召喚されて魔王の影武者になる話   作:生カス

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前回のあらすじ:ゴミうつけ


3話 召喚されたし妙にミニマル

「……で?」

 

 泣きじゃくること数十分、ようやく落ち着いたのか、女の子はその辺にあった高そうな椅子に乱暴に座り、腫れた目をした、無愛想な顔で俺にそう聞いてきた。

 

「いや、で? て言われても……むしろこっちが説明してほしいんだけど」

 

 正直少し時間がたった今でも頭が混乱しているのだ。考えても見て欲しい、家に帰ろうと思ったら、何の予兆もなしに生の首きりシーンを見せられそうになった俺の気持ちを。字に起こしたら破壊力すごいな。

 ……ともあれ、ここまで突飛な事態が連続して起きているのだ。ここが俗に言う異世界かどうかはともかくとして、自分の常識が通じない遠いところであるのは確かだろう。ただ日本語が通じるのが甚だ疑問ではあるが……

 

「お前は、私が召喚した悪魔ってことでいいの?」

 

 しかし俺のそんな要求をガン無視して彼女は質問をしてきた。

 

「召喚? 悪魔?」

 

 日常生活をしてるとまず聞かない言葉を聞いて首を傾げる。平時ならそういう設定かと思い適当に聞き流すだろうが、状況が状況なだけに、今はその言葉には妙な現実味を感じた。

 ……もしかして、帰りに聞いたあのへんな声、あれに関係があるのか?

 

「……俺もよくはわからないけどさ。家に帰る途中、道端で変な声が聞こえて、その話しに返したらいきなり黒いなにかに襲われて……で、気づいたらここにいたんだよ」

 

「ふーん、その黒いなんかってのは私も知らないけど、話を聞く限りじゃ、別の場所から来たのはマジっぽいな……あ、そうだ、ちょっと動くなよ」

 

 そう言って、彼女は椅子から立ち上がり、いきなり俺のすぐそばに近づいてきた。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ緊張したのは内緒だ。

 ……こうやって近くで見ると、キレイな顔してんだよな。ただ、目の隈がひどかったり、瞳がやたら濁っていたり、不健康な色白だったりで、素直に美人と言いたくない要素がてんこ盛りだ。

 

「おい、もっとかがめ、よく見えないだろ」

 

 おまけに結構ちんちくりんだ。何やら俺の首周りを見たいようだけど、俺がだいぶ低めにかがまないと、そこに目線が合わないくらいにはちんちくりんだ。

 

「うー見にくいな、えーと……あ、あった。契約の紋章があるから、お前は私が召喚した悪魔で間違いないな」

 

「え、そんなんあんの?」

 

 思わず首をさすってみると、確かに、他の肌とは感触が違う。何やらざらざらした感じの部分があった。

 

「えーでもこいつか……えーこいつかー、えー……」

 

 何この子、何この露骨にがっかりした顔……

 

「見るからに弱そうじゃん、細いし。図体はデカいけど」

 

「そりゃどうも。そもそも俺は悪魔じゃないよ。人間だ」

 

「別にどっちでもいいよ。あんま変わんないって」

 

「そこそこ変わると思うんだけどなあ……」

 

 妙に豪胆な子だなあ……将来大物になりそうだ。

 

「というか、召喚ってなに?」

 

「なにって……ほらアレだよ、術師がクリーチャーとかを使役するために他の場所から呼び寄せるやつ、私の場合は悪魔だったけど」

 

「ああその召喚か……え、ていうかクリーチャーいるのこの世界? ドラゴンとか?」

 

「は? ドラゴンなんているわけないだろ? クリーチャーっていうのは、そうだな……でっかいタコとか、イカとか……あとはくそでかいウミウシとかちっこいスライムとか?」

 

「クソデカ海洋生物類からのスライムの存在感やべーな?」

 

 なんだその湿った脊椎のないラインナップ。この世界のクリーチャーに骨のある乾燥肌のやつはいないのかよ。

 

「なんだよいーだろ別に……ほら、もう敵は去ったから、お前も帰った帰った。はいごくろーさん」

 

「帰るって、どうやって?」

 

「……え?」

 

「いやいや、え? て……召喚だかで俺のこと呼んだんなら、なんか返す方法あるんじゃないの?」

 

「え、えーと……ち、ちょっと待って」

 

 そういって彼女……魔王って言われてたけどどうなんだろうか? 彼女は手に持っていた本をぱらぱらとめくり、何か必死に項目を探していた。なんか雲行きが怪しくなってきたけど大丈夫かな? 異世界ぽいところに来て、(目が濁ってるけど)かわいい女の子に会ってワクワクしてないと言えばうそになるけど、こっちにも就活があるんだし、正直返してくれないと困るんだけど

 

 

 

「あ」

 

 

 

 ……おや気のせいだろうか? あの子のほうから何だかすごい不穏なトーンの『あ』が聞こえた気がするんだけど。

 

「……」

 

 あ、気のせいじゃねえわあれ。満面の苦笑いをこっちに向けてるし。だらっだらだし冷や汗。

 

「……一応聞くけど、なんて書いてた?」

 

「……なあ、お腹すいてない? 一応命の恩人だし、なんかごちそうして」

 

「なんて書いてた?」

 

「あ、ほら、私こう見えて結構料理得意でさ、り、リクエストしてくれたらなんでも作ってや」

 

「言え」

 

「……一度召喚した悪魔は、一生を最後まで責任をもってお世話しましょうって」

 

「……帰れないってことな?」

 

「はい…………」

 

「そう…………」

 

 多分ここまで魂の抜けたそうを言うのは後にも先にもこの時だけだろうな。俺はどこか遠い目をして、そんな逃避じみたことを考えていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「なあ、食器はここに置けばいいのか?」

 

「ん、ああ……そこで……」

 

 そう言われて、俺は目の前にあるテーブルに食器を並べた。シンプルながらもきれいな装飾が施されたフォークとナイフはとても綺麗で、これから食事を思うと、正直テンションが上がってしまう。あの子が料理が得意というのは本当だった。さっきキッチンを覗いてみたら、きれいな盛り付けをされた肉料理とサラダが、とてもいい匂いと共に目に入ってきたのだ。あれはおいしいに違いない。

 

「……できたぞ、全部テーブルに運んどいてくれ。私は飲み物を取ってくる」

 

「お、待ってました」

 

 俺は料理が盛りつけられた皿を取り、配膳をした。全ての料理をテーブルに移動したころ、ちょうど彼女も飲み物を取ってきており、2人同時に席に座った。

 

「……ほら、食べろよ」

 

「あら、もういいの? じゃ、いただきます」

 

 そう言って俺は両手を合わせてから、ナイフとフォークを手に取った。

 

「なんだそれ? お前の国の儀式か?」

 

「ま、そんなとこ。今日もご飯にありつけたことに感謝しますっていう」

 

「本当にそんな意味なの?」

 

「さあ、どうだろ?」

 

「ふーん……」

 

 そう言いつつも彼女は、持っていたフォークを置き、俺と同じように手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 そういって彼女は再び食器を取り、食事を再開した。

 

「……なあ、ちょっといいか?」

 

「何?」

 

 彼女は食事の手をいったん止め、バツが悪そうに俺にそう聞いてきた。

 

「いや、その……あの後、召喚のことについていろいろ調べてみたんだけどさ……」

 

「……さらに良くないことでも書いてた?」

 

 ここまで喋りにくそうにされたら、ネガティブな内容だってのはいやでも想像がつく。案の定、彼女は静かに頷き、続きを口にした。

 

「……召喚魔法は、つつがなく悪魔と契約ができるように設計されているんだ。その中のひとつに、主人と悪魔の関係を単一化するための強力な魔法が仕込まれているんだ。悪魔が、もといた場所のしがらみを捨てて、主人のみに尽くせるようにっていう……」

 

「……つまり、どういうことだ?」

 

 俺がそう言った後、彼女は少しの間、口をもごもごとさせるだけで何もしゃべりたがらなかった。しかしとうとう観念したのか、うつむいたまま、ギリギリで聞こえるくらいの小さな声で、告げた。

 

「つまり、お前がいた世界では、お前が元からいないことになっているんだ……」

 

「……マジか」

 

 控えめに言って絶句した。魔法というのがここまで強力なものだとは……

 ということは、父も母も俺のことを忘れて……いや、そんな生易しいものじゃないのか。大げさな言い方をすれば、世界が再構築されたっていうことなのだ。俺の存在を証明するすべてが消え、川里義影という人間は生まれていないことになっている、と。

 改めてすげーな、魔法……

 

「まあ、わかったよ……じゃあ食おうぜ、冷めちゃ勿体ないし」

 

「うぇ!?」

 

 俺が食事を再開しようとすると、いきなり彼女が大声をあげて俺の方を見た。どうしたんだ一体?

 

「ビックリしたな、なによ?」

 

「だって……すごく怒ると、思ったから……」

 

「まあ、ショックを受けてないって言ったら、ウソになるな」

 

「じゃあなんで……」

 

「なんでって……それでかんしゃく起こしてアンタのこと怒鳴っても、なんも変わんないし。それより、帰れないなら、これからここでどうするかの方を考えとかなきゃいけないし」

 

 確かに誰もかれも俺のことを知らないっていうのは、精神的に来るものがあるけど、どっちみち帰れないんだから、帰れない世界のことを考えても仕方ない。逆に言えば、向こうの誰にも心配かけずに済むっていうことでもあるし。

 

「……ドライだな、随分」

 

「どうだろね。それに……」

 

「?」

 

「せっかくご主人様が作ってくれたメシだ。なるべくなら美味しい気分で頂きたいしな」

 

「……なんだよそれ、このアホ」

 

 今度はアホ呼ばわりか、罵倒のレパートリー多い割にいやにミニマルだな。……でも今回のは照れ隠しも入っているのかね? そっぽ向きながら言ってるし。

 

「……そういや、アンタって魔王なんだって?」

 

 しばしの沈黙がどうにもむず痒く、俺は話題の転換ついでに、聞くタイミングが今までなかった質問を、彼女に投げてみる。すると彼女は、ようやく俺の方を見て、話しかけてくれた。

 

「え、今更? ……いや、そういえばごたごたが続いてお互い自己紹介がまだだったか。そうだな、今のうちに済ませておこう」

 

 

 

「私はイブ・エヴァンス。魔界の統括者である魔王にして、お前の主人だ」

 

 

 

 そういって彼女……イブは、席を立ち、優雅な振る舞いで俺に礼をした。普段は粗野だけど、根っこの部分は育ちが良いのだろう。

 

「ご丁寧にどうも、俺は川里義影。悪魔じゃなく人間だ。よろしくご主人様」

 

「ヨシカゲね……変な名前」

 

 ただ一言余計なのはどうかと思う。この振る舞いと態度のアンバランスさは何なんだろう? 彼女の不健康な風貌と関係があるのだろうか?

 

「……じゃあ、俺は魔王様のために何をすればいいんすかね?」

 

「私の護衛とか、支援とかいろいろかな? ま、今日の勇者みたいなのは滅多に来ないし、しばらくは雑用だな」

 

「そういえば、あれ本当に勇者御一行だったんだな。イブが魔王だってわかるまで、ただのコスプレ集団だと思ってたけど」

 

「こすぷれ?」

 

「いや、なんでもないよ……それより大丈夫なのか? 勇者に狙われてるんなら、なんか対抗策を……」

 

「なにも知らんのだな愚か者め。魔界には魔法障壁というのがあって、人間は何人たりともは入れないようになっているのさ」

 

「破られたから入ったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? いや、だから破られたから今日の勇者さんたちがここまで来たんじゃないかって……」

 

「……え? なに、破られ……え?」

 

「え、なにその反応。もしかしてヤバイ系?」

 

「……い、いやいやいやいや、そ、そんな勇者なんてバカスカいるわけじゃないし、ちょっとの間破られたって平気だs」

 

 

 

 ガシャーンっと突然部屋の窓が割れた。投石されたようだ。

 

 

 

「「!?」」

 

「魔王! 出てこい! 今こそ積年の恨み晴らす時!」

 

「ウワ、ウワワアアァアーーーーッ!! ヨシカゲ、ヨシカゲ! お前魔王の影武者に任命する。だから私の代わりに魔王ですっつって身代わりになって!」

 

「おいふざけんな、ふざけんなマジ! まて、おい、置いてくな!」

 

 ……俺のことを忘れた父と母へ。俺は今日医学的な意味でもこの世からいなくなりそうです。

 

 

 




魔王の身長は140くらい。ヨシカゲの身長は180くらいをイメージしています。
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