【完結】二回目の世界とメアリー・スー   作:ネイムレス
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陽光が厳しくなってまいりましたが皆さんいかがお過ごしですか。
私は毎日、誰か太陽撃墜してくれないかなと思っています。
そんなわけで第三章最後のお話です。
後編は抜萃と誤字修正が終わり次第投下いたしますので、まずは前編をごゆるりとお楽しみください。


第十六話 前編

 鬱蒼とした森の中を一塊となって通り抜ける。強行軍で森を抜ける面子は最弱職の少年のパーティ。目指すはもちろん、召喚士が消えたというキールのダンジョンである。

「うっく……うう……、私のせいじゃない筈なのにぃ……」

 未だに屋敷でつけられたたんこぶを頭に乗せたまま、何時もの格好に戻った青髪女神が歩きながらぐずる。その両脇に居る魔法使いの少女と女騎士も、流石に同情する様な視線を女神に向けていた。

「毎度毎度あれか、活躍の差し引きをマイナスにしないとどうにかなる病気なのか」

 たんこぶの原因である最弱職の少年だけは、泣きじゃくる青髪女神には優しくない。こうしてダンジョンに赴いている理由の半分は、青髪女神に有るので仕方ないのだが。

「何とか誤魔化せたが、魔法陣を消さないと……」

 女検察官を口先で丸め込み、善意で協力する様に見せかけたが、どうにかして誰よりも先にダンジョンの最奥へと行かなければならない。青髪女神の残した魔法陣を見られれば、余計な疑惑を女検察官に持たれるだけだろう。その事も少年の気分をささくれ立たせる要因となって居た。

 もちろん、一番の原因は、今はこの場に居ない仲間のせいであるのだが。

 

 

「うーん、確かに……。謎のモンスターだな」

 辿り着いたキールのダンジョンの入り口は、数か月前に見た時と変わらずに岩肌にぽっかりと口を開けていた。そして、その入り口からは人の膝までも届かないような大きさの、人形の様な物体がぞろぞろと溢れ出してきている。あれが最近増加していると言う奇妙なモンスターなのだろう、と少年は当たりを付けていた。

「サトウさん!」

「はい、佐藤です」

 木陰からダンジョンの入り口を偵察していると、同じく森の中で雇い入れた冒険者と共に待機していた女検察官に声を掛けられる。彼女達は既に準備万端の様で、少年達に近づくと作戦の方針を説明し始めた。

「ご協力感謝します。どうやら何者かが、モンスターを召喚しているようです」

 その何者かは、もしかしたら少年達の良く知る人物かも知れない。女検察官はそう思っているのだろうが、今この場ではそれをあえて口にする事は無い。

「ですから、術者を倒し、召喚の魔方陣にこれを張ってください。強力な封印の札です」

 術者を倒す。その一点だけが気に入らなかったが、最弱職の少年は封印の札を受け取った。要は女検察官に雇われた冒険者達よりも先に、最深部の魔方陣を消して、召喚士も見つけ出せばいいだけの話である。

「私、あの人形の仮面が生理的に受け付られないわ。何故かしら……、どうにもムカムカして来るんですけどっ!」

 一方、話し合う少年や仲間達とは少し離れた場所で、マイペースな青髪女神はダンジョン入り口から沸き出す人形の様なモンスターをじっと眺めていた。どうやら彼女には、この人形の存在は酷くお気に召さないらしい。

「ん? えっ、ちょっ、な、何……?」

 足元に落ちていた小石を拾ってぶつけてやろうと振り被ると、人形の内の一体が青髪女神に視線を合わせトテトテと近づいてきた。そして、ひしっと青髪女神の足に抱き付く。

「って、あら? なにかしら、甘えてるのかしら。見てるとムカムカする仮面だけど、あれ、何だか可愛く見えて――」

 人形が赤く発光し出したかと思うと、突然大爆発を引き起こした。無論、引っ付かれていた青髪女神は爆発に巻き込まれ、哀れ全身を煤けさせて地面に倒れ伏している。ただ、身に纏う衣服のせいかステータスのおかげか、それほど大怪我を負っている様には見えない。

「御覧の通り、このモンスターは取りつき自爆すると言う習性を持っていまして……」

「ふぅ……、なるほど」

「何でそんなに冷静なのよ!!」

 一部始終を眺め終わってから、女検察官はモンスターの特徴を少年達に説明する。少年も全く心配する事無く納得し、やはり無事であった青髪女神は自分で思わずツッコミを入れていた。

 そんな騒がしいやり取りの傍らで、鎧姿に何時もの後ろで高く纏めた髪型に戻った女騎士が、無造作に人形達が集まっているダンジョン入り口に歩み出す。

 すぐさま、女騎士の体に人形がしがみ付き爆発するが、煙が晴れた所には掠り傷一つない女騎士の姿があった。

「ふむ。私が露払いの為に前に出よう。カズマは後ろを着いて来い」

「お、おう……」

 己の体を眺めて何やら納得した様子の女騎士がダンジョン探索の露払いを買って出る。その姿の頼もしさに、戸惑いつつも少年は了承してしまう。本当に、防御面だけにおいては完璧に近い性能である。

「カズマカズマ。私は足手纏いになりますし、ここで待機しておきます」

 続いて、自らの役割を爆裂魔法のみだと自覚している魔法使いの少女が、ダンジョン内部で出来る事は無いと待機を申し出る。今回は探索が目的ではないので、荷物持ちも必要ないだろうと少年はそれを快諾した。

「それじゃあ私も――」

「おい、お前は一緒に来るんだよ!」

 流れに便乗する様に青髪女神もサボろうとしたが、それには少年から待ったが掛かる。幾ら女騎士が頑丈だと言えど、何が待っているか分からないダンジョン内に入るのに回復役は必須だろう。それ以上に、楽をして怠けようとする青髪女神の性根が、少年は気に入らなかった。

「いやっ! もうダンジョンは嫌なのっ! ダンジョンに入るときっとまた置いて行かれるわ!! ダンジョンはいや……、いや……」

 先程まで何ともなさそうだった青髪女神は、突然頭を抱えて蹲り出す。どうやらダンジョン恐怖症はいまだ健在だった様だ。若干演技臭いが。

 以前ダンジョンの奥で置き去りにした手前、そこを前面に出されると非常に極まりが悪い。最終的に演技が本当のトラウマを呼び起こしたのか、膝を抱えて蹲ってしまった青髪女神を、最弱職の少年は仕方なしに置いて行く事に決めた。

「となると、俺とダクネスのみか」

「カズマと二人きり!? モンスターよりも、カズマの方に身の危険を感じるのだが……」

「お前もダンジョンの奥に置いてって、アクアと同じトラウマを植え付けてやってもいいんだからな……」

 ダンジョンの中に二人で入る事に難色を示したのは、なんと意外にも女騎士であった。いや違う、女騎士はチラチラと少年の方を気にして、何やら興奮してモジモジしながら息を荒げている。彼女は先のお見合い騒動の時に少年と約束した、すんごい要求とやらに期待しているのだ。

 こんな時でも変態性を見せる女騎士に、少年は抑揚を無くした声で淡々と脅し文句を並べるのだった。

「お前ら、もうちょっと緊張感持てよな。ヘーが屋敷で強制送還されてから、もう結構時間が経ってるんだ。ローが中でどうなってるのか、全然わからないんだぞ」

 そう、今この場にメイド娘の姿は無い。お屋敷で女検察官がだまくらかされている時に、えらく驚愕した表情を浮かべながら光と共に消え去ったのだ。少年はそれを、召喚主の危機に関連する物だと考えていた。

 改めて、ダンジョンの入り口を見やる。人形が溢れ出すその岸壁に開く穴の奥に、少年達の仲間が居るのは間違いない。ダンジョンの異変を調査する探索クエストの傍らで、行方知れずの召喚士を見つけ出さねばならないのだ。

 少年は確かな決意と共に、再びダンジョン攻略へと緊張の面持で挑む。

 

 

 挑む、筈だったのだが。

「ふははははは! 当たる! 当たるぞ! カズマ、見ろ! こいつらは私の剣でもちゃんと当たるっ!!」

「凄く嬉しそうだなー……」

 ダンジョンにいの一番に飛び込んで行った女騎士は、大量の人形に張り付かれ大爆発で歓迎された。見ていた他の冒険者も少年すらも引く位の、盛大な纏わり付かれ様と大爆発だ。

 そしてそれをものともせずに走り抜け、飛び掛かって来る人形を剣で払ったのだが、これが珍しくまともに当たってしまってからがさあ大変。二度三度と振るう剣が、避けるつもりもなく飛び掛かる人形達を薙ぎ払い、景気良く倒されて行く。

 気を良くした女騎士は、自身の剣が敵に当たる喜びを全身で表現して哄笑していた。もちろん人形から反撃に自爆されるのだが、頬や鎧に煤が付く程度で彼女はびくともしていない。

 今までの彼女は攻撃スキルを一つも取っておらず、また生来の不器用さから攻撃が全く当たらないポンコツとして知られている。それが今は、群がる敵を剣の一振りで払い除け突き進む、無双の英雄が如くの立ち居振る舞いだ。笑う女騎士の瞳はキラキラと童女の様に光り輝いていた。

 これでは緊張も何もない。何時も通りのドタバタ大喜劇だ。

「おおい、ちょっと待ってくれ! もうちょっとゆっくり……!」

「ああああ、張り付かれた! おい誰か、コイツを剥がしてくれ!」

「おわあ、来んな! こっち来るなあ!」

 少年達の遥か後方で、女騎士が闇雲に突撃した事で離された他の冒険者達が、通路の横道から沸き出して来る人形の群れに襲われている。防具でしっかりと身を固めているので死にはしないだろうが、彼等にはこの人形達の相手は難儀らしい。二十人近く居た冒険者達は、溢れ出す人形の処理に忙殺され立ち往生していた。

「よし、ダクネス! そのまま進め!」

「任せろ! ああっ、何だこの高揚感は! 初めてクルセイダ―としてまともに活躍している気がする!」

 少年にとってこの状況は正に千載一遇。今のうちに最深部まで行って、女神の魔方陣を消して証拠を隠滅するしかないと決断する。

 女騎士は興奮していて、背後の冒険者達には気が付いていない。まるであつらえられた様な機会だが、少年達は一気に最深部までの道を駆け抜けて行った。

 

 

 一度最深部まで攻略した少年の記憶を頼みに、順調すぎるほど順調にダンジョンを突き進む。少年達は早くも、リッチーが潜んでいた最深部の部屋の近くまでたどり着いていた。

「……居た。あのローブはローだ、間違いない。けど、あんな所で何してるんだ、あいつ……」

 通路の曲がり角からそっと様子を伺うと、少年のスキルを発動した目は地面に座り込んで土を捏ねる人物の姿を確認する。フードを目深に被って表情は窺えないが、そのローブ姿はまごう事なく自身の仲間だと少年は確信した。

 けれども不用意に駆け寄る事はしない。まずは何をしているのか確認する為に様子を見ていると、召喚士と思われる人物は鮮やかな手つきで土塊を成形し、ダンジョン内で蔓延っていた人形を作りだしていた。

「あいつ、やっぱりあの人形を作ってやがったのか。何だってこんなダンジョンの奥でそんな事を……」

 心配していた相手が見つかった事に安堵すると同時に、モンスターの発生原因がやはり召喚士であると知ってしまった少年は頭を抱える。何の目的があってやっている事なのかは分からないが、これでは女検察官にどう申し開きをすればいいのやら。面倒事がまた一つ増えてしまった。

 どうした物かと少年が戸惑っていると、傍らに居た女騎士が剣を引き抜いたまま角から飛び出す。少年が止める間もなく、彼女はそのまま召喚士と思しき人物の前に踏み出した。

「おい貴様、その体から発する禍々しい気配。姿こそローだが、一体何者だ!?」

「えっ、こいつローじゃないのか!?」

 座したままの人物に剣を突き付ける女騎士の言葉に、後を追ってきた少年が驚愕する。確かに姿形は召喚士だと思っていたために、別人だと言われてもにわかには信じられない。

 少年が訝しげに眺める先で、ローブの人物はゆっくりと立ち上がり、大仰に両手を広げて見せた。そして、俯いていた顔を上げて、その面を少年達に見せつける。そこにあったのは、人形達が付けていたのと同じ、左右黒白に別れた仮面であった。

「ふぅむ、ようやっと来たか。待ちかねたぞ、この体の持ち主の仲間達よ」

 発せられた声は、聞き慣れた召喚士の声では無く、良く通る溌剌とした男の声。そこまで来てようやく少年にも、目の前の人物が召喚士とは別人である事が理解できた。

「我がダンジョンへようこそ冒険者よ。我輩こそが諸悪の根源にして全ての元凶。魔王軍の幹部にして、悪魔達を率いる地獄の公爵」

 語りながらまるで演劇の様に仰々しく手振りを行い、胸元に手を当てながら片手を差し延ばす拝礼をしてみせる。口元以外を隠す仮面が、まるでそれこそが己が自身だと言わんばかりに威圧感を放っていた。

「この世の全てを見通す大悪魔、バニルである……」

 目の前の仮面の人物から飛び出した単語。その余りの大物ぶりに少年の顎を緊張の汗が滴り落ちる。

 こんな枯れ果てたダンジョンで魔王軍幹部と遭遇するなど、ゲームの序盤である負けイベントその物ではないか。昨今その手の強制イベントは流行らねーんだよと、心の中で制作神――制作陣にあらず――を罵倒する。

「おい、逃げるぞ! 俺達だけじゃ相手が悪すぎる!」

「女神エリスに仕える者が、悪魔を前にして引き下がれるか! それに、こいつは我々を『この体の持ち主の仲間』と言ったんだぞ。ローの体を取り返さなければ!」

 相手の肩書から少年は即座に撤退を進言、しかし女騎士はそれを受け入れずに剣を構える。彼女の信奉する幸運の女神は、悪魔と不死者には滅法苛烈な事で有名だ。それは無論、その信徒にも受け継がれている。その上で、自分達の仲間が悪魔に取りつかれているなど、彼女には言語道断なのだろう。

 険のある表情と共に剣を向けてくる女騎士を前に、仮面の人物はにやりと口元に笑みを浮かべる。いつも笑みを浮かべている召喚士の体ではあるが、その表情には召喚士が仲間達に向ける親しみは含まれてはいなかった。

「ほう、魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の我輩を……?」

「く……っ!」

 まるで正気を疑うとばかりに言われて凄まれると、口惜しさと圧迫感に女騎士が歯噛みする。大悪魔は神々にも匹敵する力を持つと言う。先の言葉は、あながちはったりとも思えなかった。

「まあ、落ち着くがいい。魔王軍の幹部とは言っても、城の結界の維持をしているだけの、言わばなんちゃって幹部でな。魔王の奴に、ベルディアの件で調査を頼まれたのだ」

 仮面の人物の言葉に出て来た名前に、少年がビクリと体をこわばらせた。間違いなく、以前に討伐した魔王軍幹部の首無し騎士の名であろう。

「ついでにアクセルの街に住んでいる、働けば働く程貧乏になると言う不思議な特技を持つポンコツ店主に用があって来たのだが……」

 これもまた、心当たりのある人物の話であった。なんちゃって幹部の貧乏店主には、少年達もよく会いに行っている。少年が女騎士の方を見れば、彼女も同じ人物を思い浮かべたのか思わず二人で顔を見合わせてしまった。

「そして、我輩は世間で言う所の悪魔族。悪魔の最高の御飯は、汝ら人間が放つ嫌だなと言う悪感情だ。汝ら人間が一人産まれる度、我は喜び庭駆けまわるであろう!」

 要するに、自分は人に危害を加えるつもりは無いと言う事が言いたいのだろうか。話すうちに興が乗ったのか、仮面を付けた頭が天井を見上げ、仰け反る様にして両手を開いている。ついでに、先程作っていた人形も、己が主を真似て同じポーズをしていた。その拍子に目深に被っていたローブが落ちて、中に納まっていた三つ編みに編まれた黒髪が零れ落ちる。

 何はともあれ、少年は今の話で思い浮かんだ疑問をぶつける事にした。

「ダンジョンからその人形がポコポコ出て来て、その人間が難儀しているんだが?」

「んむ、それはこの体の持ち主に言われて知っている。もともとは、このダンジョン内部のモンスターを駆除する為にこの人形をばら撒いていたのだが、それを途中で止めてしまえば、汝等をこの中に誘い込む事が出来ぬからな」

 最後の発言に、今度こそ少年の頬を冷たい汗が伝い降りた。この仮面の悪魔は少年達を内部に誘い込んだと言った。魔王軍幹部が、同じ幹部を倒した者を誘い出して何をしようと言うのか。

「そう怯えるでない、鎧娘が数日帰ってこなかっただけで自室を熊の様にうろうろしていた男よ」

「おおい、止めろよ! 何で見て来た様に言うんだよっ!? お、お前もモジモジするのはやめろ!」

 少し前まで緊張感を保っていたはずだが、仮面の悪魔の一言でそれは崩壊した。少年は顔を赤くして大いに狼狽し、女騎士は隣を気にして口元に手をやりながらチラチラ少年の事を見ている。

「まあ、この人形どもはもう必要ないか。この体の器用さのあまり、つい大量に作ってしまったが、とっとと次の計画に移行するとしよう」

 召喚士がダンジョンに行った途端に人形の数が増えたのは、体を乗っ取られた召喚士の器用さの高さが原因であった様だ。仮面の悪魔は人形に手をかざし、役目を終えたそれを土塊へと戻した。

「お前は一体、何を企んでいるんだ?」

「企んでいる等とは失敬な。我輩にはな、とびきりの破滅願望があるのだ」

 それから語り出された仮面の悪魔の計画。それは、自分だけのダンジョンを手に入れて、配下の悪魔や数々の罠を配置した高難易度の迷宮を作り出す事だった。

「それに挑むは、歴戦の凄腕冒険者達。やがて、苛烈な試練を潜り抜け、勇敢な冒険者達が最奥の部屋へとたどり着く……。待ち受けるのはもちろん我輩!!」

 だんだんと語る言葉に熱が籠り、芝居じみた身振り手振りが激しくなって行く。余程この計画に心酔しているのだろう、その語り口から力の入れ様が窺えると言う物だ。

「『よくぞここまで来たな冒険者よ! さあ我を倒し、莫大な富をその手にせよ!』そんな台詞と共に、遂に始まる最後の戦い! 激戦の末、とうとう打倒された我輩の背後には、封印されし宝箱が現れる……」

 熱く語る悪魔は戦いの情景を思い浮かべているのか、力んだ体に光り輝く紫色のオーラが溢れ出して来る。こっぱな冒険者など吹き飛ばしてしまいそうなその余波に、少年達はその戦いの熾烈さを否応無しに思い浮かべた。

 何よりも、それ程の存在が守る財宝とは何なのか、話に引き込まれた少年達も固唾を飲んでしまう。

「苦難を乗り越えた冒険者がそれを開くと、中には!! ……スカと書かれた紙きれが」

 固唾を飲んだ事を酷く後悔した。凄い迷宮を乗り越え、強大な悪魔を打倒して出てきた宝箱にそんなものが入っていたら、少年ならきっと『舐めんな!』と叫んでいた事であろう。

「それを見て呆然とする冒険者達を見ながら……、我輩は滅びたい……」

 正に己の破滅願望を満たしきった場面を想像したのか、仮面の悪魔は両手を広げながら仰け反り感極まった声で言葉を紡ぐ。実にはた迷惑極まりないその願望に、最弱職の少年はげんなりした顔で『それだけは止めてやれよ』と思っていた。

 仮面の悪魔は語り切ったとばかりに姿勢を戻し、急に冷静に戻った口調で話しを続ける。

「その計画を実行する為、友人の店で金を溜め巨大ダンジョンを作ってもらうつもりだったのだが……。偶然ここを通りかかり、主が居ない様だったので『もうこのダンジョンで良いかな』と」

 壮大な計画だった割りには、場所決めが行き当たりばったりだった。あの熱い語りは何だったんだろうか。凄くどうでも良い理由でこの場所が選ばれた事に、少年はもう何度目かもわからないが脱力した。

「一つ誤算があったのは、この奥にけしからん魔法陣があった事だが。安心するがいい小僧、あの魔法陣はこの体の持ち主が既に綺麗に消しておるわ」

 先程から少年の内心が、見て来た様に丸裸にされて会話が進んでいる。とは言え、少年が懸念していた魔法陣の問題は既に解決していると言う。

 であるならば、本当にこの悪魔は何が目的で仲間の体を奪い、少年達をこの場に誘い込んだと言うのだろうか。語られた内容からは、まったくその事を窺う事は出来なかった。

「なぁに、汝らを直接害そうと言う訳では無い。魔王の頼み事やベルディアの事など、我輩には些末事。我輩の今の目的は、『確認』と宿敵の排除である」

 確認と言う部分に力を込めて、そして嬉しそうに排除という言葉を紡ぎ出す。魔王より強いと言われるような大悪魔の宿敵、そんな者が居るとしたらそれは神と称される者達に相違ないはずだ。少年には身近に一人、神を名乗る人物に心当たりがあった。

「では……、ちょっと拝見……」

 仮面の悪魔は一方的に言い切ると、指でフレームを作りそこから少年の事を覗き込む。仮面に描かれた亀裂の様な眼が赤く輝き、ぞくりとした感覚が最弱職の少年に襲い掛かる。根拠はないが、自身の内面を覗き見られていると言う、確かな確信が少年にはあった。このままではまずい事になるという予感も、ふつふつと沸いて来る。

「フッ……。フハハハッ! フハハハハハハハハッ! なるほどなるほど、これは難儀な契約であるな。この体の持ち主も、我輩の所へ来ると言う物か。それはそれとして、あの迷惑な魔方陣を張ってくれた者が、今どこに居るかも確認できた」

 突然の哄笑と共に、一人で勝手に納得をする仮面の悪魔に、危機感を感じたのか女騎士が少年を庇う為に前に出る。それを気にも止めずに、仮面の悪魔は口角を吊り上げ言葉を続けた。

「見える、見えるぞ! プリーストが茶を飲んで、寛いでいる姿が見えるわ!!」

 散々トラウマを発症させて怖がっていたくせに、青髪女神は今優雅にお茶を楽しんでいるらしい。自分が魔王軍の幹部と対面していると言うのにと、最弱職の少年の中で青髪女神への苛立ちが募る。

「その男との賭けで負け、『すんごい要求』とやらが気になり、先程から色々と持て余し、ずっとモジモジしてる娘よ!」

「も、持て余していないしモジモジもしていない! 適当な事を言うな! いいい、言うなあっ!!」

「この件が終わったら、そこの娘にどんな要求をしようかそわそわしている男よ!」

「そ、ソワソワしてねーしぃ! しし、してねーし!!」

 それぞれの顔に指先を突き付けてポーズを決めながら、実に不名誉な事をズバリと言い当てる仮面の悪魔。少年も女騎士も否定はするが、どちらも顔が真っ赤に染まり動揺が隠しきれていない。

「そこを通してもらおうか! なぁに、『人間は殺さぬ』が鉄則の我輩だ。ああ、人間は殺さんとも……、人間はなぁ……。こんな迷惑な魔方陣なぞ作りおって! 一発きついの喰らわしてくれるわ!!」

 仮面の悪魔はとてもご立腹であった。たとえ既に魔法陣が消えていようとも、それに害された事は未だに根に持っている様だ。何よりも、人間は殺さぬと言いながらも不敵に笑う姿に、少年は目の前の悪魔が言う宿敵が青髪女神であると確信した。

「アクアに危害を加えると言うなら、退く訳には行かない! ローの体も返してもらうぞ!」

 この悪魔を放置していると青髪女神が酷い事になる。そう考えたのは女騎士も同様で、剣を両手で構え直し戦闘態勢に入った。何よりも、今は悪魔が扱う体も仲間の物なのだから、取り返さずには話にもならない。

 仮面の悪魔はその仲間の体でへらりと笑い、道化の様な仕草で煽りながら言葉を紡ぐ。

「腹筋だけでなく脳まで固そうな娘よ! 今すぐ帰れば、二人とも誰にも邪魔されず、『すんごい要求』は期待通りになる事間違い無しだ!」

「っ!? 耳を貸すな、悪魔のささやきだ、惑わされるな!?」

「なっ、誰が惑わされるか!? カズマこそ、時と場合を考えろ!」

 ものの見事に精神攻撃に翻弄される二人。鼻の穴を膨らませて動揺する少年に、女騎士は顔を赤らめながらも一喝する。そしてついには剣を振り被り、闘う意志を明確に突き付け会話を討ち切ろうと襲い掛かった。

「もういい、貴様と話をしていると頭がおかしくなりそうだ!」

「おい! 体はローなんだぞ、攻撃するなら慎重に!」

 激昂して襲い掛かる女騎士だが、それを慌てて制する最弱職の少年。そして、それを許してくれないのが仮面の悪魔。あっさりと攻撃を躱して更なる挑発を続ける。

「フハハハ! 何なら、そこの魔方陣の有った部屋で『ご休憩』でもして帰るがよい」

 小馬鹿にする様にわざわざ声色を変えてまで入れたその言葉が、休息しろと言う意味でない事は十分に伝わって来る。多感な時期の男の子には色々と辛い攻撃が続き、少年の精神はもういっぱいいっぱいだ。

「んんんんっ!?」

「おおい、カズマ葛藤するな! 同じ屋敷に住んでいるのに、そんなおかしな関係になってどうする!? しっかりしろ!!」

「はっ!? 見てくれが良くて体が好みでも、中身がアレのダクネスだ。しっかりしろ、俺!」

「か、帰ったら覚えていろよ……!」

 的確に弱点を責め立てる口撃に屈しかける少年だったが、女騎士の外見と中身の差を思い出し何とか踏み止まる。ぼろくそに言われた女騎士は涙目になった。

「ふむ、そなたらの悪感情を貪るのも悪くは無いのだが、そろそろこの体の力を試させてもらおうか。来るべき時に向けての試運転をな……」

 告げる言葉と共に、悪魔が操る召喚士の体が諸手を前に突き出し、中空に二つの魔法陣を浮かび上がらせる。召喚士の体が持つ能力と言えば、一つしかないだろう。

「レベル六十召喚、現れよ『ミドガルズオルム』、そして『フローズヴィトニル』」

 ずるりと、中空の魔方陣から飛び出したのは蛇と狼。召喚士が普段から呼び出していた、あだ名で呼び習わしていた怠惰な蛇と巨躯の狼に相違無いだろう。

 だが、二匹の姿は少年達の見知ったものでは無かった。

「これは……、フーとヨー達なのか? ローが召喚した時とはまるで違う、何と言う禍々しい姿なのだ」

「ミドガルズオムって……。おいおい、って事はフーの方はまさか!?」

 召喚主の状態のせいか呼び出されたレベルのせいか、巨躯の狼は何時も以上に身体を巨大な物にさせ銀の体毛を逆立たせながら低く唸り声を上げている。

 更に顕著なのは、魔法陣から頭だけを露わにしている大蛇の方だろう。彼の体躯は胴回りだけで、ダンジョンの通路を埋め尽くしてしまいそうになって居る。尾まで露わになった時どれだけの強大さを誇るのか、想像するにも勇気を必要とする巨大さだ。普段は気だるげにしている相貌も、今は金色の瞳が見開かれている。

 女騎士は印象の違いに驚き、少年は召喚時の文言で何かに思い至った様だ。どちらにせよ普段の姿を見慣れた少年達には、まるで悪魔のせいで凶悪な姿形になった様に映っていた。

「ふむ、世界蛇の方はこのダンジョンに呼び出すには大きすぎたか。では、自由に暴れられる所まで、エスコートしてもらうとしようではないか」

 仮面の瞳が赤く輝く。刹那、魔法陣から通路をほぼ占める程の大きさの蛇が飛び出した。

 その状況に最初に反応したのは女騎士で、彼女は剣を構えたまま真っ向から受け止める構えを取る。それを見た最弱職の少年が通路脇に跳び退いて、両者のぶつかり合いを見届け叫ぶ。

「ダクネーース!!」

「ぐっ、くおおおっ! これはもしかして、丸呑みにされるチャンスなのでは――ああああああっ!?」

 少年が最後に見た女騎士は、巨大な口に横咥えにされて連れ去られて行く姿であった。何処となく嬉しそうにして何やら叫んでいたので、そんなに深刻では無いかもしれない。

 それよりも深刻な物は、少年の背後に迫って来ていた。

「案ずるな小僧。我輩は無論、彼の大蛇もあの鎧娘を害するつもりは無い。それよりも、呆けているとこのまま地下でお留守番する事になってしまうが、良いのかな?」

「……えっ?」

 振り向けばそこにはずいと迫って来た狼の鼻面。その上にはいつの間にか召喚士の体が跨っており、悪魔の仮面の下で口元が楽しげに歪んでいた。

 そうして、次の瞬間には地を這う様にして巨躯の狼が駆け出す。ともすれば、一瞬にして視界から消えそうになる銀の流れに、最弱職の少年は慌てて手を伸ばし辛うじてモフモフした尻尾にしがみ付く。腕が千切れるかと思う衝撃と共に、少年の体もまた狼と同じ速度に乗った。

 仮面の悪魔が何故あんな忠告をしたのかは分からないが、確かに置いて行かれればその間に何もかもが終わってしまうかもしれない。だから少年は、がむしゃらにしがみ付くのだ。

「……きっと、外ではもっと面白い事になるよ。……頑張って色々な事を覚えてね、カズマ」

 必死で毛皮に埋もれる最中に、最弱職の少年は聞き慣れた声を聞いた様な気がする。だが、それも直ぐに風の音に掻き消えた。そもそも、今の少年に些細な違和感を気にしている余裕は無い。

「さあ、ダンジョンから無事に帰還した仲間との、感動の対面である! 貴様らの仲間のプリーストに、きついの一発喰らわせてくれるわ!! フハハハハハハハハッ!」

 高笑いと共に、舞台は地上へと移る。仮面の悪魔が、二匹の巨獣を引き連れて。

 翻弄される少年は、仲間達の事ばかりを強く思うのであった。

 

 




こんなの私のバニルさんじゃない!!
そう思う方、私もそう思います。
アニメのあの軽快なコントを全て書きたかった。
誰か素晴らしいバニルさんを書いてくださいお願いします。


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