「名前は蔵道康夫(くらみちやすお)49歳男性独身、えー趣味はレトロゲームに、レトロ漫画など古い物を集める事……」
『春秋千夏(はるあきちなつ)』本名『カルン』は道路の端に滞在するトラックの座席に腰を下ろしながら異世界転生リストの書類に目を通した。
「あーくそ、早く来ねえかなぁーもう一時間ぐらい経ったんじゃね?」
隣の運転席に座る茶髪なチャラそうな青年『コルト』はフーセンガムを口に膨らませながら悪態をついた。
「いつもは朝七時半~八時にこの歩道橋を渡って会社に出勤するらしいけど……」
カルンは書類で顔を見られないように少し表情を緩ませた。仕事とはいえ人を轢く行為なんてしたくない。酷い言い方だがこれからもずっと風邪を引いてくれほしい。
だがそんな海堂の安心はコルトのフーセンと共にすぐに潰れた。
「おい、リストの人間やっと来たぞ」
そんな……
コルトはクラッチを繋ぎアクセルを踏み込み、歩道橋の階段から降りて歩いて行く蔵道をゆっくりと追いかけた。
そして蔵道が一人、信号を渡ろうとした時にコルトはトラックを急発進させた。全力で疾走させようとするのは出来るだけ痛みを感じさせない為か、それとも単なる気分なのか。
もう蔵道とトラックが10メートルほど急接近した時に、やっと身の危険に気づいたのか絵に描いたようなあっと驚いた表情をしていた。
カルンは人を轢くのが少し怖くなった。
「やっぱりストップ!」
カルンはコルトの持つハンドルを急回転させた。そして蔵道を車線から避けた。
「てめぇ、カルン! お前何やって……って前ぇぇぇぇぇぇ!」
「えっ? ご、ごめんなさ」
その言葉を発した同時に強い衝撃が身体全身を打った。
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神は言っている。とりあえずトラックで人を轢いて異世界に連れて行けと……
今から人間世界でいう三ヶ月前の出来事だった。天使達が暮らす天界でとある会社が経った。その会社はなんと人間達が暮らす世界チーチュから、もう一つの世界の星に(現在その星の名前は不明、名前応募コンテスト開催中)住民を送り出すというトンデモ極まりない仕事内容だった。人間を見守るはずであろう天使が人間世界に干渉してどうする。
そもそも二つの星はどちらもバランス良く生物は繁殖していたのだが、全ての原因は会社の会長である神様が異世界転生物にハマってしまってしまい「ワシ、異世界に送り出す神様やーりたーい!」と。
もう神様辞めろ馬鹿野郎、だがそんな中コルトとカルンは職なしで貧乏、神様とコネがある自分達は獅子滅裂した会社に就職する事にした。
一応神様はフォローとして「異世界に転生される者は人生に苦労した者や、人生に枯れ果ててしまった者を再起させる為に転生させるのじゃ。理にかなってるじゃろ」
そしてチーチュに派遣された二人の初仕事が神のトラックで人を轢いて転生をさせる事だったのだ。
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あの後、トラックは電柱に突っ込んでしまっていた。神のトラックらしいがフロントはボコっとめり込み、自然と治る様子も無く紙耐久で神のトラック(笑)だ。
「何笑ってんだよ。ああ? 誰のせいでこうなったと思ってんだよ」
目の前にはくたびれたミイラ男がベットの上でこちらを睨んでいる。
「ハハハ……笑えないよね。ごめん……本当にごめん……」
そのミイラ男は全身打撲に、右足骨折したコルトだった。あの後、カルンは軽症で済んだがコルトはシートベルトを装着してなかったせいかピーとなってガーとなってゲーとなってしまった。
「ふざけんじゃねぇぞ……てめ! あー痛タタタタ! クソッ…」
「あ、足怪我してるんだから無理はしちゃダメだって!」
その時、ベッドの隣の机の花瓶がコルトの足に落ちてしまった。
「だから誰のせいで! ってギャーッ! …………ぜぇぜぇもう出て行け! お前の顔なんか見たくねぇよ!」
無造作にベッドの上の枕やテレビのリモコンを投げて来て、カルンの頭に数回当たった。
(これは仕事、これは仕事、これは仕事、これは仕事)
異世界転生リストの書類を見ながら、カルンは軽く溜息をついた。これからは一人でやるしかないのか、今までは汚れ仕事は全てコルトに任せていた罰が帰って来たのだろう。
今月中に残り五人の人間を転生させなければ会社をクビになるだろう。
次のリスト候補の名前は『神楽五郎(かぐらごろう)』22歳エリートのプロの格闘技であり最強生命体と呼ばれているらしい。なんでこんな人間が選ばれるのだろうかと考えたが、あまり転生者に深く知ろうとする事はやめよう。同情して決意が鈍ってしまう。
夜道に一人歩く五郎を見つけ、カルンはトラックを移動させたかったが、足が短くてペダルに届きにくかった。
どうやって血まみれトラックにしてやろうか……