【完結】二回目の世界とメアリー・スー   作:ネイムレス

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投稿をしようと思ったら、第一話がプロローグに上書きされていました。
その為この話は一時間ほどで速攻で書いたので誤字脱字があるかもしれません。
先にお詫び申し上げます。


第一話

「あああああああああああああああああああああああああああーっ!!」

「うおっ! な、なんだよ、やめろ! 分かった、悪かったよ、後は自分で何とかするからもう帰っていいよ!」

 あまり背の高い建物が目立たない、のどかな雰囲気を漂わせる街並みに、女の絶叫が響き渡っていた。

 叫ぶ女はこの地域では見かけない珍しい恰好の男の胸ぐらを掴み、がっくんがっくんと揺さぶり立てる。およそ女がして良い顔をしていなかった。恥も外聞もかなぐり捨てて、只管に目の前の男に自身の叫びを体ごとぶつけて行く。

 揺さぶられる男はたまらず相手の腕を振り払い、もうお前帰れよと素気無く告げる。それを聞いてさらに女は泣き喚き、今度は頭を抱えて長い青色の髪を振り乱しだす。どこからどう見ても痛い女であった。

「おい、落ち着け女神。まずはこれから冒険者ギルドを探すぞ。今はとにかく情報収集が必要だからな」

 情報収集と言えば人の大勢集まる酒場。そして、異世界の冒険者ギルドは酒場が一体になっている場合が多いのがお約束だ。それはロールプレイングゲームでは常識である。異世界からの転生者であるこの少年、サトウカズマはその事をよく知っていた。

 バカにされた腹いせに女神を転生特典として引きずり込んでしまった為に、今自身が扱える武器は転生前の知識ぐらいしか存在しない。ならば、今はそれを最大限に利用しよう、と人知れず胸に決意する。

「なっ……! 引き籠りのゲームオタクだったくせに、なぜこんなに頼もしいの?」

 そんなカズマに何を見出したのか、青髪の女神は転生者の少年に自分の事をアクアと呼ぶように要求する。女神と言う事がばれると周囲が大騒ぎするので、女神と呼びつけられるのが不満なのだそうだ。

 ついでに大して期待はしていなかったが、冒険者ギルドの場所を知らないか確認してみた。それに女神は、胸を張って知らぬと答える。無数にある異世界の、さらに小さな街の地理など知るわけがないと。

「こいつ使えねぇ……」

「ぬわぁんですってぇ!?」

 期待していなかったとは言え、思わず口に出るほど落胆してしまった。今の言い分だとこの世界の情報をどれだけ引き出せるのやら、そちらにも期待薄である。

 女神があてに出来ないとなると、はてさてどうしたものか。また騒がしくなった女神をしっしっと手を払って追い返しながら、聞き込みでもするかと辺りを見回す。出来ればニートにも優しい様に怖そうな男性や、年若い女性以外の人が居ないものかと視線を巡らせて――

 ふと、こちらの方に歩んでくる人物を見かけた。

 それは、街中だというのにフード付きのローブで全身をすっぽりと覆った、はっきり言って怪しげな人物であった。

正直こんなのに話しかけるのは戸惑われるが、他に人の姿も見当たらないので仕方ない、と自身を納得させる。

 身長がそんなに高くなかったのも、話しかけた理由に含まれるかもしれない。どことなく、華奢な印象を受ける体の大きさであった。

「えっと……、すいませんそこの人、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが……」

 出来るだけ下手に、怖い人だった時の為に当たり障りのない様に話しかけておく。すると、声を掛けられたのが予想外だったのか、ぴくりとフードの人物の体が跳ねた様に見えた。怪しい外見に似合わず、案外気の弱い人だったのだろうか。それだと少し悪い事をしてしまったかもしれない、そんな風に考えつつも言葉を続けた。

「いきなりで申し訳ないんですが、この街の冒険者ギルドの場所を知って居たら教えて貰えないでしょうか?」

「…………」

 特に失礼な言い方をした心算も無かったが、帰ってきたのは無言であった。何だろう、話しかけたこと自体が何かまずかったのだろうか。

 思わず縋る様な視線を向けた少年に、話しかけた人物はフードを外しながら漸く言葉を返してくれる。それは、涼やかだが力強い声色で、男の物にも女の物にも聞こえる独特な声色であった。俗に言うハスキーボイスと言う奴だ。

「すまない、まさか話しかけられるとは思っていなくてね」

「あっ、いえいえ、こちらこそ不躾で――」

 相手が謝罪してきたので慌てて謝罪を返そうとして、転生者の少年は言葉を続けられなくなってしまう。フードの下から現れた相手の素顔に、図らずも見とれてしまったからだった。

 現れたのは長い黒髪を太い三つ編みに結って肩に掛け、吸い込まれる様な黒い瞳を持った中性的な美人。髪と瞳の色で最初は自分と同じ日本人かと思ったが、それにしては容貌が整っている様に見えた。外人さんかハーフなのかもしれない――そんな風に思ったが、そもそもここは異世界なので元々こう言う種族なのかもと、憶測があれこれ加速する。

 少しの間固まっていたが、不審に思った女神に背中を突かれ正気に戻る。少年は取り繕う様に両手を振って、何でもないと青髪女神に引き攣った笑いを見せた。

「あぶねー…、異世界に来ていきなり何挙動不審になってるんだ俺ぇ……。落ち着けー、相手はそもそも男かもしれないんだぞ、いきなり血迷うなよぉ……」

「ねぇちょっと、本当に大丈夫なの? 今度はぶつぶつ独り言呟いて、正直言ってかなりキモイんですけど」 

「おい、キモイとかかなり傷つくから止めろ。これは精神統一の為の儀式なんだよ。初対面の人に不審に思われたらどうするんだ」

「不審さならもう既にかなりの物なんですけど。なんなの? 自分ではその体からにじみ出る不審なオーラに気が付いてないの? 馬鹿なの?」

「ぷっ……、くふ……」

 挙動不審の転生者の少年に、半眼になってツッコミを入れる青髪女神。まるで漫才の様なやり取りに、ローブの人物から奇怪な声が漏れだした。

 何事かと二人して視線を向けてみれば、口元に手をやってその隙間から声が漏れ出ている。どうやら笑いを堪え切れなくなった様だ。

「あははは、すまない。いや、本当にすまない。でも、二人のやり取りが凄くおもしろくて、ぶっはははははっ!」

 ついには腹を抱えて大声で笑い始めた。笑いすぎて背中が丸まり、外したフードがまた頭にずり落ちるほどの笑いっぷりである。端正な顔立ちのせいで大人びて見えたが、笑うとどこかあどけなさが出て来る様だ。一層年齢が分かり難くなってしまった。

 一頻り笑い終えると、目の端に涙の粒を残しながら、彼なのか彼女なのか分からない人物は、二人の求める答えを口にした。若干、笑いで声が震えていたが。

「冒険者ギルドの場所だったね。僕もこれから行くところだったんだ。よかったら一緒に行かないかい?」

 それは、行先も先行きも分からない二人には、願っても無い言葉であった。格好は怪しいが意外に親切なのかもしれない、そんな風に思って軽く自己紹介をしておく事にした。

 サトウカズマ――自身の名前と、ついでに青髪女神も紹介しておく。相手もまた、己の名を口にして自己紹介をしてくれる。自然に差し出された握手を求める手に、少年は慌てて手を重ねる。

「『はじめまして』、僕の名前はローズル。気軽にローちゃんとでも呼んでほしい」

 そう言って、屈託なく笑っていたフードの人物は、今度はにやーっと意地の悪そうな笑みを口元に浮べていた。

 

 

 

 駆け出し冒険者の集まる街と言うだけはあり、アクセルの街の冒険者ギルドはとても大きな建物であった。

 中は主に二種類の施設に分かれており、その一つは強い酒精と香しい料理の匂いを漂わせた酒場である。クエストやダンジョン探索を終えた冒険者達が、ほぼ時間を問わず集まって騒ぎ立てる溜まり場だ。ギルド直轄経営で、稼がれた分を直ぐに回収するとは商魂たくましい限りである。

 扉を開けた瞬間、ギルド内の視線が一気に集まった。その圧力に一瞬たじろぐも、直ぐに気を取り直して扉を潜る。転生者の少年としては視線の圧力よりも、ギルド内の雰囲気と冒険者になれる事への期待と興奮が上回った様だ。

 入って直ぐに赤毛短髪のウエイトレスが、快活な声と共に出迎えてくれる。どうやら仕事を探しているなら、建物奥のカウンターに行くと良いらしい。

 カウンターへと向かう道すがら、その視線の原因は自分の女神的オーラだと言い出す自称女神。容姿だけは良いのでその意見は当たっているのだろうが、その条件だと女神の隣のローも端正な顔立ちなので女性の目を引き付けているに違いない。その事が面白くない少年に、女神の発言は当然聞き流された。

 騒がしい酒場エリアを抜けて、奥の受付カウンターの傍まで来ると、三人の目の前には四つの受付とそれぞれに待機する職員達が見えて来る。

 転生者の少年はじっと受付に座る職員達を眺めると、一番顔立ちの良い胸の大きな金髪の女性に目を付けた。暫くじろじろと無遠慮に金髪巨乳の受付嬢を眺め、何かを確信するかの様にうんうんと一つ頷く。そして、何も言わずにその金髪巨乳をスルーして、彼女から一番遠い男性職員の居る受付に向かった。

「ちょっと、カズマ。一番美人な受付のおねーさんをなんで無視するの? 美人の受付は人気者で顔が広いはずだから、色々なイベントに遭遇できるって、ここに来る途中で散々自慢気に話をしてたじゃない」

「……なんか、あの人の顔見てると凄い胸がシクシク痛むんだよ。まるで、とんでもない騙し討ちにあった後に、酷い弁解で更に傷つけられたみたいにさ」

 転生者の少年はギルドにたどり着くまでに、異世界転生の何たるかを道すがら道連れ二人に話していた。その中には冒険者登録の時は、美人の受付にした方が良いというのも含まれていたのだが、少年の胸中にはあの女だけはやめておけと言う、既視感の様なものが発生していた。未知の経験則とでも言う物か、少年はそれに従う事にしたのだ。

 青髪女神は最初こそ不満を持っていたが、自分よりも異世界転生に詳しい少年が深刻そうな顔で話すのを見て、それ以上の追及はしてこなかった。フードの人物は特にこだわりが無い様で、無言のまま二人の後について来る。

 転生者の少年は辿り着いた受付で、早速と冒険者登録をしたいと告げた。

「あー、完全新期の冒険者の方達ですか? すみません、冒険者カードの発行はこの窓口では行えないんですよ。お手数ですが、あちらの受付の方でお願いできますか? 彼女はこのギルド一番のベテランなので、初心者の方には適切な助言もしてくれますよ」

 そんな話を聞かされてしまった上に、粘ろうとしたが機器の故障で他の窓口では登録できないとまで言われてしまう。結局少年たち一行は、たらい回しで金髪巨乳の所に戻されてしまった。

 口を引き結んで荒んだ眼をした少年と女神、そしてにやにやしているフードの人物は改めて受付嬢に冒険者になりたい旨を彼女に伝える。あからさまにスルーされた後だと言うのに、金髪巨乳の受付嬢は完璧な営業スマイルで出迎えてくれた。

「はい、それではまず、冒険者登録には登録料として千エリスが掛かりますが、持ち合せの方は大丈夫ですか?」

「……ええ、これでお願いします」

 フードの人物はジャラリと音のする革袋を受付に置いていたが、残りの二人は冷や汗をかいている。登録にお金がかかるなんて聞いてない、その上今は無一文であれば肝ぐらい冷え様ものか。

 転生者の少年は、転生時に金を持たせない神々のシステムを心の中で盛大に呪った。

「もしかして……、お金足りないの?」

 足りないどころか持ってません――とても口には出せずにコクリと頷く少年と女神。フードの人物は快くお金を出してくれると申し出てくれたが、彼の所持金は二千エリスしか無かった。必然的に一人が余る。その上、親切にしてくれた人まで無一文になってしまう。

 流石に全財産を使わせる訳にも行かないと少年が思い悩んでいると、青髪女神はそんな少年を小馬鹿にして、自分の出番だと胸を張って酒場の方へと向かって行く。

 しばしきょろきょろと辺りを見回していた青髪女神は、酒場の客の中から聖職者らしき老人を見つけて側に近寄り――

「そこのあなた、宗派を言いなさい! この私はアクシズ教が崇めるご神体女神アクア! もしあなたがアクシズ教徒ならば……、お金を貸してくれると助かります!」

 上から目線なのか下手なのか分からない金の無心を始めた。

 老人は確かに聖職者だったが、自らをエリス教徒だと名乗る。あてが外れた女神はすごすごと帰ろうとしたが、なんとその老人は困って居るのだろうと多めにお金を渡してくれた。これも神のおぼしめしだと朗らかに笑って、更には信仰熱心でも女神を名乗るのは良くないよと優しく諭してまでくれる。なかなか人の出来たお方だった様だ。

 自分の後輩の女神の信徒に、恵まれるどころか説教までされてしまった女神は、落ちぶれたわが身を嘆いて泣きながら乾いた笑いを浮かべていた。

 紆余曲折合ったが、資金が揃ったので改めて冒険者登録を行う事となる。一連のやり取りに、さしものベテラン受付嬢も苦笑いを隠せなかった。

 最初に冒険者カードを作ったのは、すんなりお金を出したフードの人物。水晶に掌を乗せると、あとは自動的にカードを作り上げてくれるらしい。

「うーん、体力と素早さがかなり低いですが、その代り知力と器用さが物凄く高いですね! 後は平均的なステータスですが、この器用さの高さなからアーチャーやビーストテイマー、高い知力を生かしたセージやウィザードがお勧めできます。あ、それの他にも召喚士の適正もあるみたいですね。召喚士は滅多に居ないレア職ですよ!」

「では、召喚士でお願いします」

 フードの人物改め、駆け出し召喚士の誕生であった。どんな職業かはわからないが、受付の人間が珍しいと言うのであれば期待できる職業なのだろう。

 次に登録をしたのは転生者の少年であったのだが、彼には高めの知力と壮絶に高い運以外、全てのステータスが平均以下という残酷な結果が待って居た。なれる職業もクラスとしての冒険者だけであり、最弱の職業よりも運を生かした商人になった方が良いとまで言われてしまう。

 それでもあきらめきれずに少年は冒険者を選び、最弱職の少年として異世界で生きる事となった。

「こ、このステータスは!? こんなの見た事ありません! 知力と運以外のステータスが異常な数値ですよ!?」

 最後にカードを作った青髪女神は、なんと大絶賛を受ける事になった。知力と運が低い代わりに、他の全てのステータスが異様に高い事が判明したからだ。職業も知力を必要とするアークウィザード以外、ほぼすべての上級職になれるとまで太鼓判を押される。青髪女神は煽てられて調子に乗りながら、支援と回復をこなすアークプリーストの職を選んでいた。

 受付嬢の声を聴いた冒険者達も、優秀な冒険者の誕生に、それもなり手の少ないアークプリーストの誕生に盛大に祝福を送る。もう、ギルド中がお祭り騒ぎであった。

「普通、こう言うイベントは俺の方にあるものだろう……」

「ぷっ……」

 完全に存在を忘れられた最弱職の少年が、ちやほやされる青髪女神を見ながら恨めしげに呟く。その隣で実に愉快そうに、召喚士となったフードの人物が含み笑いしていた。

 

 

 なんやかんやとあったけれども、これで全員が晴れて冒険者として登録する事が出来た。

 ここからいよいよ、異世界での冒険者生活が始まる。


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