第一次鎮守府ヤンデレ大戦   作:笑顔の侍

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憩イノ場所ニテ修羅場…アリ?

現在の時刻は一九○○、丁度夜ご飯を食べ終わった皆が思い思いの場所で時間を潰している中、私、朝潮型一番艦、朝潮は、自室で一人、頭を悩ませていた。

その悩みというのは、最近、どれほど訓練を重ねても、自分の成長をあまり強く実感できないというものだった。

自分で言うのも何だけれど、私は訓練にも真面目に参加しているし、自主練も欠かさない、自らの進歩の為に、これまで努力は惜しまなかった。

そうした生活をこの鎮守府に着任してからずっと続けて来て、実戦経験も多分に積み、改二換装という強さの1つの指標に至ることも出来た。

けれど、そこから先が全く伸びない。

いくら努力をしても、もう一歩先へ踏み出すことが出来ないのだ。

一体、どうしたら、この停滞状態から脱せれるのか。

こんな時、自然と口をついてでるのが

 

「はぁ…司令官…」

 

そう、この鎮守府を纏める人、司令官の名だ。

彼は、私がこの鎮守府に着任する少し前に()()と一緒にここに着任し、そこから2年程で瞬く間にここを国内でも有数の国防の要と言わしめるほどの辣腕の持ち主だ。

初期の頃から司令官の近くで彼の仕事ぶりを見ていた私の感想は、一言、凄い、としか言えなかった。

革新的な新しい艦娘の訓練形態の発案や、天才的な作戦立案能力など、その才能を遺憾無く発揮した彼の姿は、私の眼にはまるで英雄に見えた。

でも、それらよりも更に彼の素敵な所がある。

それは、その性格だ。

一見、大柄で強面の彼は、その印象から思いもよらないほどの好青年だ。

優しく、不器用な内面は、見た目も相まってとんでもないギャップを生み出す。

しかも、あれで女性に対して苦手意識を持っていて、私達を娘の様だと言っておきながら、時々、一人の女を見るような眼で私達を見たりと、そのピュアな内面もとても素敵だ。

周囲に他に彼以外の男の姿はない鎮守府(ここ)では、当然、恋愛の対象としても司令官しかいない。

まぁ、居たとしても彼よりも魅力的に映るかなど、考えるまでもないのだけれど。

もにかく、私は司令官に恋愛感情を持っている、と言うのは変わりない事実である。

自分の気持ちに気づいたのは、確か今から5ヶ月程前、私が作戦中に敵戦艦の砲撃を受けて大破し、そのまま撤退を余儀なくされた時の話だった。

意識が朦朧とし、視界もおぼつかなかったあの時、撤退し、鎮守府に帰港した時の、司令官の顔は今でも覚えている。

必死な顔で仲間に運ばれてきた私を抱き込み、そのまま修理ドッグへ全力で連れていってもらった。

…今、思い出しただけでも顔のニヤケが止まらない程の出来事だった、少なくとも私にとっては。

司令官が必死の形相で、切羽詰まった声で私に「大丈夫、大丈夫だからな」と声を掛けてくれた時は、場違いながら「あぁ、私は司令官に、一人の男にこれほど大事にされているんだ」と心の中で思った。

 

尊敬している人物にそこまでされて、私の様な小娘の心が揺るがないはずもなく。

 

こうして、英雄に憧れる身の程知らずの構図が出来上がってしまったわけだ。

けれども、私はこの想いを司令官に伝えるつもりは毛頭なかった。

彼は司令官、自らの上司であり、私は艦娘、その部下だ。

司令官はその辺を割としっかり線引きしていて、私達を一人の女として見ることは…たまにあっても、決して手は出さないし、過激…行動力溢れる人達が彼に突撃しても、彼は冷静に窘めている。

まぁ、たまにそれでも御しきれず、面倒なことになっているのを見たことがあるけれど。

その上、彼は若くして異例のスピードで将官クラスまで昇格した為、大本営の一部から疎まれており、その立ち位置はかなりめんどくさいことになっていると聞いている。

けれども、その才能と将来性はかなり認められているらしい。その為、恐らく今後、大本営内の何処かの派閥が、彼を自派閥に引き入れるために、血の繋がりを得る…要は政略結婚をさせられる可能性がかなり高いだろう。

だから私は、そういうことになった時、傷つかない為に、司令官とは一線を引いている。

他の皆は誰もが「提督は自分のモノになる」と思って行動しているけれど、私はそうは思えない。

自分に自信が無いために、辛いし、苦しいけど、我慢しているのだ。

だって、今後彼のことがますます好きになって、その後に名前も知らぬ誰かと結婚…だなんてことになったら、きっと私は耐えられない。

だから、ここ最近は少しの距離を置いていた。

けど、やっぱり

 

「……会いたいな、会って、話をしたいな」

 

……これ以上、部屋に篭って考え事をしていると、更に思考が悪い方に向かいそうだ。

 

「…散歩でもしよう」

 

そうして、思考を入れ替えよう、このままこの事を考え続けても、自分にダメージを与えることにしかならなさそうだから。

そうと決めたら、外の空気を吸いに行こう、善は急げ、だ。

一応、外に出るので、鏡の前で軽く身だしなみを整え、問題ないと判断してから、部屋の外に出る。

駆逐艦寮は現在あまり人はいないのかな、なんて考えながら、存外に静かな廊下を歩き、玄関をくぐって外に出る。

もういい時間なので、日の光はなく、代わりに月の光と、夜道は暗いからと、司令官が妖精さんに頼んで作ってもらった外灯が、暗いはずの夜道を柔らかく、暖かく照らしてくれる。

と言っても、気温は下がっていて、少し薄着だったかなと後悔する。

それでも今から上着を取りに自室に戻るのは面倒臭く感じて、そのまま進む。

そして、広い鎮守府内の端の当たりにある、丁度駆逐艦寮から真反対の位置にある、お気に入りのベンチまで来て、それに腰掛ける。

ここは、私達が出撃する港とは距離を置かれて作られた憩いの場であり、周囲には美しい花、そして眼の前に広がるのは、広大な海と言う、何とも幻想的な景色が広がっていて、心を休めるのには最適の場所だった。

ぼんやりと海とその上に浮かぶ月を見ながら、私は先程の考えを打ち消す。

嫌な予想を消し飛ばす。

…何分ほどそうしていたのだろうか、急に、背後から声を掛けられた。

 

「朝潮、か?随分と放心していたようだが、どうしたんだ?」

 

その声は、間違いなく、司令官の声だった。

驚きから声が出なかったが、なんとか一言を絞り出す。

 

「な、何故ここに司令官が!?」

 

…声が上ずってしまったけど、まぁいい。

それよりも、今はこの場をどうすべきかを考える。

あまり、司令官と長く一緒に居たく無い。

…これ以上、自分にウソを付けるとは思えないから。

 

「ま、まぁ、なんだ、急に海が見たくなってな。それで思いついたのがここで、いざ来てみたら朝潮を見つけた、というわけなのだが」

「そ、そうだったのですか…」

 

会話が、途切れる。

でも、私としてはそれで良かった、司令官て顔を合わせてから、先程、自室で考えていたことが少しずつ戻ってきて、折角忘れられたのにまた苦しめられることになりそうだから。

こうして対面して話すだけで、胸が苦しい。

締め付けられる様な胸の痛みに、急かされるように私は別れの言葉を彼に告げる

 

「あの、それでは司令官、私はこれで…」

 

失礼します、と言いかけた時。

 

「あれ~、提督と…朝潮じゃん、どうしたの、こんな所で」

「ん?北上か?お前こそ、どうしたのだ?」

 

横から声が掛けられ、私の言葉が遮られる。

声を掛けてきたのは、北上さんだった。

ふわふわとした発言と緩い空気で、なんだか独特の存在感を放つ人だ、私はあまり彼女の事を知らないけれど。

そんな彼女はふらっとこんな所に来たかと思えば、司令官と突拍子もない会話を始める。

とは言っても、話題を降るのは殆ど北上さんで、司令官は聞き手に回っている、と言うより怒涛の話振りに、聞き手に回らざるを得ないと言った感じだ。

 

「それでさ~、大井っちが急に夜ご飯のおかずを私に渡してきてさ~、頼んでもないのに困ったもんだよねぇ~」

「そ、そうなのか…その割には、楽しそうに見えるが」

「そりゃそうだよ、だって〜〜」

 

会話が、続いている。

北上さんは北上さんで、いつもの剽軽な感じを思わせる軽い空気ではあるが、それでも、あまり彼女のことを知らない私から見ても、いつもより余程のこと楽しそうに見える。

それに対する司令官も、困り顔では有りながら、その顔色は柔らかく、北上さんとの話をなんだかんだ言って楽しんでいそうだ。

 

その楽しそうな顔を見て、私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の深く、暗い所が、急に私の中で、ぶわりと燃え上がるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいつも我慢しているのに、どうして北上(オマエ)はそんなに気軽に司令官と話せるの?

 

私は司令官のことが大好きなのに、どうしてその楽しそうな顔をこちらに向けてくれないの?

 

私はこんなにも司令官(あなた)の事を思っているのに、どうしてこっちを見てくれないの?

 

私はーー

 

私はーー

 

 

 

……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ私はそろそろ行くよ、じゃねー、提督」

「あぁ、気をつけて戻るんだぞ」

 

急に北上が来て、驚いたのもつかの間、マシンガントークを披露した彼女は、満足したのか、ある程度話したらさっさと戻って行ってしまった。

まぁ、掴みどころのない彼女を縛り付けるのなんて不可能だ、そもそもここに縛り付ける理由もないが。

…そう言えば、私と北上が話している間、朝潮が黙っていて、一言も発しなかった事に疑問を感じた。

どうした、と、声を掛けようとそちらを向いた

 

ーー何だ?

 

妙に空気が重い、まるで身体中に鉛を載せられているかのような重圧。

それと、気温も幾ばくか下がったように思える、確かに今日の夜は冷えるが、ここまで酷くはなかったはずだ。

暗鬱とした感覚が背筋を走り抜け、嫌な予感が胸を騒ぎ立てさせる。

 

「……朝潮?」

 

一言、確認の言葉を発する。

何を確認したいのか、一体どういう意図で確認しようとしたのかは分からないが、とにかく、言葉を掛けなければという感覚に襲われたのだ。

 

「…して」

 

「…どうして…か?」

 

「…どうしてなんですか?」

 

何がだ、等とは聞けない。

何故なら、今の彼女からは、少しの手違いですぐにでも爆発する危険物のような、そんな気配を感じたからだ。

 

「朝、潮?」

「私は、これまでずっと我慢してきた。我慢して我慢して、司令官と、アナタと一緒に居たいのも我慢してきた。なのに、なのにどうして!!そんなのズルい!私だって司令官ともっと一緒に居たい!もっとお話したい!…それなのに…そんなの、ズルいよ…」

「…」

 

彼女の、心の中の思いをぶつけられ、思わず戸惑う。

今まで私は…何をして来たというのだ。

彼女達と過ごした時間で、多少なりとも分かった気になっていた。

自惚れていた。

だがどうだ、これは。

まだこんなにも小さな少女にの心に、これ程の強い思いを溜め込ませる程に、私は慢心していた。

その事実はひどく衝撃的で、頭をガツンと、横から殴られたような感覚だった。

…謝らなければ、なるまい。

ここまで彼女を追い詰めたのは、私だ。

一体、何を皮切りにこの思いが私にぶつけられたのかは分からない、だが、そんなことはどうでもいい。

とにかく、朝潮に謝意を見せ、落ち着いた後にしっかりと話を聞きたい。

 

「…朝潮、お前がそこまでになるほどの我慢を強いてきたのは、私のミスだ、本当に、…すまない」

「…いえ、いいんです、司令官」

「…ありがとう、朝潮、この件に関しては、また後日…」

「大丈夫です。えぇ、だって、今すぐ司令官。私のモノにすればいいんですから、謝罪なんて必要ありません。私のモノにさえなって頂ければ」

「っ!?」

 

顔を俯かせており、表情の見えない声で、朝潮が私に飛び込んできた。

まるでタックルのような勢いで、避けることは出来たが、それをすると彼女が怪我をする、なので正面から受け止める。

急に様子が変わった、それはまるで、昨日の霞の様でありーー

 

顔を上げ、こちらを向いた朝潮の眼を見て、確信する。

これは、不味い気配がする、なんとか彼女を説得して、落ち着かせ…

 

「司令官…、私との間に子供が出来たら…ずっと私の事を見てくれますか?私の事だけを考えてくれますか?」

「なっ…」

「艦娘は、体の作りは普通の人間の女と変わりない、つまり、子供を作る事だって…出来るんですよ?」

「あ、朝潮、落ち着け、取り敢えず、一旦離れるんだ、朝潮!」

 

朝潮は、その見た目とは裏腹に、とても力が強く、簡単には脱出できそうに無い。

『落葉』を使って脱出しようとも考えたが、軍服のベルト部分を掴まれていて、離れることが出来ない。

くっ、どうすれば、この状況を納めることができるんだ!

 

「司令官、司令官…」

 

朝潮は、私の声を聞いても決して私に抱きつく力を緩めることはしない。

…しかも、この絵面は非常に不味い。

私と朝潮ではかなり大きな身長差があるため、抱きつかれた時に、朝潮の顔が丁度私の腰辺りに当たっているのだ。

いくら夜で人のあまり来ないとはいえ、先程は北上もここにふらっと来たではないか。

こんな光景を見られたら…ただ事ではすまないだろう。

 

 

…仕方ない、これだけは最終手段として、決して使いたくは無かったのだが。

感情が昂りすぎて、冷静な思考が出来ておらず、暴走している朝潮を止めるためには、これしかないだろう。

 

「すまない、朝潮…今度、落ち着いて話そう、悪い…『堅刀』」

「ふぎゅっ」

 

堅刀(けんとう)』とは、文字通り、手を堅くし、手刀の形で振り下ろす技だ。

今回は、朝潮を気絶させるためだけの効果が必要だったので、『刀』の部分の性質は使わずに、堅くするだけの技として扱った。

万が一にも怪我をさせる訳には行かなかったので、最新の注意を払ったのだが…私が堅刀を打ち込んだところ当たりにが少し赤く、打ち身をしていた。

…もう少し私の腕が良ければ、このダメージすら与えることなく気絶させられたんだが…修行が足りないか…

いや、今はそれはいい、とにかく、朝潮を駆逐艦寮まで運ばなければ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここが朝潮の部屋か…」

 

とても軽い彼女の体を横抱きにして連れてきた私は、今の時間帯、殆どの艦娘が食堂、もしくは娯楽室にいるのが分かっている。

その上、人の気配もしないし、この姿は誰にも見られてないだろう。

鍵を使用し、彼女の部屋に不躾にも入り込んだ私は、ベットを見つけ、そこに朝潮を寝かせる。

…幼く、小さい、このような娘に、ここまで無理をさせていたとは…

 

やはり、一度鎮守府の皆と個別に話し合う必要がありそうだな…

 

すぅすぅと寝息を立てている朝潮の姿を確認した私は、早急に外に出る事にした。

 

取り敢えずは、一度私室に戻るとするか。

 

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