生い茂る緑達が私の景色の中でチラホラ増えてきた。あまり慣れない乗り物で車二つが並行できるぐらいの山に続く道路を走る。
一体どういう事なんだ。
隣に座る五郎はそういう顔をしていたが何かを察した様目を瞑って銅像のように黙っていたが、やはりこの状況は異常だと判断したのか。
「どうして俺は命を狙われているんだ? 話が読めない。嫌なら話さなくてもいいが、できれば話してほしい」
カルンは黙った。
数秒間の沈黙、なのにこの時間は何分にも感じられた。腕時計の針が進むのを見て、時間は動いているのだと実感できた。
人間に天界に関する事を話してはならない。この世界に出張する暗黙のルールである、記憶を消そうと思えばできるのだが人の記憶はガラス玉のように繊細で、どれだけシャッターを閉めてもふとデジャブを感じたりするのだ。それだけならいいけど本当に思い出すケースがごく稀に存在する。
カルンは悩みに悩んだ末にある程度なら答える事にした。
「分かりました……できる範囲でなら……」
「あいつらはなんなんだ?」
いきなり難しい質問キター!
どうしよう、自分は嘘で人を騙せた事なんて一度もない、と断言できるほどダメだ。
冷や汗流しながら硬い笑みを作って答えた。
「………………そ、そういう仕事ナンデスヨ」
そう言うと五郎は眉間にシワを寄せて目を閉じ腕を組んだ。
「そうか、大体は理解できる」
そして独り言のようにボソリと。
「誰かに怨みを買った覚えはないんだがな……」
絶対誤解されてる。
「そ、そうじゃないんですよ! えー、えー、えーとアレだ人を轢く使命を命じられて……」
ダメだ、余計に混乱させてしまう。ここはこちらから何か言わなければ。
「た、た、た、確か離婚した奥さんがいたんですよね!」
彼が不調になった理由はほぼ確定だろうけど念の為に確認をしておこう。もしこれで間違っていたら大恥物だ。
「まさか……あいつに何かあったのか!!」
しまった、また地雷踏んだ。
「いやそうじゃないんですよ。狙われてるのは五郎さん一人で事情を話すと長くなるんですけど……ええっと実は私奥さんの知り合いなんですよ。そ、それで奥さんから頼まれて……」
口を開く度に冷や汗がたらりたらりと流れる。勿論これは真っ赤な嘘、自分の表情をミラーで見ると青くなっていて表情を隠すことさえできていない。
「そうだったのか」
五郎はこちらを咎めようとせず、こちらの嘘を肯定してくれた。
この人はどんだけ良い人なんだろうか
「そ、それでどうしてお二人はこうなったのかお聴きしたんです……」
そう言うと五郎はわかったと返し、奥さんの出来事を話した。
今度こそちゃんと聞こう。
あれは今から十五年前の事らしい。小学一年の頃初めて出会ったらしい、奥さんの名前は『倉永春菜(くらながはるな』と言う、奥さんの幼少期はかなり男勝りな人だったと、そして男に混じって秘密基地やら駄菓子屋でダベったり…………
長い。
「ごめんなさい、長過ぎです……」
「すまない」
そう気を取り直して。
あれは今から二年前のこと、五郎さんと春菜さんはめでたく結婚したのだがある日、カレーに卵を入れるか入れないかで大喧嘩した結果離婚したらしい。
「た、卵ですか……」
五郎は虫を噛み締めた顔をして。
「あの時は俺もどうかしてた。家内が出て行った後探したのだが行方は分からなかった。元々あいつは両親が死別していて親戚に聞いても詳しい事は判明しなかった、だが最近この街近くに住んでいると小耳に挟んだ」
「だからこの街に来てたんですか……」
「ああ……俺はあの過ちのせいで全てが狂った。だからこそもう一度あいつに会ってやり直したい……」
カルンは少しにこやかに笑顔を向けた。
「できますよ! 貴方がそんなに奥さんの事を思っているんですから私が保証します!」
五郎が、そうだな、と答えようとしたその時だった。
カルンから左方面、ガードレール先の崖からバラバラバラと風を切るような音が聴こえてきた。
なんだろう? と疑問に思ったその瞬間、大きな横長い四角な物体が空を飛んでいた。
アレはさっきのトラックだった。何故かトラックの頭にプロペラがついていたのだ。
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「ハハハハハハハハハハハハハ! これぞ我が女神が与えし神器である!」
赤髪の青年はチマチマと地を走るトラックを見つめた。
「いくら地を走ろうとも天に立つ私に敵うはずはない!」
「兄貴ー! やっちまえー!」
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「なんだアレは……流石に無理がないか」
流石の五郎も空を飛ぶトラックに驚愕の声を漏らしていた。
「に、逃げないと!」
トラックをフルスロットルに走らせよう、そう思いアクセルを踏もうとした時に、バチュン! バチュン! と赤くて丸い液体がトラックのドアの窓にへばりついた。
五郎がドアを開けようとしたが開かず「ちぃっ!」と舌打ちをして、なんと窓を拳で割ったのだった。ガラ空きになってしまい一体を何をやっているんだとふと思ったが、五郎は窓の外に両腕を出しトラックから放たれた赤いゼリーのような砲弾を掴んで返したのだった。それはまるで水風船を割らずにキャッチボールをしているようで。
そして相手のトラックのフロントガラスに当たり相手は怯んだ。
「速く進め!」
「は! はい!」
五郎の言われるがままスピードを上げた。フロントガラスが汚れていないのが不幸中の幸いだった、正面をやられたら前が見えなくて奈落の底へ急直下するところだった。
「このまま前に進め、山の中に隠れられる」
後ちょっとで目的地、春菜さんの家につく。カルンはここに来る前に春菜の事も事前に調べていたのだ、離婚した後色々と調べたのだが、この山の中に住宅街が存在する。その住宅街に奥さんはいるのだ。
つまり山の中に隠れたらこっちの勝利である。
そう勝利を確信したその瞬間、突然トラックの運転が効かなくなりカーブした、そしてガードレールを突き破る寸前にブレーキをかけた。
「ーっっっっ!」
なんでトラックが……ハンドルに頭を強く打って意識が朦朧とした。
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「よくやった、流石私の妹だ」
トラックの先端に存在する二つの砲台、弾の材料はトマトとゼラチンでできてある。今、赤髪の妹がターゲットの車輪を狙い撃ち見事スリップさせたのだ。
「へへー狙い撃つのは得意なんだ。もっと褒めてよ兄貴ー!」
赤髪の妹は犬のようになつっこく赤髪の兄に近づく。
「褒めるのは奴のトドメを刺してからだ」
赤髪の兄がレバーを動かすと、トラックが両ドア付近から五本指の巨大な腕がウイーンガシャンと音を鳴らし出てきた。
「さぁ女神の加護を受けるがいい!」
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「大丈夫か! 大丈夫か!」
意識が少しボンヤリしていたが五郎の声により意識が戻ってきた。少し辛い、だがこの程度で済んでいられるのはデウスクッションのおかげだろうか、いやアレは一度限りの使い捨てアイテムだ今は効果ない。
「だ、大丈夫……」
となんとか力を振り絞り言葉を言ったのだったが、相手のトラックが大きな腕を持ってこちらに接近して来ていたのだ。
後10メートル、9メートル、8メートル、7メートルと、徐々に近づいてきて、トラックを進めようとするがタイヤが重くて一向に進まない。これじゃ亀の方がマシだ。
そして距離、後5メートルとなった時。
「奴等は俺を狙っているんだな。俺が外に出る、あんたは逃げろ」
「それじゃダメで……す! やり直したいんですよね!」
「だがこれではあんたまでが死んでしま…………」
「ヒャッハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
五郎が最後まで言葉を口にしようとしたその時、かなりうるさい聞き慣れたような声が山に響いた。そして相手のトラックを巨大な両腕で吹き飛ばした、プロペラと両腕がついた第三のトラックが現れたのであった。
「おい馬鹿! 何やってんだよ!」
そう窓から顔を出して罵倒したのは絶賛骨折中のコルトであった。
「な、なんでここにいるの!?」
「ああ? んな事などうでもいいんだよ。俺は入院でクソストレス溜まっててよ、今発散できりゃあそれでいいんだよ! だからさっさと行け!」
なんだかわからないけど助けてくれたのは確かだ。もう考えてる暇はない、ありがとうと軽く礼を言ってトラックから降り、五郎と一緒に目的地まで走り出した。
山道を走りながら五郎がコルトについて質問をした。
「知り合いか?」
「は、はい」
あたまが痛む中、カルンは全身の細胞を活性化させ走った。