戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

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とりあえず今の黒森峰の話が終わるまでは頑張って書きます。
それにしても、数多くのコメントに評価、お気に入り登録に驚いております。
応援ありがとうございます。拙い作品ではありますが、これからも精進してまいります。


~これまでのあらすじ~
カッス「やっちゃったぜ(テヘペロ)」


第3話 「仁義八行」

 「ふざけやがって――!」

 

逸見エリカは憤慨していた。ああまったく、冗談ではない。なぜこんな馬鹿げた真似をしなければならない?

 

これは最早試合ですらない。形式上それに則っているが、その本質は処刑だ。

 

あの子を、みほを追いつめるためだけの――!

 

「……っ」

 

ぎりっ、と歯を食いしばる。固く握りっぱなしの拳からはいつの間にか血が流れ始めており、刺すような痛みが脳を灼く。

 

あの男は、一体何を考えているのだ?

 

なぜそんなにも楽しそうに笑っているのだ?

 

私たちの苦悩が、そんなにも甘美か?

 

――私は本当に、これで良いのか?

 

「……は?」

 

待て。それは違うだろう。今私がこんなにも苦しいのは、あの男への憎悪と怒りの所為のはずだろう。

 

だというのに、今私は何を考えた?

 

自己嫌悪(・・・・)だと?

 

馬鹿な。馬鹿な。私は、間違ってなどいない。

 

黒森峰のメンバーとして、私は――

 

――各々の信じる(マコト)を示すがいい。

 

「――っ!……あ、ああ――」

 

天啓を得るが如く、私は理解していた。この残酷な戦いの意味を、彼の言葉の真意を。

 

――逸見エリカ(彼女の友達)として、本当に為すべきことを。

 

そうか。そういうことだったのか。それならばこの戦いの異常なルールにも納得がいく。

 

全ては彼が私たちに与える試練だ。

 

――十対十にチームを分けたうえでの殲滅戦。

 

――それぞれの指揮官は、隊長(西住まほ)副隊長(西住みほ)で。

 

――”偶然”みほのチームに割り振られたのはあの出来事以来彼女を攻撃していた人物が大半で。

 

「――『相手方への造反も、委細構わん。各々好きにするがいい(・・・・・・・・)』」

 

公然たる裏切りの承認と推奨。それが意味するところは、つまるところ各々の信条の強さと方向性を試す試練。

 

――おまえたちは今の”彼女”が置かれている状況をどう考える?

 

根底にあるのはそんな問いだ。

 

この場においては、彼女に対するあらゆる感情が露わになる。

 

そしてそれを掲げ、互いに譲れぬからこそぶつかり合う。

 

そんな感動的な(・・・・)光景をこそ、あの男は望んでいるのだ。

 

「……なによ、それ」

 

馬鹿げている。それでもし、最悪の結果になった場合どうするつもりなのだ。

 

例えば、例えば、例えば――

 

「――駄目」

 

そんなものは嫌だ(・・・・・・・・)。そんな残酷な結果だけは、あの子に待っていてはいけないんだ。

 

だってそうだろう。そんなものは間違っている。

 

客観的に考えれば、悪いのはあの子だとしても。

 

あの子が背負っていたモノが、想像を絶する重さだったとしても。

 

じゃああの子が全部悪いなんて、押し付けることが正しいというのか?

 

そんな重荷を、責任を、たった一人の子に全て被せて、攻撃する。

 

「――そんなの、駄目に決まっているでしょうがぁっ!」

 

そんなことが、正しいわけがないだろう!

 

人を思いやり、慈しむこと。

 

人道に従い、そして正道を進むこと。

 

人とは、そうあるべきではないか。貫き通さなければならない仁義が、あるはずではないか。

 

ならば、私の正道とは――

 

「私は、あんたの味方よ、みほ――!」

 

気付けば、そう叫んでいた。泣きそうな声で、いや、実際に私は泣いていた。

 

だってこんな一大決心、今までしたこともなかったから。

 

だけど、だからこそ私は叫ぶのだ。同じチームのみんなが驚いた様子でこちらを見ている。

 

ああ、あんたたちもそうなんでしょう?口には出さなくても、心の中では迷ってたんでしょう?

 

私たちはみほと仲が良かったもんね。

 

「だから――」

 

その気持ちだけは、裏切っちゃいけないと思うんだ。

 

この場にいる他の十九両全員に通信を繋ぐ。私の思いを、覚悟を、見せつけてやるんだ。

 

()そっちに行くから(・・・・・・・・)!それまでやられるんじゃないわよ!」

 

高らかにそう宣言する。言葉通り、それは真っ向からの反逆の宣言。例え全てが台無しになったとしても、私は友達のそばにいると、そう決めたのだ。

 

「……いやあ、格好良かったよエリカちゃん!」

 

チームのみんながそう言ってくれた。私の行動は客観的に見れば非難されてしかるべきものだというのにだ。

 

「うん。あたしも決めた。みんなでみほちゃんを助けよう!」

 

「そーだね。ウチらの友情パワー見せてやりましょ!」

 

ああ、そうだ。呆れるくらい簡単なことじゃないか。

 

勝手に問題を複雑化して、勝手にそれに囚われて。

 

なんたる無様。なんたる醜態。

 

けれど、だからこそ。迷って、悩んで、その果てに選んだこの決断に嘘はない。

 

「これより私たちは白組に与する。自分たちの気持ちを裏切らないために。あの子の友達として、精一杯務めを果たすために!」

 

言葉と並行して、みほにメールで連絡する。ともかく、互いの位置を確認しないことには戦えない。

 

「不安はある。恐怖もある。でも、それが一体なによ!あの子が味わったものに比べれば、そんなものは芥でしかない!」

 

――メールの返事が来た。簡潔に自分の車両の位置を記したそれ。その最期の一文に、私は刹那、忘我した。

 

だがそれも一瞬。今は己が為すべきことを為す。

 

操縦手の子に簡潔に合流地点を伝えると、その子は了承の返事のあと、じっと私を見つめてきた。

 

他のみんなも、己の仕事をやりながら、それでも私を見つめている。

 

なるほど、確かに。確かにそれが私の仕事だったわね。

 

「さあ、行くわよ!戦車前進(パンツァー・フォー)ッ!」

 

待っていなさい、みほ。

 

今、行くから。

 

 

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From みほ

 

本文 ――私たちはここにいます。ありがとう。

 

 

両チーム車両

 

 紅組:十八両

 白組:二両。

 

 

 

 「――エリカさん」

 

逸見エリカの喝破は、この場の全車両に伝えられていた。

 

チームを裏切るという宣言。それをわざわざ全車両に伝えた行為。

 

何のことは無い。逸見エリカは、己の(マコト)をさらけ出したのだ。どんな苦境でも、友達を見捨てない。

 

ずっとずっと、支えていくんだと。

 

「――」

 

思い返す。

 

あの時。私たちが川に転落した時を。

 

「ねえ、小梅ちゃん」

 

操縦手の平野さんが、声をかけてきた。

 

「あの時……今でも忘れない。怖かったよね」

 

「……うん」

 

平野さんも、あの時私と一緒に川へ落ちた。この車両(III号)に乗っているのは、全員あの時と変わらないメンバーだ。

 

「冷たくて、どこにも逃げられなくて。私、このまま死んじゃうのかなって思った。思って、泣いてたよね」

 

水圧で開かない扉。急速に浸水していく車内。絶望と恐怖に、私たちの誰もが震えていた。

 

「……そんな時、副隊長は来てくれた」

 

そんな時、扉が開いた。

 

手を、伸ばしてくれた。

 

「嬉しかった。嬉しかった。助けに来てくれた、って」

 

そうだ。あの時私たちは、紛れもなく副隊長に救われたのだ。

 

「――だから、お礼を言おうと」

 

そう、思っていたのに。

 

見てしまった。責められ、嘲笑われ、軽蔑される副隊長の姿を。

 

違う、違う。副隊長は悪いことなんてしていない、間違ったことなんてしていない――!

 

――そうはっきりと言えたならば、少しは状況も変わっていたのだろうか。

 

「ありがとうございます、って。それすら言えなかった」

 

怖かったから。私たちまでもがあんな残酷な仕打ちを受けるんじゃないかって。

 

「馬鹿だよね、私たち」

 

自分のことしか考えていない。何と傲慢で狭量で小さな人間だろうか。

 

こんな簡単なことすら、伝える勇気もない。

 

「だけど、それじゃ駄目なんだ」

 

だから、私も。

 

自分の心に嘘はつかない。ありがとうエリカさん。ありがとうみほさん。私も、やっと、前に進む勇気が出たよ。

 

「――」

 

だから、これが一世一代の大仕事。

 

さあ、気合をいれろ赤星小梅。

 

「あ――」

 

ふと、手に暖かい感触があった。目をやれば、平野さんが……ううん、III号のメンバー全員が、私の手に自分の手を重ねている。

 

「頑張って」

 

「勇気を出して」

 

「私たちも一緒だよ」

 

そんな、優しい言葉をかけてくれて。

 

「――みなさん」

 

もう何も怖くない。だって私には、こんなにも素敵な友達がいるのだから。

 

だから、私は言葉を紡ぐのだ。

 

おそらくは、私たち(黒森峰)の根幹に関わる言葉を。

 

「勝つこととは、そんなにも重要なことなのですか」

 

「誰かの人生を、思いを、覚悟を勇気を決断を。邪魔だからと、間違っているからと、切り捨てて前に進むのがそんなにも大切ですか」

 

「ならば私は――そんなものはいりません」

 

気を抜けば、声が震えそうになる。

 

本当は怖くて、怖くて、逃げ出したいけれど。

 

「私は怖がりで、臆病者だけど」

 

自分一人では何も出来ない、弱い人間でしかないけれど。

 

「みなさんのような、卑怯者では断じてありませんっ!!」

 

仲間を見捨て、切り捨て、挙句の果てに延々と責め続けるような。そんな人間では決してない!

 

「自分のことは棚上げで、全部全部一人に背負わせて。それでその子が潰れたら喜々として苛め抜く。なんですかそれ、最低じゃないですか!あなたたちには、自分というものがどこにもない!」

 

「私は違う!私は、自分の心に嘘はつかない!あの時私は、副隊長に救われたんです!私はそれが嬉しいし、だからこそ今こうやって話せることに感謝しているんです!」

 

死んでしまうかもしれなかった。挙句、自分の死を”仕方がなかった””残念だ”などという言葉で飾られ、勝利のための生贄とされるかもしれなかった。

 

そんな闇の中から私を引っ張り上げてくれたのは、紛れもなく副隊長なのだ。

 

「だからこそ、今度は私が副隊長を助けたい!だって私たちは、友達だからッッ!!」

 

知らず、私は泣いていた。ありがとう、ありがとう。私が頑張れるのは、大切な友達がいるからです。

 

本当にありがとう。

 

「これより私たちも、白組に……ううん、西住みほさんに味方します!」

 

『貴様ぁっ!』

 

激昂した先輩の車両のうち1台が、こちらに砲塔を向ける。だが、恐怖などない。

 

「自分は裏切ったのに、いざ自分が裏切られるとその様ですか」

 

なんて醜い。こうはなりたくないものだと、そう思った。

 

「小物ですね。度量がしれますよ先輩!」

 

『黙れぇ!!』

 

放たれた砲弾を、しかし私たちは土壇場で回避する。平野さん、ありがとう。

 

「だから、どうかお願いします!私と一緒に、みほさんを助けてください!」

 

瞬間、轟音とともに先ほど砲撃してきた先輩の車両が撃破される。

 

「……」

 

この場にいたのは私たちを含めて六両。そのうちの四両が、一斉に先輩の車両に向けて砲撃を行ったのだ。

 

「……一年にここまで言わせたんだ。私ら二年が黙っているわけにはいかんだろ?」

 

「正直、三年のアレには大分ムカついてたしね。って、まあ後から言い出すとかかなりダサいけどさ」

 

入ってくる通信は、どれもこれも優しいものだ。この場にいない三両からの通信もあった。

 

みんな、私について来てくれる。

 

ねえ、みほさん。

 

みんなみんな、私たちを助けてくれるよ。

 

こんなにも、味方がいるよ。

 

「だから、一緒に戦おう赤星。後輩を守るのが先輩の役目ってもんよ!」

 

「そうそう。だから、ドーンと構えなさい!恰好よかったわよ?」

 

近づいてきた先輩方の言葉に、今度こそ涙が止まらなかった。

 

「小梅ちゃん!みほさんから連絡だよ!」

 

通信手の桜井さんから、合流地点の連絡を受ける。

 

「了解!それじゃ皆さん、行きましょう!戦車前進(パンツァー・フォー)!」

 

「「「「「「戦車前進(パンツァー・フォー)!!」」」」」」

 

 

 

両チーム戦車数

 

 紅組:九両(一両走行不能)

 白組:十両。

 

 

 

 

 

 「く――」

 

その様子を、無論甘粕正彦は目にしていた、耳にしていた。

 

用意された椅子など、とうの昔に用済みとなっている。まるで少年のように目を輝かせ、立ち上がり、熱狂していたのだ。

 

ああ、なんと素晴らしい友情か!なんと素晴らしい勇気か!

 

「はは、はははははは――」

 

直接見えずとも分かる。彼女たちはみな、己の進むべき道を定めたのだ。あらゆる恐怖を、苦悩を経験したうえで、その果てに為された決断。

 

それが、眩しくて眩しくて仕方がない。

 

「はははははははは、はははははははははははははははははははは――――!!」

 

止まぬ豪笑は、甘粕正彦による人間賛歌。

 

「嗚呼、紛れもなく、今おまえたちは輝いている!なんと美しい勇気(ヒカリ)であろうかッ!」

 

「その輝きを、勇気を、そして光輝く人間(おまえたち)を!甘粕正彦は愛しているのだァッッ!!」

 

試練を乗り越えた人間を、魔王は決して侮蔑などしない。そんな輩は三流もいいところだろう。

 

ゆえに甘粕正彦は笑うのだ。

 

これこそ人間。これこそが勇気。これこそが覚悟。

 

であるならば――

 

「さあ、あとはおまえだな」

 

答えは既に聞いている。あれは紛れもなく夢ではあるが、だからといって夢と(うつつ)で主体が変わるなどありはしない。

 

「西住まほ。胡蝶の夢を見る少女よ。おまえの勇気(ヒカリ)を、どうか俺に見せてくれ」

 

全ては魔王の試練なり。

 

問われるは正道、王道、人が歩むべき理想の道程。

 

「くく、くふふふ、ふはははははははははははははははははは――――!」

 

さあ、見せてくれ。俺はそれに見惚れたい、魅せられたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カッスがしたことは大体エリカの言っている通りです。決勝の舞台にいた二十両による、十対十の殲滅戦。加えて、裏切りの推奨となる「好きにやれ」という文言付き。
真っ先に裏切ったのはみほ側(白組)の三年を中心としたみほを攻撃していた人物。チーム分けはカッスがわざとそうしています。
それにしてもこの男、最悪の結果は考えないのだろうか……考えないんだろうなあ。多分松〇修造的なノリで出来ると思っているからこその無茶苦茶です。

ちなみに、今回主役となった二人の内面描写や言動は筆者の完全な妄想の上に成り立っております。ただ、エリカにも小梅、とくに小梅にはその言動のベースとなるキャラを設定して書いてみました。

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