戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

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更新遅れました……

あまりカッス大暴れが続くのもジャンル違いなので、そろそろご退場。

~これまでのあらすじ~

四四八「頭が痛い」


第12話 「不朽の夢」

 「これはこれは。誰かと思えば奇遇だな」

 

予想外の乱入者を前に、しかし甘粕正彦は動じない。むしろ旧友に久しぶりに出会ったの如く、目の前の男との再会を心の底から喜んでいる。

 

紅蓮の炎と黒煙を切り裂き君臨する鋼鉄の巨砲を踏みしながら、しかし彼が示すのは紛れもない親愛の情だ。

 

「ああ、相も変わらずおまえは己の真を貫いているようで何よりだよ。なあそうだろう、柊四四八。先の一撃をおまえが凌いだ後から、おまえの考えていることが分からんのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。これはつまり、そういうことなのだろう?」

 

彼らは共に阿頼耶識を理解し、悟りを開くに至った盧生である。よって、彼らは本来無意識下で完全な意思疎通を為してしまう。同じものを見ているのだから、その”窓”を通して相手の心までも見てしまう。

 

ならばこそ、甘粕正彦(盧生)柊四四八(盧生)の思考を読めないという現状は、どちらかが無意識の海に繋がっていないことを意味している。

 

甘粕(おれ)は有り得ない。なぜなら再び魔王となることを選んだから。当然アラヤに繋がっているし、ゆえにそこからあらゆる夢を引きずり出せる。

 

であれば、ああ――

 

「本当に、先の一瞬だけか」

 

「そうだ。あのまま放っておけば彼女らは間違いなく消し飛んでいたぞ。俺は確かに夢を捨てたが、流石に切羽詰った状況だったからな。それを以て矛盾と呼ぶならば、それは行き過ぎた放任だ。そんな道は間違っているだろう」

 

柊四四八(おれ)がこの世界に来てまず見たのは、甘粕によって消し飛ばされようとしている若い芽の数々だった。

 

奴の目に適ってしまった、勇気ある少女たち。彼女たちを守るために、俺は咄嗟にこの世界のアラヤと繋がったのだ。

 

無論、この世界では俺は盧生ではない。世界が異なれば常識が違い、住まう人々が違うのだから、異物である俺が即座にアラヤに接することは普通は不可能だ。かつてと同じように、そしておそらくはこの世界で甘粕がやったように、再び邯鄲を制覇する必要があっただろう。

 

だが、今回だけは例外だ。なぜなら、今回はアラヤのほうから繋がるように要請があったのだから。

 

ゆえに様々な条件をすっ飛ばしてその力を振るえるわけで、だからこそ甘粕の攻撃を防ぐことが出来た。

 

その事実は、確かにかつての俺の決断から考えれば矛盾だろう。夢に頼らないと俺は語り、甘粕はそれを認めて消えていったのだから。

 

だから今も、俺は出来る限りの言葉を尽くしてこの馬鹿を説得する。アラヤとのリンクを切っているせいで本来ならば夢界から即座に消える筈だが、当のアラヤが何かやっているのだろう。今も俺の存在はなんとか消えずに残っていた。

 

「だから、まず裏切ったのはおまえだろう、甘粕。この様はなんだ?」

 

「おまえのこれは試練ですらない。なぜなら彼女たちは、とっくに自分の道を示している。しかも、おまえの存在など関係なしにだ。それでもまだ足らんと言うのか。もっと勇気を、さらなる輝きをと、無限の渇望のままに苦難を齎すか」

 

一瞬でもアラヤに繋がった俺は、事ここに至るまでの仔細を全て把握している。そこで知った、たった今も後ろで見ているであろう少女たちが見せた勇気。

 

どれも、心の底から素晴らしいと称賛できる輝きだった。

 

「それを見えぬ知らぬ存ぜぬと、どこまでも一時の情動に惑わされ暴走するなど――恥ずかしいとは思わないのか!……おまえは何も成長していない。他人に勇気を求めるなら、まずは己がそれを示せ!それすら我慢できず、分かりやすく手っ取り早い試練(ユメ)などに頼るなど――あの時俺に語った言葉は嘘だったのか!?答えろ、甘粕正彦ッ!」

 

そう。本当に大切なのは自分の心に嘘をつかないこと。

 

あの時俺が語った言葉に嘘はなく、だからこそ俺はそれを誇りに思っている。

 

だから、夢は使わない。

 

アラヤがいつかと同じようにリンクを切ろうとする俺に驚愕していたが、これは当然のことなんだよ。

 

夢に頼っている限り、甘粕正彦の勇気は超えられない。

 

こいつは馬鹿で人の話なんか聞かない奴だから、分かりやすい形で示してやるしかないんだ。

 

そして、俺の叩き付けるような詰問に対し、甘粕は――

 

「――否」

 

小さく、しかし確かにそう答えた。

 

「否、否だ。……ああ、俺はこういう男なのだよ。だから正直な話をすれば、おまえが今夢を用いて俺の前に立っていれば、俺は喜々として試練を続けただろう」

 

そうだ。俺はまた(・・)我慢できなかった。

 

つまるところ嫌なものを見たくないという単純な理屈であり、そしてこうするより他に手段を知らない。

 

どれほど努力しようと、俺が得た悟りの形に変わりはないのだから、結局最後はこうなってしまうのだ。

 

「だが、おまえの答えは変わっていないと今示された。――成程、何も成長していないと言われても仕方がない醜態だよ」

 

だが、だからといってあの時俺が得た救済に偽りはない。おまえに対して、おまえの示す仁に対して、俺は間違いなく憧れたのだから。

 

「俺の思いに嘘はない。ならばこそ、俺もまた前へ進むとしよう。ただ――」

 

そこで初めて、柊四四八から目線をずらす。

 

ぼろぼろになりながらも勇気を示した少女たち。ああ、俺はこんなにも強く美しい少女たちを前に、しかし確と彼女たちを信じようとはしなかった。

 

だから色々と節介を焼いてしまった。

 

しかしな柊四四八。最後こそ我がことながら忸怩たる思いに堪えないが、しかしそれでも途中までは俺もかなり辛抱したのだぞ。

 

そしてだからこそ、彼女たちは俺の試練(ユメ)に最後の最後まで嵌らなかった。ああ、それはつまり、何と分かりやすいことで――

 

「勇気ある少女たちよ。おまえたちの答えを、夢を、俺に聞かせてはくれまいか」

 

彼女たちは真に人として勇気を示したのだから。俺は最後に、その輝きを見てみたいと願うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇妙な浮遊感の中、私は彼らの声を聞いていた。

 

いや、正確に言うならば、今目の前で甘粕さんと真っ向向き合い、対峙している男性の背中を見ていた。彼の言葉を聞いていた。

 

うまく言葉にできないけれど、彼の背中を見ているととても安心できたのだ。

 

まるで、そう。子供を見守っている父親のようだと、なんとなくそう感じたのだ。

 

すると、彼らの会話が終わったようだ。甘粕さんの視線がこちらに向き――

 

「勇気ある少女たちよ。おまえたちの答えを、夢を、俺に聞かせてはくれまいか」

 

そんな、突拍子もないことを言ってきた。

 

「……」

 

正直なところ、状況はよく分からない。いきなり現れたこの男性は誰なのかとか、今まで散々止むことのなかった暴威が今どうして止んでいるのかとか、他にも色々分からないことはたくさんあって。

 

「……すみません。うちの馬鹿が迷惑をかけてしまった」

 

こちらに振り返った男性が、丁寧な謝罪の言葉と共に頭を下げた。だけど私たちには、彼がどうしてそんなことをするのかも分からない。

 

「あなたは……?」

 

お姉ちゃんが彼にそう問うている。いつもと変わらないよく通る声だけど、やっぱり困惑の色が混じっていた。

 

「柊四四八という。甘粕の――まあ、知り合いみたいなものです。ただ、細かい話をする時間はありません」

 

周りを見ろ、と彼は促す。そしてそこには、やっぱり奇妙な光景が広がっていた。

 

空が、雲が、地面が、木が。ありとあらゆるものが光となってゆっくりと消えてゆく。

 

「遠からずこの世界は崩れます。それとともに貴女たちは現実に戻れますが……俺からの頼みです。奴の、甘粕の問いに答えてやってはくれませんか」

 

「……なんで、そんなことを?」

 

納得のいっていない声はエリカさんのものだ。それも仕方がないだろう。だって私たちは、ついさっきまで彼の所為で散々な目に遭っていたのだから。

 

それに、柊さんは疲れたような笑みを浮かべながら――

 

「簡単です。甘粕は、馬鹿だからですよ」

 

そんな、やっぱりよく分からない答えを返した。

 

「だから、貴女たちの一番大切な思いをぶつけてやればいい。なに、奴がまた暴れ出しそうなら俺が意地でも止めますから」

 

「……」

 

私たちの答え。私たちの夢を示せと彼は言った。

 

そして、私たちは、とっくにそれを見つけていて。

 

「……分かりました」

 

だから、それを伝えなくちゃならない。

 

このまま黙っていれば、この不思議な夢は終わるのだとしても。

 

「みなさん。行きましょう」

 

私の言葉に、みんなが優しく応えてくれる。

 

「それじゃ、いっちょがみがみ説教してあげましょ。ねえ、みほ?」

 

「ああ。一緒に行くぞ、みほ」

 

「みほさん。思う存分、色々言ってあげましょう」

 

――そして、とうとう私たちは彼の前に立った。

 

夢が崩れ始めている影響だろう、すでに巨大な陸上巡洋艦(ラントクロイツァー)が至る所で崩壊を始めているが、彼はそんなものなど一切放置し、とうとう私たちと同じ地面まで降りてきた。

 

今か今かと私たちの言葉を待つその姿は、まるで好きなテレビ番組の放送を待っている子供みたいで。

 

「甘粕さん――」

 

彼が本当に、私たちを心の底から応援していたのだと分かったから。

 

「――ありがとうございます」

 

「なっ……」

 

「え?」

 

「はあ?」

 

「……」

 

「……ほう」

 

反応は様々。お姉ちゃんやエリカさんたち、私の仲間のみんなは驚愕。柊さんは一瞬少し驚いたみたいだけど、静観。そして、目の前のこの人は、やはり一瞬の驚愕のあと、興味深いと言わんばかりに声を紡いでいた。

 

うん。確かに何を言っているんだって話だと思うよ。実際私たちは、この人の所為で死ぬような思いをしたわけだし。

 

でもね――

 

「貴方が今日来ていなかったら、私たちはきっと、何も変わらず迷ったままだった」

 

その一点だけに限っても、彼は間違いなく私たちの背中を押してくれた。

 

「変わるきっかけを作ってくれた。そして私たちは、そのおかげで本当のチームになれた。その事実からは目を背けちゃいけないと思うんです」

 

「……」

 

「だから私は、ありがとうって言うんです。そして――それで十分なんですよ」

 

さあ、言うべき礼は言った。ならばここからは、お待ちかねのお説教だ。

 

「そう、それで十分。私たちは、貴方がいなければ真っ直ぐ歩けないような、そんな弱い人間じゃ決してありません。私は、そう信じています。……色々言いたいことは山ほどありますけど、時間がないようなので簡潔に言います」

 

深く、ゆっくりと呼吸を整える。

 

それは、ちょっと前にもお姉ちゃんが言っていた言葉で。

 

「――余計なお世話(・・・・・・)です。私たちは、私たちの力で、私たちの人生を生きていく。どんなに辛くても、苦しくても、素敵な友達と一緒なら頑張れる。そう、信じているんです」

 

私の言葉に、彼はこの夢で初めての優しい微笑を浮かべる。

 

なんとなくその雰囲気が、少しではあるけれど柊さんに感じたものと似通っていて。

 

「では、黒森峰女学園の少女たちよ。おまえたち全員に聞こう。おまえたちの夢は、一体何だ?」

 

その答えは、私たちの中でとっくに出ていた。

 

ねえ、柊さん。さっきの言葉の意味、分かったよ。

 

この人は物凄い馬鹿だ。だから、分かりやすく答えを見せてあげないと満足しないし、そして馬鹿だから時にその分かりやすい答えすら見落としてしまう。

 

なんと傍迷惑な人だろう。なんと面倒くさい人だろう。

 

ここまで突き抜けていると色々大変だろうなと、そんな漠然とした感想を私は抱いた。

 

「そんなもの――」

 

エリカさんが真っ先に彼の言葉に答える。相変わらず納得がいっていないみたいだけど、それでもその声は自信と、そして何よりも誇りに満ちていた。

 

「私たちは、とっくの前に決めています。いいえ、見つけています」

 

「ああ。だから、みほ。言ってやれ」

 

赤星さんが、お姉ちゃんが、他にも、他にも、素敵な仲間がこんなにもいる。

 

思いは一つ。迷って、苦しんで、その果てに見つけた不朽の理想(ユメ)が、私たちにはちゃんとある。

 

それが何よりも嬉しかった。だから私は、私たちは――

 

「みんなで一緒に、戦車道をやることですッッ!」

 

だから、こんな試練(ユメ)はもういらない。

 

どれだけ強くなろうと、どんな夢みたいな力を手にしようと。

 

大好きな戦車道を、大好きなみんなと一緒にやれなければ意味なんてないのだと。

 

そう高らかに、誰よりも弱くて馬鹿な彼に言ってやった。

 

「――ああ」

 

己に向けられた真っ向からの否定意見。

 

おまえは要らない(・・・・・・・・)という心からの叫びに、深く深く感じ入る。

 

西住みほが自分たちの夢を喝破した瞬間、彼女たち全員が完全に急段の協力強制から外れたのを、俺は自覚していた。

 

それは即ち、彼女たちが完全に俺の試練を乗り越えたことに他ならず。

 

「――見事。俺の負けだよ」

 

万感の思いとともに、兜を脱いだ。

 

「ならば、その夢をどこまでも貫くがいい。おまえたちならば、必ず出来る。その道に幸あらんことを、俺は心より願っているぞ」

 

己に繋げていた少女たちを、完全に夢界から現実へと送り返す。眷属の繋がりも断ち切ったゆえ、彼女たちはもう二度とこの邯鄲には入れない。

 

「――全く、相変わらずおまえが関わると碌なことが起こらん。今回みたいなのはこれっきりにしてくれ、頼むから」

 

事が収まるところに収まったのを見て、ようやっと肩の力を少し抜いた柊四四八がそう声をかけてくる。

 

全く、良い気分ではないなこれは。まるで悪事が親に発覚した子の気分だよ。

 

人として進むべき道を示した柊四四八に対し、俺はなんという不義理を働いていたのだろうと、そんな慙愧の念に堪えない。

 

「そうだな。では、俺はあるべき場所に戻るとしよう。そのほうが、そちらとしても目の届く場所に置いておくことが出来るしな?」

 

「……それはそれでまた苦労しそうだが、おまえを野放しにするよりはマシか。今なら俺が通ってきた道があるから、おまえも帰ることは出来るだろう。だが――」

 

「無論、二度と夢は使わんよ。大義を為すのは現実の意志。ならばこそ、俺もまた先達(おまえ)に倣い、俺の求道を俺自身の力で果たしてみせよう。おまえの語る勇気を、おまえがそれを為す道程を、この目で確と見届けたい。ただ――」

 

そこでいったん言葉を切る。俺の言葉に、柊四四八のみならずアラヤまでもが耳を傾けているのを確認しながら、俺は続きを語った。

 

「アラヤよ。俺のもともといた世界とこの世界を繋ぐ道を、一週間の後再び開け。俺が帰るのは、その時だ。まだ、この世界で為さねばならんことが残っているゆえな」

 

若人を導く先達として、俺がやれることが残っている。

 

ならば、その務めは果たさなければならないだろう。子を導き、慈しむことこそが大人の本懐というものなのだから。

 

そんな俺の言葉に、もう一人の盧生はしばし逡巡した様子だったが、やがて小さく息を吐き口を開いた。

 

「……信じていいんだな?」

 

「誓って。俺は再び、アラヤとの接続を解除する。約束は違えんよ」

 

「ならばやってこい。ただし、もしおまえが約定を破ったならば、即座にアラヤから俺に連絡を入れさせろ。そうなった場合、俺はおまえを連れて帰るわけにも、まして野放しにするわけにもいかない。アラヤに伝えておけ」

 

その言葉を最後に、とうとう柊四四八の存在が薄れてゆく。

 

まるで泡沫の夢の如く、俺が焦がれた英雄は元の世界へと帰っていった。

 

「ではそういうことだアラヤよ。俺もまた、俺の為せることを為しに戻るとしよう。ゆえ、さらばだ」

 

その言葉を最後に、俺はアラヤとの接続を完全に解除した。

 

夢を捨て、只人として意識が現実へと帰ってゆく。

 

ここに、長く険しい魔王の試練はついに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




なんと、カッスが平和的解決()

本編途中のカッスならともかく、万歳後のカッスならよっしーに咎められたら流石に恥を感じて止めると思います(なお、結局は時と場合による模様)

ここからは再び現実のガルパン世界で、カッスの出番は減ると思います。

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