうやんちゃな所もあって、悪魔相手だと私より容赦がなかったりするし。皆誤解してるけど、あの子達は全員良い子達なのよ!」

「アクア……。女神を自称するならまだしも、エリス様の悪評を広めるのは感心しませんよ。ダクネスは間違いなく怒るでしょうし、なによりバチが当たりますよ?」

「自称じゃないわよ! お願い信じてよー!」

 ここまで説得された少年だったが、今の所まったく退くつもりは無かった。半泣きになった自称女神が、ガクンガクン少女を揺さぶって喚くが知った事ではない。最弱職の少年にはせっかく手に入れた屋敷も、馴染み始めた街の商店も投げだして逃げるなど、とてもでは無いが受け入れ難いものだったのだ。

 何よりも、この街で少年はとても大切な物を見つけてしまった。それを守る為には、たかが大物賞金首程度で逃げ出してなど居られない。少年は魔王軍の幹部すら退けたのだ、怖い物などあんまりない。

「ん? そう言えばダクネスはどうしたんだ? 俺より先に屋敷に戻って行った筈なんだが」

「ダクネスなら、自分の部屋に駆けこんで行きました。流石のダクネスでも、デストロイヤー相手には立ち向かう事も無いと思いますから、荷造りをしているのではないかと」

 迎撃賛成派の最弱職の少年は、仲間達の体たらくに露骨に顔をしかめた。この薄情者共には、長い間世話になった街や屋敷への愛着と言う物は無いのだろうかと。街には数か月、屋敷は一日しか過ごしていないが、この際そんな事はどうでも良い。

「まったく、どいつもこいつも! お前らがそんななら、俺一人でもギルドに行くからな!」

「まあ待て、カズマ。ギルドに行くならば私達も一緒に行こう」

 もう我慢ならんと少年がいきり立ち、仲間を置いてでも一人ギルドに向かおうとした時、その背後から声を掛ける者が居た。振り返ればそこには、何時もよりも重装備な女騎士といつも通りのローブ姿の召喚士が並び立つ。

「はい、カズマはこれがあれば特に用意も要らないよね」

「おっ、サンキュー。って、俺の部屋に入ったのかよ!?」

 女騎士の方は何時もの全身鎧に帷子の編み込まれたマントを羽織り、更に左手の籠手に脱着式の盾まで付けての完全迎撃の姿である。召喚士は恰好こそ何時もと変わりないが、少年に向けて彼の装備であるショートソードを投げて寄越した。こちらもまた、迎撃に行くのにやぶさかではない様子である。

「ったく……。まあ、非常事態だからしょうがないか。よし、お前らギルドに行くぞ! この街と屋敷とあのお店は、俺達で守り抜くんだ!」

「ねえカズマ、どうして今日はそんなに燃えているの? なんか、目の奥がキラキラしてるんですけど」

「……あのお店……?」

 やたら張り切っている少年にドン引きする女神と、少年の発言に疑問を浮かべる少女達だったが、最終的にはギルド行きに賛同してくれた。魔法使いの少女は元々面倒見が良い事もあり、仲間達が決意を決めているならば付き合ってくれる度量を持ち合せている。

 青髪女神は最後まで渋っていたが、一人だけでと言う辺りが仲間外れにされているみたいだったので折れた。自称女神様は、淋しいのには耐えられないのである。

「ま、こうなるよね……。ふふっ、ふふふふふ……」

 分かり切っていた答えを確認できた召喚士は、いつも通りニヤニヤと頬を緩ませるばかり。期待通りの反応が見れたので、もう今にも軽やかに踊り出しそうな程である。面倒だから踊りませんが。

 そうして、半分は無理矢理用意をさせられた者達と一緒に、パーティの一同は連れ立って冒険者ギルドへと向かって行った。機動要塞デストロイヤー、その討伐に赴く為に。

 

 

 おっとり刀で駆け付けた冒険者ギルドには、既に大量の冒険者が集まり物凄いざわめきと熱気に包まれていた。女神も裸足で逃げ出す様な大物賞金首が迫っていると言うのに、ほぼ全ての冒険者が集まっているのではないだろうか。それ程の人だかりと、そして熱意を感じる。

「おう、やっぱり来たな。お前は来ると思ってたぜ、カズマ!」

 そう言って、入り口でやや気圧されていた最弱職の少年に声を掛けて来たのは、いつぞやのくすんだ金髪をしたチンピラ戦士であった。あのパーティ交換以来、何かと少年と吊るんで意気投合したらしい。今ではすっかりと悪友の様な間柄になっている。

 チンピラ戦士の傍には彼のパーティメンバー達もそろっており、彼等もまたアクセルの街を守る為に重武装をしている。無論彼等だけではなく、今この場に居る冒険者達は誰もが何時も見ない様な重武装で参じていた。誰もかれもが立ち向かうためにここに居る。これだけの者達が逃げ出さずに、この場にとどまっているのだ。

 何だか男性冒険者の比率が多い様な気がするが、きっと気のせいだろう。

 そして、見知った顔の中に魔剣の勇者を見つけた最弱職の少年は露骨に顔をしかめた。向こうはまだこちらに気が付いていない様だが、なるべくなら関わり合いにはなりたくない相手である。少年はあまり目立たない様にしようと心に決めた。

「お集りの皆さん! 本日は、緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます! 只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の、緊急クエストを行います」

 ある程度人が集まったのを見計らい、冒険者ギルドの受付員である例の金髪巨乳が声を上げる。その声には緊迫が滲み出ており、職員ですらも機動要塞の脅威に平静ではいられないらしい。

 続いて職員達は総出でギルド内の酒場部分の机を寄せ集め、即席の会議場を作り上げ冒険者達を座らせた。クエストを開始する前に、作戦会議を執り行うらしい。

 テーブルに座るとお互いの顔が良く見える様になり、最弱職の少年は魔剣の勇者に見つけられてしまった。鎧姿の青年はじっと、暇を持て余してコップの水で遊んでいる青髪女神を見つめている。話しかけて来る事は無いが、何とも熱烈な思いを視線に乗せているご様子だ。

 そしてその視線がついと動いてすぐ傍の召喚士を捕らえると、一瞬複雑そうな表情を浮かべたがぺこりと会釈して見せた。召喚士も気が付いてひらひらと手を振ると、何故だか取り巻きの少女二人が怯えて鎧の青年に抱き付く。少年には良く分からないが、召喚士が居れば彼等はこちらには近づいて来ないだろうと理解した。

 そんな事を気にして居たら、いつの間にか対策会議は始まっていた。

「ではまず、この中にデストロイヤーについて、改めて説明の必要な方はいらっしゃいますか? ……若干名いらっしゃるようですね。では簡潔に説明させていただきます」

 ギルドの金髪受付はまず、デストロイヤー自体の説明をしてくれる。最弱職の少年も手を上げた内の一人なので、前々から気になっていた事もあり身を入れて聞く事にした。

 機動要塞デストロイヤー。それは、古代の技術大国が生み出した対魔王軍用の兵器である。その容姿は蜘蛛の様な形をしており、小さな城ほどの大きさを持った超特大のゴーレム。それが、当時の開発責任者により奪われ暴走してしまった成れの果てが、かの大物賞金首なのだと言う。

 常時発動している強力な魔法結界によってあらゆる魔法攻撃を無効化し、見た目よりも軽い重量なので馬よりも早く駆ける事が出来る。接近戦など挑もうモノならば、人も魔物も区別なくミンチにされてしまうそうだ。

 遠距離戦では投石機などでは早すぎて当てる事が出来ず、弓矢など焼け石に水程度にも役に立たない。空から攻めようとすれば自立起動した戦闘用ゴーレムに小型バリスタで撃ち落とされ、仮に乗り込んだとしてもその戦闘用ゴーレムに囲まれてしまう。

 あらゆる悪路を八本の足で走破して、もう既に大陸のほとんどの土地を蹂躙している。その存在は既に災害として扱われており、一度狙われた街は踏み荒らされてから再建するしかないとまで言われていた。

 並べれば並べる程に、その理不尽さがありありと伝わって来る。肝心かなめの魔王の城には、貼ってある結界で手出しが出来ずにいると言うのだから目も当てられない。

 この兵器は、一体全体何の為に生まれたのだろうか。

「現在、機動要塞デストロイヤーは、この街の北西方向からこちらに真っ直ぐ進行中です。……では、ご意見をどうぞ!」

 受付嬢は最後にそう締めくくり、冒険者達に意見を求めた。だが、初めの内に騒めいていた冒険者達は、今やしんと静まり返って黙り込んでいる。それはそうだろう、散々理不尽な存在であると言うのを認識させられたのだから。

 最弱職の少年もまた、攻略法が思い浮かばず無理ゲー等と呟いている。

 その後も散発的にぽつぽつと意見が出たが、生みの親の技術大国に対応させようとしても真っ先に滅ぼされていたり、巨大な落とし穴に嵌めようとしてもジャンプで脱出されたりと、上がる意見は既に失敗してしまった物ばかりだ。

 結局、あーでもないこーでもないと会議は難航して行く。たまに出る冒険者からの作戦も、ギルドの職員達が過去の例を出して否定してしまう。にっちもさっちもいかない状況だ。

 素早く動き、魔法を弾き、罠をも凌ぎ、空から来るものを撃墜する。こんな無敵の兵器をどう攻略しろと言うのか、冒険者達にも職員達にも諦めの雰囲気が満ち満ちていた。

 早々に会議に飽きた青髪女神はグラスのコップで色紙にお絵かきを初め、会議の途中で飽きた召喚士はその完成した絵に砂を掛けている。やたら手先が器用なコンビで、二人して一体何をしているのだろうか。

「なあ、カズマ。お前なら何か良い案を思いつくんじゃないか?」

 最弱職の少年と仲の良い、チンピラ戦士の仲間の聖騎士の男がそんな風に声を掛けて来る。彼も答えの出ない会議に飽きたのか、突飛であるが効果のある少年の作戦に縋りたくなったのだろう。

「テイラー、そんなこと言ったってなあ。めぐみんの爆裂魔法が結界のせいで効かないんじゃ……――ん?」

 聖騎士の問いかけに答える少年ではあるが、流石に今回は相手が悪い。そう答えようとして、ふと自分の言葉に引っ掛かりを覚えた。

「なあアクア、お前って魔王の城の結界でも、幹部の数が減って居れば破れるってウィズに言われてたよな。もしかしてお前なら、デストロイヤーの結界も敗れるんじゃないか?」

 そう、少年はかつて魔道具店の店主にスキルを教わりに行った際に、その店主から様々な秘密を打ち明けられていた。魔王城に張られた結界は幹部が維持を担っており、尚且つ魔道具店の店主もなんちゃって幹部であると。そして、幹部が二人か三人まで減ってしまえば、青髪女神の力で強引に破る事も可能であるとも。

 つまり、このなんちゃって特典のなんちゃって女神の力でならば、デストロイヤーの魔力結界も解除してしまえるのではないかと思いついたのだ。

「ああ、そんなこと言ってたわね。でも破れるかどうかは、実際にやってみないと分かんないわよ?」

「うわっ、なんだその絵、すげえ上手いじゃねぇか! 後でもらおーっと……」

 少年の興味は結界の破壊よりも、青髪女神が作り上げた水絵に移行していた。女神自体は気軽に描いている様だが、その出来栄えは芸術作品もかくやと言った腕前である。それを保存しようと工作している召喚士の指先も器用なので、思わず部屋に飾りたくなる様な出来栄えの作品に仕上がっているのだ。

「破れるんですか!? デストロイヤーの結界を!?」

 最弱職の少年が青髪女神と戯れていると、話を聞きつけた例の金髪巨乳の受付嬢が騒ぎ始めた。確約は出来ないと伝えても、可能性があるなら試してほしいと懇願されてしまう。最早、藁にも縋る思いなのであろう。

「これで結界は何とかなるとして……、後は撃退できる火力があれば……」

 結界は排除できると仮定して、会議の内容は如何にして機動要塞を攻撃するかと言う話に推移する。駆け出しばかりの集まるこの街の冒険者の魔法では、火力不足であるとギルド職員達は悩んでいる様だ。

 だが、そんな悩みはとある冒険者が漏らした呟きでかき消された。

「火力持ちなら居るじゃないか。頭のおかしいのが」

 その言葉を皮切りに、冒険者達も職員達もざわめきを取り戻す。皆が口々に、爆裂狂が居たとか、頭がおかしい子がとか囁いていた。アクセルの街中に知らぬものは無いという程の爆裂狂。一日一回聞こえてくる爆音は、もはやこの街の風物詩と言っても過言では無いだろう。

「おい、その頭のおかしいのと言う呼び方は止めてもらおうか。さもなければ今ここで、いかに私の頭がおかしいのか知らしめる事になる」

 言われた当の本人がその特徴的な瞳を赤く輝かせて言うと、ギルド内は再び水を打ったかの様に静まり返った。全ては以前現れた魔王軍幹部の首無し騎士が悪いのだ。あの語呂の良さは確かに癖になる。

「で、実際の所どうなんだ? 結界の無いデストロイヤーなら、爆裂魔法で破壊できそうなのか?」

「うう……、いかに我が最強の爆裂魔法と言えど、あの大きさだと一発では仕留めきれないと……思われ……」

 埒が明かないので最弱職の少年が率直に訪ねると、魔法使いの少女は狼狽しながら答えてくれた。やはり自身が誇る爆裂魔法で仕留めきれない物が在ると認めるのは、彼女にとって耐え難い物なのであろう。別に、注目を集めて照れているなんて事は無いと思われる。

 今一手、攻撃手段が足りていない。この状況を打破するには、もう一人強力な魔法使いが居なければ話にならない。

「そう言えば、ローの召喚魔法はどうなんだ? 確か城壁みたいにデカい蛇を呼びだした事があったよな。あいつで直接デストロイヤーに攻撃とか出来れば、かなり楽になると思うんだが」

「最大召喚を維持して攻撃すれば、たぶんどの子でも単独でも何とかなると思うけど。その頃には、僕は魔力が枯渇してミイラみたいになって死んでいるだろうね」

 駄目じゃん。少年は言葉ではなく、表情でそう応えていた。

 さもありなん、人死にが出る様な作戦を、この少年が許容するとは思えない。少年自身は苦虫を噛み潰した様な渋面になったが、召喚士は目を細めてなんだかホッコリしている。

 結局問題は解決せずに、会議の場を沈黙が支配してしまった。

「遅くなりました! ウィズ魔道具店の店主です。私も一応冒険者の資格を持って居るので、遅ればせながらお手伝いに参りました」

 このまま無策で飛び込むのかと、その場の誰もが沈痛な面持ちで俯いて居た時、ギルドの扉を跳ね開けて一人の人物が飛び込んで来る。同時に発せられた声に、その場の全員の視線がその人物へと集まった。

「店主さんだ! 店主さんが来てくれたぞ!」

「元凄腕アークウィザードの貧乏店主さんだ!」

「店主さん、いつもあの店の夢でお世話になってます!」

「来た! 店主さん来た! これで勝る!」

 今さっき慌てて飛び出てきましたと言わんばかりの、黒のローブの上にエプロンをつけた服装。全力で走ってきた為に息切れをしてしまい、緩くウェーブの掛かった亜麻色の髪と豊満な胸を揺らしている。彼女こそ、知る人ぞ知るアクセルの街の貧乏店主。売れない魔道具店を営む、なんちゃって魔王軍幹部の瑞々しいリッチーである。

 その美しくも優し気な容姿の為か、はたまたかつての名声の為か、この場に居る冒険者達からも職員達からも歓声が上がっていた。

「なんだ、皆ウィズの事知ってるのか? えらい人気みたいだけど、そんなに有名人だったのか。って言うか、可哀想だから貧乏店主は止めてやれよ。あの店って、そんなに儲かって無かったのか?」

 世情に疎い最弱職の少年は、どうして魔道具店の店主が人気者なのかを知らない。貧乏店主と呼ばれる理由も含めて、その疑問をすぐ傍の聖騎士の男に尋ねていた。

「知らないのか? ウィズさんは、元は高名な魔法使いだったんだ。」

 聖騎士の男が言うには、あの魔道具店は駆け出しの街に似つかわしくない高級品ばかりが並び、この街の住人では手が出ないのだと言う。しかし店主があの美貌の持ち主なので、冷やかしに行く冒険者はとても沢山居るのだとか。

 そして、かつては王都にすらその名声が轟く程の凄腕パーティの一員で、一時期行方不明になっていたのが突如この街に現れたのだと説明してくれた。

 彼女がリッチーである事は、冒険者達はもちろん街の人達は全く知らないのであろう。魔王軍幹部である事も、何をいわんやである。それでもその美貌と強さに、人々の信頼を集めている。知らぬが仏とはこの事か。

「覗きに行くぐらいなら何か買ってやれよ……。今度行ったときにでも、なんか買ってやるか」

 最弱職の少年が呟いている視線の先では、歓迎を受けた魔道具店の店主がぺこぺこと頭を下げている。ついでにちゃっかり店の宣伝をしている辺り、売り上げが相当厳しいのかもしれない。

「ウィズ魔道具店の店主さん、お久しぶりです! ギルド職員一同、歓迎いたします! それでは、店主さんはこちらへ。店主さんの為に、一度会議の内容を纏めますね」

 ギルド職員にまで歓待されて目立つ席に案内され、店主が着席すると今までの話し合いの経過を説明し始めた。

 青髪女神が魔法結界を解除し、頭のおかしいのが爆裂魔法を放つ。決まったと言ってもこの程度だが、それを聞いた店主はふむふむと感慨深く頷いている。

「……爆裂魔法は、足を狙って放つのが効果的でしょうね。私も爆裂魔法は使えますから、左右の足を四本ずつ担当して破壊しましょう」

 流石は元凄腕の現不死王。爆裂魔法まで扱う事が出来るとは、その実力の程が窺えると言う物である。少年が感心してうんうんと頷く横で、魔法使いの少女は人知れずぎゅっと杖を胸元に抱きよせていた。

 魔道具店の店主の案を取り入れて、いよいよ本格的な作戦が組み上げられる。最悪の場合を考えて、街の前に気休めのバリケードなどを設置する案や、召喚士が以前洪水を受け止めた時の様に巨大な蛇で時間稼ぎをする案などが提案された。無論、するのは時間稼ぎだけで、命を懸ける様な真似は禁止だと、少年に小声で釘を刺されている。

 そして、最終的な作戦がギルドの受付嬢によって発表された。

「結界解除後に、爆裂魔法で足を破壊。それで止まらない時は、召喚獣によっての足止めを行い、ハンマーを装備した冒険者一同で残った脚部を破壊する。万が一を考え内部に突入する事も想定し、アーチャーの方々はフック付きの矢を配備しますので装備を。身軽な軽装の方々は、内部に突入する準備を整えておいてください!」

 練りに練った作戦だが、結局は突出した実力者任せの強引な殴り合い。出たとこ勝負と言う物である。そもそもが、駆け出しの街の冒険者には手に余る大物賞金首なのだから、一般の冒険者に期待ができないのは仕方の無い事ではあるが。

 泣いても笑っても、機動要塞に対する策謀は出尽くした。後は実行に移し、撃滅せしめるだけだ。

「それでは! 機動要塞デストロイヤー討伐クエスト、開始です! 皆さん、よろしくお願いしまーすっ!!」

 最後に金髪受付嬢が始まりの宣言を告げて、ギルドの冒険者達が声を張り上げる。こうして、一度たりとも為された事がない、大討伐クエストは始まるのであった。

 

 

 機動要塞を待ち受ける決戦場に選ばれたのは、アクセルの街の正門前に位置する広大な草原。その正門前では殆ど気休めの為のバリケードを、どこかで見た事のある建設会社の人々があくせくと築き上げている。

 その他にも罠設置のスキルを持つ物達が無駄と知りつつ罠を設置していたり、クリエイターの集団が即席のゴーレムを作り上げる位置を話し合っていたりと細々作業が行われていた。

 そんな光景を眼下に見下ろしながら、召喚士は正門の上に設置された物見台の上で頬杖をついている。召喚士の他には俯いて杖を抱く魔法使いの少女。左右二つある物見台の反対側には、青髪女神と魔道具店の店主の姿があった。

 この四名は作戦の第一段階の要。この場所から機動要塞を撃破する為に、万全な状態を維持出来る様に待機させられているのだ。

「私は強い……。私の魔法は強い……。私の魔法は通用する……。大丈夫……大丈夫……だいじょうび……」

 魔法使いの少女はこの場所に来てからずっと、緊張と精神的圧力で体をガチガチにしながらぶつぶつ呟いていた。そんな少女を慰めるでも落ち着かせるでもなく、召喚士はあえて放置している。

 実は既に落ち突かせようと声を掛けて、彼女の杖に魔法を強化する文字を描いて一度は安心させたのだ。だが、時が経つにつれて、少女はまた今の状態に戻ってしまった。

 自分では落ち着かせる事は出来ても、彼女の実力を発揮しきる様に導く事は出来ないと、経験を持って理解していたから放置している。

 何よりも、やはりその役目は自分では無い、とも思っていた。

「ふふっ……、気の多い事で……」

 召喚士の視線の先では、遥か彼方に最前線から動かない女騎士に、何やら話しかけている最弱職の少年の姿が辛うじて見えている。少年は危険な場所から動こうとしない馬鹿を説得して来ると言っていたが、あの女騎士は言葉程度で己の信念を曲げる様な相手では無いだろう。

 どうせならすぐ傍で観察して楽しみたかったと言うのに、こんな離れた場所から覗くしか出来ないとは退屈至極である。終いには、召喚士はくわぁっと口を開けての大欠伸。緊張感の欠片も無い姿であった。

「ちょっとウィズ、あんた頭から煙が出てるわよ。この私相手に、宴会芸でも披露しようってんじゃないでしょうね。だとしたら生意気よ!」

「いえ、違いますアクア様。これは良いお天気なのに長時間外に居るので……」

 聞こえて来た声にお隣を見ると、青髪女神とリッチー店主が楽しそうにワイワイ騒いでいる。ちょっと向こうが羨ましい。

 視線の先で、最弱職の少年が女騎士に何やら怒鳴られていた。話の内容は分からないが、どうやら説得は失敗した様だ。少年が戻ってくれば、少しはこの退屈も紛れるだろうか。召喚士はまた、大きく欠伸をしてしまっていた。

 

 

「残念ながら説得は失敗してしまった。こうなったらあの頭の固い変態が怪我する前に、デストロイヤーを止めるしかなくなったな」

 戻って来た最弱職の少年は、開口一番に交渉の失敗を伝えて来た。予想できた事だったので特に驚きはしなかったが、今の言い方は少々問題がある。召喚士はついと視線を魔法使いの少女に向け、少年もそれに釣られて少女の惨状を目にした。

「だいじょうび、だいじょぅび、わたしはつよい、わたしはすごい……」

「大丈夫かこいつ……? おいめぐみん、あんまり気を負いすぎるなよ」

「わわわっ、わがばくれつまほうで、ふきとばしてくれるわーっ!!」

「ちょちょちょちょ、早い早い早い」

 案の定、プレッシャーが増えた魔法使いの少女が更に壊れ始めた様だ。それを治そうとする少年であったが、そのやり取りがとても小気味良い。召喚士は大満足で、口元を押さえて笑いを隠していた。

「いざとなったら、あいつの重い装備をスティールで引っぺがして、身軽にしてから力尽くでも連れて帰るから安心してくれ!」

 背後で騒ぎ続ける心地良いやり取りを耳にしながら、召喚士がまた階下を覗いてみれば、そこにはすっかり準備を整えた冒険者達が立ち並んでいる。アーチャー達はフックとロープの付いた特性の矢を装備し、クリエイターはバリケード前に魔法陣を書き終えていた。前衛職の各々はゴーレムに有効な打撃武器を手に手に、今か今かと相手が現れるのを待っている。

 そして、その時は来た。

「『冒険者の皆さん、もう間もなく機動要塞デストロイヤーが見えてきます。街の住民の皆さんは、直ぐに街の外に避難してください。それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いしますっ!』」

 魔法で拡張されたギルドの受付嬢の声が、招かれざる強大な敵の襲来を告げる。

 それは、端的に言えば蜘蛛であった。八本の足を規則的に動かして、地平の彼方から歩み寄って来る。しかし、その大きさがバカバカしいまでに巨大なのだ。一歩一歩を踏みしめる度に、微かにだが大地が揺れている。

 その異彩を見て、誰かがぽつりとつぶやいた。こんなものを本当に倒せるのかと。

 戸惑いは直ぐにさざ波の様に周囲へと広がり、あっという間に冒険者達は狼狽え始める。物見台から見下ろす最弱職の少年も、目前から迫る冗談の様な存在に口を開けて驚いていた。

「ちょっとウィズ! 大丈夫なんでしょうね!? 本当に大丈夫なんでしょうね!?」

「大丈夫です、任せてくださいアクア様。コレでも私はリッチー、最上級のアンデッドなのですから。もしダメだった時は、皆で仲良く土に還りましょう」

「冗談じゃないわよ! 冗談じゃないわよ!!」

 お隣の物見台では女神とリッチーが仲良く騒いでいる。初見での出会いは最悪だった二人だが、こうして見ると意外と仲良くなれるのかも知れない。

 それは兎も角として、今はあの青髪女神にはしてもらわねばならない事がある。

「アクア! 今だ、やれっ!!」

 何故かギルドの職員達から作戦の指揮官に任命された最弱職の少年が、作戦開始の指示を青髪女神に飛ばす。その指示を受けて青髪女神が天空へ手を差し延ばし、そしてその手をめがけて何処からか蓮の花を象る杖が落下してきた。

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!!!!」

 杖を頭の上で旋回させながら魔力を極限まで高め、迫り来る脅威めがけて杖を振るう。性格は兎も角、その内包する無限大の魔力に後押しされて発動した呪文が、杖の先の虚空に魔法陣を浮かび上がらせた。

 一つ二つではない、その強大な威力を予感させるかの様な光輝く五つの魔法陣。その全てが互いに互いを高めさせ、

限界まで張り詰めた結界破壊の魔法が光線となって吹き出し目標へと向かう。

 五つの極太の魔力の本流は、中空で混じり合って一つとなり、更に巨大な光線へと変わった。その魔力の一閃が機動要塞の手前で突如現れた巨大な魔方陣にぶち当たり阻まれる。恐らくは、これが機動要塞の魔力結界。

「ぬうううううううっ!! んどりゃあああああああああああああ!!!!」

 拮抗した魔法と結界に、青髪女神がおよそ女としてどうかと思われる表情で更に気合を込めた。瞬間、五つの魔方陣から吹き出す光が勢いを増し、猊下の冒険者達を吹き飛ばす程の衝撃を伴って魔力結界に突き刺さる。

 恐らくは、少年が初めて目にする青髪女神の本気。数多の転生者に送られた特典にも引けを取らない程の強大な力が、遂に魔力結界に罅を入れ粉々に打ち砕くのであった。

「今だぁあああ!!」

「めぐみんさん、同時発射です!」

 機動要塞を覆う薄い膜の様な魔力結界がガラスの様に砕けたのを見計らい、最弱職の少年が追撃の指示を飛ばす。それを受けてリッチー店主はすぐさま魔法の準備に取り掛る。

 だが、肝心の魔法使いの少女からの返事は無かった。

「ああ……、あああ……。あううう……」

 杖を胸に抱いて、顔を青ざめさせながら少女は体を震えさせている。普段は尊大な態度で妙に漢らしいと言うのに、いざと言う時の度胸はまるでミジンコだ。

 そんな少女の肩を掴んで、少年は無理やり視線を合わせて声を張り上げる。ここまで来て、実力を出せずに終わるなんて絶対に許せない。そんな決意が乗った鬼気迫る表情で。

「おい、お前の爆裂魔法への愛はそんなもんなのか!? 何時も爆裂爆裂言ってるくせに、ウィズに負けたらみっともないぞ! お前の爆裂魔法は、アレも壊せない様なへなちょこ魔法なのか!?」

 最弱職の少年は、長い付き合いで魔法使いの少女の性格は良く分かっている。この少女が喧嘩っ早い事も、何よりも爆裂魔法にプライドを持って居る事も、全部既に知っているのだ。胸の奥にある既視感もそう語っている。

 だからこそ、それを貶される事に、何よりも怒りを覚えるのは当然なのだ。

「なっ!? 何おぅ!? 我が名を馬鹿にするよりも、最も言ってはいけない事を言いましたね!? 良いでしょう見せてやりますよ! 爆裂魔法がどれだけ最強なのかを、その目に焼き付けると良いです!」

 最愛の爆裂魔法をへなちょこ呼ばわりされた少女は、その瞳を爛々と赤く燃やして怒りに口元を引き攣らせた。先程までの緊張や震えなど既に吹き飛んでいる。闘争心に火が付いて、機動要塞を見る目にはもう怯えなど欠片も無い。

 魔法使いの少女は杖を高々と掲げて、爆裂魔法の詠唱を淀み無く唇から滑らせる。少女が立ち直ったのを見届けたリッチー店主も、既に完成させていた魔法を何時でも発動出来る様に身構えた。

 そして、もちろん何時ものアレも忘れてはいない。

「「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ! 『エクスプロージョン』ッ!!!」」

 紅魔族特有のカッコイイ謎詠唱。それをなぜかリッチー店主まで一緒に唱えていた。付き合いが良い物である。

 二人の頭上に爆裂魔法の魔法陣が現れ、そこからそれぞれの魔力に染められた色の輝かしい光が目標に向かって照射される。二条の光はそれぞれ機動要塞の左右に向かって飛翔し、その脚部にぶち当たる寸前で炸裂。二つの紅蓮の塊を生み出して、その爆発的威力で八本の足は全てが粉々に吹き飛ばされた。

 突然脚部を失った機動要塞はその巨体を地面に着底させ、そのまま慣性の法則で進行方向に向かって滑って行く。ガリガリと地面を削り、それでも勢いは止まらずに冒険者達の最前列へと迫る。今も一歩も引く事は無く、機動要塞を睨み付ける女騎士に向かって。

「……ん。駄目だな。思ったよりもデストロイヤーの速度が速い。爆裂魔法が強すぎて押し出されたんだ」

 その様子を見ていた召喚士がぽつりと呟いて、物見台の欄干によじ登り立ち上がる。このままでは本当に、女騎士が機動要塞に体当たりされてしまうだろう。幾ら防御力が高いと言っても、あの質量差の前ではどうしようもない。

 ならば、こんな時の為の備えを発動するときだろう。召喚士は掌を差し向けて、特に緊張感も無く魔法を発動させた。

「全力召喚。ヨーちゃん思いっきり飛び出してきなさい」

 勢いの止まらない機動要塞の手前に巨大な召喚用の魔方陣が現れ、その巨体が重なった瞬間に呼び出されたモノがこの世界に飛び出した。

 それは途方も無く巨大な蛇の頭。勢いよく飛び出して来たそれが機動要塞の底部にぶち当たり、その巨体を上空へと突き上げさせたのだ。

 時間にしてわずか数秒。機動要塞を跳ね上げた巨大蛇は、頭にたんこぶを作りながらその姿を薄れさせ送還される。去り際に召喚士を見たその目が、どこか恨めし気だったのは気のせいでは無いだろう。

 前方に掛かっていた慣性はこの頭突きで全て削がれ、今度は重力に引かれて真下に堕ちて来る。超大重量の自由落下。機動要塞の巨体は粉塵を巻き上げて、大地にまたその底部を叩きつけた。

 女騎士はやはり動かない。新調した大剣を地面に付き立て、両手をその柄に乗せたままの堂々とした姿で仁王立ちのままである。

 巨大要塞は彼女の目と鼻の先で地面に叩きつけられ、その衝撃波が彼女を襲ったが微動だにもしないのだ。彼女の背後にはクリエイター達の生み出した土のゴーレム達が居たが、その大半は衝撃波を受けて倒れ伏していると言うのに。なんと言う防御力、そして不退転の決意揺るがぬ胆力か。

「ふぅ……、あぶねえ……。もう少しずれてたら、潰されたダクネスが大喜びしてたぞ。でも、やったな。良くやったぞ、めぐみん。それからローも」

 女騎士の無事を千里眼のスキルで確認した最弱職の少年が、作戦の成功を確信して大仰に息を吐く。とりあえず近くに居る二人に労いの言葉を掛けるが、その二人はそれに応えず魔力の消耗で崩れ落ちた。

 召喚士は以前と違い、出現が長くは無かったので全魔力は消費せず欄干に座り込む程度で済んだ。だが、魔法使いの少女はいつも通り、全ての魔力も体力も使い果たしてうつ伏せに倒れ込んでしまっている。その状態で少女は、悔しさに歯噛みして怨嗟の声を上げていた。

「くぅぅぅ……、流石はリッチー。杖も無い状態で、増幅のまじないまで掛けられた我が爆裂魔法を上回る威力を出すとは……。悔しいでぇす……」

「よしよし、良くやった良くやった」

 そんな悔しがる少女を抱き起して、最弱職の少年はその活躍を誉めてやる。たとえ威力が負けていようとも、それは相手が不死王であればこそ。実際、彼女は確かな成果を出したのだ。

「うー……、次のチャンスがあれば、次こそは私の方が最強だと言う事を証明して見せますから! お願いしますカズマああああっ!」

「わかったわかった、次があればしっかりと見ててやるから。おいこら、ズボンを掴むな。やめろ、離せ、脱げるから。はなっ、離せえええ!」

 せっかく街を守ったというのに、この二人は一体何をやっているのだろうか。イチャイチャして居る二人を、欄干に腰かけたままの召喚士がにやにやと見守っていた。

 動かなくなった機動要塞を眺めていた冒険者達は、最初は騒めき、やがて歓声を上げ始める。無理も無かろう、目の前で難攻不落と言われていた大物賞金首が無残にも破壊され動けなくなっているのだから。

「やったか!?」

「あれ程の攻撃を喰らえば、いかにデストロイヤーと言えども無事ではすむまい!!」

「俺……、この戦いが終わったら結婚するんだ……」

 気が緩んでそんな台詞もついつい出てしまうと言う物。それに釣られてか、青髪女神までもが能天気に自らの活躍を誇示し始める。

「やったわ! 何よ、デストロイヤーなんて大げさな名前のくせに、案外大したことなかったわね! さあ、さっさと帰って、賞金でぱーっと宴会を開きましょう! 国を滅ぼす様な大物賞金首ですもの、きっと物凄い報酬に違いないわ!!」

「この馬鹿ーっ! 何でお前はそうお約束が好きなんだ! そんなフラグになる様なセリフを言ったら――」

 物語では、言ってしまうと相手の生存フラグになる台詞と言う物が存在する。慌てて最弱職の少年がツッコミを入れるがもう遅い。既にフラグは立っている。

「『被害甚大に付き、自爆機能を作動します。乗組員は、速やかに機体から離れ、避難してください。……被害甚大に付き――』」

 沈黙していた機動要塞から、突如大音声で警報が流れ始めた。機械的な音声のそれは、浮かれ切っていた冒険者達に一気に冷や水を叩きつける。

「「「ま、まじかよーーーー!!??」」」

 ほぼ全ての冒険者達が一斉に叫び声を上げた。クエスト内容が機動要塞討伐から、自爆の阻止へと変わった瞬間である。

「ほれ見た事か! お前は一つ良い事をしたら、二つは物事を悪化させないと気が済まないのか!」

「待って! ねえ待って! これ、私のせいなの!? 今回私、何も悪い事してないんですけど!」

 隣の物見台に居る青髪女神に怒鳴りつけてから、最弱職の少年は大慌てで階下へと向かって行く。それを青髪女神とリッチー店主が追いかける。それはもう、階段を転げ落ちるかのような勢いで。

 青髪女神はいわれの無い物言いに弁明しつつ。店主は元々青白い顔を更に青くして、お店がお店がと呟いていた。どちらも己の沽券に係わるので、かなり切実である。

 置いて行かれる形になった召喚士と魔法使いの少女は暫し見つめ合い、お互いに何も言わずにコクリと頷き合う。

「レベル二十、召喚。フーちゃん、そーっと出ておいで」

 召喚士が無造作に手を差し延ばして、少女の真下から巨躯の狼を出現させる。少女の体を背に乗せたまま、のっそりと姿を露わにした狼は、何時もより更に大きく物見台を埋め尽くす様な大きさになっていた。

「また、ずいぶんと大きさが変わりましたね。どこまで大きくなるのですか、この子は」

「さぁ? 神様を一飲みにするぐらいじゃないかな?」

 少女の問いかけに答えた召喚士は欄干の上に立ち上がり、そのまま足を一歩前に踏み出す。少女の見ている前で中空を一歩一歩、テクテクと歩いて狼の背に辿り着き、少女を片手で支えながら狼の背に跨った。

「……今、空中を歩いていませんでしたか?」

「だってフーちゃん背が高いから、よじ登るの大変でしょう?」

「それもそうですね……。って、そんな事で納得できるわけが――ああああああっ!!」

 少女の追及は最後まで続けられなかった。手綱代わりに召喚士がもふもふの毛皮を掴んだ事で、巨躯の狼が物見台の上から飛び出したからだ。魔力と体力が切れた事での脱力感に、胃の腑が持ち上がる様な浮遊感がプラスされ、少女はあっさりと目を回して静かになる。

「さて……。仕掛けてくるとしたら、このタイミングもあり得るかな。誰だ誰だ、メアリー・スーは、だーれだー。……なんてね」

 数十メートルは有ろうかと言う外壁を飛び降りながら、召喚士は楽し気に口元を歪ませていた。その呟きは誰にも聞かれず、今はまだ何の意味も無い。

 

 



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