戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

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ミカのキャラはやっぱ掴みどころがねえなあ→……ちょっとくらい独自設定入れても、かまへんか→せや!ついでに某説も取り入れたらええ感じになるやんけ!→やっちゃったぜ(白目)

これまでは割と自重していたカッスが、今回は……?


継続高校
Yksi ”逃避”


 ”勝利”とは、何だ?

 

 ”栄光”とは、何だ?

 

それを得れば、人は本当に幸せになれるのだろうか。

 

私はそれを――それのみを切実に問うてきた。

 

無論、そんな漠然とした問いに答えが返ってきたことなど一度もない。そして当然、私の中でも答えは出ない。

 

ただ、それでも――いいや、だからこそと言うべきか。

 

私はその疑念を拭い去ることが出来ないし、したくないのだ。

 

勝利とはとても恐ろしいものだ。人を惹きつけてやまない輝きの内に猛毒の牙を秘めている。

 

金、栄誉、社会的地位――そういったものはどうしても過剰摂取してしまった途端、逆に所有者を苦しめにかかる。

 

いわゆる反作用というやつだね。

 

敗者からの妬みつらみや有名税、人物像の一人歩きにあらぬ期待や噂話。

 

悪意と、そして何より純粋な善意ゆえにそれは激痛となって勝者を襲う。

 

勿論、では勝利してはいけないと言っているわけじゃない。そんなことを真剣に言っている人は心底馬鹿だと思う。

 

人ならば誰しも例外なく勝利という結果を目指す。それは自然で、当たり前の行動原理。

 

そうすれば間違いなく何かを手に入れることが出来るし、その人の現状も改善されるから。

 

そう。勝てば、幸せになれる。

 

――本当に?

 

そうして、思考は再び回帰する。

 

私はずっとずっと、繰り返している。

 

出口の見えない森の中を、彷徨い続けている。

 

――それはひょっとしたら……いいや、やめよう。

 

せめて心の中でくらいは、煙に巻くのはなしだ。

 

それは……逃避。

 

疲れ果てて、(やつ)れ果てて、擦り切れて、その果てにただ自由に、気ままに――風のように生きることを選んだ。

 

逃れられない勝利の呪いから少しでも、ほんの少しでも遠くへ。

 

それが不可能である(・・・・・・・・・)ことを心のどこかで自覚しながら、それでもあの終わりのない地獄から脱け出したかった。

 

 ”勝利”からは逃げられない。

 

いつかは分からない、しかし確実に訪れる恐ろしい瞬間――何か小さな切欠で全てが終わるその時まで、私は幻想という竪琴(カンテレ)を奏でるのだ。

 

――そして、ああ……。

 

「……年貢の納め時、なのかな」

 

毎度の如くプラウダの学園艦に忍び込んだ……というと語弊があるかな。今は普通に寄港中だから、大手を振って観光客として入れたわけだしね。

 

目的は……まあ、これも毎度おなじみの救出作戦(・・・・)

 

広いこの学校で日の目を見ることのない色々なもの(・・・・・)をちょっと借りに来て、そうしたら丁度紅白戦をやっていたから、気になってこっそり覗いていたら――

 

「――見たいのならば堂々と見たらどうだ?」

 

――どうして、気づかれたのだろう。

 

私よりも先に、たった一人観客席で心底楽しそうに試合を観戦していた長身の男性。

 

一度たりとも試合から目を離していなかったのに、どうして?

 

本音を言えば逃げ出したかった。

 

だって、試合を見ていれば嫌でも目に入った。そしてなんとなく分かった。

 

彼は――化物だ。

 

私のような只人とは何もかも違う、絶対に分かり合えない傑物(狂人)だ。

 

そんな人と向き合えば、その熱によって私は灼かれてしまう。

 

だから逃げようとして、けれど彼の言葉に、どうしてか後ろへと進む足は竦んでしまって――そして、気づけば彼の前に歩み出てしまっていた。

 

まるで少年のように目を輝かせながら自らの名を名乗った彼が、私に名を問うてきた。

 

その様子が、忘れたくても忘れられない過去の傷を抉る。

 

期待――彼は私に期待しているのだ。

 

あの素晴らしい戦いを見たかよ、何も思わないはずがないだろうどう思う――と。

 

――よくやったわ。それでこそ■■■の後継よ。

 

……………………。

 

――■■、すごい!私も■■に負けないよう頑張る!

 

………………。

 

――うちの馬鹿娘が申し訳ありません、■■■■!ほらアンタも頭下げて!今度あんな下らない真似をしたらただじゃおかないわよ!!

 

「…………ッ」

 

フラッシュバックする光景を必死で抑えつける。

 

そうだ。私はミカ。

 

もう■■■も、■■■も、■■■も何も関係ない自由な旅人。

 

だから、大丈夫。

 

大丈夫だ。止まない嵐などこの世にない。

 

「……名前はない。みんなからはミカって呼ばれてるよ」

 

気を抜けば声が震える。直視すれば足が震える。

 

だから目をそらして、カンテレを奏でよう。

 

いつものように飄々と。

 

一陣の風が吹く。

 

それに曝されて、帽子が飛ばされそうになった。

 

慌てて演奏を止めて、改めて深く被りなおす。

 

よかった、と安堵の息が漏れた。

 

そんな私を、彼は真っ直ぐ見つめている。

 

その目がとても恐ろしくて、私は深くかぶった帽子の中に目線を隠した。

 

「……さて、この場にいるのだ。どこかの高校の戦車道関係者と俺は見ているのだが……おまえは先の試合をどう見た?率直な感想をぜひとも聞かせてくれ」

 

「……その問いに答えることに、意味があるとは思えないな」

 

視線を彼から外して、遠くを眺めながらカンテレを弾く。

 

私はミカ。名無しの旅人。

 

もう何にも縛られない、自由の身なんだ。

 

「意味、か」

 

だから適当にはぐらかしたのだが、そうしたら彼――甘粕正彦は大真面目な様子でそう返してきた。

 

そう――意味なんてない。

 

私が真面目に答える義理なんてない。

 

誰かの期待とか、そんなものに馬鹿正直に向き合っても痛いだけ。

 

だってそんなことをしても、状況は悪化する一方だったから。

 

爪弾いたカンテレの音が、その通りだと言ってくれた気がした。

 

「嘘偽りない本音を語ることに、いったいどうして恥じる必要がある。ましてそれを恐れ、隠すこと――俺に言わせれば、そちらのほうが意味がないと思うがな」

 

「……初対面の人間相手への言葉とは思えないね」

 

思わず少し語気を強める。けれど彼はまるで動じた様子がない。

 

「不躾だったかな。これは失敬。だが、これは紛れもなく世の真理だ。社会とは己と他者で出来ている。ならばその中で己が存在を確立せねばならんだろう。己はここにいると、腹の底から叫ばねばならん」

 

彼が語るのはどこまでも暴論で、そして同時にこの上ない正論だった。

 

そして気づいた。彼が見ているのはもっと深い部分。

 

試合の感想を聞きたいと言ったのも、所詮はそのための助走のようなもの。

 

「俺の問いに答えるか否かも、本質的にはそこに帰結する。彼女らの勇姿に思うところがあるのだろう?まさか、何も感じぬとつまらん嘘はつくまい。初対面の人間相手ゆえの緊張?そこまでする義理はない?ああ、確かにその通りだよ。だが、そんな言葉を並べ立てて俺を煙に巻いても、他ならぬおまえ自身からは逃げられんぞ?」

 

曇りのない正論が容赦なく突き刺さる。

 

彼の理屈は滅茶苦茶だ。大多数の人間は今の私たちを見れば、まず間違いなく私の側に立つだろう。

 

初対面の人間相手にいきなり迫ってきたかと思ったら、心の内を曝け出せだって?

 

常識的に考えて礼儀の欠片もない。いつもの私ならさっさとごまかすか、あるいははっきりと拒絶の意志を述べていただろう。

 

だけど、初めて見る規格外に私は身動きがとれない。

 

彼はきっと、正しいことを、正しいときに、迷うことなく実行できる人。

 

そしてそれだけにはとどまらず、人間ならば誰でも必ず出来ると心底信じているのだ。

 

胸を張れ。前を向け。大志を抱け。諦めなければ、夢は叶う。

 

さあ人々よ、煌めく栄光を目指し羽ばたくのだ。

 

――ああ、なんて眩しい。

 

なんて、恐ろしい。

 

だから反論したくて。

 

でも、それがとても怖かったから出来なくて。

 

「――逃避や欺瞞は結構だが、それのみを繰り返していては余りに進歩がなさすぎる。必ずどこかで、戦わねばならない時と場所がある。……おまえは、その時になっても逃げるのか?」

 

「――ッ!!」

 

胸を抉る正しい(いたい)言葉に、弾かれるかのごとく私はその場から逃げ出していた。

 

走る。走る。一刻も早く、優しいあの場所へ帰りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

足早に去ってゆく少女の背中を見つめながら、甘粕は珍しく黙り込んでいた。

 

彼女(・・)のことは少々聞いたことがある。当然、その内心に秘めているであろう傷についても同様に。

 

だが、他者の観点から聞き及んだ内容と実際に会って確かめた内容では、当然差異が生まれてくる。

 

ゆえにこの場で彼女に出会ったことは甘粕にすれば僥倖で、そして探りを入れた結果見えたのは、決してそう珍しいものでもない全容だった。

 

逃避。それは甘粕が嫌う人間の弱さであり、言ってしまえば彼女を構成している大部分はそれに見えた。

 

そして決して遠くない未来、押し寄せる現実に彼女の世界が破綻するときがやってくる。

 

その時、彼女はどうするだろうか。

 

逃げるか、諦めるか、それとも迷い続けるか――今の状態が続くならば、待ち受ける結末は悲惨なものになるだろう。

 

ではどうする?おまえは間違っているぞ情けないと、彼女を再び正道(・・)へと引き戻すか?

 

逃れられぬ宿命を突きつけて、立ち直らねば終わるのみだと尻を蹴り上げるか?

 

――魔王ならばそうするだろう。だが、今の俺はそうではない。

 

「おまえならばどうする。柊四四八――」

 

少なくともあの男ならば、そんな真似だけは絶対にしない。

 

そして無論、破滅に近づきつつある少女を黙ってみていられるほど俺は無責任な人間ではない。

 

そして、何よりも。

 

「その宿命を乗り越えた先にある輝きを、俺は見てみたい」

 

甘粕正彦は人間を愛している。だが、彼が掲げた人類愛はもう一人の英雄によって打ち砕かれた。

 

その理想を信じてみたいと思った。

 

ならば、先に述べた彼女の人物像も、それが全てなどとどうして言い切れるだろうか。

 

いいやむしろ、安易な逃避を選んだと仮定するならば、彼女の行動には疑問符がつく。

 

それはすなわち、彼女自身も気づいていない輝きが眠っているということで――

 

「それを呼び覚ます。ああ、こうして悪役になるのも久々だな」

 

上手くいく保証などどこにも存在しないが、気になったならばつい手を出してしまうのがこの男の拭い難い悪癖である。

 

ゆえに、彼は動き出す。

 

そして――――

 

「久方ぶりだな。ここがおまえの選んだ死に場所(・・・・)か?」

 

外洋を航行していた継続高校の学園艦。

 

訓練を終えて整備倉庫に向かっていたBT-42の前に現れた甘粕は、車内から顔を覗かせた途端小さな声を上げて固まったミカに、そんな爆弾を投下していた。

 

 

 

 




こんなのミカじゃねえ!という方、申し訳ありません。

でも魔王スイッチが入りかけたカッスを目の前にして平然といられる人間って、摩とかセージとかの頭おかしい人種くらいだと思うの。

それにしても、初対面の女子高生にこの男は一体何を言っているのだろうか。




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