「提督、次はこちらの確認をお願いします」
「あぁ、分かった」
これは…次回の大規模作戦に向けての概要書類か…必要性は高いが、今観覧しても頭の中にろくに入らないだろう、後で時間をとって読むとするか…
こっちは…外出願い?提出者は、大和と武蔵に…アイオワと、サラトガ?
大和と武蔵、アイオワとサラトガというペアなら分かるが、この四人で、外出?
理由は…ショッピング?、いつの間に仲良くなっていたのだ?
まぁ、海外艦と日本艦の交流は嬉しいことだ、この四人なら問題など起きそうにもない、許可しておこう。
いやはや、それにしても、こういうのを見ると、まだ私の鎮守府も捨てたものでは無いものだ、とも思える。
ここ最近の艦娘達の関係不良を思えば、このように以外な関係性を見つけると、非常に嬉しいものだ。
つい昨日も大勢で王様ゲームなどもやった……もしや、この鎮守府の皆は、私が思っているほど不仲ではないのではなかろうか?
そう思うと、俄然喜びが湧いてくる。
ならば、今不仲な娘達の仲を取り持てば、まだ希望はあるのではなかろうか?
…喜ばしい発見だ、言葉足らずな私ではあるが、精々、力を振り絞って関係修復に望むとしよう。
…まずいな、思考が脱線してしまった、
今の時間帯や、連日の疲れも相まって、思考がおぼつかない。
現在時刻は一四○○ほど、私は、今日の秘書艦の霧島と書類の山を片付けていた。
昼飯も食べ終わり、ちょうど眠くなってくる頃の書類仕事は、毎度のことではあるが、非常に辛い。
しかし、昼寝などもってのほかであるし、霧島にそのような体たらくを見せる訳にはいかない。
それに、今日はいつもよりも重要な書類が多い、おぼつかない頭でそれらの仕事をして、何かあったら面倒だ。
なので、霧島に一言告げ、冷たい水で顔でも洗いに行こうとした時のことである。
「ヘーイ!提督ゥー!もし良かったらアフタヌーンティーとシャレこみましょうネー!」
バンッ!と執務室の扉が開け放たれたかと思えば、そこに立っていたのは、金剛型一番艦、金剛であった。
そのあまりに突然の来訪に驚き、その勢いもあって完全に固まってしまったが、何とか今ある疑問を口にした。
「…何故、今なのだ?」
「もー、そんなイケズなこと言わないでくだサーイ。提督とワタシの仲じゃないですカー」
「…アフタヌーンティーと言うには、少し早い時間だと思うのだが?」
「そんなの適当でいいのデース!大事なのはワタシ達とお茶するというところにありマース」
……今は執務真っ只中なのだが…その上いつもよりも仕事は多いと来ている。
…だが、働き詰めでは駄目だ、ただでさえこの時間帯は辛いのだし、一度休憩をとっても、仕事に支障は…余りないだろう。
しかし、問題は秘書艦の霧島だ、彼女は真面目な性格だし、もし反対されたのなら、流石にアフタヌーンティーを強行など出来ないだろう。
なので、ちらりと霧島の顔を見て、確認をとると
「…まぁ、確かに休憩は必要ですから、それぐらいなら」
と、許可を貰った、秘書艦の許可が出たならなんら問題もない、なので、執務卓の前にある応接用の机に席を移ろうとした
のだが
「…霧島は、参加しなくても結構デスヨー?」
…何を言ってるんだ、金剛。
何故、煽るような発言をするのか、理解に苦しむ。
とかく、今の発言は流石に酷い。
それを咎めようとした、が、しかし、その声は他の声に遮られてしまった。
「は?」
という、霧島のドスの効いた声に。
「…何故、私が参加してはいけないのでしょうか、姉様?」
「だってー、別にワタシは霧島のことを誘ってなんかないデスヨー?ただ、提督にお茶しようと言っただけで」
「それでも普通、そこにいる人を誘わないというのはないんじゃないですか?」
「ワタシに霧島の普通を押し付けないでほしいデース」
「屁理屈を…」
「第一、ワタシは゛提督と゛お茶をしたかったのヨ、アナタなんておよびじゃないんですよ、元々」
「…前から気になってたんですが、提督の前で露骨にキャラを作るのやめてもらえませんか?男に媚びる気持ちがヒシヒシと感じられて気持ちが悪いんですよ、本当は普通に喋れるくせに」
「……話題転換デスかー?急に話を変えないでほしいネー」
「…ムカつくって言ってんだろクソビ○チ、さっさと提督のことは諦めて素直に他の男の上で腰を振ってればいいんですよ」
「あ?…コホン、霧島こそ、あんまり乱暴な言葉遣いはいけませんネー、そんなんじゃどんな男にも見向きされませんヨー?」
「…チッ」
「…」
……
何故、口を開けば喧嘩が始まるのか。
やはり、先程私が考えていたことは、幻想に過ぎなかったのか…
いや、この娘達が、例外であって、他の皆は普通だと、まだ思える。
というより、普通であってくれないと、私が持たない。
精神的な意味でも、身体的な意味でも、主に胃が痛い。
…いや、しかし、今この時こそが、『仲をとりなす』チャンスなのではないだろうか?
喧嘩をしているのなら、まずは話し合わせ、相互理解により不和を解消させる。
それを実行するのが、今ここなのではないだろうか!
そうだ、今しかないのだ、ここで一歩を踏み出し、この鎮守府の問題解決への道を開く!
「おい、二人共…
「て、提督!金剛型三番艦、榛名です!少々お時間よろしいでしょうか!!」
……
またも、声を遮られた、が、まぁいいだろう、この二人とは後でゆっくり話し合わせるとして、先に彼女を部屋に入れてやろう。
「あぁ!いいぞ、入ってくれ!」
「失礼します!榛名です!」
「榛名?一体どうしたんですカー?」
「…用事なら早く済ませて下さい、榛名」
「…チッ、なんでこの二人が…コホン、はい、提督、今から、私と、一緒にお茶などどうでしょうか?」
「あ、あぁ、それならちょうどいい、今この二人と始めるところだったんだ、榛名も一緒に、どうだ?」
「…分かりました、榛名、頑張ります!」
…何をだ?、とも思わなくもないが、この何故か緊迫した空間の、金剛と霧島の間に榛名という緩衝材を入れられるのはとても大きい、是非彼女には、その持ち前の明るさを活かして頑張って貰いたい。
「…はぁ、ねぇ榛名?今はお願いだから空気を読んで出ていってもらえマスかー?これから、提督と、ワタシで、アフタヌーンティーと洒落込むんですから」
「榛名、なんでこのタイミングで来るのよ…」
「…」
「チョット、榛名?」
「榛名?」
「…あっ、二人とも居たんですね!今気づきました!あまりにも影が薄くて気づきませんでしたよ~」
「ア?」
「はぁ?」
「居るなら居るって言ってくださいよ~、まぁ、どうせこの後、榛名と提督のいちゃラブ空間に耐えきれなくなってすぐに負け犬としてし逃げ出すんだから居ても居なくても一緒ですね!」
「…へー?」
「……」
「大体、もう提督は榛名のモノだって確定してるんですよ?それなのに
「「……」」
「は、榛名?」
「ダメデスねー、完全に自分の世界を展開しちゃってマース」
「…気持ち悪い…、妄想が激しすぎます。こうはなりたくないですね…」
先程までハキハキといつもの様子で喋っていたはずの榛名が、いつの間にか下を向いてブツブツと何かを呟くようになってしまった。
しかし、ついさっきまでこの部屋に漂っていた不穏な空気は晴れた、なので、今声をかければ、この娘達にしっかりと通るのではないだろうか。
「ん゛っ!…3人とも、とにかく、今は落ち着け、何がそんなに気に触るのかはさておいて、お茶会?ならば今ここにいる全員でやれば済む話だろう」
「で、でも提督ゥー!」
「…私は最終的には、提督の発言を尊重させていただきます」
「……もー、やっぱり提督はやさしすぎますよ。そんなに他の
「と、取り敢えず、時間も勿体無いし、早く始めてしまおう。それでは、準備を始めるか」
「…分かりましター。
「仰る通りに」
「はいっ!榛名、頑張りますっ!」
…やはり、聞き分けの良い、素直な娘達ではないか!
喧嘩をしていても、こうして言葉を投げ掛ければ素直に私の話を聞いてくれる。これ程嬉しいことは無い。
ここ最近、彼女達の論争がヒートアップすると私が声を掛けてもまるで聞こえない様子で罵声を飛び交わさせているからな。
…いや、実際に聞こえていないのだろう、根はいい娘達なのだから、少なくとも良好な関係を築けている私の言葉を聞こえているのに無視するなんてことは流石に無いであろう。
もしも無視されているのであれば、私は過去最高に傷つくだろう。
短い期間ではあるが、私はここ2年間、彼女達を
本当の娘など、いない私ではあるがな。
とにかく、なので彼女達にもしもそのような冷たい対応をされているという事実があるのなら、とてもではないがいつものように提督業を出来はしないだろうな。
…また思考が脱線してしまったな、とにかく今は、彼女達とのお茶会を楽しむべきであろう。
目の前の少し小さめなテーブルに広がるのは、色彩豊かな洋菓子。
私には、これらが何なのかなど、全くわからないし、予想もつかないが、芳ばしい匂いから、焼き菓子の類であろう事が分かる。
全くもって…美味そうではないか。
様々な菓子類が置かれている皿の横には、控えめの装飾が施されている…ポット?なのだろうか。があり、恐らくその中身は英国と言えば、の紅茶であろう。
「本来なら、アフタヌーンティーとはこんなに沢山の焼き菓子だけじゃなくて、サンドイッチとかケーキとか、もっと多様なものがあったり、ルールや作法もあるんですけど、今回は特にそういったしきたりとかに囚われず、提督が気軽に楽しめる様にそこら辺のは全部無視して楽しむネー!」
「成程、そう言えば榛名が持ってきてくれた菓子も焼き菓子の類ばかりだったが、それは?」
「丁度、榛名の手待ちがこれしか無かったので…提督がいつも楽しんでいるのはどちらかと言うと和菓子とか、そういった方のものですので、お口に合うかは分からなかったのですが、お茶がしたいのに何も持っていかないわけにも行かないと思い、これを持ってきました。が…もしかして、お嫌いでしたか?それならば金剛お姉様の分も今から私が捨ててきて…」
「あぁ、いや、大丈夫だ、私は好き嫌いなど特にない。洋菓子だろうが何だろうが、問題なく頂ける」
「なら良かったデース!」
「よ、良かったぁ…」
「…私だってこんな事になるならしっかりと準備をして来たのに…」
「アレ?
「正直常識知らずですよ…
「…ギリッ」
「ま、まぁまぁ、それを言うなら私だってそうなのだから、あまりに霧島を攻めてやるな。な?」
「提督はワタシに誘われる側だったからしょうがないんですヨ。だけど急に入ってきた人が何も無いというのは余りにも無いんじゃないかなって思ったんデス」
「…榛名は、提督がそういうなら我慢します。…どこかの聞き分けのないエセ英国ビ○チとは違って」
「ハァ?誰がエセですって?」
「あなたの事ですよ、
「…ワタシは寛大なのでその程度の言葉は許します。でも、榛名も大分人のことを言えた口ではないて思いマース。前から言おうと思ってたんですケド、その妄想癖、やめた方がいいと思いますよ。提督とのありもしない思い出を語られるのは何よりも不愉快ですし、見てて憐れですから、
「…」
「…」
「あの二人は放っておいて、私たちはお茶を楽しみましょう。提督。はい、アーンです」
「え、あ、霧島、何をやって…分かった、食べるからその目をやめてくれ」
何とも、嫌なお茶会であろうか、いや、楽しいことには変わりない、ないのだが、そこに満ちる空気は、私の求める暖かい、家族のようなものとはまるで別であり、まるで戦場の様な空気であった。
が、皆と触れ合えて、楽しくないわけがないのも事実、なので、私なりに精一杯楽しもうと思った。
--この後、時間にして約1時間ほど、彼女達とのお茶会を楽しんだ。
皆、自分からあまりに話題を振れない私に対し、積極的に話しかけてくれて、改めて私と艦娘間で結んでいる関係性の強さを感じられた。
…が、しかし、この1時間で、彼女達が話題を振るのは私に対してだけであり、彼女達が話すのは決まって彼女達同士で喧嘩をする時だけであった。
4人で同じテーブルを囲んでいるのに、他の娘にそれぞれ絶対に見向きもせずに私の方だけを見て話していた時の目は、とても明るい色をしていたが、一歩、何かを間違えればその明るい色が全て剥がれ落ち、内にある暗い、昏い光が漏れでそうで、そのように感じてしまって、私はこの時間、素直に楽しみながらも一瞬も気が抜けないという意味の分からない状況に晒された。
正直に言って、とても疲れたが、この後もまだ仕事はある。執務中にお茶など、本来は許されないことをしているのだ、仕事の遅れなどあってはならない。
さて、残りの書類を片づけるとしよう。