「もう全速前進!!」
ヤケクソの声をあげ、アクセル全開で五郎に猛突進を開始した。
メーターをチラッと見るに50キロは出ていて、このままぶつかったらどうなるのか想像すると身体が震えた。
生憎死体を見た事は一切ない。
ずっと轢く時はコルトに全任せ、カルンは運転座席にすら座らず自分の家に一人ポツンと座っている。
今回トラックで事故った時はコルトが「お前も俺に全部任せるんじゃねぇよ。隣に座るぐらいは手伝えよ」の言葉が原因でああなった。
五郎とトラックがぶつかる寸前、もうこの瞬間は時間が止まったようにゆっくりと感じる。キリッとした表情の五郎と目が合った。
彼の事はあまり調べようとしなかったが、家族はいるのだろうか? 恋人はいるのだろうか? 友人はいるのだろうか? 悲しむ人はいるのだろうか?
「ああ、やっぱりダメぇ!」
一つ考えると連想ゲームのように嫌な妄想が進んでいき、結論は「やっぱり人を轢くのはやめよう!」だった。
「アレ? でもブレーキってどこだったっけ………………」
運転免許なんて持ってない。
さっき必死に説明書を読んでたのだが、緊張でど忘れしてしまった。
冷や汗が流れた。
「あ! そうだ曲がれば……」
ハンドルに思いっきり力を入れて回そうとしたが、ハンドルがぽきりと。
「折れたっ!? あ!」
ズドン!
自分がパニクってる間に何かがトラックにぶつかった。カルンは衝撃を感じて一瞬気を失いそうになり胸にシートベルトが強く食い込んで痛かった、トラックは急停止した。
カルンは頭を下向きながら冷や汗が滝のように止まらなくなった。
「これは仕事…………」
もう泣きたかった。
でも仕事はまだ終わっちゃいない、説明書によると轢いた後は綺麗に死体を除いて隠蔽しないとならないのだ。
そろりそろりと死体とご対面する為に顔を上げたのだが。
「え……?」
死体なんてそこにはなかった。もしかして遠くに吹っ飛んでしまったんじゃと考えたその瞬間に、ドアの窓の向こうから五郎の平然とした顔が写っていた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「は……はい」
どうして生きているんだ? いや生きてくれててありがとうございますですよ。でも見事に轢いた音が聞こえたのは確かなのだ。
「うん? ああ、俺は大丈夫だ、ちょっと怪我した程度で済んだだけだ」
五郎はちょっと右腕手首を左手で抑えていた。
ふとそれを見てカルンの中に一種の疑問が芽生えた。さっきトラックはブレーキをしていないのに急停止した、何故だ。
もしかして素手でトラックを止めた。嘘だ、そんな人間はいないはずだ、だが足で車を止めた人間や崖から落ちたり海を漂流してもなお生存した人間が存在するのをファイルを見た事はある。
天使達の中ではその超人をNINGENって名付けてのを思い出した。
もしかして五郎もそのNINGENではないか、ゴリラのような焼けた肌に、空気が詰まったみたいな強靭な肉体で格闘技のプロ、うん説得力ある。
「あんたは大丈夫か? エアバック出てきてないし、肋骨とか骨折してんじゃないか」
自分が死ぬ目にあったというのに、この人は轢こうとした相手を心配するなんて優しい人なんだろうか。しかもこれは事故ではなく意識してやった。そう思うと胸が痛く感じる。
とうとうカルンの涙腺ダムが決壊し滝のように涙が出た。
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その様子を屋上から監視している二人組がいた。
双眼鏡を持ってカルンを眺めている少女と夜風になびかれながり本を読む青年、二人共赤髪で顔は少し似ている。
少女は屋上の縁にある金網の向こうに座り、双眼鏡から視線を外し青年に向ける。
「ねぇ兄貴、見て見てあいつすっごいよ。トラックを手で止めたんだよ」
青年は本を読むのをやめた。
「そうか……だが私達はやらなければならない、例え私達父である神に歯向かう事だとしてもだ……分かるか? 神を困らせる蛇でなければならないのだよ我が妹よ」
「何言ってるのかあんまわからないけどうん、大体はわかったかも。それよりも兄貴、暗いのに本なんか読めるの?」
「ふっこの程度の暗闇など私にとっては日常にすぎない」
少女は金網を登って顔を上げ青年に憧れの笑顔を浮かべる。
「なんだかわかんないけどやっぱり兄貴ってすごいやー! 俺も暗いところでマンガ読めるようになりたいよ!」
「褒めるのはよせ、照れるではないか。さて……では、そろそろ女神の恵みを与えに行こうか」
青年が夜の空に指を翳して鳴らす。
すると六芒星の形をした魔法陣が空に出現した、するとそこからトラックがズズズと出現した。
「ふっ、まるで胎児から産み落とされる赤ん坊のようだ」
だがそのトラックは落下地点が屋上からはみ出て、地に落ちて大破し爆発した。
「………………今のは女神の怒りだ」
もう一度青年はトラックを召喚した。屋上に召喚してどうすると気づいたのは少し後のことである。