「なんでお前が病院にいんだよ、それにリストに助けられたってどういうことだよ」
ここはコルトが入院している病院の病室だ。本来は四人部屋なのだが患者も少ないのかコルトが独占している。昼頃来た時よりは機嫌を取り戻したのかカルンには普通に接している。
今のコルトは足以外包帯は巻いていなかった。流石に窮屈で苦しいと病院側に訴えたのだろう。
「いやぁ、その色々あって……」
そして何故自分が病院にいるかと言うと、さっき事故を起こしかけた後、カルンは胸の間付近に異様な痛みを感じた。
おそらく五郎と衝突した時のシートベルトで怪我したのだろう、本来なら加害者である自分が五郎を病院に連れていくのが普通なのに寧ろ送ってもらったのだ。
我ながら情けない。
そして今は診断して貰ったのがコルトの入院してる病院なのでついでにお見舞いをしに来た。
「うん……自分でもそう思うよ……でもあの人本当に優しくって……ぐすっ」
「おいおいおい、泣くことはねぇだろ。ほらティッシュで拭けよ」
「ありがとう……」
ティッシュで鼻と涙を拭い、深呼吸をした。自分はよくあるごとに涙を流すのが癖になってしまっている。
「ほれ泣けよ泣けよ感動映画だぞ」と寒い演出を取り入れた映画を見てもすぐ泣いてしまう。寒い演出だと自覚していてもだ。
「はぁ……それで、お前の怪我はどうだったんだ?」
「もしかして心配してくれてるの?」
乱暴なコルトだが意外と優しい所もあるのかも。
「ちげぇよ。お前が怪我したら誰がトラックを運転するんだ」
そういうことか、と少しムッとなった。
「一応、お医者さんに病院で診てもらったけどちょっとした打ち身らしいよ。湿布を貼れば治るって」
「ふーん、まぁそんなもんだろな。ちゅーか、ここの病院ロクなもんがねぇな。足のせいで動けねぇし、飯はクソまずいし」
コルトは嫌味ったらしく自分に向けて話した。全部自分が悪いのだから反論の余地なんてない。
「ごめん……本当にごめん……」
頭をこれ以上下げれるかと言わんばかりに下げた。
「うっとおしいからやめろ。それとな次見舞いに来る時は美味いもんでも買ってきてくれよ、生き甲斐がテレビしかねぇってどういうことだよ……」
「生き甲斐ないと天使は生きていけないからね……人間も同じだけど……」
確か病院の一階には売店があったはず、後で本でも雑誌でも適当に買ってこよう。今は夜でもうお見舞い時間も終了間際だ、はやく急いでおこう。
病室から出て早歩きのままカルンはボソリと呟いた。
「生き甲斐か……」
転生リストに載っている人間達はみな生き甲斐を失った、現実に疲れた者達の事を指す。五郎が載っているという事は何か心のトラブルがあるのだろう。
だが本人を見るにあまりそんな面は見えてこない。顔は課題が普通に優しそうな好青年だった。
そうぶつぶつ考えながら、通路を歩いていると五郎と出会わせた。
「あっ…………け、怪我は大丈夫ですか?」
一瞬気まずかった。
「大丈夫だ。あんたが気にするほどでもない」
「でも……やっぱり治療代ぐらいは私が払います」
この人は本来なら警察沙汰の事故を水に流し、治療代さえも要らないと言うのだ。なんて優しい人なんだろうか、感動で心が震える。
「治療代はいい。あんたの方は大丈夫か?」
「えっはい、大丈夫ですけど……でも……」
五郎は硬い口調のまま、少し微笑んだ。
「もう金の話はいい。だがもう夜は遅い、あんたは大丈夫か? よかったら送っていこう」
「そ、そこまでしてもらう訳には生きません。本当に感謝しても仕切れないんですから」
「そうか、なら俺はもう帰る。気をつけろよ」
そう言って五郎は背を向けて去って言った。
緊張感が緩み、ぺたりと壁にもたれた。あの人の身体つきは熊そのものだ、良い人なのは分かっていても身体が固まってしまう。自分と比べてもアリと人間ぐらいのサイズ差があると錯覚させられる。
それに今日一日は色んなことがありすぎた。疲労が溜まっている。
(私、やっぱりこの仕事向いてない……)
カルンは精神的にも肉体的にも疲れ果ててしまっていた。やっぱり人を轢く仕事なんていい気分な訳ない。こんな気持ちをコルトはずっと味わっていたのかと思うとすみませんと謝りたくなる。
(何かないかな……人を轢く以外にできること)
そんな時、自分が売店に向かおうとしている事を思い出し、急いで走った。
カルンは適当な雑誌やコミックを売店で買った時、少し頭の中で閃いた。コルトが生き甲斐についての事だ。
(リストに載る人間は……生き甲斐や人生に疲れ果てた人たち……その人達に生き甲斐を与えてみるとどうなるんだろう)
もしかしたらリストから除外されるかもしれない。
天使であっても自分が他人に生き甲斐を与えるなんておこがましいと思う、だけど轢いて転生させる状況よりはマシだ。
「一つ言いたい事があるんだけどいいか……?」
急いでコルトの病室に戻り、気まずそうに声をかけた。コルトは何考えてんだと言いたそうな顔をしてた。
「一回……だけ……試したい事があるんだ。でもコルトに迷惑かけてしまうと思うんだ……いいかな?」
真剣な顔つきのままコルトを見つめ、許しを問う、帰ってきた反応の最初はため息だった。
「勝手にしろ、俺は手伝わねぇからな」
「え、でもまだ何も……」
コルトはそっぽを向いてしまった。
「お前の考えてる事は全部お見通しだよ。どうせ自己満足で人を救いたいとか考えてんだろ」
本当に全部お見通しだった。自分は考えてる事が顔に出てしまってるのだろうか。
「ありがとう……!」
そういいカルンはコルトから後ろを向け病室から出た。
一人残された病室でコルトは2度目の深いため息をした。
あんな申し訳なさそうな言い方でも真剣な目で言われると、何も言えなくなる。絶対やめろと言ってもやってるだろ。
それにカルンの願いを断る気なんか一切なかった。
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「兄貴ーっ、トラックってどうやって運転するんだよー」
赤髪の少女は八重歯を見せながらクラクションを鳴らした。
「待っていろ、今女神の聖書を読んでいるところだ」
と言いながら青年はトラックのマニュアルをくべんなくまじまじと見つめていた。
「しかもターゲットどこいったー! 天使秘密道具を持ってくるのを忘れてちゃったよー!」
少女の鳴らすクラクションが夜に響いた。
この後、停車していたトラックの隣の建物に住むおばちゃんに二人は「うるさいわよ!」と言われバケツの水を被らされた。