第一次鎮守府ヤンデレ大戦   作:笑顔の侍

12 / 13
戦艦寮、大和ノ部屋ニテ修羅場アリ

 

 

艦娘達が立ち去って行く中。惚けた私の頭を駆け巡っているのは、ウォースパイトの恥ずかしげな言葉と、頬に残る感触。

 

…そうか、つまりは、そういう事なんだろう。

 

…何故私の様な無骨ものを……

いや、自分を卑下するのは止めるとしようか。

それは、私なんぞを好いてくれた彼女等にとっての侮辱になりかねん。

 

ありがたい、のだろうか。

…そう、だな。実際、彼女達から、本当の気持ちを感じられる言葉をぶつけられた時、私は何れにしても、悪い気持ちにはならなかった。

 

男の(さが)であろう、あの様に気立てもよく、強く、美しい女性はそうそう居ない。

そんな、魅力溢れる女性に好かれるなんて、望外の幸運だ。

 

…だが、今は戦時中であることを忘れてはいけない。

我が鎮守府は戦力的に余裕があるとはいえ、これは戦争なのだ。

そして、彼女達は兵士で私が司令である。

 

私は、鎮守府(ここ)の提督である。

今までは、上官と部下に、そのような関係性はありえないと思ってきたが、それは唯の、自らを律するために自然と出ていた方弁だと認識する。

 

だが今ならば、一人の男としての気持ちで言える。

もしも私が彼女達のいずれかの好意を受け入れたとしよう。

だが、あの()らは艦娘である。

私が陸で何も出来ずにいる中、鉄と砲弾の戦果で持って戦いを繰り広げるのは、彼女等だ。

 

私は、それが嫌なのだ。

ワガママだとは承知だが、自らが愛した女を、ぬけぬけと戦場に突っ込ませ、傷つかせるのが、たまらなく嫌で仕方がない。

 

それが、「艦娘」にとっての侮辱になるとは、分かっている。

「艦娘」とは、今でこそ可愛らしい女性の姿になっているが、元は誇りある軍艦。

戦いを恐るる道理も無し。

 

そもそも、本来ならば役目を終え静かに眠っている彼女達を、再び戦争の火の海に放り込んだこと自体が随分と恩知らずな事なのだが…

 

…考えれば考えるほど、今度は理性だけでなく感情的な思考も混じっている事からも、どんどん否定的な心情になっていく。

 

それが私の本質だからしょうがないと思うのだが、このマイナス思考を何とかしたいとも考える。

悪いことばかりじゃないのだが、どうも、こういう時には、何処までも最悪を想定してしまうのは、応える。

 

ぼすっ、とベッドに体を横たえ、ため息を一つ。

 

「齢三十を超えて、まさか色恋で悩むことになるとはな…」

 

思わず、苦笑すら漏れる。

全く、こんな情けない男の一体どこが…

 

「っと、自己否定は無しだ。先程そう決意したばかりだろう」

 

……

 

もう、いっその事、寝てやろうか。

もう仕事は終わっている、やるべき事など、特筆に値する程のことも無し。

 

ならば、一度休みをとり、気持ちの面で色々とリセットするとしよう。

…そうと決意した瞬間に、眠気がその時を待っていたと言わんばかりに電撃的強襲を仕掛けてきた。

私はそれに攫われるように甘美なる睡眠への誘惑に…

 

カチャッ、という音がした。

眠くなってきた(まなこ)のまま、そちらに視線を向ける。

 

「……えっ?」

 

そこには困惑の感情が全面に押しでている、大和の姿。

完全に休むつもりだった脳が、何故大和がここに?と疑問を持つが、答えはすぐに見つかった。

 

そもそも私は何をしに戦艦寮(ここ)に来たのだ?

 

大和に、いらぬ世話とも思うが先刻の事をフォローする為である。

 

そもそも、色々とあって忘れていたが、ここは誰の部屋だ?

 

外の壁に掛けられている札の通り、大和の部屋である。

 

ならば、いつの間にか布団すら被っていた、この妙にいい匂いのするベッドは?

 

…大和の物である。

 

互いに、天使が通った後のような沈黙が落ちた。

 

……

 

私は、長い間、重い、と。簡単には下げられぬ。と思っていた頭を、責任やら何やらを放り投げるかのように下げた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「本当に済まない事をした、この通りだ」

「だから、大丈夫ですって。もう。頭を上げてください、いい加減」

 

その後、驚きに身をかたまらせた大和に話を聞いてもらい、何とか説明しきれた。

起きた事が事なので、なんとも微妙な空気になったが、それはそれ。

大和は許してくれる、と言っているが、やらかした事の事実は消えない。

それに甘える訳にはいかんだろう。

 

「しかしだな、女性の部屋に勝手に押し入って、その上ここまでデリカシーのない事をしてしまうと、流石に…」

「それらを含めて、全部許してあげますよと言っているんです。提督は堅すぎです」

「ぬぅ…」

「疲れているのも事実なのでしょう?少ないとはいえども執務の後にそんなことがあったのなら、それは疲れるのも当然です」

「ま、まぁ、そうだな」

「……」

 

確かに、驚きの連続であった。

一番の驚きは…言わんでおこう。

 

「…そうですね、折角ですし、もうこちらで休んでいっては如何ですか?」

「は?」

「先程、私が部屋に入った時、もう眠る寸前だったでしょう?提督の私室までは多少距離があるし、眠気でぼうっとしている提督を易々と放り出せるわけも有りませんし、…ね?」

「こちらで、とは…ここでか?」

「はい」

「休むとは……()()でか?」

「そうですよ?」

「いやいやいやいや、待ってくれ、大和。冷静に考えてもみろ。ここは、戦艦寮で、その上女性の部屋だ」

「そうですね、大和の部屋です」

「なんだ、分かっているじゃないか、なら…」

「えぇ、その上で、休んでいってくださいと言っているのです」

「……何故だ」

「…あのですね、提督」

 

彼女は眉間を抑えながら、我儘を言う子供を窘めるかのような声音でこう言った。

 

「提督が、激務をこなしているのを私達艦娘は一番近くで見ています。その上で申し上げますと、提督は仕事の能力に対する自己評価を誤っています。普通なら、執務に加えて私達の士気を保つために様々な方向に手を回し、なおかつ個人的な関わりで持って友好を深め信頼を築く…、これらを二年間も続けているのですよ?」

「…いや、友好を築くのは仕事ではないと思うのだが…」

「えぇ、提督のそれが上の命令によるものでは無いと私はしっかりと分かっています。けれど、ここに居るのは提督以外は全て女性です。貴方の私に対する様々な優しい気遣いは、しかしそれだけで疲れも溜まるでしょう」

 

「私は、全て、分かっているんです」

 

「むぅ…」

 

確かに、相手が女性なだけあって、気を回すことは多々ある。

それを明確な負担として感じたことは無いが、知らぬ間に疲れが溜まっていたのやもしれんな…

いや、それでも流石に…

 

「大和、やはり私は…」

 

 

 

「提督?」

 

 

 

すっ…と、大和の大きな目が狭められた。

そこから覗く視線は、成程、慈しみに富んでいて、優しさすら感じる、たおやかな物だ。

だが、なんだろうか、その視線の奥の奥、普段は見えない()()に、射すくめられている。

さながら、優しく語りかけながら臓腑を鷲掴みにされる様な、矛盾した何かに、体が震えた。

 

「……う、うむ、そうだな。ではご好意に甘えるとしようか」

 

「…」

「全くもう、最初からそうと言ってくれれば良いんです」

 

「は、はは、悪いな」

「じゃあ、ベッドに入っていて下さい、私はここに居ますから、安心してお休み下さいね?」

「あぁ、そうさせてもらうと、しよう、か…」

 

言って、横になると、先程までの躊躇が嘘のように睡魔が襲ってくる。

何だかんだ言って、本当に疲れが溜まっていたのだろう。

私自身が分からないことを、見抜いてくれた大和には、感謝しなければ、な…

 

 

 

「ふふ、おやすみなさい。提督」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

提督が床について…ベッドだから(とこ)じゃあ無いかも?

とにかく、やっと眠ってくれました。

 

今回の件に関しては、本当に偶然でした。

まさか提督が私の部屋に居るとも思いませんでしたが、ここまで持って行けるとは。

武蔵には感謝しないとですね。

 

…まぁ、私の服を勝手に着ようとしてたのは後で怒りますが。

 

あぁ、それよりも、これは何という幸運なんでしょう!

提督が、私の部屋に居る!

あまつさえ、私のベッドで横になっているなんて。

 

気分の高ぶりが止まりません。

これで、提督にまとわりついている不快な奴らの(にお)いを上書きできれば良いのですけど。

 

…本当に、嫌な臭い。

彼に擦り寄ってくる卑しい(オンナ)の臭いが、今日の執務中、私の鼻に強く臭ってきました。

そして、今も。

でも、いいのです。

これで、私でアナタを上書きできる。

他の奴らもここまでやれば気づくでしょう。

提督は私のモノだと。

なら、今はこれでいい。

 

「…可愛い寝顔、普段の姿からは想像もできないくらい、可愛いわ」

 

本当に、無防備な姿。

他の奴らは、こんな姿、見たことも無いでしょう。

その癖好きだのなんだの…笑わせてくれる。

彼の上っ面しか見てない、阿呆共。

 

「いっそ、纏めて消し飛ばせてしまえればどれほど…」

 

だけど、それだけは出来ない。

それをやって許されるとは思えないもの。

今は、まだ。

けれど、何時か。

貴方が私だけを愛し、私だけを見てくれるようになった、その時は。

 

「全て壊して、二人の時間を過ごしましょうね?」

 

…あぁ、いけないわ。大和。

女性としての慎みを失ってしまえば、きっと幻滅される。

でも、こんなの、我慢しろって言う方が無理な話じゃない?

愛する人が、私の物で、私に、包まれて、眠っている。

そんなの、耐えきれるわけないじゃない。

 

「提督…っ、もう、駄目。失礼、しますね…」

 

せめてもの、と一言断わってから、私は静かに手を動かし。

ベッドに潜り込んだ。

 

「はぁ…っ、ごめんなさい、提督、大和は、大和は悪い娘ですぅ…っ」

 

こんなはしたないことをしてしまうなんて…っ。

顔が真っ赤になって行くのが見なくても分かる。

きっと、今鏡を見たら、私はゆでダコの様だろう。

 

「でも、大和…っ、こんなの、我慢できません…っ」

 

提督が、私のすぐ近く、少し顔を動かしたら、唇を重ねてしまいそうな程近くに居る。

この姿は、私だけの物だ。

他の誰にも見せたくない。

今この瞬間、アナタはワタシの物。

私の部屋に居て、私のベッドで眠り、私の隣に居る。

私の、私の物。これは、私のモノ。

私の、わたしの、ワタシの、

 

 

ワタシのわたしの私の私のワタシのわたしのワタシの私のわたしの私のわたしの私のわたしのワタシの私のわたしのワタシの私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしのワタシの私の私のワタシの私のわたしのわたしの私のワタシのわたしの私のワタシの私のわたしのワタシのワタシの私のわたしの私のワタシのわたしの私の私のわたしのワタシの私の私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のわたしの私のワタシのわたしの私の私のわたしのワタシの私の私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私の私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしのワタシのわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私の私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしの私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしの私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしの私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしの私のわたしの私のワタシの私の私のわたしのワタシの私の私のわたしの私のワタシのワタシのわたしの私の私のわたしの

 

 

私の、モノだ。

 

 

「ウフフフフッ。…ねぇ、貴方、そろそろ消えてくれないかしら。無視するのにも限度があるのよ」

 

いい加減に鬱陶しくなってきていた存在に、声を掛ける。返事もしないならそれでいいけど、もし黙りが続くなら…

 

ズズっ、という音がした、と思ったら、そいつは天井から降りてきた。

意外ね、警告してくるくらいか、黙って消えるものと思っていたけれど。

 

「はぁ、ったく。戦艦は脳筋だけでいいって言うのに。あんたみたいな目端の聞くやつが居ると面倒だなぁ」

「黙って失せなさい、川内。今なら、何もしないで置いてあげる」

「そういう訳にも行かないんだよねぇ、こんな所で出しゃばられても困るって言うか、まぁつまり、そこら辺にしときなよって感じ」

「出しゃばってるのは貴方でしょう?それに、何様のつもりなの?調停者気取りかしら、笑えないわよ、ソレ」

「あーもう、面倒だなぁ。…分かったよ、取り敢えずそれ以上行かなければ、それでいいから、そう約束してくれんなら私もどっか行くよ」

「うるさいわね、分かったわよ。約束するから、早く消えて」

「あいあい、じゃあねー」

 

その声が聞こえた次の瞬間には、川内の姿は消え、天井も閉まっていた。

まるで本物の忍者ね。

…それにしても、ふふっ。

 

「冷静な振りが上手いのね、川内。隠しきれては無かったみたいだけど」

 

さっきまで彼女が居た場所に目を向けると、そこには水を一滴か二滴垂らした程度の、小さな赤いシミ。

 

「感情の面では御しきれていたけれど、体は正直、ってやつかしら」

 

きっと、あの冷徹な面からは想像もできないほど、川内(あの娘)の中身は煉獄のようにぐちゃぐちゃに燃え滾っていた事だろう。

 

あの娘達が考えてる変な事の為に、我慢しているのでしょうけど、本当なら直ぐにでも私に殴り掛かり、提督から遠ざけたかったでしょうね。

 

「私も、そうだもの」

 

提督が他の(メス)と話しているのを見ると、心が真っ黒に染めあがって、どうやってそいつを殺すか、どうすれば提督と引き離せるか、としか考えられないもの。

でも、我慢するの、今はまだ、その時ではないから。

 

鎮守府(ここ)に居る艦娘は皆そうだもの。

その激情を、憎悪を、完璧に抑えることなんて出来ないわ。

 

「私を、私達をここまで狂わせたのは、提督、貴方なんですからね」

 

責任は、とるものですよ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。