【完結】二回目の世界とメアリー・スー   作:ネイムレス
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最後だからお祭り騒ぎだよ。


第二十四話後編

 ぐいっと、服の袖で目元を乱暴に拭う。滲んでいた視界をクリアにして、最弱職の少年はその胸元から紐で吊るされたカードを取り出した。

 今まで何度もしていた様に、カードを操作してスキルの項目を選び、習得可能なスキルの一覧から目当ての物を探り出す。そのスキルは項目の一番下に表示されていた。スキル名は『絆の召喚術』。

 何が絆だよと心中で呟いて、少年は苦笑しながらそのスキルを習得する。スキルポイントは計った様に、今レベルアップした分も合わせて丁度足りる様になっていた。最初から最後まで仕組まれていたのだと、強く実感させられてしまう周到さである。

 自分の中で遺伝子が組み変わるかの様な錯覚と共に、少年の胸の内にはスキルを習得できたと言う実感がわき上がって来た。普段なら、適当にカエル退治でもして威力を試すのだが、この場ではそんな悠長な事はしていられない。ぶっつけ本番で、自らが呼び出すべき者の名を呼ぶ。

「お前の力を貸してくれ。真名召喚、水の女神『アクア』ッッッ!!!」

 かつて、召喚士が見せていた様に、高らかに呼び出す者の名を宣言する。ちょっとだけ格好つけてポーズを取って見たりして、新しい力を手に入れた少年のテンションは今限りなく高まっていた。

 少年の足元に青く輝く魔法陣が展開し、その中心から呼び出された者が姿を――表さない。

「………………あれ?」

 召喚陣はきっちりと現れているというのに、呼び出そうとした青髪女神は一行に姿を見せずにいる。スキルはしっかりと発動しているので、獲得に失敗したと言う事は無いはずだ。だとすれば、考えられる事はただ一つ。

「くぉらあ!! シリアスで通して来た場面で、何抵抗なんざしてやがんだ! さっさと出て来やがれ、この『駄女神』がぁっ!!!」

 吠え声を上げて魔法陣をゲシゲシと踏みつけ、改めて召喚スキルを発動させる。すると、魔法陣の中心からにょきりと両足が生えて来て、シタバタともがき始めた。

「こいつ、どこまで抵抗しやがる! おらぁ、出て来いやぁ!!」

 じたばたと暴れる両足を捕まえて、まるで根菜でも引っこ抜くかの様に一気に引き上げる。青髪女神の短いスカートがとんでもない事になっているが、怒り心頭な少年はそれどころではない。掴んだ足ごと後ろに倒れ込む様にして、ついには抵抗していた青髪女神を頭まで引きずり出す事に成功していた。

「いーやー! いやよぉ!! この高貴な水の女神様が、何処の馬の骨とも知れない輩に召喚されるなんて屈辱の極みだわ!! 誰だか知らないけど、さっさとこの私を元の世界に――ってあら? カズマさんじゃないの? さてはアンタが私を呼びだした張本人だったのね! ヒキニートの癖にこの私を呼び付けるなんて、不敬で生意気よ!! 謝って! 麗しの女神様を勝手に呼び出してごめんなさいって、早く謝って!!」

「そうだよこのクソビッチ! 特典召喚獣の分際で無駄な抵抗しやがって、まともに呼び出しぐらい受け付けろよな。あと、この非常時に誰が謝るか! ちょっとは周りの状況見て発言しやがれ!!」

「あんですってー!?」

 ただ知り合いを一人召喚しただけだと言うのに、少し前までの雰囲気が跡形も無く粉砕されて行く。この騒がしさに、穴の開いていた胸元へ、春風が流れ込んで来るかのような気分にさせられる。知らず、少年の口元には引き攣った様な笑みが浮かんでいた。

「良いからあれを見ろ。あの出来そこないの化け物を何とかしないと、今ここに居る俺達も、俺達の居た世界も滅茶苦茶にされちまうらしいんだよ。あの魔神器メアリー・スーにな」

「はー!? なによそれ、どこの厨二病患者が考え付いた痛い物語ですかー? あんな気持ちの悪い奴に近寄るなんて絶対に嫌よ! カズマさん一人で何とかしてちょうだい!!」

 分かってはいた事だが、世界の危機とあってもこの女神は非常に非協力的だ。元々は天界のばら撒いた神器が原因みたいな物なのだから責任を取れと言いたいが、どうせこの青髪女神に訴えても仕方がないだろうと少年は思い至る。

 だから、何も言わずに行動する事にした。

「……ドレインタッチ」

「づあああああああああああああっ!! ヒキニート、あにすんのよ!!」

 無言で首根っこを掴んでからの魔力強奪に、青髪女神が全身を強張らせて悲鳴を上げる。涙目になった青髪女神が文句を言って来るが、これで必要な物はそろったのだ。

 此処で遠方で体を再生させた成り損ないの魔神器が、身体を起こして再び前進を再開するがもう遅い。少年はその魔神器に向かい腕を突き出して、再び呼び出す者の名前を高らかに宣言する。

「真名召喚、クルセイダー『ダクネス』ッッ!!」

 しかし何も起こらなかった。魔法陣すら浮かび上がらずに、思わず己の手と足元を何度も見やってしまう。それに反応したのは敵では無く、隣に居て不服顔をしていた青髪女神であった。

「プークスクスッ! 格好つけてポーズまで決めたのに不発とか、凄いカッコ悪いんですけど! チョー受けるんですけどぉ!! プワーックスクスクスゥ!! って、あら……? カズマさんあいつ来てる、こっち凄い勢いで迫って来てる! かかか、かじゅまさん! かじゅまさーん!!」

「うるさーい!! はっ!? そうか、真名だから本名じゃないと駄目なのか!? ったくもう、さっさと出て来やがれ『ド変態騎士』が! 真名召喚、クルセイダー『ダスティネス・フォード・ララティーナ』ッ!」

 今度こそ、少年の放った言葉に反応して、足元に黄色く輝く魔法陣が展開される。程なくして、魔法陣の中心より鎧を纏う女騎士がその姿を現した。

 金の髪を高い位置で括って靡かせる彼女は、開口一番に思いの丈をぶちまける。

「平民に相手に、一方的に呼び付けられるのはなかなか良かったぞ。でも、恥ずかしいから私をララティーナと呼ぶな! 呼ぶなあああああああっ!!」

「やっと出て来ておいて、言うのがそれかよ!? んなことは良いから、お前はあいつの攻撃を何とか防いでくれ! お前は俺が知る限り最高の肉盾だ、頼んだぞダクネス!!」

「肉っ!? ……っはぁ!! 詳しい事はよくわからんが……、任せておけ!!」

 本名を呼ばれるのが恥ずかしい女騎士は、最終的にはご褒美を受け取って顔を赤らめつつ剣を引き抜き構える。相手は神話の魔獣を軽々と倒して見せる本当の化け物だが、少年には確信めいた自信があった。召喚士に伝えられた言葉が、彼の中で一つの可能性を浮き上がらせているのだ。

 成り損ないが女騎士の目前に迫り、その手にした刀を無造作に振るう。銀の巨狼をひと撫でにして屠った、恐らくはキテレツな名前では無くもっと厨二臭い名前の付けられているだろう刀を。

 斬撃は明らかに女騎士の反応速度を超えて迫り、無防備なその体を肩口から薙ぎ払う。そして、女騎士の体が吹き飛ぶと同時に、刀の方がまるでガラス細工が砕ける様に爆散した。

「ングッ!? つはああああんんんんっ!! 今までにない強烈なこの衝撃っ!!! イイいいいいいいいんっ!!」

 木の葉の様に吹き飛んでごろんごろん転がって行く女騎士はどうやらまったく無事な様で、むしろ与えられたダメージの高さにビクンビクンと悶えて大興奮している。

 この状況に一番驚いているのは、刀と共に絶対の自信を砕かれた魔神器だろう。体中から生えてきている顔と一緒になって、手の中に残る鍔だけになった刀と嬉しそうに悶える女騎士を交互に見返していた。

「やっぱり、思った通りになったな。アレが俺の成り損ないだってんなら、俺がダクネスを一撃で斬り伏せるなんて絶対にありえない!」

 そしてもう一人、この状況にガッツポーズを取るのが最弱職の少年だ。召喚士が言っていた言葉が、今なら全て理解できる。あの魔神器が少年になり替わろうと言うのなら、その性質は限りなく少年に寄るのだ。少年が最高だと信じて疑わない女騎士に、少年自身の脆弱な攻撃が通じる道理など欠片も無い。

「何だかよく分からないけど、楽勝ムードな気配がしてきたわね! 何だったらこの私がトドメを――ぎゅあああああああああああっ!?」

 調子に乗り始めた青髪女神をたしなめるついでに、首根っこから再び魔力と体力を補給。余裕が無い時に何か余計な事をされる位なら、後で文句を言われたとしても強制的に大人しくさせておいた方がマシである。

 視線を成り損ないに向ければ、攻撃が通用していないのが不服なのか転がる女騎士を追いかけて、今度は掌からの光の螺旋やら爆炎やらで追撃を仕掛けている。攻撃が命中する度に女騎士は、とても人様にはお見せ出来ないような顔で喜びの吠え声を上げているので、両方とも放っておいて問題は無いだろう。

 その隙に、次なる仲間を召喚する為、最弱職の少年は思考を巡らせる。

「次に呼び出すのは一人しかいないが、問題はそこじゃない。アイツの本名は『めぐみん』で間違いないんだろうが、今までのパターンだとそのまま呼んで素直に来るとは思えない。考えろ、考えるんだ佐藤和真! アイツが喜びそうな厨二的二つ名とか、今までの自己紹介の言葉とか……。んうううっ!!」

 身を捩る程に思い悩むが、何が正解なのか分からない状況では欠片も前進はしなかった。こうなればする事は一つ、何は何でも試してみるしか手段は無い。

「頼む、来てくれ! 真名召喚、アークウィザード『めぐみん』っ! 『紅魔族最強の魔法使いめぐみん』!! 『人類最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者めぐみん』!! えーっと……、『数多の強敵を屠りし者めぐみん』!! くそっ、これでも駄目か!?」

 掌をかざして思い浮かぶ枕言葉を付け加えて呼び続けるも、魔法陣が現れる気配のけの字すらない。やはり懸念した通り、一筋縄ではいかないようだ。

 そんな風にしていると、進展しない状況に少年の中では苛立ちが産まれ、それは現れない魔法使いの少女への憤懣へと変換されて行く。

「いい加減にしろよ、あの『ロリガキ』! 『厨二病』っ! 『ネタ魔法使い』っ! 『残念系美少女』っ! さっさと出て来やがれ、この『頭のおかしい爆裂娘』がああああああっ!!」

 最早、召喚の為の呼びかけでは無く、うっぷんを晴らす為の罵倒。しかし、叫びきった少年の足元に赤々と燃える様に煌めく魔法陣が現れる。程なくその中心から、赤い瞳を煌々と灯らせた魔法使いの少女が飛び出して来た。

「…………おい、よくもまあアレだけ盛大に罵倒してくれましたね。この最強の魔法使いたる我に対して、言いたい事があるなら聞こうじゃないか!」

「よし、よく来てくれためぐみん!! これで勝ったも同然だ! 好きなだけ爆裂魔法撃たせてやるから、機嫌直してくれ!!」

「わぷっ、この我の頭を気安く――……って、好きなだけ? もしかして、爆裂魔法が複数回撃てるのですか!?」

 案の定、怒り心頭で現れた魔法使いの少女であったが、少年が帽子越しに頭を押さえつつ言い放った言葉に、あっさりと怒りも忘れて食いついて来る。何時だって彼女を魅了するのは、飽くなき爆裂魔法への愛情のみだ。

「いいか、作戦はこうだ。めぐみんにはあの化け物をダクネスごと、爆裂魔法で攻撃してもらう。今のダクネスは俺が召喚した召喚獣だから、魔法の発動と同時に送還すれば死亡はしない。仮に死んだとしても、召喚獣だから強制送還されるだけだしな。その後すぐに再召喚して、足止めに戻ってもらう。その間にめぐみんにはもう一度爆裂魔法が撃てる様に、デストロイヤーの時と同じ方法で魔力を補充させるんだ。これを相手が倒れるまで繰り返せば勝てる」

「爆裂魔法が何度も撃てるのは魅力的ですし、ダクネスが死ぬことも無いのは理解できましたが……。端的に言って最低最悪な作戦ですね。正直かなり引きますよ……。と言うか引きました」

「なんとでも言え。アイツを倒す為だったら、今の俺は手段を選ばん!!」

 仲間を囮にする戦法を非難されるが、最弱職の少年はそれがどうしたとばかりに言い放つ。この時少女は、少年の言動に少しだけ違和感を感じたが、あえて指摘する事は無かった。普段やる気のない少年が張り切っているのは良い事だと思ったし、何より今は爆裂魔法を何度も唱えられると聞かされては冷静ではいられなかったのだ。

 そして、目下最大の難題は、魔力の供給源を説得する事である。

「嫌よ! 絶対に嫌!! もう二度も勝手に魔力を奪ったくせに、まだ私の大事な魔力を奪うつもりなの!? 言っときますけど私の神聖な魔力は、私の可愛い信者達から受け取った信仰心なのよ。おいそれと他人に分け与えられるようなものじゃないの! 却下よ却下、どぅあーい却下!!」

 魔力のついでに体力を吸われて少しぐったりしていた青髪女神が、復活するなり最弱職の少年に食って掛る。何時もであれば、ここから売り言葉に買い言葉で取っ組み合いにでもなるのだろうが、今の少年は一味違った。

「高級シュワシュワ一年分」

「……っ!?」

 ぎゃーぎゃーとやかましかった青髪女神が、少年の発したたった一言でぴたりと鎮まる。その瞳が忙しなく泳ぎ、だらだらと脂汗が全身から流れ落ちた。

 もちろん、この少年がこれで終わる訳もない。

「それにプラスして、向こう一か月はお前の分の宴会での出費は俺が持ってやる」

「……………………わ、私はお金で信者達の信仰心を売り払ったりはしな――」

「今溜め込んでる方々のツケも、一括で纏めて払ってやる」

「さあ!! あんな奴、私達の合体魔法でばばーんとやっつけちゃいましょう!! デストロイヤーも吹き飛ばした超強力な爆裂魔法で、あんなカズマさんの出来そこないズババーンと消滅よ!!」

 駄女神、堕ちる。最早彼女に、一片の葛藤も無し。

「この段階で素直に協力してくれて、正直助かったよ」

 そんな青髪女神の様子に満足した少年は、軽く嘆息しながら腰の後ろで握っていた手をひっそりと開く。そこからぽろぽろと魔法で生み出された土塊が零れ落ちるのを、すぐ傍に居た魔法使いの少女はしっかり目撃していた。

「こ、この男……。交渉が決裂してたら、実力行使に出るつもりでしたね……」

 魔法使いの少女が少年の鬼畜さに戦慄するのを尻目に、少年自身は次の行動の為に動き始める。まずは、反撃ののろしを上げる為にも、魔法使いの少女にひと働きしてもらわなければならない。

「よし、相手がダクネスを追いかけて離れている今がチャンスだ。めぐみんはとりあえず、あの野郎に一発ぶっ放してやれ!!」

「まだ釈然とはしませんが……、解りました。他でもない爆裂魔法を頼られた場面なんです、全力でやらせてもらいますよ!! その代りダクネスの事は頼みましたからね!」

 短いやり取りだけを交わし、少年と少女はそれぞれに自分の出来る事をし始めた。少年の前に進み出て、魔法使いの少女は己の唯一扱える魔法の為に詠唱を始める。少年はその背後で戦場を俯瞰し、タイミングを合わせて女騎士をいつでも呼び戻せるように気構えを整え、更には開いた手で青髪女神の首根っこを掴んで確保しておく。

「我が振るうは万物の理を超えし超越の力。括目して見よ、これぞ人類が誇る究極の攻撃魔法。超常の存在にも届きうる、三千世界に轟く乾坤の一撃なり!!」

 本来の詠唱の後に、格好をつける為に高らかに謳われる紅魔族特有の詠唱。相変わらず少年には厨二病特有の言語にしか聞こえないが、それで本人のやる気が上がるならばあえて止めはしない。むしろ、散々散歩に付き合わされた爆裂魔法ソムリエとしては、これが無ければ物足りないと言っても過言ではない。

「鳴り響け、『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 宣言と共に高まる魔力が少女の杖から飛び出して、一方的に嬲られ続ける女騎士とがむしゃらに暴れる魔神器の足元に巨大な魔法陣を画き上げる。そのまま垂直方向へと幾つもの魔法陣が多重展開し、後はただ魔法の顕現を待つのみとなった。女騎士を引き戻すならば、ここが限界点だと少年は判断する。

「よし、ダクネス戻って来い! 『送還』!」

「ことわーる!!」

「はあ!?」

 事も有ろうに、土壇場で女騎士が送還を拒んだ。もう既に発動してしまった爆裂魔法は止めようが無い。程なく、女騎士も魔神器も諸共に、魔法陣を中心として生まれた無慈悲な爆焔に包み込まれた。

 何も無いはずの白い空間を紅蓮が染め上げて、爆風が離れた位置に居た少年達を時間差で舐める。思わず閉じていた両目を開けるようになる頃には、爆心地にはぐずぐずになった魔神器と、鎧を大破させられたものの辛うじて直立している女騎士の姿があった。

 こちらに背中を向けているので表情は見えないが、親指を立てて見せているので恐らく大満足なのだろう。

「あいつ、ついに爆裂魔法を普通に耐えやがったな……。『送還』……」

 ピクリとも動かない女騎士を今度こそ光の粒子に変えて送還し、青髪女神から同時に魔力を吸い上げて行く。爆裂魔法を受けていながら形が残っている様な相手に、警戒しない等この少年には在りえない事だ。現に、動く様子は無くともしゅうしゅうと音を立てて、肉体を再生させているのが遠目で見えた。

 敵は未だ健在。ならばする事は一つのみ。

「よし、めぐみんもう一発頼む。それから、念の為にもう一度足止めを頼むぞ、真名召喚『ララティーナ』ッ!」

「待ってましたよ! あー……、良い感じです……」

 吸い上げた魔力をそのまま、魔法使いの少女の首根っこから注ぎ入れる。そのついでとばかりに女騎士を再召喚し、魔神器が襲い掛からぬように前衛を任せる事にした。

「きゅうううううんっ!! しゅごかったのほおおおおおおおっ!! ……ん。足止めは任せておけ」

 再び呼び出された女騎士は恥ずかしい筈の本名を呼ばれた事にも腹を立てずに、突然全身を掻き抱いて身悶えし艶めかしく鳴き声を上げる。そして、一泊の間を置いて急に冷静になると、そそくさと魔神器の方に近づいて行くのだった。まず間違いなく、もう一度爆裂魔法を味わうつもりなのだろう。少年はもう、止める気すら起こらなかった。

「あの、吸い過ぎないでね? あんまり吸い過ぎないでね?」

「ああー……、このポンってなりそうな感じ……。来てます、来てますよー……」

 青髪女神が心配して声を震わせる最中、魔法使いの少女には順調に魔力が行き届いている様だ。不安顔の青髪女神とは対照的に、少女の顔は実に幸せそうに緩んでいる。

 そして再充填が終われば、即座に最弱職の少年は爆裂魔法の発動を指示。物凄い笑顔で両手を振っている女騎士が隣に居る、未だ再生を続ける魔神器にトドメを刺す為に。

「ダクネスは呼び戻さないのですか? 仲間に爆裂魔法を撃つというのは、やはり良い気がしないのですが……」

「あの変態はどうせ言っても引かんだろう。全責任は俺が取る。構わん、やれ」

 仲間に対して限界を超えた一撃を叩き込む事に少女は多少の躊躇があったようだが、結局は自身の爆裂衝動に打ち勝つ事が出来なかった。召喚術で瞬時に復活したのを見た後なので、多少の罪悪感も吹っ飛び頭の中は爆裂魔法の事で一杯だ。衝動に流されるままに、思いの丈をぶっ放す。

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 再び白の空間に爆音が轟き、爆炎が魔神器とついでに女騎士を包み込む。強烈な衝撃と爆風に耐えること数秒、再び視線を差し向ければそこにはとても満足気に微笑んで消えて行く女騎士の姿が。

「…………やれ」

「『プロージョン』ッッッ!!!」

 魔力が補充され次第、再び爆裂。

 その間に女騎士が再度召喚されて、自分が爆心地に居ないのになぜ撃ったのかと憤慨する。この女騎士にはもう、少年は掛けるべき言葉が無かった。

「『ロージョン』ッッ!!」

 女騎士がどうしてもと言うので、もう一度爆裂。

 満面の笑みを浮かべる女騎士と、ぴくぴくと痙攣する肉塊がツーショットで爆撃される。流石に人の形を保てなくなった様で、魔神器はこの段階で再生する様子すら見せなくなっていた。

「『ジョン』ッッ!!」

 ちょっとだけ動いた気がするので、念のために爆裂。

 何度も爆撃された女騎士は大満足で、仲間達の足元で大の字になってハアハアしている。青髪女神が流石に使いすぎじゃないかと控えめに声を掛けるが、仲間達は誰も取り合おうとはしなかった。

「『ン』ッ!」

 なんとなく前の爆裂が気に入らなくて、少年の評価で満点を取る為に爆裂。

 立て続けにぶちかまされた連続の爆裂魔法に、ついには白い空間そのものに亀裂が走り始めた。これによって、少年は魔神器に致命傷が入った事を確信する。もうこれ以上は、爆撃の必要はないだろう。

 全員で魔神器がいた場所に近づいて行き、亀裂が縦横に走る爆心地に蹲る肉塊を見下ろす。最早それは少年の真似姿を剥ぎ取られ、無数に湧き出ていた肉色の顔はもう三つだけになっていた。

「『最強のチートを手に入れた筈じゃなかったのかよ!? 俺が負けるなんておかしいじゃねえか!! 話が違うじゃねえかよおおおお!!!』」

「『どうして……。どうして……。あの人と一緒に居たいだけなのに、どうして邪魔するの……?』」

「『やあ、良くこの胸糞悪い奴らを引き剥がしてくれたね。どうせなら、このままトドメ刺してくれると嬉しいんだがね。いい加減、疲れたよ……』」

 三つだけ残った貌が慟哭し、怨嗟をぶつけ、そして溜息を吐く。そんな最後の言葉を残して、最後の三人もその表情を肉の中に沈めて行く。最後には、その肉すらもずぶずぶと溶けて行き、後には三つのアイテムだけが残った。

 ペンダントと、腕輪と、羽ペン。それらが強引に混ぜ合わさったような、歪な姿をした無機物。これが、天使が授けたと言う三つの神器、そのなれの果ての魔神器その物なのだろう。

「……………………、念の為に壊しとくか」

 最弱職の少年が、その腰から刀を引き抜く。そのまま逆手に持った刀を魔神器の中心に突き立てると、特に抵抗も無く刃が通り、その後神器の集合体はあっけなく自壊して行った。

「遂に魔神器にトドメを刺したのですね。ちゅんちゅん丸が!」

「なんて哀れな末路だ……」

 魔法使いの少女が興奮して零した一言に、最弱職の少年は思わず葬り去った相手に憐憫の思いが湧いてしまう。物語を食い漁った化け物が、まさかこんな名前の刃に討たれるとは夢にも思うまい。

 だが、どんな形だとしても、これで天界を騒がせた魔神器はその物語に幕を閉じたのだ。

「はあ、やっと終ったな……」

「ああ、終わったな……」

「はー、やっと終わったわね! まあ、この私の神聖な魔力をあれだけ使ったんだもの、勝つのは当然よね!! よっ、祝いの花鳥風月ぅ~!」

 少年の疲れを吐き出す様な呟きと共に、戦いの終わりを女騎士もまた同意する。青髪女神に至っては、何時も通り調子に乗り尽くして、繰り出す宴会芸が今日も冴え渡っていた。

「見てください、この空間全体に罅がっ!」

 少女の声に導かれて、全員が顔を頭上へと向ける。そこは既に終わりを告げる様にひび割れからボロボロと残骸が落ち始め、その隙間から光が差し込んで来ていた。理屈は分からないが、それを見て少年は終わりの時が来たのだなと思い浮かべる。

「…………終ったよ。ありがとうな、ロー……」

 そして、白の世界が全て砕け散り、最弱職の少年の意識はそこで途絶えた。

 

 




一年近く続いてしまったこの物語もついにエピローグを残すばかりとなりました。
ここまで読み続けて来てくれた方々には、感謝の思いがいっぱいです。

ちなみに現時点でエピローグはまだ書いておりません。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。


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