「ぎゃあああああああああ!」
現在病室の窓から注がれる暖かい日差しを浴び、安らかな昼寝をしている時だった。
コルトは一人病室で怪我した方の脚に何度も打ち付けられる痛みを感じて目を覚ましガバッと身体を起こした。
「クソォ! 誰だよ!」
誰だか知らないがツラぐらい拝んでやろうと思ったが、叩いた相手は杖を持ち白く長い髭と髪になんと服まで真っ白だ。これは誰もが神様と聞けば大体はこの印象になるであろう。
実質彼は天界の神の一人でコルト達が勤める会社の会長でもあるのだから。
なんだよ……クソ神かよ……
「誰がクソ神じゃ、クソ坊主に言われたくないわい」
聞こえないように心の底で言ったのに、愚痴さえも言えないとは、コルトは理不尽を感じた。
コルトは頭の血管がピクピクするのを感じながらも平然を装って話しかけた。
「それで……なんのご様ですか? 会長ぅ……」
馬鹿神は馬の尻尾みたいに長い髭をさする。
「ホッホッホッ、殺気を隠せてないとは……まだまだよのう……そんなんだからカルンの気を引くことさえできないじゃろー」
(コルトの大切な何かが切れる音)
「だから何しに来てんだよクソジジィ!」
この際上下関係なんてクソ食らえ、胸ぐらを掴んでやろうと飛び出した。
だがすかりと自分の身体はすり抜けベッドから落ちてしまった。しかも脚から着地してしまった。
「ぎゃあああ! 脚がぁ! 脚ガァァァァ!」
「はぁー、一体何をやってるのか……」
怪我した脚を抑えながら睨みつけるが、クソ神はやれやれと両手を広げていた。
「だからテメェが……」
「もう脚は治ってるぞい」
「へぇ?」
コルトは自分の脚を見てみると、その場から立ったままで何も痛みなんか感じなかった。
「病は気からって言うしのぉ……ま、感謝するんじゃぞ。この世界のN・滝堂のケーキを買ってワシにプレゼントするんじゃぞ、それに……」
少し色々と腹は立つが怪我した脚を治してくれたのか、恐らく自分が眠っている時に叩いた杖でだろう。
「それで用は?」
「無視は酷いのぉ、人間一番無視されるのが辛いんじゃ」
あんたは神様だろ。
「ま、用と言えばあるぞい。面倒だから略して言うが、イカピだぞ」
(コルトの大切な何かが切れる音)
「だから何しに来たんだよクソジジィィィィィ!」
もう一度右腕を振りかぶり神に当てようとしたが、空ぶって地面とキスした。
しまった今のこいつは実態がないんだった。
「お主が頭を下げてまで頼むのなら仕方ないのぉ、さっきの略は『今カルンがピンチ』じゃぞ」
さっきの痛みで赤くなった鼻を摩った。
「どういう意味で?」
「生命的意味で」
「なんだよほっとけよ、只のせいめいてき…………生命的? はぁ!? 一体どういうことなんだよ!」
ピンチと言えば、また人を轢くのに悩んでいるとか、家にゴキブリが来てなんやかんやで火事になったとか、そんな優しい物だと思っていたら、いや後者は大惨事だな。落ち着け、いつもの様にあいつを嫌うような素振りを見せろ、ああダメだ心臓のペースが上がって行く。
とにかく事情を聞かなければ。
「それがのぉ……わしの会社のライバルの『マネープリーズ』の社員がうちの転生リストと被っちゃて、てへ」
クソジジィはウインクしてベロを出した。
「てへ、じゃねぇだろ!」
「多分、デウスちゃんがわしへの嫌がらせで、転生する業務でも始めたんじゃろなぁ……」
クソ野郎はどこか遠くを見つめるように窓を開け空を見た。実体がなかったのでは、とツッコミたかったが今はそれどころじゃない。
コルトは病院服のまま外に出ようとした。
「はて……? どこに行くんじゃ?」
嫌味の様にニヤニヤしているのが見なくても言葉が滲む微かな笑いで分かった。
「只の……散歩だ」
今からカルンを助けに行こうと思うが、やはり自分が心配してると悟られたくない。もう気づかれているだろうけどせめての抵抗だ。
「ツンデレじゃのう……本当は心配してるんじゃろ?」
「あいつが消えたら、仕事が俺一人で面倒になるだけですよ、あいつがどうなろうと知った事じゃない」
「さっきはあんなに取り乱してたのに、今更説得力ないのぉ……ああそうそう思い出した、病院の外にトラックの鍵を忘れちゃったんじゃが散歩ついでに拾ってくれない? ほれ窓の外から見えるじゃろ?」
このクソ神はなんやかんやで自分達の事を心配してくれているのかもしれない。それなら自分で助けてくれ、と言いたいところだが、あまり神は干渉してはならない事は知っている。
「感謝……します……」
コルトはその言葉聞いた直後、振り返り病院の二階の窓から飛び降りた。地に着地した時、骨が折れた。
「神ィィィィ! ヘルプ! ヘルプミー!」
そんな様子を眺めていた神は溜息をした。
「格好がつかないのぉ…………」