戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

15 / 20
お久しぶりです。リアルが忙しく全然書けませんでしたが、一通り落ち着いてきたので気ままに書いていきます。




プラウダ高校
один ”雨宿り”


 「……はぁ」

 

ため息とともに商店街を歩いているこの少女は、プラウダ高校戦車道チームのカチューシャである。

 

普段の彼女を知る人間が見れば、一目で明らかにただ事ではないと分かる。それほど今のカチューシャは気落ちしていた。

 

その切欠は、先日行われた第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦だ。

 

あの試合。他の誰でもない自分自身の指示で試合は終わった。

 

カチューシャが描いた絵図の通りに進んだ試合は、しかし最後の最後で誰もが予想だにしていなかった結末を以て終結した。

 

――黒森峰フラッグ車車長による、車輌及び指揮の放棄。

 

足場の悪いポイントに黒森峰を追い込み撃破するという作戦が齎したのは、足場を失った一輌が川へと転落するという非常事態。彼女らを救うべく、フラッグ車車長であり副隊長でもあった西住みほという一年生は川へと飛び込んでいった。

 

その様子を、無論のこと自分(カチューシャ)は見ていた。敵フラッグ車を撃破する大役を担っていた分隊の指揮を任されたのは、他でもない自分だったからだ。

 

「分隊長!ど、どうすれば……?」

 

目の前には無防備を曝す大将首がある。

 

――君なら必ず出来る。頼んだぞ、カチューシャ。

 

自分の役目はそれを獲ることで。

 

自分たちの悲願がかなうと、そう思ったから。

 

「――撃ちなさい」

 

困惑している仲間たちに、そう告げていた。

 

……そうして、プラウダは勝った。

 

前評判を覆し、あの黒森峰に――あの西住流に、勝ったのだ。

 

……と、ここまでは痛快なサクセスストーリーだった。

 

だが、話はめでたしめでたしでは終わらない。いつだって人間は無責任で、残酷な生き物なのだ。

 

全国大会も終わり、新チームとしての活動が始まった。

 

隊長の座を引き継いだカチューシャは、無論のこと気の緩みなど一切なく厳しい訓練を行っていた。

 

そしこれは、新チーム結成から間もない、ある日の昼休みの出来事である。

 

珍しく昼寝をする気分ではなかったカチューシャは、校舎内の自動販売機に飲み物を買いに行っていた。

 

普段ならば幼馴染であり、また新チームの副隊長でもあるノンナに買いに行かせていただろうが、その日に限って彼女は少し体調を崩し欠席していた。

 

「――しかし、ほんとムカつくわね」

 

「ほんとほんと。……でも」

 

「……?」

 

自動販売機の前で、二人の女子生徒が携帯電話の画面を見ながら何やら話している。何の話かは当然分からないが、とりあえず当初の目的を果たそうと、カチューシャが歩き出したその時。

 

「――”プラウダの優勝はまぐれ”。”戦車道の理念に背く卑怯者”。”殺人未遂”。……好き勝手言いやがって」

 

「……でも、私は正直、それも一概に間違いだとは言えないと思うの。なんの躊躇いもなく、無防備な相手を撃ったんでしょ?」

 

「……ッ!?」

 

聞こえてきた会話の内容に、反射的に足が止まってしまった。

 

それはまさしく、自分に深く関わる内容だったから。

 

そしてその内容が、予想だにしないほど悪意に満ちたものだったから。

 

だが、言われっぱなしではいられない。とにもかくにもまずあの二人のくだらない話を止めさせようと、カチューシャは再び顔を上げて――

 

「――前の隊長さん(・・・・・・)だっけ?戸惑う分隊長さんに命令して撃たせたって言ってたらしいし。そうまでして、勝ちたかったのかな」

 

「……は?」

 

慮外の言葉に、今度こそカチューシャの全てが停止した。

 

頭が真っ白になり、そして次瞬、カチューシャは逃げるようにその場を後にしていた。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

走って、走って、たどり着いたのは三年の教室。そこにいるであろう目当ての人物を探せば――いた。

 

窓際の席で、静かに本を読んでいる長身の女性。

 

「隊長!」

 

息も絶え絶えに駆け寄り、開口一番そう叫んでいた。

 

周りの生徒たちが何事かと騒ぎ立てる中、話しかけられた当人――前隊長は呼んでいた本を静かに閉じた。

 

「落ち着け、カチューシャ。……今の隊長は君だろう?」

 

「そんなことを言ってる場合じゃ――」

 

ない、と言おうとした口が、前隊長の指で物理的に閉じられる。

 

「……屋上においで。そこで話を聞くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 「新チームはどうだい?うまくいってるかな?」

 

フェンスに背中を預けながら、隊長は変わらない様子でそう聞いてきた。

 

その様子が、本当に変わらない様子(・・・・・・・)だったから。

 

「――隊長。どうしてよ」

 

それが、気に食わなかった。

 

「どうして、黙っていたのよ」

 

自分たち(プラウダ)に心無いバッシングが寄せられていたことも。

 

「どうして、一人で背負い込んだのよ」

 

その対象が自分になるように、あえて嘘のコメントを残したことも。

 

「どうして、何も教えてくれなかったのよ……ッ」

 

そしてそれら全てひっくるめたことを、新しい隊長である自分に一切伝わらないように情報を遮断したことも。

 

全部全部、気に食わない。

 

「カチューシャ。私は――」

 

「うるさいうるさい!もう、知らない!」

 

尋ねようと思っていたことも、伝えようとした想いも何もかも、もはや彼方へと消え去っていた。

 

ぐちゃぐちゃの思考に衝き動かされるように、カチューシャは屋上を後にしていた。

 

 ――そして、時間は再び現在に戻る。

 

休日ということもあり、本来ならば戦車道の訓練をしているはずの時間だったが、今はそんな気分ではなかった。

 

だから体調を崩したと嘘を言って、今日は休んだ。

 

ノンナが心配して看病すると言ってきたが、当然断った。

 

今は、一人になりたかった。

 

「人殺し、ね……」

 

あのあと自分でも決勝戦についての情報を集めてみたが、とても見ていられない内容だった。

 

敗北の原因となってしまった黒森峰副隊長への、異常なバッシング。

 

そして、勝者である自分たちへのバッシング。

 

どちらも胸糞悪かったが、やはり気に食わないのは自分たち――いや、前隊長に向けられた中傷の数々だった。

 

「……」

 

自分へのものならばよかった。馬鹿なことを、と一笑に付していただろう。

 

だが、その矛先は自分ではない。

 

それが、何より腹が立って仕方がない。

 

(……ああ、もう!考えれば考えるだけイライラしてくるわね)

 

寮でじっとしているのも暇だし、何よりマイナスなことばかり考えて気が滅入ってしまう。だからこうして、なんとなく商店街をぶらついていたのだが――

 

「雨が降るとか、聞いてないわよ」

 

急に空模様が悪くなって、こうして雨宿りする羽目になってしまった。

 

通り雨だろうか、かなり強い雨足のせいで、軒下に入っていても跳ね返りで濡れてしまう。

 

「……?」

 

ふと、自分が逃げ込んだ建物からいい匂いが漂っていることに気付いた。

 

振り返って見てみればどうやら喫茶店のようだ。

 

(止む気配もないし、仕方ないわね)

 

 

 

 

 

 

 

 店内は中途半端な時間帯ということもあって、それほど混雑はしていなかった。カウンターに座ってロシアンティーを嗜んでいる若い男性が一人と、奥のテーブル席で談笑している、多分ウチの高校の女子生徒が三人。

 

なんとなく少し緊張しながら、カウンター席――男性と三つ間を開けて座った。

 

ふと男性のほうを見れば、スプーンでジャムを掬って紅茶に入れようとしているではないか。

 

「……それ、間違ってるわよ」

 

思わずそう声をかけていた。見ず知らずの人間にいきなり言うことではなかったかもしれないと、口を開いた後に少し後悔した。

 

「む?そうなのか」

 

しかし、男性のほうはさして気にした様子もなく、逆に何が間違っているのかと問うてきた。

 

「……それじゃ紅茶が冷めちゃうでしょ。ジャムは紅茶に入れるのではなくて、直接舐めなさい」

 

「なるほど、本場の作法というわけか。ご教授感謝する」

 

そして男性は、今度は正しい作法で紅茶を飲み始めた。カチューシャの前にも男性と同じロシアンティーが運ばれてきて、少しばかりの優越感を味わいながらそれを口に含む。

 

「――そういえば、ウチの戦車道の話聞いた?」

 

「――!」

 

静かな店内に響いていた女子生徒の会話。なんでもない世間話や愚痴だったそれに、突如としてそんな話題が上ってきた。

 

雨は未だ止まず、紅茶もまだ残っている。

 

外に出ようにも出られず、その会話に聞き耳を立ててしまった。

 

「聞いた聞いた。有り得ないよねぇ、人を殺してまで勝とうとするとかヤバくない?」

 

「しかも、嫌がる下級生を脅して無防備な相手を撃たせたんだって。最悪じゃない?」

 

…………。

 

下卑た笑いと会話に、カチューシャの中で何かが切れた。

 

我慢の限界だった。

 

身勝手な奴らに物申してやろうと席を立ちあがり――

 

「おい、喧しいぞ。下らん話ならば外でやれよ」

 

――それよりも早く放たれた男性の言葉が、不快な囀りを止めていた。

 

「な、なによオッサン。私らが何喋ってようと勝手じゃない」

 

「そうよ。それに実際事実なんだから、別にいいでしょ」

 

「ふむ……。では、彼女の前でもう一度同じ言葉を吐いてみるがいい」

 

そういって男性は、カチューシャの方を目線で指し示した。

 

驚愕するカチューシャを尻目に、男性はなおも言葉を紡いでゆく。

 

「彼女はプラウダの戦車道チームのメンバーだ。それも、次期隊長と目される有力選手。……さあ、何を喋ろうと勝手だぞ(・・・・・・・・・・)?」

 

その言葉に、女子生徒たちは酷く狼狽していた。

 

好き勝手言っていたら、まさか話題の張本人と呼ぶべき人間が目の前に現れたのだ。

 

プラウダ高校の生徒であった彼女らは、当然カチューシャのことも知っていた。

 

「な……あ、ええと……」

 

「どうした。事実(・・)なのだろう?ならば思う存分おまえたちの言葉を彼女にぶつけてみろよ」

 

「……い、意味分かんない!もう帰ろ!」

 

お代を叩き付けるようにテーブルに置いて、女子生徒たちは去っていった。

 

カランカランと、乱暴な開閉に怒るようにドアベルが鳴った。

 

「……」

 

その様子を、男性は何故かとても悲しそうな表情で見つめていた。

 

「ねえ」

 

そんな彼のことが、気になったから。

 

「貴方、名前は?」

 

カチューシャは男性にそう問うていた。

 

「甘粕正彦。ただの旅行者だよ」

 

男性――甘粕正彦はそう答え、再びカウンターに腰を下ろす。その表情には影があり、そしてまた同時にどこまでも真摯にカチューシャを見つめていた。

 

「……隣、いいかしら」

 

「喜んで」

 

雨は、未だ止まない。

 

 

 




本作での設定
・62回大会時点、二年生のカチューシャは隊長ではないが、作戦立案はカチューシャ
・プラウダもバッシングを食らっている

ガルパン世界のあの感じだと、プラウダの方にも変な批判いっててもおかしくなさそうな気がして書いたお話です。

カッス……ロシア……うっ頭が……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。