召喚されて魔王の影武者になる話   作:生カス

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前回のあらすじ:ハゲ


11話 召喚されたし激流に身を任せる

「……え、なにこれは?」

 

 外の喧騒に目を覚まされて、なんだクソがと思いながら外を覗いてみる。覗かなきゃよかった。なんだクソが。

 とりあえず見た感じだけで分かるのは、ヨシカゲが勇者どもに囲まれているってこと。姉ちゃんとロックのアホもだ。

 

「……な、なーるほど! あれはアレだ、夢だな!」

 

 昨日ちょっと緊張して寝不足だったしな。ヨシカゲがおっかないこと言うからこんな夢見るんだ。大体上手くいきそうだって言ってたのに、いきなり勇者に襲われるなんてことあるわけないだろ、うん。

 

「あーあ、全く嫌な夢だなー。さ、寝よ寝よ。おやすみー」

 

『倒せ! 倒すのだ勇者! 倒さねばならん!』

 

「ヒッヒィイウッ!?」

 

 いきなりオッサンの怒声が聞こえて、思わずよくわからない声をあげてしまった。その拍子に床に落ちてしまう。痛い、てことは夢じゃない。

 うん知ってた。現実なんだよね、現実です……! これが現実……! 二度寝したらいい感じになあなあでまとまって終わるとかはない。

 

「ど、どうしよう……助け、いや無理だ」

 

 持ってる武器なんで護身用の短剣くらいだし、戦闘力がウンコの私が出たところで、何にもならないことは明白だ。

 

「えーとえーと……な、なんかあげれば許してくれるかな」

 

 何かないかと思いながらポケットの中をまさぐってみる。あ、カーテン挟むやつがあったぞ! よしこれで……無理だろ。ぶっ殺すぞ。

 

「なんだチクショウ! 他には!?」

 

 ええと他に出てきたものは……すしに入ってる草みたいなやつ(名前知らない)、食パンの袋閉じるやつ(名前知らない)、裁縫セットの糸通すやつ(名前知らない)、耳かきのふわふわしたやつ(名前知らない)、なんかカバンのベルトの長さ調節するやつ(名前知らない)……以上!

 

「名称のわかるものが一つもねえ!」

 

 あ、無理だなこれ、無理だわ。もう打つ手なしかよ。大体なんでこんなんばっか入ってんだ。『アレだよアレ』シリーズ網羅してるじゃんか。

 とか何とか言っている間にヨシカゲたちが更に衛兵たちに囲まれている。ヤ、ヤバイ。あれはガチでヤバイッ……!

 

「やばいぞやばいぞえーとえーと……いやおちけつオチケツ」

 

『倒せっ! 倒せっ! 倒せっ!』

 

「「ふ、ふええぇぇ……」」

 

 ……ん? なんだろう、今別の怯えた声も聞こえた気がしたけど……

 涙目になりながらも、不意に聞こえた声が気になり窓から外を覗いてみると、馬車のそばに女が1人いた。あれは私たちを連れてきたメイドだ。まだいたのか……

 見てみると、涙目でその場にへたり込んでいた。さっきの怒号が恐かったらしい。ふ、ふん、軟弱物め……

 

「ッ! うぁ、ま、魔界の……」

 

 ヒ、ヒィッ……し、しまった見つかった……!

 

「ご、ごめんなさい。こんなはずではなかったんです……ど、どうかお許しください。お慈悲を、ど、どうかお慈悲を……」

 

「……って、ん?」

 

 見つかった途端処されるかと思ったが、意外や意外、メイドは私を見るなり頭を垂れて命乞いをしてきた。

 ……あれ、もしかして私、強いと思われてる? いや、もしかしてコイツが私より弱いのかな……?

 

「!」

 

 その時、私に電流走る。さっきまでの震えはもうない。……ないったらない。私は思いついてしまったのだ。ヨシカゲたちを助ける画期的でセンシティヴなアイデアが、ふふふ……自分の才能がこわい……

 

「おい、お前」

 

「ヒッ……」

 

 私は見つからないように馬車を降り、メイドのそばに立つ。

 そして、ゆっくりと短剣を取り出して、言い放った。

 

「死にたくなかったら従え」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ヨシカゲ君、これ」

 

 リリスさんは前にいる勇者たちを見たまま、隣にいる俺にあの防御魔法付きネクタイを渡してきた。スペアを持ってきてくれていたらしい。俺はそれを手に取り、とりあえずポケットの中に入れた。

 

「まあ、たいして役に立たないでしょうけどね……」

 

 俺にネクタイを渡した後、彼女は自嘲気味にそう呟く。確かに、この状況は……

 

「詰み、てやつすね」

 

 俺の気持ちを代弁してくれたのは、俺と背中合わせの位置にいるロックさんだった。詰み、もしくは絶体絶命とも言えるだろうか。今の俺たちは噛む力すらない窮鼠だ。

 整理しよう。目の前には今にも飛びかかってきそうな女勇者とその仲間たち、周りは衛兵に囲まれて退路は断たれている。イブだけは馬車の中にいて気付かれてないけど、ばれるのも時間の問題だろう。打つ手なしだ。

 

「……ク、ククク」

 

「……何が可笑しい?」

 

 あ、やべえ焦りすぎて変な笑い声出ちゃった。女勇者さんにバッチリ聞こえちゃったらしいし。なんかめっちゃ顔怖いしどうしよう?

 

「オマエの仲間の言った通り、完全に詰みだ。大人しく殺されてもらうよ」

 

「……詰み、ね……クク、本当にそうかな、勇者様よ?」

 

「なに……?」

 

 俺は何を言ってるんだろう? 『そうかな?』じゃねーよ。見まごうことなくそうなんだよ。頼むよホント。

 

「……一応聞くけど、どういうこと?」

 

 いやそんな真剣な顔して聞かれてもね? 別に何も考えてないからね?

 

「……クク」

 

 いやだから俺もそんな意味深な笑い方してもね? 何も考えてないからね?

 ……どうしよう、とりあえず内ポケットからネクタイピン出てきたんだけど、これでどうにかなりませんかね? どう思います?

 ……と、その時だ。

 

 

「おオおらぁ! ここここっち見ろ人間どもぉ!」

 

 

 後ろの方から、死ぬほど震え上がった声が聞こえてきた。少しびっくりして声の方を振り返ると、さっきのメイドさんに短剣を突き立てたイブがいた。

 

「イブ!?」

 

「まお……いや、イブっち!?」

 

 リリスさんとロックさんがそれを見て驚いている。俺だって驚いてる。まさかあんな行動に出るとは思わなんだ。

 

「ここここ、コイツを見ろぉ! コイツがどうなってもいいのかぁ!」

 

「ふえ、ふえぇぇぇ……」

 

 涙目になりながら短剣を突き立てられるメイドさんと、それ以上の涙目でガクブルしながら脅迫するイブ。これだけ見ると正直どっちが脅されてるのかわからなくなるけど、とりあえず察したことは、イブは俺たちを助けようとしてくれてるんじゃないかってことだ。

 

「! 今助ける、『フリーズ』!」

 

「へ? あれ、体が動かな……うお、ウオォォォ!?」

 

 しかしそれも束の間、勇者の仲間の1人に何やら魔法をかけられ、イブは動けなくなった。それに反応した勇者が真っ直ぐに飛びかかる。まずいッ、あのままじゃヤラれる。

 

「待てよ、アンタ死ぬぞ!」

 

「なに!?」

 

 思わず放った稚拙な言葉(でまかせ)、しかし抑止力はあったようで、その言葉を聞いた勇者はイブを切りつけるすんでのところで剣を止めて、俺を見た。

 

「ふう、危ない危ない……」

 

「……どういう意味?」

 

 ゴメン俺もわからない。なんて言ったら今度こそあそこでヒィヒィ泣いてるイブが真っ二つにされるだろう。なんかないか、なんか……

 

「……攻撃は、お勧めできないな。きっと、大変なことになるよ。君も、そのメイドも……」

 

「あの子に何したの……?」

 

「……フフフ」

 

「笑ってないで教えてよ!」

 

 いや俺が教えて欲しいわそんなん。どうしようなんもいい嘘思いつかねえ。何かあるだろ、こうなんか、いい感じの……あっ

 

「そのメイドには爆発魔法を仕掛けておいた。条件は君たち(人間)俺たち(魔の者)に攻撃すること。少しでも破ったら、ここら一体を巻き込む規模でボンッさ……」

 

 ……うん、自分で言っといてなんだけど、死ぬほど苦しいなこれ。なんだ攻撃ってあやふやすぎるだろ。ほらリリスさんも『さすがにそれはないわ』みたいな顔してるし。腹立つなあの顔。

 ダメかな? でもせめて隙くらい作れればなんとか……

 

「そ、そんな、いつの間に……!」

 

「うそ……酷い……」

 

「姑息な手を……!」

 

「卑劣な魔法だ……」

 

 ウソ信じたよ、しかも勇者パーティ―全員信じたよ、マジで? 大丈夫? 将来悪い男に騙されたりしないようにね?

 

「さ、これ以上は意味がないだろう? 通してもらうよ」

 

 そう言うと、人質の効果がよほど高かったのか、さっきとは打って変わって彼らの勢いは衰えていき、

 ……ま、まあいい。とりあえず活路は開けた。今はこの場から逃げることが最優先だ。俺は隣にいるリリスさんに小声で話しかけた。

 

「行きましょう、とりあえずイブと、あと御者にメイドさんを連れて馬車に」

 

「え、ええそうね……いいのかしらなんか」

 

「いいんですよ、なんで負い目感じてんですか」

 

「みんないい娘たちっすねえ……」

 

 確かに、こんな言い方は少しあれかもしれないけど、ただのメイドさん1人捕まえただけでここまでになるとは、よほどいい人たちなのだろう。

 そんなことを思いながら、俺たちはメイドさんを捕まえてるイブと合流し、馬車へと向かう。

 

「メイドさん、もう一度魔界まで御者を頼むよ。そのナイフで刺されたくないならね……」

 

「ヒッ……わ、わかり、ました……」

 

 怯えながら御者の席に向かう彼女に申し訳なく思いながら、俺たちは馬車に乗り、何とか無事に国から出たのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 命からがら国を脱出したあと、馬車は国境を超え、急流付近の崖の上を走っていた。

 

「う、ね、ねーぢゃん、ヨジガゲェ……」

 

 よほど恐かったのだろう。涙の痕をくっきり残した彼女は、尚べそをかきながら、俺たちに近づいてくる。

 

「すごいぜイブ、やってることはゲスの極みだったけど」

 

「頑張ったわねイブ、アナタ悪党の才能あるわよ」

 

「感動したっすよ! あんな行為を平然とできるやつそうそういないっすよ!」

 

「たまには素直に褒めるってことできねーのかお前ら!」

 

 まあ口ではこう言ってるけど、事実、今回のイブのあの動きがなければ、全員殺されてたかもしれない。前回の卵雑炊と言い、なんだかんだ助けられてばっかりだ。

 

「……冗談だよ。ありがとうな、イブ」

 

「お、おう……なんか、ヨシカゲに素直に褒められるとそれはそれで気持ち悪いな……」

 

 どうしろって言うんだコイツは。

 

「でもそれより、これから大変ね。仕方がないとはいえ、今回ので余計人間側の印象悪くなったでしょうし……」

 

 確かに、今回は条約を締結しに来たわけだけど、この騒動のせいで白紙に戻される可能性は高い。いや、そもそも姫様が独断で決めただけらしいし、元から白紙みたいなものだ。

 となると、リリスさんの言う通り、この騒動のせいで余計に魔界の印象が悪化して、最悪やっぱり襲撃なんてことも……問題は山積みだ。

 

「……それで、どうするのあの子?」

 

 そう言ってリリスさんは、前で御者をしているメイドさんを見る。そうだ、あの子も家に帰さないと。

 

「とりあえず、魔界についたらネタ晴らしして、お土産でも渡して帰ってもらおう」

 

「あ、ヨシカゲ。なんか寿司についてる草みたいなのカバンにあったんだけど、これとかどうよ?」

 

「捨てろそんなの……まあ、着いたらさっさと言って、安心してもらおう。今回のは全部嘘だって」

 

 

 

 その瞬間、ガキンッという重い音が、振動と共に上から鳴った。

 

 

 

「!?」

 

 何事かと思い上を見ると、途端にザンッという音と一緒に、何かが上から貫いてきた。これは……あの勇者の剣!?

 

「ヒ、ヒエェェエ!?」

 

「これは、さっきの勇者!?」

 

「つけられてたんすか!?」

 

 剣が勢いよく引き抜かれ、その反動か馬車の天井が大きくくりぬかれた。その先には、怒りに満ちた顔をした勇者がいた。他の仲間はいない。どうやら単身で乗り込んできたようだ。

 

「勇者ッ……」

 

「だましたな……僕をだましたなッ!」

 

 あ、やべ、さっきの会話バッチリ聞こえてたみたい。地獄耳すぎんだろこの子。あ、キレてるね、もうブチギレてるね。何言っても聞いてくれなそうだねこの空気。

 

「お前、お前は……!」

 

 瞬間、勇者は目にもとまらぬ速さで俺を掴み、馬車の上に引きずり出した。

 

「ヨシ君!」

 

 なすすべなく俺は勇者に組み伏せられ、動けないでいた。今回こそはダメなのかもしれない。

 彼女は、剣を俺に向けて、真っ直ぐに構えた。それが俺に、ああここで死ぬのだと、より明確に伝えているようだった。

 ……まあ、いいかな? なんだかんだ、最後には楽しめたし、俺にしちゃ、上等な終わり方だろう。

 

「……なあ勇者様よ」

 

「なに?」

 

「俺を殺せばいいんだろ? 他のやつには手を出さないでくれるか?」

 

「……魔王も、仲間が大事って言うの?」

 

「さあ? どうだろ」

 

「……僕が殺したいのは、あくまでお前だ。あとは知らない」

 

「どうも……」

 

 彼女は剣を構え直す。その目は真っ直ぐと俺を見ていた。

 

「ッ……なんで、そんな目」

 

 彼女は何か言って、それを聞き取れないまま自分に向かって真っすぐ剣が向かってくるのを、ただ黙ってみた。

 

 

「ヨシカゲ!」

 

 

 イブのその叫び声と、それが重なったのは偶然だろうか。それはわからないけれど、イブが俺の名前を呼んだ瞬間、馬車はガタンッと、大きく揺れた。

 

「な!?」

 

 その拍子に、勇者と俺は大きくバランスを崩し、馬車から転げ落ちてしまった。落ちた先は……

 

 

 崖下の、急流

 

 

 落ちる最中、一瞬だけ見えたのは、慌てふためくイブたちと、共に落ちる勇者。

 そこから先は多分何も考えてなかった。

 気づけば俺は、その頭を覆うように勇者を抱きかかえ、そのまま真っ逆さまに落ちて行った。

 

「なにしてる!?」

 

「黙ってろ、舌噛むぞ」

 

 そんな風に冷静に返せるのは、思考が停止したことの表れだろうか。でもそんなこと考える暇もなく、目前に水が迫り。

 

 

 そして、俺と勇者は水の流れに呑まれていった。

 

 




すしに入ってる草みたいなやつ:バラン
食パンの袋閉じるやつ:バック・クロージャー
裁縫セットの糸通すやつ:スレッダー
耳かきのふわふわしたやつ:梵天
なんかカバンのベルトの長さ調節するやつ:コキ

らしいです。
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